満足度★★★★★
実は(?)詩的な言葉!
冒頭から心をつかまれた。羽衣は「妙〜ジカル」と名乗る演劇界の異端的存在ではあるけれども、これはまぎれもなく「演劇」だと思う。糸井幸之介(作詞・作曲・演出)は非常に優れたリリカルな言葉のセンスを持っているのだな、とあらためて。あけすけな男女のセックスの歌を書きながらも、細かい心情の機微を突いてくるのが素敵だった。
今作はいつにも増して「生への肯定」に溢れていたように見えたけれども、とはいえやはり死(タナトス)の気配が根底にあってこそと感じる。あっけらかんとして生き、死んでいく人たちの業をやさしく捉えている。生殖によって子孫をつくり生き延びていくしかない人類が、何千年何万年と繰り返してきた行為だと考えると、なるほど、セックスとはつまりは永劫回帰なのだと思ったりもした。
俳優陣の好プレーが目立ったが、特に素晴らしいと感じたのは日高啓介だ。少年の感受性のまま大人になり、楽観的に、だがたくましくキラキラと生きている自称ミュージシャン(?)を好演。28万円のエレキギターを買ってくれる母(西田夏奈子)や、うらぶれた旅館の女将(伊藤昌子)との絡みも非常に良く、糸井の描くまっすぐで詩的で、それでいて根の深い絶望を抱えているような世界観をよく体現していた。また、旗揚げ時から長年所属していた劇団ハイバイを卒業し、新たな道に踏み出した金子岳憲と、羽衣メンバーの鯉和鮎美とが、中学生に扮して初体験を果たす「ロストチェリー」の場面もしみじみと。笑えて、泣ける(しかも同じ場面で)、実にエンターテインな舞台だった。
ぜひカップルで観てほしいとオススメしたい作品。ただし微妙な時期のカップルの場合、その恋がその夜のうちに一気に成就するか、あるいは完全に破綻してしまうかのどちらかと思われます。決め手に欠ける人は清水の舞台から飛び降りる気持ちでえいやっとどうぞ。
ひとつだけ気になるのは、ヘテロ的な異性愛を前提にしすぎているのではないかという感じが、今回はいつも以上に気になってしまったこと。わたし自身が、夫婦別姓で全然いいし、むしろあなたの苗字になりたいとか言われても別に嬉しくないと思っちゃうタイプだからでしょうか。もっと旧来の「男/女」観では割り切れないラディカルな存在が入ってくれば、羽衣の描く世界はもっと広がっていくようにも思うし、今や仮にそうしたものが入ってきたとしても、性の悦びと哀しみにあふれた羽衣の持ち味が消えることはないはず。
あと完全に蛇足になりますが、高橋義和による「高橋名人の冒険」のシーンが超愛らしかった。なんか、がんばれ、と応援してしまうあの感じはなんだろう……。