星の結び目 公演情報 時間堂「星の結び目」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★★

    二人の最良の部分が出ています
    『青☆組』の吉田小夏氏と、時間堂の黒澤世莉氏が、それぞれ
    脚本、演出でタッグを組むという、ファンにはたまらない展開。

    吉田氏の、透き通るように美しく、軽快な、でも時に激しい台詞回しと
    黒澤氏のどこかセピア色めいた、静かで抑制の効いた演出の二つが
    ここでは見事に成功をおさめ、まさしく「大人のための小劇場」作品に
    仕上がっています。

    冷たく、寒い季節にはもってこいの(それでいいのか…だけど)、
    澄んだ作品でした。

    ネタバレBOX

    戦前~戦中~戦後、と、野望に満ちて店を拡大し、やがて時代の流れに
    抗えず停滞、そして没落の一途をゆっくりと辿っていく氷屋の親子二代を

    周囲の人々の人間模様も交えながら、一人の女中のモノローグを中心に
    描いていく、という、ある種の「年代記」ですね。

    時代精神、という言葉があるのですけど、その時代に生きた人間は
    どうしても次の時代の「考え」「環境」に適合していくのが難しいのですね。

    店を裸一貫ながら、今でいう「マスコミ戦略」を巧みに用いて大店に
    盛り立て、派手に、そして豪快に生きた一代目甚五郎。

    その時代を目の当たりにした長女の静子は、自然、どこか派手で
    きらびやかな生き方が抜けない。そこを次女の八重子や榎本に
    痛く衝かれ、動揺する。

    性根はものすごく良い人なんだけど、コミュニケーションに難があり、
    いいとこ「良いとこの坊っちゃん」の域を出ない二代目甚五郎は、
    激しい激動の時代の中で頑張ってみるものの、流れのまま一気に
    押し流される木の葉のように、没落に向かって落ちていく…。

    男たちが、どこか少しどうしようもなくてわがままで子供っぽいのに
    比べ、目立つのは女性たち。役者の魅力もあるが、存在感が大きい。
    みんな綺麗で(着物が非常に似合っておりました)、キャラが立ってる。

    吉田氏の作品に出てくる女性たちは、時代や周囲の環境、そして男たちに
    翻弄されるように、無力であるかもしれないけど、人として筋が通っていて
    地道。冬の長い風雪に耐えて、春になれば慎ましげに、でも凛と華開く、
    一輪のようです。

    なので、男性より女性が観た方がぐっとくる、と個人的には強く思います。
    勿論、男性でも、特に中盤、涙腺がかなり痛くなる場面に多く遭遇します。

    貴族院議員で裕福な、でもどこか下品さがぬぐえない男、山崎と八重子の
    結婚話が破談に終わった辺りから、八重子が人喰川で独白を始める件、

    二代目甚五郎が「男の子でも、女の子でも~」と吐露した件、は泣けます。

    八重子は白雪の子供で、吹雪もそうだったのだろうか?
    そこが凄く気になった。他にも上手く匂わせている部分が多く
    想像が膨らみます。

    個人的には、戦後、吉永園の人々の消息がどうなったのか
    物凄く気になった。戦後になってからは、全く触れられなかったんで。

    結局、静子(「良いとこのお嬢さん」だった静子が戦後自分で
    料理しているところに、吉永園の没落と戦後の厳しさが)と
    恐らく暇を出されて、遊女に転落、最終的には結婚して
    駄菓子屋に落ち着いた梅子しか分からなかったのが残念。

    でも、最後の場面は観た者の心に深く余韻を残す、どこか
    チャップリン『街の灯』を思わせるような終わり方で、徹頭
    徹尾、どこか切なくも澄んだ美しさを湛える傑作でした。

    過去と現在が入り混じって展開される造りは、過去は過去、
    人間は今を生きている、それはどうしようもないけど、同時に
    救いでもある、ということを自然と感じさせ、成功している、と
    思います。

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    2011/12/24 05:39

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