ヒロユキの観てきた!クチコミ一覧

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世界はあまりにも

世界はあまりにも

劇団 脳細胞

アトリエファンファーレ高円寺(東京都)

2019/11/20 (水) ~ 2019/11/24 (日)公演終了

満足度★★★★

鑑賞日2019/11/23 (土) 18:00

 山梨県の携帯電話の電波も届かぬ山奥の別荘。蜂蜜の製造販売を営む社長とその家族が長男の友人と共に滞在している。嵐の夜、車の故障で立ち往生していた平山家の家族四人を社長は別荘に招くことにする。これが劇の発端である。
 冒頭の社長一家がリビングで小説の中の一人の女優の死をめぐって特殊な訓練を受けた役者の根源的欲求に触れた会話が観客の関心を強く惹きつける。他者を演じることが当たり前の役者がそのような特殊な訓練を受けると、役者同士で自他の区別がつかなくなり、各自が持っている根源的欲望が時に別の人間に乗り移ってしまう。小説中の女優はだれかの殺人願望が乗り移った男に殺されたのだが、その殺人願望は実は女優の親友であった女優の根源的欲求であったのだ…。
嵐が激しくなり、別荘は停電する。社長と平山は協力して停電を修復する。明かりが戻って、社長一家の知人のシャンソン歌手が訪ねてきた際、別荘の軒下に避難していた日本縦断中の旅行者を別荘内に招き入れたことから舞台は一挙に緊張の度を増す。

 山奥の別荘という閉塞空間に居合わせる社長一家と平山一家と旅行者一人。蜂蜜の製造方法もろくに知らない社長と、社長の裕福な生活を羨みながら彼に取り入る平山と、失業中で鹿児島から北海道まで徒歩で縦断しようとしている袖ケ浦。平山は社長から重役待遇で招かれる身だから、暖炉の前で身体を温めている袖ケ浦が自分と同様に社長の好意を受けていることに我慢できない。配電盤の電線が切られていたことから、平山は袖ケ浦を怪しいと睨み、彼の持ち物を点検しようとする。袖ケ浦なぜ自分が電線を切った犯人扱いをされるのか理解できない。彼は不当な嫌疑を受ける屈辱に耐え切れず憤然と別荘から出てゆく。この場面における平山の袖ケ浦に対する態度は異様なほど高圧的だ。度し難いことに、袖ケ浦を別荘から追い出すことに消極的だった社長と妻が「そういわれてみればやっぱり怪しい」と言い出す。
 別荘には社長夫妻の知らぬ悪意の存在がある。長男・長女と長男の友人井川である。長男は「欲しいものはなんとしても手に入れるべきだ」と揚言して憚らない。兄妹二人はそれぞれ不満を持っており、長女の誘拐事件をでっちあげることによって両親から身代金を搾取しようと企んでいる。二人は平山家の長男・長女と共謀しようとするが、共謀に慎重だった平山の長女が陥落した瞬間、舞台は暗転。

 この後の結末についてはなぜそうなるのか、わからない。冒頭の根源的欲求の話はどこへ繋がったのか? 長男と長女の偽装誘拐はどうしたのか? 前夜の出来事はすべて夢だったのか? 
 スペイン大使のパーティに招かれて外出する社長夫妻を見つめる平山の妻は「昨夜の夫への重役待遇のお話はどうなったのでしょうか?」という眼差しを向けているのだが…。

未来を知る男/未来を知る女

未来を知る男/未来を知る女

アトリエグループ

シアターブラッツ(東京都)

2019/10/24 (木) ~ 2019/10/27 (日)公演終了

満足度★★★★

 アトリエグループ第一回主催公演「未来を知る男」を観た。これは2015年5月上演「未来を知る男」の再演(リメイク)である。今回の公演には別キャストによる「未来を知る女」がある。

<梗概>
 卒業式間近の女子高校の職員室。進路指導の物理の教師と体育教師のいるところに生徒から大学合格の電話が入る。そこへ謝恩会の準備に来た生徒たちが集まってくる。みんな夢に向かって歩み始めようとしている。オリンピックで金メダルを獲りたい柔道部の部員。医者志望の者。イラストレーターになるのを目標にする者。母親の美容院を継いで大きくしたい者。弁護士を目指して四浪中の卒業生。そして、夢は特別なくてもいいという者。そんな彼らの前に未来から来た男が現れる。彼にはタイムトラベルの添乗員がついている。彼は旅行者が過去の人間に未来の出来事を漏らして悪影響を与えないか見張っている。旅行者の彼はなぜ20年前の現在にタイムトラベルして来たのか。
 物理の教師は未来から来た男に最初から懐疑的であったが、女生徒らは次第に彼が本物のタイムトラベラーであると信じ込み、やがて彼が競馬の結果を見事言い当てたのをきっかけに自分たちの20年後の姿を彼から聞き出そうとする。添乗員の強い拘束があるため、未来から来た男は容易に漏らそうとはしないが、女生徒らは自分たちの予想に対して彼がどう反応するか表情から勝手に判断しようとする。悲劇(?)はここから始まる...。

 今回のリメイク版で2015年版から変更されたのは、男子校生徒によるSNS上の謝恩会妨害予告が入ったという設定による校長室での対応協議の一幕である。ここで悶着を恐れる父兄の意見に押されて女子生徒の出席を中止しようとする校長先生に物理の教師はあくまでも出席を主張する。優柔不断な校長に妨害予告を入れた男子校生徒はあっさりと引き下がってしまう。
 物理の教師が女生徒たちと記念写真を撮ろうとしてセルフタイマーの使い方がわからず中断する冒頭のシーンはなかなか暗示的である。彼は未来から来た男が20年後のタイムカプセル内に残っていた写真の話をしても、実際に撮った写真をタイムカプセルに入れて残そうとしていたにもかかわらず、タイムトラベラーを信じようとはしない。タイムトラベルには胡散臭さが付きまとうが、物理の教師はいわばタイムトラベラーを安易に信じないための防波堤になっている。

 もう一つ、未来から来た男は実は現在から400年後の未来に住んでいて偶々タイムトラベルの最中に20年後の世界を垣間見たという設定になっている。彼が現在の時代にやってきたのは20年後に見たタイムカプセル内に残された写真の女生徒たちの笑顔があまりに素敵だったからだ。400年後の世界では人間はすべてDNAによる選別が行われ、だれもが人生に成功するようにプログラムされている。
「こんな人生のいったい何がおもしろいのか?!」
 女生徒の未来を聞き出そうとする言葉に彼がひきつった笑いしか浮かべられないのは、彼が本当の自由と生きる喜びを知らないからではないのか。彼が20年後の女生徒たちの本当の姿を語った後に、柔道部員がそれでもなお練習に励もうと腕立て伏せを始めるのは、たとえ運命が決まっていたとしてもなお人間にはそれに抗おうとする意志のあることの表れであろう。

 このお芝居のタイトルが「未来を知る男」であり、「未来から来た男」でないのは「こんな人生のいったい何がおもしろいのか?!」と嗟嘆する彼の不幸こそがテーマだからである。人々が思い描く「未来」とは現在の延長に過ぎない。作者の金井寛は今年4月の「2099年宇宙の足袋」で地球を見捨てて脱出した宇宙船の中の収容所に住む者と管理する者の対立(=貧者と富者)を描いたが、このお芝居でもその反響は見いだせると思う。なぜなら今回のお芝居に登場する女生徒たちはみながみな成功することしか夢見ていない、そして現代の人間は「勝ち組」「負け組」という言葉に象徴されるように、若い頃に自分の将来が決まってしまうという状況に縛られているからである。

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