満足度★★★★
後半の多重的性格が素晴らしい
漢字八文字のお堅いタイトルが付いているだけに、どんな内容なのかな、と思っていたが、ドン・キホーテを素材とした中々面白い内容だった。
劇団を題材にしていて、劇団員対象の自虐ネタなども織り交ぜながら、
芝居が進んでいく…。
私など、演劇は観るだけの人間で、演劇関係者の舞台裏など中々知る機会
もないのだが、やはり一癖ある人間同士(?)、色々あるんだろうな
と感じ入った次第。
初めは、稽古開始前の、ベテラン劇団員の変な習性に、
若い団員たちは引いてしまっているのだが、そこにさらに変な人(?)
姫路が登場する(笑)
自転車の車輪やら掃除用のモップ(?)を持ち、かつ(前の座席でしか
見えないと思うが)鎧はビール缶で作ったもの(ある意味凝ったもの)で、
これも笑ってしまう。
一応、設定では、姫路は演出家らしいが、そういう設定が不要と
思われるほど、ドン・キホーテ(ドン・キショーテ)役に成り切っている。
それで、若い役者はさらに引いてしまい、冷やかに見ながらも、
何とかやめさせようと試みる。
私としては、正直、前半のこの辺りでは、落ち着いている若い役者の
冷やかな台詞が、興ざめに感じられて、劇の雰囲気や進行の妨げに
なっていたような気がした。これがちょっと残念。
しかし、話が佳境に入るにつれ、この話が、ドン・キホーテの話そのもの
なのか、それともその話を「演じている」話なのか、あるいは
「演じるための稽古をしている」話なのか、分からなくなってくる、
というか渾然としてくるのである。
ドン・キホーテも、妄想で自分が騎士と思い込み、そして佳人を思慕する。
姫路も、妄想によってドン・キショーテになってしまったのは、
ある意味同じ現象で、そういう意味で、この芝居が二重(いや三重以上?)構造性を有している。
こういう多重的構造を感じさせる演劇には、そうはお目にかかれるもの
ではなく、貴重な鑑賞体験をしたと思った。
音楽には、クラシックのいわゆる「後期ロマン派」と呼ばれる辺りの曲を
中心に用いられていた。R.シュトラウス(ドン・キホーテも)、マーラー、ショスタコーヴィッチ、さらには、ブラームス、チャイコフスキー等々も。
こういうクラシック音楽の使用は、普通は上手く行かないことが多い。
なぜなら、劇の付随音楽として書かれたもの以外は、そのクラシック音楽
自体、独立した芸術作品であり、劇の内容と齟齬を感じさせられることが
ほとんどである。まして、この作品では、マーラー5番のアダージェット
に歌詞まで付けて歌ったりして…(ふつうは悪趣味になるのだが…)。
ところが、今回は不思議なほど違和感を感じさせなかった。
思うに、その場その場に合うだけでなく、劇全体の雰囲気を醸し出させる
ためにも役立つ曲(の部分)が選ばれていたと思う。
選曲者の音楽の素養の深さと見識を感じさせる。
なお、この作品はR.シュトラウスで言えば、むしろオペラ「ナクシス島のアリアドネ」(あまり有名な作品ではないが)との類似性を感じさせる。
このオペラも、芝居の舞台裏の話が前半(ここの台本はモリエール)で
あるし、この前半部分のドタバタおふざけの後、陶然としたアリアが歌われる辺りも、今回の芝居との共通性があるように思われた。
5Pに近い4P。