満足度★★★★
笑いの裏にある挑発
世界各国で上演されている話題作の日本初演で、日本で30人弱の出演者を集めての上演でした。想像していたよりも分かり易い内容で(悪意が込められた皮肉的な「分かり易さ」でもありましたが)、普通に楽しめるものとなっていました。
ベタなギャグで笑いながら観ることも、劇場という制度や、ポップカルチャーとハイカルチャーの関係、演者と観客の関係、作者とは、ダンスとは、等について考えながら観ることも出来る、懐の深い作品でした。
舞台奥に曲名表示用のスクリーンが吊られ、客席最前列と舞台の間に音響の操作盤がセットされていて、「DJ」が1曲毎にCDを入れ替えて再生し、その曲の歌詞やタイトルに合わせた動きが演じられるという構成でした。
冒頭の『Tonight』では、無人の舞台は真っ暗なままで、次の『Let The Sunshine In』で次第に明るくなり、3曲目の『Come Together』でやっとパフォーマーが現れるものの全く動かず、次の『Let's Dance』で急にノリノリに踊るという、あまりに曲のテキストに密着した展開が観客の笑いを呼び起こしていました。
『Private Dancer』では無人となった舞台にDJが上がり一人で踊り、途中で一旦卓に戻って音量アップとスポットライトを作って更に踊ったり、映画『タイタニック』のテーマ曲で有名な『My Heart Will Go On』では映画の例のポーズをした状態のままセリを使って沈んで行き、次の曲が『Yellow Submarine』だったり(しかも奈落からの合唱付き)、『Sound of Silence』では音量を絞ってタイトル通りに無音になってしまったりと、まるでコントの様でした。
ラストの『The Show Must Go On』までこの様な調子で計20曲近くが続くのですが、どの曲も最初から最後まで丸々1曲流し切ったり、1つの曲に対して1つのアイディアしか用いなかったり、全体の1/3程度の時間が無人で何も起こらない時間だったりと、禁欲的で意図的に退屈なシーンを作っていて、「何を期待して劇場に来ているのですか?」と問い掛けられているかの様でした。
ほとんどダンス的な動きの無い作品の中で唯一『Macarena』だけは全員のユニゾンで踊るのですが、16カウントで1サイクルの単調な振りを延々続ける姿に得体の知れない怖さを感じました。
終演後騒動になったという10年前のパリでの初演はプロのバレエ団によるパフォーマンスだったのことで、鍛えられたダンサー達が延々と馬鹿馬鹿しいことをするというギャップが鮮烈だったのだと思いますが、今回の日本バージョンではダンサーではない人が多く出演していたので、初演時に感じられたであろう程の衝撃は感じられませんでした。
また、既に本やインターネット上で作品や作者についての情報が出回っている環境なので、挑発的な内容がすんなりと受け止められている様に感じました。今となっては無理な話ですが、ベルさんの作風を知らないまっさらな状態で体験してみたかったです。
2011/11/20 13:31
2011/11/20 01:11
2011/11/19 17:54
お返事ありがとうございます。
レビューで挙げた「観客―出演者の関係」「劇場―観客の関係」「音楽―身体の関係」「「ダンス」についての考察」は、アフタートークの内容を踏まえて私なりに作品のポイントを整理したものです。誤解を与える書き方をしてしまいました。
1時間近く行われたアフタートークでは上記のようなカテゴリー分けはなく、
・まずベルリン・シャウビューネより初めて作品の制作を依頼されたときに、俳優とダンサーを共演させようと思った。両者を接続させるフィールドとしてミュージックを作品の土台にすることにした。この作品の骨子は「歌のタイトルを物質的に音楽的に活性化する」とのこと。
・誰でも出来る振付と多くの観客が知っているメジャー音楽によりアムステルダムで制作。ダンサーではない「観客の肉体」を示し、舞台と観客席を分けず「一つの共同体」と見なす。パフォーマーが同時に観客の似姿であり、社会の鏡であり、舞台の外側の世界を観客に想像させる。初めのころは固定メンバーで世界を巡っていたが、韓国での公演で観客とパフォーマーの間に断絶があることを見つけ、それ以来公演がある現地でパフォーマーを集めるようになった。
・「何が文化なのか」「何が大衆を惹きつける力なのか」に関心がある。
・初演以来、上演された各都市で大きな反響を呼んだ。観客が帰ってしまう、観客が舞台に上がる、イスラエルでは「サウンド・オブ・サイレンス」のシーンでパニックになる(同地では自爆テロの後には辺りに静寂が起きるため)。「観客」とは何か、興味深い。
など多岐に渡り作品を巡る話が続いた後、数人の観客から質問に応えていました。
「砂の駅」はそうですね、思うところがあったので「シアターアーツ」誌に投稿しようと劇評を執筆中です。投稿見合わせになったらそれをブログにUPしようと思っています。