満足度★★★★★
死ぬまで踊る覚悟
『なにもない空間からの朗読会』という企画の公演だった為か台詞が多かったのですが、有料公演でもおかしくないヴォリュームの本格的なダンス作品(寧ろダンスシアター作品)でした。個人的に好みではない表現が多かったのですが、有無を言わせない圧倒的な強度があり、コンテンポラリーダンスの公演では珍しい、休憩なしで2時間以上の上演時間中、一瞬も飽きが来ずに引き込まれました。
「なにもない空間」の名の通り、体育館そのままの空間でベース照明がずっと点灯したままの中で、踊ることに対しての切実な思いが表現されていました。
開場すると様々な買い物袋が散乱する中に、背を向けて座っている8人と背を向けて立つ1人がいて、黒田さんが上手に現れ、マイクを用いてお決まりの諸注意を話すところからそのままソロになる、現実との繋がりを強調した始まり方でした。
人身売買や無差別テロを報じるニュースの音声のコラージュが流れたり、メンバーが幼い頃に録音した歌声が流れたりと時間や生死を意識させる要素が沢山あり、また、世界中の国名を読み上げたり、あるメンバーの人生で関わりのあった人達の名前を読み上げたり、60秒をカウントダウンしたり、英語圏の80代から100歳までの老人が年下から順番に自分の歳を言う録音(もしかしたら聞き間違いかもしれません)が流れたりと、名前や数をリストアップするシーンが多く、自分と世界との繋がりを確認しているかの様で印象的でした。
途中に表面上はコミカルなシーンが色々とあったのですが、背面に見え隠れする悲痛さが感じられ心に刺さりました。終盤になって初めて全員が一斉に踊るシーンになり、それまでに出て来たモチーフをカノン的に繋げて行くダンスから叫びながらの全力で踊るユニゾン、そして黒田さんのソロへの流れが圧巻でした。最後は皆が「おたる鳥=踊る鳥」になって力尽きた黒田さんを弔う鳥葬の様なシーンになり、死ぬまで踊る覚悟が感じられました。
女性性の強調や、コントロールされていない暴走的な動きや、「愛」や「死」の直接的な言及、美味しい所を独り占めする黒田さんのスター的扱い、動物の動きを真似た振付といった要素は普段だと興醒めしてしまうのですが、今回は作品のテーマに合っていて違和感を持ちませんでした。
傘やシンバル、巻き散らされる多量のスーパーボールなど小道具の使い方が良かったです。特に何度も壁に貼られては剥がされてクシャクシャにされ、最後には貼られずその輪郭だけがテープで囲われて示される世界地図が印象に残りました。
とても切実なギリギリの表現で、何回も上演を繰り返すとなるとその表現が嘘に見えてしまいそうなので、これだけの力作がたった1回限りの上演なのは勿体ないながらもそれで良かったと思います。