満足度★★★★
重層的な『サブウェイ』(極東退屈道場))
重層的な物語構造を用いて、故郷を喪失し都市で地下鉄に乗る人々の孤立感が描かれた作品で、短編コント集のように見せかけながらも実は緻密に関連性を持たせている脚本が見事でした。基本的にはコミカルな雰囲気ですが、ところどころにゾクゾクさせる怖さがあり印象的でした。
地下鉄をテーマにしたドキュメンタリー映画の撮影という劇中劇的な構成で、曜日で分けられた各章ごとに1人ずつインタビューの体裁のモノローグがあり、同時に字幕で旧約聖書の『創世記』が表示され、直接は関係しないながらもかすかに関連しているような距離感が絶妙でした。
ベタなギャグからマニアックなネタまで様々なタイプの笑いを挟みながら、次第に社会的な視線を感じさせるシリアスな雰囲気に移行するかと思いきや、それまでの流れを打ち壊すような怒涛の急展開があり、タイトルの「サブウェイ」がとんでもない所に繋がり、唖然とさせられました。
クライマックスの後の終盤のシーンは再演に際して付け加えられたのことで、メディアのあり方が問われている最近の状況をシニカルに描いていて面白かったです。『創世記』の物語も終盤になって現実との繋がりが見えて来て興味深かったです。最後の観光ガイド風に話される台詞が素晴らしく、とても心に響きました。
役者8人は皆個性的でキャラが立っていてチャーミングでした。時折見せる冷徹な表情が怖くて良かったです。人情劇的な劇中劇のシーンでの大げさな臭い演技も楽しかったです。1人だけ他と異なる衣装で狂言回し的な役割を演じつつ、iPadを用いた字幕操作も担当していた中元志保さんの奔放な感じが素敵でした。
開演前の趣向(真夏の會のメンバーが出演)や、駅や車内のアナウンスに様々な台詞が被さるシーンなど、演出も新鮮で楽しかったです。演出とは別に同時並行的に作られたというダンスも効果的でした。
おそらくスノッブな感じにならないように敢えてそうしたのだと思いますが、脚本に対して演技や演出の精度が少々低く感じられる部分があり、勿体なく思いました。最後のシーンは映像と同期させてカッチリと見せて欲しかったです。
すごく笑えたり泣けたりする分かり易い内容ではないのですが、とても共感できる作品でした。次作もぜひ東京公演を行って欲しいです。