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#15『朱の人』
キ上の空論
演劇の現場を舞台に壊れていく人間、壊れていく劇団を描く。
これは自分の話ではないとパンフで書いているが、自分を取り巻く演劇界のリアルな現実を暴いている。
中島庸介が身を削りながら渾身の作品を作り上げた。
決して気持ちのいい作品ではないがトリプルコールがこの作品が観客に届いていることを証明した。
村田充を中心に出演する役者が皆上手く、そのおかげで息抜きのないこの作品を長く感じさせない。
今、見ておかなければいけない作家の見ておかなければいけない作品だと思う。
2
賊義賊 -Zokugizoku-
壱劇屋
大阪から東京進出を果たした今一番勢いのある若手劇団。壱劇屋東京支部を名乗って5ヶ月連続公演の第二弾千秋楽を観た。台詞はないが殺陣がダンスのようにかっこよく、ブロードウェイでも通用するような上質なショーに仕上がっている。
ゲスト出演した伊藤今人率いる梅棒と作風は全然違うのにコンセプトが似ている。主演の児玉百夏は小さな身体のどこにあれだけのエネルギーを持っているんだろうという八面六臂の活躍ぶり、笑顔のオーラがすごく、舞台上で光が弾けていた。伊藤今人ははまり役の悪党を魅力たっぷり演じていた。他も魅力たっぷりな役者ばかり。将来が楽しみな劇団である。
3
女の子は死なない
TremendousCircus
久々に心を揺さぶられる舞台を観た。過激さにまず目がいくがそれ以上に作劇がしっかりしていて、役者の演技そして歌やダンスが魅力的で、このテーマをエンターテイメントに仕上げているところにこの劇団の実力が本物であることがよくわかる。
物語は多重構造で、世界を時代を飛び越えて展開し深刻なテーマなのに叙情的であったりする。脚本がまた達者で、演劇史、政治史に詳しい人には堪らない作りになっていたりする。
このある意味問題作を勇気をもって上演したことにも拍手を贈りたい。
またひとつ応援したい劇団が登場した。
かつて演劇は反体制であり、政治や体制と闘ってきた。
そういった意味でこの劇団は演劇の本流であるが、ついにその告発すべき権力が演劇界内部に向けられたということで衝撃的な作品となった。
「税金レイパー」衝撃的な言葉である。しかしいつまでたってもセクハラ・モラハラに対して有効な自主規制が進まない演劇界にとってこの問題作は無視してはいけない作品だと思う。全ての演劇人がもう一度演劇のあり方を見直さなければいけない時期に来ていると感じさせられた作品となった。
テーマの重さと裏腹にこの劇団には歌や踊りや衣装、そして舞台を縦横無尽に使うというエンタメ性も兼ね備えている。もっと大きな舞台で、もっと派手な照明と音響でこの作品を再演させたいと思った。現代演劇を代表する演劇史に残る作品になったかもしれない。
紀伊國屋演劇賞や読売演劇賞の選考委員が観にくればいいのにと思った。