満足度★★★★★
心温まる不条理劇
高速道路で渋滞に巻き込まれた人達の心が次第に繋がって行く様子を演劇ならではの演出を通じて描いた作品で、具象性と抽象性、日常性と非日常性がスムーズに浸透し合う不思議な雰囲気が心地良かったです。
ラジオや携帯電話も繋がらないため渋滞の原因も分からずイライラする人達が、時間が経つに従って水や食料を分け与えたり、具合の悪い人の看病をしたりとコミュニティーが形成して恋愛や仲違いといった人間関係も発生し、結局渋滞の原因が判明しない内に1年が絶ち、自然と渋滞が解消されてまたそれぞれの生活に戻って行くといくという物語でした。
カタルシスを感じせるような大きな出来事はなく、人が死ぬこともさらっと描かれ、無理に泣かせたり笑わせたりしようとせずに淡々と流れて行くのが印象的でした。クリスマスのプレゼント交換のシーンは人の心の優しさを感じさせて、とても美しかったです。
上部に高速道路であることを示す道路照明がある以外は何もない四方囲み舞台で客席の間から役者達が登場し、傘を車に見立ててシーンごとに自由に役者達を配置し、演技や衣装だけで月日の経過を示した演出が見事でした。
敢えて全ての観客には届かないような声量で話す所も多くあり、何度も異なる席から観てみたくなるように仕組んでいるのも上手いと思いました。
床に仕掛けが施してあり、目に見えない時間の経過が痕跡として累積されて行く表現も素晴らしかったです。