ピアノピア
インパラプレパラート
ザ・ポケット(東京都)
2009/11/19 (木) ~ 2009/11/23 (月)公演終了
満足度★★★★★
見事だった中村千春
中村千春はすごい。弾き語りはあるにしても、ピアノを弾きながらの芝居はあまりないと思うが、それを見事にやり遂げてしまうところがすごい。おまけにダンスまで。内山ちひろもなんでも器用に演じて楽しませてくれた。インパラの芝居はどこかぬくもりがあり、メルヘンチックだ。だが今回あえて悲劇の要素を多く持ち込んだ。繰り返される不幸な結末。そこに輪廻転生による救済の余地をかろうじて残してはいたが、演劇世界は間違いなく厚みを増したように思う。
インパラでは、たいていはナレーションが物語を牽引する。これについては、今後控えめになることを望みたい。演技そのもので、ナレーションに頼らぬストーリー展開をしてほしいのだ。
沈める町
シアターユニット・サラ
サンモールスタジオ(東京都)
2009/09/11 (金) ~ 2009/09/15 (火)公演終了
満足度★★★★
シアターユニット・サラ第1回公演
樋口一葉の名作『にごりえ』を21世紀の新宿二丁目に置き換えた、とある。そればかりか、パンフレットには、沈みゆく都市イシの伝説が説明されていて、沈みゆく都市に夫の失踪の行く末を重ねている。作者は、現在大学の准教授だそうで、この作品の原形で2007年の文化庁舞台芸術創作奨励賞佳作を受賞したらしい。こう連ねてくると随分観念的な難しい作品と思われるかもしれないが、そんなことはなく、演劇として楽しめる舞台だった。作者自身も舞台の袖で楽器を担当していた。最初、4人の登場人物が、登場しないユウキを相手にしたモノローグを繰り返す。そこで、作品世界をはっきり描き出したのがよかった。明解な舞台を支えたのは、4人の演技力である。とりわけ、思わぬ展開を見せるリキとタカを対照的な人格として演じてみせた、若手俳優の担った部分が大きいと思う。ただし、エピローグへの展開は、やや説明が足りなかったのではなかろうか。
猫の墓-漱石の想い出-
菅間馬鈴薯堂
王子小劇場(東京都)
2009/09/09 (水) ~ 2009/09/13 (日)公演終了
満足度★★★
漱石の真実
表題の「猫の墓」は、漱石の随筆『永日小品』に同名の作品がある。そこにも、妻との葛藤がうかがわれる。ただし、舞台に描かれるような、激烈な諍いがあったかどうかはさだかではない。一方、舞台末尾に出てくる「猫の死亡通知」もよく知られるところだ。そんなユーモアをよく解する漱石は、『吾輩は猫である』などの初期作品でもおなじみである。しかし、舞台上の、たえず、いらだち、自分に菓子が残されていないことにも怒りを募らす人物とは重なりにくい。妻からは「高慢で体裁のいいことばかりお書きになってる」と非難されるのだが、実際の漱石にもそんな側面があったとしても不思議ではない。そもそも、どんな人間も少なからず多面的ではある。そんな複合的な人間を、統一的な論理でさばいて見せれれば作品が説得的になる。本作には、背後の説明仮説にまだ埋めるべき部分が残されていると感じられたのだが、どうだろうか。