ホットパーティクル 公演情報 ミナモザ「ホットパーティクル」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★

    空気の肌触りの記録、そして混沌の普遍性
    作り手の日々の描写であり、
    作り手の事実が秀逸なお芝居によって
    描きだされ提示されていくのですが、
    その世界にはさらなる奥行きがあって。
    単純な、極めて個人的な記録にとどまらない、
    彼女が感じるその時間の肌触りにこそ
    強く捉えられました。

    役者も、一人の人格にとどまらず、
    時間の感覚や舞台の枠組みをしっかりと背負いきって。

    物語のコンテンツは
    観ていて単純に共感できるものではありませんでしたが、
    そこにある空気には
    抱えきれないほどのことが起こった時、
    人が直面し、あるいは陥る感覚の普遍を感じることができました。

    ネタバレBOX

    阪神大震災や9.11の時にもそうだったのでしょうけれど、
    社会にしても個人にしても、
    その懐に収め得ないほど大きなものを渡されたとき、
    まずは立ちすくんでしまうのだと思う。
    でも、止まってしまうことはできないので、
    それが何だったのかも理解できないまま
    とりあえずは動き出す。

    ましてや、今回の震災においては、原発のこともあり
    未だに霧散していかない澱みのようなものを感じていることも事実・・・。

    作り手は、彼女自身がその日々に纏ったものを
    自らを描くことで具象化していきます。
    きっと、作り手ですら最初は、
    描こうとするものを掴みきれていなかったのだと思う。
    言葉の枠に納めることはできないテイスト・・・、
    観る側とて、駅のエスカレーターがとまり、
    テレビにACの広告があふれ、
    どこに抜け出ていいのかもわからないような
    あの感覚がなんだったのかを自分に対してさえ説明できない。
    そのテイストを
    現実と描きたいものを分離しない(あるいはできない)まま、
    自らが背負ったものごと役者にゆだねて
    積み上げていく。

    役者たちも
    作り手とその周りの人物たちの刹那ごとの空気を
    強い実存感を醸しながら演じ上げていきます。
    時間は極めて個人的な事象の表現の態で語られ、
    事象の内側で表現しえないものについては
    物語の外側にある作劇の過程までも晒して・・・。

    観る側にやってくるものには、
    どこかばらけた感じもあり、
    シーンの意図がすっと入ってこなかったり、
    どうにも痛かったり
    肯定的にうなずけない部分もあって・・・。
    でも役者たちの演技に込められた、
    時間を現わすということからさらに踏み込んだ
    表現へのリヒドーや献身に浸されるなかで、
    気が付けば、
    一時に抱えきれないほどに大きな事象が
    個人に咀嚼されていく過程の質感が
    しっかりと観る側をとらえているのです。

    ジョンレノンのようになりたいと彼女は言います。
    その言葉はどこか唐突に置かれ
    終盤に再び語られる。
    最初にその台詞を聴いた時には、
    突飛に思えたし意味がよく伝わってきませんでした。
    でも、舞台上の時が過ぎ
    再びその言葉が語られた時には
    咀嚼できなかったニュアンスが
    すっと浮かび上がり、
    フリーズしていた時間がすこし溶けて
    何かを湛えたような感覚がやってきて。
    彼女の思索の過程や時間軸の奥行きが垣間見えた。

    感動したとか言うのとは少し違う。
    中途半端な感覚が残ったのも事実。
    そこにあるものはなにも解決していなし、
    舞台が行きつく「今」とて
    きっとゆっくりと凪いでいくなにかの過程にしかすぎないと思う。
    でも、抜けきれない閉塞感に身をゆだねるなかで、
    作者の時間に、
    同じ空気の中で時を過ごした自分の座標のようなものが重なって、
    やがて、自分の立ち位置に想いが至る。
    そこには、観る側にとっても掴みきれなかった何かが
    実存感とともに現れていて。

    どこか雑然としているし、
    生々しいし、
    痛々しさすら感じる舞台・・・。
    でも、劇場を去るときには
    作り手がそこまでに背負い、晒し、
    さらには役者が献身的に演じたからこそ舞台上に表現しえた
    混沌に織り込まれた普遍を
    しっかりと受け取ることができました。

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    2011/09/27 07:06

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