2010億光年
サスペンデッズ
東京芸術劇場 シアターウエスト(東京都)
2010/05/22 (土) ~ 2010/05/30 (日)公演終了
満足度★★★★
過去から現在を見出すラブ・ストーリー
過去とは、未来とはなにか、あるいは「共に生きる」とはどういうことか――大きなテーマを、静かに、繊細に描いた美しい作品だったと思います。
マクベス-シアワセのレシピ-
THEATRE MOMENTS
シアターX(東京都)
2010/05/20 (木) ~ 2010/05/23 (日)公演終了
満足度★★★★
<言葉>のドラマを<身体>で見せる
開演前に出演者が観客に飴を配るという予想外の親しさ、そして昼間からいっぱいで、ワイワイしてる感じの客席にまずはビックリしました。
気軽な雰囲気の「前説」(らしきもの)からシームレスに本題のドラマに入っていく手つきも含め、気持ちよく、伸び伸びしている集団(もちろん「考えている」と思います)なのだなと感じました。
芝居そのものはもちろん、「マクベス」ですからシリアスです。
セットも衣裳も小道具も、できるだけ具象を排した空間の中で展開されるのは声と身体のドラマ。動きもせりふも、決して過剰になることなく、でも、十分に満たされている、といってよいものだったと思います。中でも私は、感情や状況をたくみに表現する<声>に魅力を感じました。<声>が表現する恐怖や喜びには、不思議な奥行きが宿るものです。
Do!太宰
ブルドッキングヘッドロック
三鷹市芸術文化センター 星のホール(東京都)
2010/05/14 (金) ~ 2010/05/23 (日)公演終了
満足度★★★★★
古くて新しい物語、大きな演劇
演劇ならではの時空間の仕組みを利用した“手法”で、あたらしさや面白さを提供することが、演劇界のひとつのトレンドになっていたような気がする昨今。
でも、今回のこの作品はしっかりとした物語の中で、オリジナリティも現代性も、そして、演劇ならではのダイナミズムも実現していたと思います。
こういった「物語」の中でさまざまな試みに挑戦することの潔さには今ドキなかなか出会えなかったという気もします。2時間20分(休憩なし)の長尺もさほど気になりませんでした。
アメリカン家族
ゴジゲン
吉祥寺シアター(東京都)
2010/04/29 (木) ~ 2010/05/02 (日)公演終了
満足度★★★
「家族の形」って……
「再生の物語ではない」とのことでしたが、多少風変わりではあっても、これはやはり「家族の絆(とその重要性)」に焦点を当てたものに見えました。
母が出て行った後の、荒れ果てたリビングとダイニングを舞台に描かれるのは、非行、引きこもりなど、それぞれに問題を抱えた家族の、なじりあいや暴力をも交えた激しいコミュニケーション。とはいえ「そろって誕生日を祝う」ことへの異常なこだわりも手伝って、その様子はどこか滑稽にも見え、笑いを誘いさえします(このあたりは俳優の魅力でもありますね)。
ORGAN 【ご来場ありがとうございました。次回公演は9月中旬】
elePHANTMoon
サンモールスタジオ(東京都)
2010/04/07 (水) ~ 2010/04/18 (日)公演終了
満足度★★★
リアルな視線、ニヒリズムの罠
D(ドナー)編、R(レシピエント)篇の両方を観劇しました。
どちらも苦い終幕。その時に感じたもやもやをどう整理するのか――それにはある程度の時間が必要で、今になって感想を書くことに。
生きる、ということはすなわち人と関わるということ。人と人との間には、愛も慈しみもあれば、打算や嫉妬、憎悪もある。さらに、それらが交錯し、なかなか1点に一致することがないのが、この世の常。この2本の芝居は、そのことを極めてヴィヴィッドに、スリリングに描いていると思います。また、そのことによって「考えさせる力」も持っていると言えるでしょう。
が、、私はこういうものを書き、表現できる人にこそ、「ドラマティックであること」に惑わされず、限界まで考えて考えて、考えうる限りの希望をしぼり出し、描いてほしいとも思うのです。
そこにはきっと、もっと鮮やかで深く、耐用期間の長い感動(ドラマ)があるはずです。
(むろんそれは、分かりやすい「希望」にはならないでしょうが)
ことりとアサガオ【舞台写真UPしました】
三角フラスコ
エル・パーク仙台 スタジオホール(宮城県)
2010/03/12 (金) ~ 2010/03/16 (火)公演終了
満足度★★★★
お葬式日和
太宰治の世界を換骨奪胎した埋葬と再生の物語。
時代設定は現代で、家族を失ったらしい女と、家族がバラバラになっているらしい男(二人は長い付き合いで、男の兄弟をめぐっての因縁もある)の会話を軸に舞台は進行します。
女の夥しい<思い出>が埋められた庭での何気ないコミュニケーションが、彼らの絶望や自己憐憫をちょっとずつ和らげていく過程に、鳥を探す「作家」というなぞの男との詩的なエピソードが差し挟まれ、ベタなりがちな設定や物語をギリギリ回避しつつ、膨らみのあるものにしていると感じました。
また、「作家」のかもし出す不条理感も得がたいですね。この「作家」、「作家」かどうかということも含め、全体に対してどう位置しているのか、若干追いきれないところもあり…なんとなくもやもやもする部分もあるのですが、一方でむしろこの不条理、時間間隔を「分かりやすさ」ではない方向にもっともっと
演出も含め)鋭く磨くことで、「日常」の場面が引き立つのではないか、さらに舞台としての面白みもまた増すのではないかという大きな期待を感じもしました。
冒頭、男女が会話するあいだに、何をするでもなく「作家」が舞台を横切るのですが、これはちょっとチェーホフなんかも思い出す遊びというかほのめかしで、個人的に好きです。
最後に舞台とは直接関係ないのですが、前説で本番中に連日続いた地震に触れて、非難誘導の話をされたこと、終演後、劇場出口で知り合いだけでなく、すべてのお客さんに挨拶されていたこと(出演者の人数が少ないからできることではあるでしょうが)、好印象でした。
月並みなはなし[2010]
時間堂
座・高円寺2(東京都)
2010/03/11 (木) ~ 2010/03/14 (日)公演終了
満足度★★★
爽やかな修羅場
比較的物語性のある会話劇を観ながら時おり考えるのは、「せりふ=本音なのかどうか」ということ、また、「嘘は前提とされているのか」ということ。
限られた月への移住権をめぐって、議論し、対決し、揺れる人々。
希望者自らが挙手制で他の候補者を一人ずつを落選させていく――という身もふたもない状況には当然、大きな感情の起伏が伴います。
しかし、そこで不思議だったのは俳優達の佇まいが、どこかさっぱりと明るいようにも見えること。それはごく自然に舞台に立とうとする俳優のあり方で、意図しないことなのかもしれないけれど、彼らが「自然さ」「明るさ」をまとえばまとうほど、その裏には想像もつかないほど生々しい感情が隠されているようにも見える。このズレはとても面白いと思いました。
舞台美術や衣裳、チラシなど、ビジュアルのセンスにもこだわりが感じられ、気持ちのよい空間づくりがされています。それだけに、個人的にはこの気持ちよさの裏にある「生」の方へ針が触れる瞬間がもう少しはっきり見えてもよかったというか、分かりやすかった気もします。
Y時のはなし 【Vacant公演終了!Y時は次 5月に山口県YCAMとシンガポールにいきます!!!YCAM公演チケットは4月3日より発売!!!山口で会いましょう~~ぜひ】
快快
Vacant(東京都)
2010/03/04 (木) ~ 2010/03/06 (土)公演終了
満足度★★★★★
美しい時間
過去を、その美しさや醜さも含め、どのようにビビッドに記憶し、記録していけるか――。それは、芸術にかかわるものにとって、中でも「時間」を扱う演劇にかかわるものにとって、非常に重要なテーマだと思います。この作品にはそのことへのとても真摯な取り組みがあると感じました。
学童保育を舞台にした、ささやかで繊細な人間模様を再現していく舞台は、にぎやかでポップなおふざけや遊びにあふれているのですが、決してアイデアの面白さだけに終始しているわけではありません。
「ある時、ある場所、ある人びとのあいだにしか共有され得ない時間」を扱うという(普遍的テーマ)の前では、その遊びさえ、輝かしい1回性を持つのでしょうし、実際、劇場ではそれを媒介に多くの人が「繋がっている」感が演出されていました。(対面の客席の笑顔の多さにはちょっと驚きました)
人生には美しい瞬間があります。しかし、人はその時、それを自覚することはできません。
ですが、この芝居のラストのような輝きを通じて、その瞬間を思うことはできるのだと思います。
喫茶久瀬
文月堂
サンモールスタジオ(東京都)
2010/03/02 (火) ~ 2010/03/07 (日)公演終了
満足度★★★
たっぷり!
古びた喫茶店を舞台に、そこに集う人々の悩みと絆、再生を描く物語。
「失われたご近所」を描く物語でもあり、そこでは「ここも!? あなたも!?」と驚いてしまうほど誰もが問題とドタバタの種を抱いています。
あまりにもてんこ盛りなので、そのぶん、せりふまわしや設定、モノの扱いなどに「素直(シンプル)すぎるな」「もうちょっと細部を見せてほしい」と感じる部分もありました。でも、大人になっても決して「オトナ」にはなれない人々の心情をこねくり回さずに描く筆致はむしろ気持ちのよいものとも言えますし、スピーディーで巧みな展開(これは脚本のセンスですよね)と俳優たちの熱演には飽きさせない魅力があり、素直に笑い、楽しめます。
てんこ盛りなだけにすべてのエピソードを着地させるのには多少時間もかかり……2時間をちょっと超える、その「ちょっと」ぶん、スマートでもよかったかもしれません。この芝居には合わなかったかもしれませんが、敢えて閉じない話があるのも個人的には好きです。