THE TUNNEL 公演情報 ユニークポイント「THE TUNNEL」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★

    これが答えだ
    奇しくもオリンピックのサッカーで日韓の関係性が浮き彫りになった昨今
    カラフルなスコップのフライヤーも印象的なこの公演は
    異文化と歴史の対立を超えた未来の可能性を考えさせる。
    トンネル反対派に対する説得力に欠けるのが残念だが、
    この作品の制作意図、制作体制こそがその答えではないか。

    ネタバレBOX

    舞台にはトンネル工事現場と思しき小高い山が2つ。
    2つのあいだには通路が架っており、1つはなぜかてっぺんから滑り台で降りられる。
    冒頭、上手と下手に役者が別れて並び、そこから順番に小高い山に駆け登って
    話したり踊ったり肩を組んだりして滑り台から下りて来ては、それを繰り返す。
    それがあんまり嬉しそうで楽しげなので
    障害が多いに決まってるこの話が、明るい結末を用意しているのだと判る。
    役者陣の豊かな表情と身体表現から、どうやってここに至ったのか知りたくなる。

    福岡―釜山130キロをトンネルで結ぶという国家プロジェクトが始動し
    賛成反対、賛否両論渦巻く中で、様々な立場の人々を描く物語。

    トンネル工事現場の作業員が面白い。
    日本側の作業員と班長(栗原茂)の、仕事や家族に対する考え方が変化していく様がリアル。
    韓国側の作業員を演じる韓国の役者さん二人が、とても達者な方たちだった。
    韓国語にはバックに字幕が映し出されるが、なくても想像できるほど豊かな表現力。

    公園の女(石本径代)、おおらかで野性的なキャラクターがとても良かった。
    達観した眼差しで、リヤカーで旅をする一家や学校へ行かない少年を見守る。
    ギターをかき鳴らしながら唄う姿が強く印象に残る。

    高校の演劇部はまるで社会の縮図のようだ。
    トンネル開通式典での出し物を依頼された高校演劇部は喜びに沸き立っている。
    父親がトンネル工事の仕事をしている生徒もいる。
    ところがトンネル反対運動のメンバーの話を聞いて
    自分たちの活動に疑問を持ち始めた一人の生徒が、式典参加を取りやめようと言い出す。
    演劇部が分断される事態に、顧問の先生は無理に説得をせず
    みんなの総意なら取りやめても構わないと話す。

    結局、式典当日の反対運動メンバーによる妨害にもかかわらず
    最後はみんなで歌ってハッピーエンドになるのだが
    この持って行き方に説得力がないのが残念。
    妨害されて思わず壇上に上がり、自分の心情を訴える高校生の言葉に
    「それでも自分はトンネルの向こうにある未来を見たいのだ」という説得力がない。
    未来を担う者が、たとえ拙い言葉でもその先にある未来を切り拓く決意を語らずして
    一体他の誰がここで演説するべきだろうか。
    一番の見せ場で「私の高校生活」を語っても、
    反対派の心を変化させる理由にはなりにくいと思う。
    ここが弱いので、ハッピーエンドになだれ込むのが安易に見えてしまう。

    「それがみんなの意見なら、式典参加を取りやめてもよい」と理解を示す
    顧問の先生(渋谷はるか)はとても良い先生ぶりではまっている。
    ただこれも、反対運動に傾く生徒に語りかける言葉に力がない。
    真摯に教師に向かって疑問をぶつける生徒の方がよほど力強い。

    「自国の文化が損なわれる」と危惧する反対派に
    両国の市民レベルの交流とか、互いを理解するための具体的な行動など
    抽象的な不安を払拭し、それを凌駕するだけの流れが示されないので
    せっかくの大団円が虚ろなものに見えてしまってとても残念だった。

    白い衣装で人々を見守る明花さんが奏でる韓国の楽器は
    個性とメリハリのある音で良かったと思う。

    個人的にはトンネルの完成後、淡々と次の現場へ行くという班長と
    それを支える妻(齋藤緑)、姉と弟の一家が現実的で温かく
    自国の文化とはこういう市民が家庭において守っていくのだなあと感じた。

    演劇人がこういうテーマに取り組む姿勢、制作体制は素晴らしいと思う。
    こういう動きこそが今後の両国を変えていくのだと
    私はトンネル反対派に訴えかけたい気がするが、
    山田さん、どうだろうか?

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    2012/08/13 06:36

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