太陽 公演情報 イキウメ「太陽」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★★

    SFの設定のうまさ、それを生かし、「人」を見せる
    130分があっという間。
    本当に面白い。
    脚本のうまさ、役者のうまさ、演出の的確さが光る。

    作品世界にすぐに入り込みたいのであれば、当パンの説明を読むといいだろう。

    ネタバレBOX

    致死率が高いウイルスの蔓延の後、それに対抗できる身体を身につけた者たちが現れた。彼らは「ノクス」と呼ばれ、太陽を浴びると死んでしまう。しかし、記憶力などの能力はアップしており、病気にもかからず、老化の速度も遅い。
    また、血縁に対しての感情は薄れ、ノクス全体を「家族」と思う思想が支配していた。
    ただし、生殖機能は衰えており、出生率は上がってこなかった。
    対する人間は「キュリオ」(骨董品)と呼ばれ、その数を減らしつつあった。
    人間がノクスになる方法もあり、20歳頃までであれば、抽選でノクスになることもできる。
    そこで、ノクスたちは、人間の子どもを養子に迎え入れ、ノクスにして育てていた。

    世界の経済の中心はノクスたちが司り、一部の自治区を除き、人間たちはそれに養われているような形になっていた。
    そういう形で、ノクスと人間は共存している世界での物語である。

    以上は、舞台を観た上での、この舞台の設定である。この設定は、当パンを読むと、その経緯について、もう少しだけ詳しく書いてある。
    すぐにこの世界に入りたい人は、当パンを読むといいだろう。

    確かに、SFなのだが、その「SF」という設定に物語の軸を置き、そこにこだわるのではなく、あくまで、主題を語りやすくするために用意した「設定」である、というところがイキウメらしくていい。

    もちろん、SFというものは本来そうした機能を持っているのたが、ともすると、その設定に溺れてしまう作品を多く見かけるのも事実だ。
    かつてロッド・サーリングが『トワイライトゾーン』を書いたときに言ったと言われる「火星人ならば社会問題を語らせることができる」を思い出すまでもないかもしれない。

    この舞台では、そういったSFという設定に埋もれてしまわないだけの物語があったと言っていいだろう。
    つまり、SFである、ということの違和感のなさが素晴らしいのだ。

    ストーリーや設定から見ると、ノクスと人間とのぶつかり合いや、人種差別的な意味合いが浮かぶのだが、実のところ、「人」の気持ちの変化や「感情」、「弱さ」と「強さ」を、ノクスという、優秀に見える人間の新たな種族の姿を通して見せていくことのうまさがある。
    太陽に弱く、暗闇でしか生きられないノクスは、普通の人間たちの姿を、まさに影のように縁取っていく。

    例えば、十代の少年・鉄彦は、自分の抱えている問題は、ノクスになることで解決するのではないかと思っている。それは自分を取り巻く環境が悪いからだ、という責任転嫁な考え方であり、若いときにありがちである。
    それを見張り番であるノクスの若者に鋭く指摘される。

    それは、人種や持てる者、持たざる者という差別や格差の問題に見えるのだが、しかし、本質はそこだけではない、ということに観客も、鉄彦とともに気づかされるのだ。

    人間である、他の人々も、それぞれが抱えている問題は、確かにウイルスやノクス、そして事件に端を発しているものの、やはり自分自身の問題であり、さらに、血縁や親子、友人という関係も姿を現してくるのだ。

    そんな、表層に見えるだけではない、人の内面に触れるような、台詞や演技が現れてくる瞬間が素晴らしい。

    それは、円形である劇場の使い方とも共鳴してくる。
    自然に立ち位置を変化させながら、気持ちを表現するうまさ、微妙な高低差のある舞台での位置や、観客からの見え方、それは、「どこからでも見やすく」というよりは、感情の変化を表しているようだった。
    例えば、問題を起こして逃走した叔父が現れ、叔父に対しての怒りが立ち上がるときの、舞台の配置の美しさは、鳥肌モノだった。
    そういう瞬間がいくつもきらめく。

    時間と場所の混ざり合い方も、左右・前後と自在であり、円形劇場であることの意味が出ている。
    装置はシンプルだが、観客のイメージをうまくかき立て、語りさせすぎず無駄がない。

    そして、役者がうまい。引き込まれる。
    鉄彦を演じた大窪人衛さんの若い青臭さ、見張り番を演じた浜田信也さんの人の良さとちょっとした兄貴感、結の母親・伊勢佳世さんのクールさ、その夫・盛隆二さんの心の中にある、ちくりとした差別という影、医師を演じた安井順平さんのノクスと人間への葛藤、そんな役者たちの姿が印象に残る。そして、短い登場ながら、イヤな感じの爪痕を確実に残した森下創さんの印象は特に強い。

    面白かった。

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    2011/11/16 21:51

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