東京ノート 公演情報 青年団「東京ノート」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★

    フェルメールなう
    東京都美術館の講堂ロビーで行われた公演で、初めての「東京ノート」。
    ミュージアムショップの前を通り過ぎた突当たり、階段を降りたところに講堂ロビーはある。
    美術館という空間に溶け込むような演技だった。

    ネタバレBOX

    物語は美術館のロビーで待ち合わせて、久しぶりにみんなで食事をしようと
    レストランを予約している家族の会話を中心に繰り広げられる。
    独身で親と同居している長女を始めとする5人兄弟に、
    長男次男はそれぞれの連れ合いも加えて総勢7人の一族が集まってくる。

    親の老後、離婚問題、仕事や結婚などそれぞれの抱える悩みが
    ちょこちょこ顔を出しては押し戻されたり押し殺したり…。
    「久しぶりなんだからそんな話はよそう…」と言いつつ
    「そんな話」しかもう話題がなくなっているかつての家族──。

    この一族の他にもロビーには様々な人々が行き交う。
    ヨーロッパで起きた戦争は次第に拡大しそうな様相を見せていて、
    NPOの平和維持活動に参加するという恋人を引き止めたい若い女性や
    かつての恋人と偶然再会した女子大生、
    この美術館に父親から相続した絵を寄付しようとしている女性、
    美術館の学芸員等々…。

    戦争というとんでもない現実が日本にも影響を及ぼそうという時に
    人々は足元の日常ばかりを見つめ
    半径3キロメートルの生活圏で嵐のように翻弄されたりしている。
    爆弾でも落ちてこない限り、戦争も原発も遠いところで起きているにすぎない。
    悲惨なニュースを見ながら普通にごはんを食べるような両極の混在。
    戦争を話題にし、時に涙し、十分憂えてもいるのに、
    取り敢えず当面の大事は親の面倒を誰がみるか…それが日常。

    相変わらずのリアルな同時多発会話に自分がロビーにいるような錯覚を起こす。
    いや、本当にロビーにいるのだ。
    そして役者たちが「フェルメールの絵」のことを話している。
    今会期中の話題の画家について、まるで展覧会と連動しているみたいだ。

    「私たちはこの絵の光の当たっている部分しか見ていない。
     光の当たらない暗い部分は無いも同然・・・」という意味のことを言っている。
    これは世界のごくごく一部だけを見て生きている私たちそのものだ。

    大事なことを話す時、私たちはこんなにためらい、沈黙を必要とするのか。
    どれほど他人の気配を感じながら、目の前の人と会話しているのか。
    改めて日々のコミュニケーションを観察する思いで舞台を見つめる。

    長女を演じる松田弘子さんの存在感、リアルなキャラが印象に残る。
    一人で親をみる覚悟と不安、それを吹き飛ばすための前向きキャラ、
    明るい押しの強さ、「人の不幸話を聞くと嬉しい」と素直に口に出す呑気さなど
    「こういう人いるいる」感満載。

    画家の絵画表現と人生の重ね方が巧みで、今回のフェルメールの企画の一部みたい。
    美術館の構造を生かした舞台も面白い。
    東京都美術館の奥行きあるスペースを取りこんでいたので
    役者さんの移動に若干時間がかかり、その分テンポが落ちた気もするが
    それさえも場の個性と言えるかもしれない。
    美術館によって別の動線、別の演出になるだろうし、その変化も面白そう。
    空間の力を味方につけた芝居であり、観る側もそれを楽しめる芝居だった。

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    2012/07/19 04:15

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