1
ビューティフルワールド
モダンスイマーズ
モダンスイマーズはこれまで一度も「つまらなかった」と思ったことがなく、常に質の高いお芝居をみせてくれるので、今回もそれなりに期待しつつ観劇するも、軽々と期待値を超える面白さと痛々しさ。笑ったりゾッとしたりお芝居の醍醐味をしっかり味あわせて貰った。
家庭や職場でどうしようもなく生まれる「強者と弱者」。強者側の無神経な振る舞いと弱者側の辛さ切なさ。そして弱者の間でもまた「強者と弱者」が生まれる構造に「弱い者たちが夕暮れさらに弱いものをたたく/その音が響き渡ればブルースは加速してゆく」という歌が脳裏に流れる。
その力関係がふとした瞬間に崩れ、強者と弱者が反転する時の驚きと滑稽さに惹かれる。特に2部はその崩れ方が見事で、人間の愚かさと可笑しみに会場全体が笑いに包まれるシーンも。
「周りの人間がいつのまにか強者として振る舞うようになるのは結局自分のせいなのかも…」という疑念と絶望プラス憤怒に強く共感。私も何度それで悩んだことか。こういう感情をこんな風にお芝居で観たのは今回が初めてかもしれない。
劇団結成20周年にふさわしい傑作。このクオリティでチケット代が3千円というのも非常にありがたく、またその努力に頭が下がる。
2
ビビを見た!
KAAT神奈川芸術劇場
私は昔からの大海先生ファンだったので、今回の舞台化に大きな期待と共に一抹の不安があった。
「内容的に松井さんよりロロ三浦さんのほうが合ってるんじゃ?」とか「巨大なワカオをどう表現するの?」とか「ビビ役の女優さん、相当魅力ないとキツくない?」とか思ってたのだが、ほぼ杞憂だった。むしろ「松井さんで良かった。ありがとう!」と言いたい。当日のパンフレットにも「子供の頃から大好きだった」という松井さんの言葉が書かれていて、作品に対する敬意と愛情を感じた。特急コガラシ号や巨大なワカオ、街が破壊されるシーンなどがうまく表現されていて、観客の想像力を信じて作られていたのが嬉しい。
ホタル役の岡山天音さん、透明感のある佇まいと無垢な声色がとても合っていて感心。師岡さんの存在も作品に膨らみや可笑しみを与えていた。ビビ役の石橋さんも確かに奮闘されてはいたけど、ここだけは少々残念な気持ちに。
石橋さん演じるビビは「ワガママな女の子」から跳躍が足りないような気がした。なんたって「空を飛べて巨大なワカオを従えホタルが最後に見た『世界でいちばんきれいなもの』」なのだから。もっともっと魅力的でいて欲しかった。
冒頭と終盤が真っ暗闇になるのは本と全く同じ(本は黒ベタの白抜き文字)表現。これにより観客とホタルが一体化し、ホタルの光や色のない世界を実体験することで作品に没入することができた。素晴らしい演出だった。
3
あつい胸さわぎ
iaku
流暢な関西弁によるセリフ運びやリズミカルな間とテンポが見事。どこにでもあるような、可笑しくてやがてシリアスな日常が丁寧に描かれて惹き込まれる。
たまたま腕時計をつけ忘れたまま観劇したけど、演技に見入っているうち時間を忘れ、気付いたらあっという間に2時間弱が過ぎていた。
登場人物は皆、誰かの期待を裏切ったり裏切られたりもするけど、その移り行く心情に無理がなくて理解できるし「生きてりゃそんな事もあるよなー」と納得してしまう。人間の心情が美しく、時に切なくハーモニーを奏でる。
登場人物同士の言葉のやり取りや血縁、想い、関係性(あと母親の勤務先の刺繍糸)を暗示し具現化したような赤い糸と木の柱の舞台美術も素晴らしかった。しかし、なぜ柱は登場人物の数である5本ではなく1本多い6本だったのだろう?残り1本が示す不在の人物が誰を指すのか分からなかった。
4
堕落ビト
劇団桟敷童子
受付や入場時に役者さんやスタッフが元気な声と笑顔で案内や誘導をしてくれ、とても心地のよい応対。上演開始を待つ間にお芝居に対する期待も自然と高まる。観劇は受付からすでに始まってると思うので、こういうオペレーションを構築してくれてるの、とても大切だと思うしありがたい。
いろんなピースが組み合わさった結果、悲劇に向かわざるを得なくなるの、すごく説得力あった。すみだパークと比べ役者さんとの距離も近くすごい迫力。
被害者の女教師を聖的に描くだけでなく、俗で醜い欲望も併せて描くことで女教師の姿が立体的に表現されていた。女教師役を演じた女優さんがその辺りをとてもうまく演じていて惹きこまれた。
5
小松台東“east”公演『仮面』
小松台東
シームレスなゴドーといった感触。松本さんの空気の読めない態度や無神経に他人の心をズケズケと踏み荒らしていく演技に、ある種の爽快感を感じた(私とは逆にイライラする人もいるかもしれないが)。観客と地続きな演劇は、これまで何度か観てきたけど、今回の芝居は設定が突拍子もないのに役者さんの演技が迫真に迫り、私が経験した中でも相当上質な部類に入ると思う。宮崎弁を封印して挑んだ今作、とても意欲的で楽しめました!
最初に登場した夫婦、本当に揉め事が起きたのかとハラハラした笑。
6
夜が摑む
オフィスコットーネ
パラノイアの辛く苦しい日々を滑稽に描く一方で、同じ団地に住む住民の理解のなさも冷酷かつユニークに描いていて、笑いながらも寒々しい気持ちになる。
演技の大半を広めの机の上で行う山田百次さん、肉体的に相当きついだろうに大車輪の活躍。また、暗くなりそうなシーンも異儀田さんの演技と存在感で面白いテイストに変化したりと、役者陣の奮闘にも目を見張った。有薗さんのバキバキに割れたシックスパックもすごかった!
私も昔、荻窪のアパートに住んでいた時、薄い壁の向こうから聞こえる隣人の連夜の騒音に悩まされた挙句ノイローゼ気味になり、壁をグーパンチしていたことがあったので、他人事じゃないような気持ちになった。
7
本当の旅
劇団、本谷有希子
原作自体、本谷さんらしいイヤ〜な内容で好きだったので、どんなお芝居になっているのか楽しみだったけど、一層イヤらし成分マシマシになってた。
役者さんの身振りにほんのりチェルフィッチュぽさを感じつつ、一人の役を複数の役者が演じるところにゆうめい「あか」を思い出したり、モノローグの場面では小田尚稔の演劇などを思い出したり。最近の小劇場のトレンドなども押さえつつ、本谷さんらしいポップさと毒が混ざった感じ。
一人の役を複数の役者が演じることで、演じられた人格が幾重にも拡張されたような感じになり、その拡張が観客をも捕らえ、観る側に「あなただって彼らと同じなんじゃないの?」とデカめのクエスチョンを容赦なく突きつけてくる。対面式の客席にも「舞台上の人物もそれを見ている客も同じ様なもんじゃないの?」みたいな本谷さんの意地悪な意図のようなものを感じて嬉しくもあり腹立たしくもあり。
また、舞台自体が、いつもなら階段があるところの上部に木製のパネルでこしらえているので、上演中に底が抜けたり割れたりしたら…と考えるとゾッとした。「彼らの行為は全て砂上の楼閣」だと舞台の構造からも訴えていたのだろうか?それなら凄いな・・。
公演終了後、受付付近でお芝居に出てきたカツドックを役者さん方が笑顔で売られていたけど、これを喜んで食べること自体が演劇の虚構にとらわれてしまうんじゃないか・・と疑心暗鬼になり、流石に食べる気にはならなかった。また、お洒落なVACANTでやった事すら悪意あるんじゃないかと勘ぐってしまう。
・・と、ネガティブなことばかり書いたようだけど、久しぶりに悪意全開の本谷さんのお芝居が観れたのは、とてもうれしかった!
8
ゆうめい『姿』
ゆうめい
昔観た、ゆうめいの「弟兄」は、個人的にその年のベスト作品だった。今回の「姿」は、アザーサイドオブ「弟兄」というか、主宰の父親がゆうめいの演劇に出演した「あか」に「弟兄」の世界を足した感じ。
ハードなイジメを描いた「弟兄」の世界からようやく家に帰ったら家庭でもハードコアな夫婦喧嘩が行わているという、ちょっとした地獄の世界。
いじめを受けたり夫婦喧嘩が絶えなかったりというのは私自身の中高校生時代とも重なり、お母さん役の人の無神経な圧と怒鳴り声があまりにも迫真だったため、観劇中に胸が苦しくなったり劇場の外に出たくなったりした。
リアルと演劇の狭間を上手に縫い上げた素晴らしい作品だったとは思うけど、過去にいじめや両親の喧嘩を何度も見せられたことがあり、共感性の高い人には結構辛いお芝居かもしれない。
「弟兄」に比べ、今回は自殺した友達のことがさらっと描かれていたので、より一層、亡くなった友達のことや友を失った高校生の苦悩に想いを馳せた。
9
テースターズ
京央惨事
ネズミ講的胡散臭さを醸し出す女性講師が、落ち込んだ女性に水を売りつけようとするところにエセ陰陽師のような女性が現れ、女性講師の秘密をズバズバと言い当て一瞬でとりこにしてしまうシーン、面白かった!
トータル70分程度のコンバクトなお芝居で飽きさせない。台詞のセンスもよく、役者さんそれぞれの雰囲気に合った役柄を演じていて当て書きのよう。次の公演も観たくなった。
開演前、一番後方の座席には黒い布がかけられ、椅子の上に「この席は開演直前(開演後、だったかな?)に来る人のために確保しています」といった趣旨の張り紙が置いてあった。こんな風に書いてくれていれば、わざわざそこに座ることもないし、開演直前になって急遽自分の席の前や隣にガチャガチャと増席されることもなくゆっくり観ることができる。些細なことだけど、来客への心配りがあって好感を持った。