しのぶの観てきた!クチコミ一覧

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こわくないこわくない

こわくないこわくない

クロムモリブデン

赤坂RED/THEATER(東京都)

2014/08/30 (土) ~ 2014/09/15 (月)公演終了

満足度★★★★

タブー連発
冒頭からタブー連発でめちゃアガる(≧∇≦)。今回は客演多数で色んなチャレンジをされている模様。具体的すぎるセリフは好みじゃないけど個人のダンスのキレは期待通り。ロビーで前回公演「曲がるカーブ」のDVDを購入。

ネタバレBOX

児童ポルノ、監禁、そして人身売買など。過激な題材をブラックユーモアにしてくれる。
それは秘密です。

それは秘密です。

劇団チャリT企画

こまばアゴラ劇場(東京都)

2014/07/24 (木) ~ 2014/08/03 (日)公演終了

満足度★★★★

暑かったが行って良かった
得意の社会派脚本に手練れのおふざけを交え、演劇ならではのファンタジーも盛り込まれてとっても面白かった!開演前の選曲は作・演出のチャリTさんと同世代だからか、私にはドンピシャで泣けた。あの頃は無知だった。

ネタバレBOX

死者を演じる俳優が舞台にいるのは演劇の醍醐味。一人ひとりの命や煩悩に敏感になれる。
ベタなギャグも間やつっこみで最終的に笑えるようになっていて、さすがだなと思いました。
WarHorse ウォー・ホース~戦火の馬~

WarHorse ウォー・ホース~戦火の馬~

TBS

東急シアターオーブ(東京都)

2014/07/30 (水) ~ 2014/08/04 (月)公演終了

満足度★★★★

観る価値あり!
等身大の馬型パペットを操る完成度高い王道戦争もの。人形劇の虚構性ゆえ戦争の残酷さ、命の儚さが際立つという見事な効果。こんなの作れる人間凄い!なのになぜ人間は…と、つくづく…(;_;)。チケ代高額だけど観る価値ありと思う。字幕が両サイドで、ステージ下の演技もあったりするので、後方席観やすそう。S席13000円 A席10000円 B席8000円なので、迷ってる人はB席でもいいかな~と。至近距離でも馬の中の人が見えて楽しいです。休憩込みで2時間35分。

ネタバレBOX

戦場で人や馬が死んでいく場面の、人形による表現方法が素晴らしい。足のない馬や上半身だけの人間が倒れていく。
おとこたち

おとこたち

ハイバイ

東京芸術劇場 シアターイースト(東京都)

2014/07/03 (木) ~ 2014/07/13 (日)公演終了

満足度★★★★

ハイバイ新作
『ある女』以来2年ぶりの岩井秀人さんの新作です。昭和から平成を生き抜いた男たちの人生の、いいところも悪いところもたっぷり見せてくださいました。コメディタッチで軽快に進みますが、後味はしみじみ、どっしり。

ネタバレBOX

サラリーマンがデリヘル嬢を呼ぶのに寝ないのは、岩井さんが内田慈さんと共演したドラマでありましたね。http://www.tv-tokyo.co.jp/ookawabata/story/03.html
ツレがウヨになりまして

ツレがウヨになりまして

笑の内閣

KAIKA(京都府)

2014/02/28 (金) ~ 2014/03/04 (火)公演終了

満足度★★★★

社会とがっぷり四つに組むドタバタ喜劇
 笑の内閣の過去作品は『非実在少女のるてちゃん』と『65歳からの風営法』永田町公演を拝見しています。『ツレがウヨになりまして』は、ネット右翼になった若者とその恋人の女子大生を軸に、日本で起こっている反韓運動を時事ネタてんこ盛りでわかりやすく描くドタバタコメディーでした。

 黒い幕で囲まれた舞台の中央奥に、少し斜めに張り出した台が置かれています。後で黒いソファなどが出てきましたが、装置と呼べるようなものはほぼそれだけだったでしょうか。今公演は再演である上に、多地域ツアーの最終地ということで、俳優の演技に安定感があり、これまでに私が観た作品に比べると全体的に素人っぽさが減って、空気の密度も高かったです。

 とはいえ俳優さんはもっと稽古して欲しいし、人物の配置や場面転換には大いに改善の余地があるし、美術や衣装の詰めも甘いです。ソファの黒ガムテ貼ってる感はどう受け取ればいいのか…最初は戸惑いました。でも、そういう品質は決して重要ではないんですよね。笑の内閣のお芝居は、市井の人々の、市井の人々による、市井の人々のための社会派喜劇として最高峰かもしれません。だってすっごく面白かったんだもの!

 お芝居が始まる前の開場時間はずっと、劇団主宰の高間響さんが舞台に立って前説をされていて、それも面白かったです。CoRich舞台芸術まつり!のことも紹介してくださいました。
 終演後は大賑わいの物販スペースで公演パンフレットを買いました。脚本は売り切れてしまったので、代金を支払って後日配送にしてもらいました。過去公演のDVDを数本、お土産に買って帰る方もいらっしゃいました。もっと深く知りたい、そして家族や友人にも知らせたいという気持ちになる作品だったのだと思います。

ネタバレBOX

 幕が開くなり高間さんが、米国国歌の音楽にのせて「君が代」を歌いました。最高。

 女子大生のあおいは「国よりも私を愛して」と歌いますが、恋人の蒼甫は「女の代わりはいっぱいいても、祖国の代わりは無いんだぞ」と言い、2人は別れてしまいます。でも最後には「日本がどんなにダメな国でも愛するのと同じように、私は蒼甫がどんなにダメ人間でも愛してる」というあおいの思いが通じます。主題歌『ツレウヨのテーマ』の蒼甫のパートは「(女の)代わりはあっても 君の代わりはいないから 日本より君を取り戻す」となります。

 「愛する日本を守るために、日本に頼まれてもいないのに韓国を殴ると、日本に嫌われる」という、日本を擬人化したたとえ話が秀逸でした。尊王の志をもって反韓運動をする蒼甫を、天皇陛下(が乗り移ったスーパーの店長)が説得するなど、タブーとされがちな題材をギャグにするセンスがかっこいいです。

 あおいが鞄からマイクを取り出して突然歌い出すのは楽しいですね。デュエットになったのも良かった。LED照明で歌の場面を盛り上げるあざとさも良いです。ただ、マイクの取り出し方の工夫と稽古はもっと必要だと思いました。劇団☆新感線のおポンチ系作品を参考にしてもらいたいです。
 選曲も狙いがしたたかでしたね。山口百恵のナツメロ、竹内まりあ「元気を出して」、大塚愛「さくらんぼ」など。あおいの友人の中道役の高瀬川すてらさんは歌がお上手でした。
 
 細かいことですし作品評価には全然関係ないのですが、在学中の娘の同棲を刑事である父親が許していたのはなぜだったのかしら。私は婚約前の同棲には反対なので、許可する根拠が知りたくなりました。
グローバル・ベイビー・ファクトリー Global Baby Factory

グローバル・ベイビー・ファクトリー Global Baby Factory

劇団印象-indian elephant-

調布市せんがわ劇場(東京都)

2014/03/26 (水) ~ 2014/03/30 (日)公演終了

満足度★★★★

ネタ化される現代の生命についての考察
 不妊と代理母、そしてタイトルになっている“世界規模の赤ちゃん工場”という旬の社会問題と真正面から向き合ったストレート・プレイでした。先進国と発展途上国の搾取の構造や、何もかもが商売やニュースのネタにされていく現代の消費文化について、観客の私も当事者の一人になって考えさせられました。

 「(自分と配偶者の遺伝子を継ぐ)子供が欲しい」という“平凡な幸せ”を求める日本人女性が、不妊に悩んだ末に代理母出産を決心します。「外国人向け代理母出産」というビジネスが実行されていく中で、主人公の家族の反応や、インド人代理母と依頼者夫婦との関係、胎内の精子と卵子の様子などが描かれていきます。出来事を一面的ではなく表と裏から、もしくは横から、上からも見つめる複眼的な視点を持つ戯曲でした。セリフが確信を持った言葉に聞こえたのは、作・演出の鈴木アツトさんが現地取材をされたからかもしれません。

 深刻な問題を生々しく扱っていますが、コミカルかつ軽快に展開していくので暗くなり過ぎませんし、ファンタジーの要素も大いにあります。場所の移動が頻繁にあるため転換に工夫が見られましたが、残念ながら演劇的なフィクションの立ち上がり方には、まだまだ改善の余地があるように思われました。

 小山萌子さんはスリムで美しい体型も活かして、主人公砂子を魅力的に演じていらっしゃいました。目的達成のためには手段を選ばないエリートの砂子は、ともすれば観客の嫌われ者になりかねません。でもわがままを通す子供っぽさの元にある切実さが伝わってきたので、人間として愛らしく見えました。真剣であればあるほど滑稽に映るのも良かったです。彼女を媒介にして出来事を多面的に解釈することが出来ました。

ネタバレBOX

 精子くんたちが被り物を着て登場…いや~…リーディング公演を観ていたので知ってはいたけれど、やっぱりちょっと引きますね(笑)。でもすべて女性が演じているし、ミニスカートの衣装も可愛らしく見えてきたので、すぐに慣れました。

 砂子の子供を産むことになったインド人女性ナジマは夫の借金を返すため、つまりお金のために代理母になりました。ナジマに感謝した砂子は彼女に手紙を書き、やがて2人の間で文通が始まって、ナジマは文字の読み書きができるようになります。そんなほのぼのとしたエピソードを挟みつつ、心が痛む事件が連続します。砂子は「赤ちゃんに(自分以外の女性の)産道を通って欲しくない」という理由でナジマに帝王切開を強要し、ナジマはお腹の中の赤ん坊に情が湧いて、代理母ハウスから逃亡します。結局ナジマは無事に女児を出産しますが、生まれた途端に砂子に取り上げられ、一度も抱っこできないまま、代理母ハウスから姿を消しました。

 砂子の親友の女性ジャーナリスト那智とカメラマンが、インド人女性に代理母出産を依頼する日本人を探してインドに来ており、偶然、砂子とその夫に遭遇するという事件も起こりました。那智は経済格差を悪用した搾取だと砂子を批判し、砂子は「ごく普通の幸せを望んで何が悪いの?」と反論。未婚で子供を産む予定もない那智は、砂子が自分のことを「普通ではない」と見なし、蔑んでいるのだと言い返して、2人は決別します。

 カメラマンは「褐色の肌のインド人の母親から、黄色い肌の日本人の赤ん坊が生まれてくる写真を撮りたい。それぐらいインパクトのある写真が欲しい」と言います。これも代理母ビジネスと同様、人間が命を生み出す営みのネタ化、商品化です。真面目な日本人同士の胸がしめつけられるような対立の後に、砂子の夫が「もし日本人がほぼ絶滅して俺たちが最後の夫婦(つがい)だったとしたら、誰も代理母出産を非難しないんじゃないか」と言いました。種の保存というテーマが追加されて、ぐっと世界観が広がりました。人間に限らずあらゆる種の生殖、繁栄、衰退、絶滅を想像し、さらには地上から宇宙へと思考を飛ばすことが出来ました。

 念願の赤ちゃんを得て帰国した砂子は、普段の生活を再開します。朝起きて、着替えて、珈琲を淹れて、ベビーシッターがやってくる。そして以前どおりに出勤して「変わらない朝の風景」を繰り返すのです。妊娠も出産もせずに子供を得て、乳児期の子育てもしない砂子の姿を、冷やかに照明が照らして終幕。解釈は人それぞれだと思いますが、私は作者の鈴木さんが代理母出産に異議を唱えているのだと受け取りました。

 細かいですが、笑えたセリフを書き留めておきます。砂子の夫は食品を入れるパックやビニール袋などを製造している会社に勤めています。冷凍保存された砂子の卵子とともに彼の精子をインドに送ることになり、彼はその場で「新鮮な精子を提供」させれられることに。精子を入れる容器が彼の会社の製品だったというが可笑しかった!あと、「外は競争社会なんだろ?出るのが怖い」という精子のセリフも(笑)。

 ※セリフは正確ではありません。
TERAMACHI

TERAMACHI

Baobab

武蔵野芸能劇場 小劇場(東京都)

2014/05/30 (金) ~ 2014/06/02 (月)公演終了

満足度★★★★

地に眠る力が人体に宿り、踊り出る
 京都の寺町通をテーマにしたコンテンポラリー・ダンス作品でした。提灯が吊下がっている和のムードの劇場で、着物と現代服を融合させた衣装をまとった若いダンサーが踊ります。大人数で動きをそろえるシーンのコンビネーションの面白さが特に印象に残りました。ソロや少人数のシーンでは体の形や動きの特徴などをつぶさに観察して、人間一人ひとりを味わいました。

 歌舞伎の振付や文楽の手法などを取り入れ、セリフを話したりマイクを使って歌ったりする演劇的な部分も多くあり、楽しみながらチャレンジしているようでした。若者が心身を使って真剣に日本のルーツを探ると同時に、自分たちの今も突き詰めて、その成果が活かされていることに好感を持ちました。

 外国人観光客や地元の商店街の店員、お寺のお坊さんなどが登場して、京都の風景を軽やかにコラージュしていきます。私は寺町通のことは全く知らないのですが、舞台上で迷いなく動く人々を見て、描かれているのは紛れもない寺町通なのだと信じられました。

 下手袖に設置されたスタンド式の照明が、上手方向に向かってほぼ真横から舞台を照らしていました。客席から照明器具が見えているのは、もしかしたら配置ミスなのかしらと何度か考えました。もし意図的だったのなら、俳優が照明を触る動作をするなどの工夫があるといいんじゃないかと思いました。

 緻密な動きが美しくて見とれたのは岡本優さん。振付・構成・演出の北尾亘さんの、意図と動きが一致していてブレない姿も目を引きました。

ネタバレBOX

 下手の花道(のようなスペース)で、2人の女性が会話をする場面から始まりましたが、現代口語のセリフをアドリブ風に話すのがあまり上手には見えなかったです。しゃべり言葉だとしてもセリフを決めていた方が安定感があったのではないかしら(決めていたならすみません)。劇場と衣装が和風で統一されていますので、いかにも演劇風な会話で始めても違和感なく幕開けできたのではないかと思いました。

 昼間の寺町通は表の顔。一見さんお断りのお店や夜な夜な常連客が集まるクラブなどの裏の顔が出てくると、ぐっと妖艶さが増しました。圧巻はラストシーンです。羽織っていた着物風の衣装を脱ぎ捨て、現代のカラフルなカジュアル・ルックになったダンサーたちが、地響きを立てて踊り始めます。現代から生命の起源までさかのぼり、古代の植物や生物が眠る地層を揺り動かすような、野性味あふれる振付でした。寺町という土地にもともと備わっている力が地鳴りとともに湧き出し、今まさに躍動する若者の身体を借りて、その姿を現したように感じました。

 終演後に北尾さんからお話を伺うことができました。京都の実際の地図のように稽古場の床にも碁盤の目の印を貼って、交差点などに実在する地名をつけたそうです。出演者が稽古の段階から具体的に想像をしていたから、本番でも風景が立ち上がったのだと思います。

 音楽は公演のためのオリジナル曲もあるようで、声を録音してサンプリングしたような曲が新鮮でした。「恋に恋するバンビ」の歌(?)で踊る、ラテン系のリズムの場面が楽しかったです。
ぬけがら

ぬけがら

劇団B級遊撃隊

長久手市文化の家 風のホール(愛知県)

2014/05/31 (土) ~ 2014/06/01 (日)公演終了

満足度★★★★

若返る父とともに戦後の日本を振り返る
 岸田國士戯曲賞を受賞した9年前の初演は、文学座の松本裕子さんが演出されていました。今回は作者である佃典彦さんが初めて演出されます。

 しっかり建て込まれた具象の美術に嬉しくなりました。主人公卓也の年齢から考えると、築40年以上の集合住宅の一戸でしょうか。下手面側に玄関のドア。ドアを開けて家に入ると下手上部には父の部屋があり、手前にベッド、奥に仏壇があります。父の部屋のすぐ右、舞台の中央上部の奥にはトイレのドアがあり、その右側には洗濯機。続いて上手袖までは台所です。トイレから2段ほど降りて、舞台下部中央から下手は廊下。上手面側にかけては居間があり、その真ん中に丸いちゃぶ台。居間の上手奥には大きめの冷蔵庫があり、上手端はベランダへと続く引き戸になっています。

 ぎっしり満員の客席で、どんどこと笑いが起こりました。劇団や出演者のファンも多かったようですが、私も大いに笑わせていただきました。笑い声に交じって鼻をすする音も聞こえていたんです。登場人物の置かれている状況は悲惨で、笑ってる場合じゃないんだけど、それでも人間は笑うんですよね。3.11の大震災の時も私は怒って泣いて笑っていたし、きっと戦時下の日本人もそうだったのだろうと想像しました。同じものを観て笑う人もいれば、泣く人もいる。演劇作品に大切なことだと思います。

 『ぬけがら』を観るのは横浜未来演劇人シアターでの上演(演出:寺十悟)、文学座での再演に続いて3度目でした。佃版はアットホームでべたっとした温かい雰囲気があり、ごく普通の家族の、身近な話だと感じられました(たとえあり得ない事件が起こるとしても)。登場人物はどうしようもなく情けなくて、滑稽で、でも可愛げがあります。俳優の個性を生かし、会話のとぼけた間(ま)に独特の味わいがありました。名古屋を拠点に活動してきた演劇人が集結し、その土地ならではの空気が生み出されていたのではないかと思います。

 暗転中に懐かしい音楽やニュースの声が流れ、私が聞き覚えがあるのは30年前まででした。それより昔になると大河ドラマのようなフィクション性を帯びていき、自分の記憶の限界に気づきました。約10年前の戯曲なので、携帯電話は出てくるけれどスマホもタブレットも出てきません。でも、これからも色んな世代の観客に幅広く通用する戯曲であり、演出だと思いました。

 大きくてきれいな劇場ですが、整理番号順でもない全席自由席でした。劇場入り口に長い列が出来ていて、入場するまでにかなり並ぶことになりました。できれば指定席にして欲しかったです。

ネタバレBOX

 岸田賞の講評にもあるとおり、舞台上で「人間が脱皮する」というアイデアが秀逸です。1人のはずの人間が年齢ごとに複数人、同時に舞台に存在するのは、演劇ならではの効果があります。

 母の葬儀が終わって49日を迎えるまでのお話で、家には80代のほぼボケた父と一人息子の卓也が残されています。卓也は勤務中に交通事故を起こして郵便局員の仕事を失い、同時に浮気もばれて妻に離婚届けを突きつけられてしまいました。男2人所帯のわびしさが漂う中、突然トイレで父が脱皮して、60代、50代、40代と徐々に若返っていき、卓也は全く知らなかった父の人生に出合い直していきます。戦争から命からがら生き延びて、平成になって死んだ父の人生は、日本の戦後史そのもの。観客にとっては、日本人が生きてきた昭和を知り直す旅になりました。

 30代、40代の父は遊び呆けていて、敗戦後に「総無責任化」していく日本人をあらわしているようでした。50代で胃潰瘍の手術をし、60代では喫茶店に通うのが日課になっていました。そして80代で認知症に。20代の父が一番の好青年でしたね。年代ごとに違う俳優が演じるので当然といえば当然ですが、父は10年ごとに別人のように変わっていきます。きっと誰もがそうなのでしょうね。人間は変わるのだと肝に銘じようと思いました。

 大鍋に入った冷や麦を食べる場面では歴代の父が勢ぞろい。元気はつらつの若い父から老いてボケた父まで、そして卓也も含む男たち全員の腹を満たしてやる母の姿は、昭和の日本を支えた主婦の象徴にも見えました。卓也の妻はモダンダンスの振付家で、浮気相手の女性はシングルマザーの派遣社員です。現代の働く女性の姿も描き、女性像、母親像、家族像の変化が鮮やかに示されました。

 卓也が離婚届で折る紙飛行機は、父が戦時中に乗っていた飛行機のイメージとつながり、飛行機の車輪故障で胴体着陸をした父が、母と偶然出会って恋に落ちるエピソードへと行きつきます。卓也は、突然思い立ったように、「墜落男」という映画を撮り始めました。「墜落男」というタイトルは、飛行機で死にかけた父と、平凡で幸福な人生から転落した自分を重ねているのでしょう。父たちが舞台を降り、劇場後方に向かって客席通路を歩いて成仏していくのを撮影する姿から、卓也が映画部だった大学時代の気持ちを取り戻し、再生への一歩を踏み出したのがわかりました。

 そして冒頭の場面に戻ります。卓也は映画「ロッキー」の真似をしてランニングをして、生卵5つと牛乳を飲み、離婚届けに判を押して、妻に渡します。が、すぐに復縁を願って婚姻届けも出してみるのです。母から安定が一番と教えられ、それに従ってきた卓也にあるまじき行動です。大勢の父と会ったことで変わったんですね。妻はもちろん承諾しませんが、嬉しそうに微笑んでいました。

 黄緑や薄い青など、幽霊が出そうな感じの照明の色味が良かったです。ハワイアンのダンスシーンは舞台全体が黄色に染まり、踊る人々は幸せそうだけど悪夢のようにも見えました。明るい音調なのに切なく響くハワイアン・ミュージックは、人生をかえりみるのにぴったり。そんな中で、お鈴をチーンと鳴らすのは滑稽でほろ苦かったです。ウワンウワンと響くセミの声は、終戦間際の8月を想像させました。
 
 主人公卓也役の平塚直隆さんが、絶妙のとぼけた間(ま)で何度も笑わせてくれました。生卵5つと牛乳を2度も飲むなんて、本当にお疲れさまです。20代の父と見つめ合う場面は、日本人がいかに変わったのかがよくわかって可笑しかったです。
信じる機械-The Faith Machine-

信じる機械-The Faith Machine-

文学座

文学座アトリエ(東京都)

2014/05/28 (水) ~ 2014/06/11 (水)公演終了

満足度★★★★

書き留めたい言葉ばかり
休憩2回を含む2時間55分。すごくいい戯曲だった…。現代の話なのに古典のように一言ひとことに注意深く耳を傾ける幸せな時間。日本に紹介してくださったことに感謝。俳優も良かった。宗教もまた、物語なんだな。

ネタバレBOX

「私は優れたメタファが好きだ」。それしか真実を表せない、って、凄い。

まるで正反対の性格(信条)でも、ともに在ることを選ぶ。それに賭ける。人間を信じる。

ソフィーのせりふで「(トムは)自分がどうしたいかではなく、他人にどう思われたいかを気にするようになった」は、広告(業)に対する辛辣な批判だと思った。
proof(プルーフ)-証明-

proof(プルーフ)-証明-

風琴工房

SHIBAURA HOUSE 5階(東京都)

2014/05/27 (火) ~ 2014/06/01 (日)公演終了

満足度★★★★

借景(夜)の効果
詩森ろば版「proof」は、私が今までに観た「proof」の中で一番スっと腑に落ちたラストシーンでした。

ネタバレBOX

ガウスに発見されたソフィー・ジェルマンのエピソードが、そのままハルとキャサリンに当てはまり、性差を超えて「美しい数学」に向き合う人類を見せてくださいました。
現代日本の夜景をバックに2人がシルエットになり、1990年代のお話が現在、未来へとつながっている(同時に起こっている)ように思わせてくれました。

1700年代のフランスで家にこもって孤独に研究をしていた女性のエピソードが、ちゃんと生かされた演出だったと思います。
プルーフ/証明

プルーフ/証明

DULL-COLORED POP

サンモールスタジオ(東京都)

2014/05/28 (水) ~ 2014/06/04 (水)公演終了

満足度★★★★

谷賢一翻訳すごい
面白かった!改めて谷賢一翻訳すごいって思った。装置は極シンプル。俳優の演技で見せきる。照明、音楽がかっちょいい。これで8〜9種類の「proof」を観た思うんだけど1番好きかも。休憩含む2時間半。

迷迷Q

迷迷Q

Q

こまばアゴラ劇場(東京都)

2014/04/24 (木) ~ 2014/05/01 (木)公演終了

満足度★★★★

タブーの陳列から命の理を導き出す戯曲
 こまばアゴラ劇場を通常の状態で使うプロセニアムの舞台で、床はコンクリートが露出した灰色、壁は黒色、ロフトの手すり等のパイプ部分は白色に塗られています。舞台下手には洗濯機、中央には閉ざされた箱型の部屋があって、部屋の中も屋根の上も演技スペースになります。

 ガーリーと言って差し支えない風貌の若い女優さんが4人登場し、可愛らしい仕草でギョっとするようなことを言い続けます。独白が多くてあまり会話劇にならないのは、人と人との交流が観たいと思うタイプの私には物足りなかったですが、演出意図だろうと思うので不満はありません。むしろ潔さが痛快なぐらいです。

 2013年2月に横浜で上演された『いのちのちQ』も、扱われる題材とその提示方法が衝撃的でした。観劇後しばらく経って冷静になってから整理してみるまで、私は重要なテーマに気づかなかったんです。『迷迷Q』もまた、観終わった時は「ヤバいものを観た!」という興奮でいっぱいいっぱいでした。こうやって文章にする段階でやっと、戯曲にあらわされていた意味をじっくり考えることができます。獣姦や異種交配は今までにも取り上げられていましたが、今回は人間について、命について、さらに踏み込んだ内容になっていると思いました。

 母を演じた吉田聡子さんは身体と声の力強さも生かしきって、いつもながらのド迫力でした。ただ、自分から発するものは大きくても、相手役や観客からはあまり受け取っていないように見えました。また、Qの公演でもマームとジプシーの公演でもあまり変化がないのはもったいない気がします。吉田さんであることに気づかないぐらいの演技も観てみたいです。
 犬のフランシーちゃんを演じた吉岡紗良さんは、大きな目を開きながら、相手役と観客に対して心も開いてコミュニケーションをされているように見えて、他の共演者とは少し違う存在感があり、私は好感を持ちました。

ネタバレBOX

 夫と犬のような性交をして子供をわんさか産んできた母は、11人分のごはんを作る毎日。公園では野良犬とともに野グソをして、犬にお尻を舐めさせて「(温かくて)温泉みた~い♪」と喜び、そして犬は母が落とした便を食べる。…強烈なエログロが混濁して、目も耳も覆うべきじゃないかと思うような場面ですが、若い女優さんが躊躇なく元気に語るので見入ってしまいます。飲食、排泄、性交、出産、死といった人間の原始的な営みを、動物、昆虫、魚等の生き物全般のそれと同列に陳列していくような、斬新奇抜な戯曲でした。

 娘の園子は上半身が人間で下半身が馬のケンタウルスに山で犯されましたが、ピルを常飲しているので妊娠することはありません。園子はケンタウルスを連れて帰って自分の部屋で飼い、他人を襲わないように自慰を教えたところ、ケンタウルスは自慰にふけって弱っていき、やがて死んでしまいました。ケンタウルスの精子で汚れた無数のティッシュは部屋中に転がり、薬のせいで妊娠しない園子の存在と相まって、人工的な不妊という不毛のイメージを形成します。それは気の向くままに性交して出産し続ける母とは対照的です。

 園子とケンタウルスは白米とタラコを食べていました。タラコを“孵化できなかった卵の集合体”だと考えると、それはティッシュに包まれて受精できなかった精子と同じですから、やはり不毛の象徴になります。そういえば、一度に10匹以上生まれる犬の赤ちゃんのことが話題にのぼりました。出産時に薄い粘膜に包まれている点ではタラコと似ていますが、子犬は育ってまた子犬を産む可能性がありますから、これもまた対照的です。タラコと精子を園子の世界、犬を母の世界だととらえると、ここにも知性重視の園子と、本能的に生きる母との違いがあらわれているように思いました。

 舞台中央に設置された箱の中は園子とケンタウルスが暮らす部屋で、「飼育小屋」と呼ばれていました。「飼育小屋」の中での演技は外から直接は見えません。ビデオカメラを通して部屋の外壁に大きく映写する方法で生中継されます。また、園子がほぼ初対面の若い女性たちとエスニック料理店で食事をする場面も映写されました。ナチュラル志向を気取る若い女性たちはやたら「素晴らしいわっ」と連呼し、上っ面ばかりで中身のない女子トークで盛り上がります(園子以外)。そして彼女らの中の1人のfacebookのタイムラインも壁いっぱいに写し出されました。グルメ写真や友人との幸せそうな集合写真で埋め尽くされたタイムラインからは、日常の空虚さがにじみ出ており、そこにもまた不毛な空気がありました。差しさわりのない関係しかつくらず、インターネットのSNSで見栄を張る若者の生活は味気ないです。他の場面と違って映像のみで表現されるのは、今どきの若者が埋没するネット世界の閉塞感を象徴しているように感じました。

 母は園子のお友達ののんちゃんが飼ってる犬のフランシーちゃんを誘拐してきて、自分専用のバター犬にしますが、やがて犬は夫に肛門を犯されて死んでしまいます。犬の遺体は母の手で料理され、から揚げになって一家の食卓へ。フランシーちゃんは居なくなったけど、園子たちの血肉になりました。そんなワイルドすぎる母が亡くなると、彼女のお葬式には子供や孫たちが大勢集まり、みんなが悲しんで泣きました。母は居なくなったけど、たくさんの子孫の心の中にくっきりと残っていたんですね。また母は、後産で出てくる自分の胎盤をお刺身にして子供たちと食べていたとも言っていました。つまり母は子供たちの心だけでなく、肉体にも残っていたのです。他人に迷惑をかけずひっそり生息する園子よりも、動物的な母の方が人間という種として幸せなのではないか…そんな思いがよぎりました。

 そういえば、フランシーちゃんの元飼い主ののんちゃんが引っ越す時に言っていました。「私はいなくなるけど、園子ちゃんの中にいる私のことをよろしくね」と。人間は生殖して自分のDNAを後世に残すだけでなく、出会った誰か・何かとかかわりを持つことで、自分の部分を相手の心身の中に残していきます。そう考えると、「話す/聞く」「作品を作る/鑑賞する」「食べる/食べられる」といった行為も、性交であり生殖であると解釈できるのではないか…。この舞台に散らばっていた無数の要素が一気につながったように感じました。

 ケンタウルスの死後、園子は大河ドラマを見ます。どうやら武将が登場するエピソードのようで、馬のいななきが聞こえました。ケンタウルスが数百年前の日本で駆け回る姿を想像し、現在と過去がつながりました。また、順序は違いますが、死んだ母と園子が語る場面もあったのです。想像は未来にもどんどん広がって、地球上の生態系や仏教的な生命のめぐりなど、壮大なイメージがつながって、ぐるりと円を描くような感覚が得られました

 開幕してすぐに床にポップコーンがまき散らされ、女優さんが拾って食べることがありました。犬のフランシーちゃん(誘拐後はハワイちゃんに改名)の肉で作ったから揚げも、舞台中央に1切れ転がっていました。それらは果たしてゴミなのか食べ物なのか、線引きができません。フランシーちゃんの体で繁殖するノミやダニの話もありました。寄生虫にとってはフランシーちゃんの体が世界の全てで、彼らはそこで生まれて死んでいきます。舞台の床の上と犬の体表で起こる食物連鎖を想像しました。

 人間と動物(の差異)をテーマにしている現代劇作家というと、すぐに思い浮かぶのは飴屋法水さんと平田オリザさんです(平田さんは人間とアンドロイドへと移っていますが)。また、人肉食は野田秀樹さんが長年取り扱われているテーマです。作・演出の市原さんは若くして、その両方をさらりと俎上に載せているのです。将来どういう方向に進まれるのか私には見当が付きませんが、見逃せない劇作家であることは間違いないと思います。

 前述しましたが、このお芝居はほぼ独白ばかりで構成されていました。ほんの少しの会話があったとしても、俳優同士の生々しい意見の対立やドキドキするような心の交流は、全くと言っていいほどありませんでした。市原さんがそんなものは求めていないからだと思います。でも私はそこが観たいと思う観客なので、いつかそういう方向性も選択肢の1つに加えていただけたらなぁと、小さな野心を表明しておきます。

 ※引用したセリフは正確ではありません。
【無事終演しました】荒川、神キラーチューン【ご来場ありがとうございました!】

【無事終演しました】荒川、神キラーチューン【ご来場ありがとうございました!】

ロ字ック

サンモールスタジオ(東京都)

2014/05/14 (水) ~ 2014/05/25 (日)公演終了

満足度★★★★

パワフルなJ-POPで暗い青春を駆け抜ける
 女性教師が14年前の中学3年生の頃を回想し、現在と過去の2つの時間を行き来します。いじめ、恋愛、殺人事件などの複数のエピソードが、こじんまりとした人間関係の中にギュっと凝縮されていました。犯人捜しや本音の探り合いにスリルがあり、中学時代の同級生たちの14年後の姿が見られるのも面白いです。それぞれのエピソードの顛末への興味も相まって、最後まで集中して拝見することができました。

 込み入ったお話ではあるものの、聞き覚えのあるJ-POPが元気よく流れる中、疾走感を保ちながら進んでいくので、この作品自体がひとつの楽曲であるかのように感じられました。ジャンルはたぶん現代の純日本製ロック・ミュージック。

 荒川の近くにある中学校の教室、会議室、そしてカラオケ店の個室という3つの空間が、立体的に建て込まれた舞台美術でした。特に舞台面から上手を通って舞台奥へと続く空間は物語に余白と開放感を与え、用途も多様だったのがとても良かったです。

 俳優の演技については、舞台上だけで完結して観客の方には意識を向けないタイプが多く、個人的には物足りなかったです。若いころの主人公役の小野寺ずるさんは、歌ったりしゃべったりしながら体を激しく動かす演技に見ごたえがありました。シンプルな意志が体と調和している状態は力強く、存在に説得力があります。

ネタバレBOX

 オープニングのラップで物語の主なトピックが語られ、主人公のショーコが2人いることを紹介する効果もありました。聞き取れないのでちょっと置いてけぼりになりましたが、アイデアにもやり切ったことにも好感を持ちました。2人のショーコが同時に存在したり、入れ替わった状態になるのは演劇ならではの手法だと思います。そういう場面をもっと増やしてもいいのではないかと思いました。

 舞台上手の上部に設置されたテレビ画面はカラオケルームの備品にもなり、文字映像も映されます。壁に映写する文字映像との合わせ技も見せてくれました。音楽、ダンス、映像、照明の動的なコンビネーションで、自然と体が動き出すようなライブ感を演出してくださいました。

 カラオケルームの場面では歌うだけでなく踊ったり、会話をしたり、そこに居るはずのない人物を登場させるなどの工夫はありましたが、少々退屈に感じました。やはりカラオケは知人同士で楽しむ空間なので、他人が上手に歌っていても、どんなにいい曲が流れていても、私は遠くから眺めるような状態になってしまうんですよね。

 中学三年生のショーコは両親が離婚したために転校し、転校先でいじめに遭ってしまいます。ショーコに優しくしてくれた女性教師が恋人に殺される事件が起こるのですが、犯人はショーコがよく行くカラオケ店の店員でした。さらに犯人は仲良くなった同級生シオリの彼氏(セックスフレンド?)でもあり、やがてシオリは転校してしまいます。シビアな展開ですが、10代の若者ならではの活力と軽やかさを前面に出す演出だったので、陰惨な空気が支配するわけではなかったです。

 14年経ち教師になったショーコは、同僚との婚約を機にシオリに連絡しようとネット検索をしたところ、なんと彼女が家庭内暴力を受けて死亡していたことを知ります。さらには婚約者が他校の女生徒をホテルに連れ込んで放尿写真を撮っていた証拠もつかんでしまいました。体育教師や生徒がいる前で、婚約者本人に向かって「学校の女子トイレを撮影していたのもあなたなの?」と問い詰める場面は、舌なめずりしたくなるほど迫力があってわくわくする修羅場!(笑) ただ、ぶちまけるだけぶちまけて、終幕してしまったのは本当にもったいないと思いました。大事件が起こった後の方が人生は過酷です。登場人物たちがどうやって生き延びるのかを、私は観たいです。

 修羅場といえば、ショーコをいじめていた森田ユカのエピソードも面白かったですね。森田はグラビアアイドルになり、クラスメイトだった小林の夫と不倫していました。小林は森田を呼び出して不倫の証拠写真を見せて、夫と別れるよう強く依頼するのですが、森田は開き直って「別れて欲しいなら金を払え」と催促します。女同士の売り言葉に買い言葉は、醜ければ醜いほど凄味があります。ただ、冷静に考えてみると現実味が薄い気もしました。森田は女優への転向を狙っているのでスキャンダルはご法度のはずです。森田が浅はかで愚かな性格だとしても、しおらしく謝って切り抜けるぐらいが適当ではないでしょうか。小林はカバンから包丁を取り出し、殺意満面で先に出て行った森田を追いかけて行ったようですが、これも先を描かず終えています。

 若いショーコは「神様なんていないよ」と何度も言っていました。多感な時期にあれほど辛いことや悲惨なことを経験してしまうと、そんな境地に至っても不思議はないと思います。でもそのセリフには「それでも何かを信じなきゃ生きていられない」という、すがるような思いも込められているように感じました。そんな一直線に伸びる何かが、この作品の芯にあるように思いました。
休暇 Holidays

休暇 Holidays

地人会新社

赤坂RED/THEATER(東京都)

2014/05/10 (土) ~ 2014/06/01 (日)公演終了

満足度★★★★

「休暇」の意味も素敵
 栗山民也さんが演出される、200席に満たない小劇場での本格的なストレート・プレイです。日本初演。
 がんに冒された中年女性が田舎のコテージで1週間の“隠遁”生活をします。そこに人生を変える出来事が!清楚なイメージのチラシからは想像がつかなかった、衝撃的な展開に心乱されました。闘病の記録をともに追いながら、夫婦とは、人生とはと考えさせられる、とても面白い戯曲です。

3 crock

3 crock

演劇集団 砂地

吉祥寺シアター(東京都)

2014/05/09 (金) ~ 2014/05/12 (月)公演終了

満足度★★★

因縁に抗った末にたどり着いた一瞬の静寂
 ブラックボックスのほぼ何もない空間で照明を暗い目に徹底した、緊張感が張りつめる2時間でした。ロフトや奈落などの劇場機構を効果的に使っており、特に舞台奥の真っ黒な空間は廃墟、闇社会、死後の世界、ダークマター(暗黒物質)などを連想させ、意味の上でも奥行きのある劇空間になっていました。

 有名な歌舞伎作品を近未来(?)を舞台に翻案し、現代服を着た俳優が現代の言葉遣いで語り、今どきの日本人の身体で演技をするストレート・プレイです。複雑極まりない人間ドラマを2時間の群像劇に収めるのは、作劇の手腕が試されるところだと思います。私の場合、『三人吉三』はコクーン歌舞伎しか拝見していないのですが、登場人物の背景を記憶で補うことができたので、物語の理解の助けになりました。何も知らない観客には少々難解だったんじゃないかと思います。これからご覧になる方はあらすじ等を頭に入れておくといいかもしれません。

 悪党3人とその親類などが、知らずに手を染めた悪事の連鎖に翻弄されていく因果応報の物語ですが、人々の間に起こるドラマをじっくり見せるというよりは、世界や運命といった大きなものに対して抗う姿を強調する演出だったように思います。セリフは怒号で発っせられることが多く、登場人物それぞれが世界全体に向けて、不器用ながらも命がけで怒りをぶちまけているようでした。話し合う相手がいる場面でも、自分から強い意志を発しておきながら、相手からは受け取らないので、一方通行のすれ違いが累々と積み重なっていきます。私は人間同士の細やかな交流を観たいタイプの観客なので、物足りなさも感じてはいましたが、最後に3人の吉三がある境地に達した時は、こうなるべくして訪れた結末であることをスっと受け入れて納得できました。

 ネタバレになるので詳細は後述しますが、ライブ感のあるシャープな空間づくりに独特の感性が感じられ、作品の芯となる強いイメージを最後まで貫くのは、作・演出の船岩さんの個性だと思いました。船岩さんが古典戯曲を翻案せずに演出されるのを、いつか観てみたいと思いました。

 当日パンフレットの表紙に文字だけの人物相関図がありましたが、もっと詳しいものが欲しかったです。出演者の写真とプロフィールはあるのに、演じる役名が載っていなかったのも残念でした。舞台が暗いので顔の判別がつきづらいから、特にそう感じたのだと思います。※役名は帰宅してから公式ブログ等をたどって調べました。

ネタバレBOX

 素手もしくは拳銃、刀、ジュラルミンケースを持って戦うアクションは、最初にお坊吉三とお嬢吉三の2人が見せてくれましたが、難易度の高いアクションに挑戦されていたせいか、目指す完成度に届いていないようでした。観客に「完成度が低い」という印象を与えてしまうよりは、たとえばスローモーションやストップモーションを加えたり、思いきった抽象性を持たせたりして、俳優の錬度に合わせた見え方を目指してもいいのではないかと思いました。和尚吉三を演じる小野健太郎さんが加わったことで、一気に見栄えのするアクションになってホっとしました。

 ステージは面側と奥側に分かれており、2つの部分をくっきりと区別するように、床には舞台の上下(かみしも)を横切る大きな穴が開いていました。穴の下に水が仕込まれていたのか、場面によっては照明の光が反射して劇場の壁に揺れる水面が映ります。和尚吉三の父・伝吉が水死体を引き上げていることや、伝吉の妻が赤ん坊とともに川に身投げしたこと、他にも三途の川や津波などのイメージも反映されているのだろうと思いました。

 穴の一部分には、面側と奥側とをつなぐ橋のような板が掛かっていて、登場人物はその上を歩いて移動します。面側で殺された人物が、ゆっくりとその橋を渡って奥側へと移動すると、死者になるのです。死者が生前と変わらない状態で生者に語りかける場面がとても面白かったです。特に伝吉(高川裕也)が自分の罪について語る演技が印象に残っています。奥側に居る伝吉に照明が当たり続けるのも、彼から生じた因縁を強調していて効果的でした。

 兄弟の契りを交わしたけれど、お互いがお互いの仇であると知った3人の吉三は、警察の追っ手も迫る絶体絶命の状況で、それぞれに銃口を向け合います。しかし、帰る場所もなければ目指す場所もなく、今からどうしたらいいのかもわからないという境地にたどり着き、3人はとりあえず銃を下ろしました。何かを探し求めてひたすら前進してきた3人が、全ての因縁と罪に気づいて“ゼロ”になり、ともに立ち止まった瞬間だと信じられました。思えばあの時だけ、人間同士の純粋な交流があったのかもしれません。感動的な刹那だったと思います。その後、警察がやってきて3人は再び銃を向け、撃ち合って死んでしまいます。それもまた至極自然な結末だと思えました。

 小さなろうそくの火を使った演出が良かったです。真っ黒な空間に灯る火がパーテーションの役割を果たしたり、死者を弔うための火にもなります。火で空間を分けることで結界を張っているようにも見えました。
Noodles

Noodles

渡辺源四郎商店

ザ・スズナリ(東京都)

2014/05/02 (金) ~ 2014/05/05 (月)公演終了

満足度★★★★

物語も演出も演技も面白かった
ニューヨークで立ち食いソバを食べていた日本人俳優が、偶然会った日本人女性に日本語と英語の通訳を頼まれて…。英語と日本語が混ざるのも楽しかった。

ネタバレBOX

通訳を引き受けた俳優だけでなく、日本人ヤクザも演じるようになってから、さらにダイナミックに。タップダンスで「ニューヨーク・ニューヨーク」。
いのうえ歌舞伎 「蒼の乱」

いのうえ歌舞伎 「蒼の乱」

劇団☆新感線

東急シアターオーブ(東京都)

2014/03/27 (木) ~ 2014/04/26 (土)公演終了

満足度★★★★

「蒼の乱」
タイトルバックのカッコ良さにしびれた。そして泣かされた…戦えば戦うほど、勝てば勝つほど悲しくさ、苦しくさがこみあげました。中島かずきさんの脚本、すごいですね。

マニラ瑞穂記

マニラ瑞穂記

新国立劇場

新国立劇場 小劇場 THE PIT(東京都)

2014/04/03 (木) ~ 2014/04/20 (日)公演終了

満足度★★★★

政権が愛国強いる今、観ておきたいお芝居
期待どおり「いいお芝居観たー!」と大満足♪ 国立の劇場で上演されることに大いに納得の、出演者多数の歴史群像劇です。
まず戯曲がすごく面白い!こんな戯曲を書く劇作家が今いるのかどうか…すぐには思いつきません。
そして細部まで丁寧に立体化して戯曲の核心を突く演出と、戯曲ためにストイックに演じる俳優たち。日本人が書いた素晴らしい戯曲を、日本人の俳優、スタッフが真摯に届けてくださいました。

自民党による「日本国憲法改正草案」(平成24年4月27日決定)には「(国旗及び国家) 第三条 国旗は日章旗とし、国家は君が代とする。日本国民は、国旗及び国家を尊重しなければならない。」という条項が現行憲法に新たに加えられています。『マニラ瑞穂記』はあらためて「国って一体何なんだろう」と考える、絶好の機会だと思います。

ネタバレBOX

秋岡に決闘を申し込んだ古賀は、たぶんわざと銃口をはずしたんだろうな~。
浮いていく背中に

浮いていく背中に

原田ゆう

北品川フリースペース楽間(東京都)

2014/04/04 (金) ~ 2014/04/06 (日)公演終了

満足度★★★

浮いていく背中に
戯曲は小説として読んでも十分に面白い作品だと思いました。ただ、演劇作品としては物足りなかったです。朗読劇でも良かったんじゃないかな~。原田ゆうさんが第18回劇作家協会新人戯曲賞を受賞された『見上げる魚と目が合うか?』をロビーで購入。

きりきり舞い

きりきり舞い

明治座

明治座(東京都)

2014/04/06 (日) ~ 2014/04/26 (土)公演終了

満足度★★

きりきり舞い
諸田玲子さんの同名小説を田村孝裕さんが戯曲化し、上村聡史さんが演出。上村さんの演出は幕が開いたばかりでまだ手探りなのかも。田中麗奈さんのあの可愛らしさのさじ加減がスターたる所以なんだろうな~。女形の篠井英介さんに何度も救われた。八十田勇一さんも手堅く。上演時間は約3時間20分(途中35分の休憩を含む)。お値段を考えると評価は厳しめになっちゃいますね。

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