サンシャイン・ボーイズ
加藤健一事務所
本多劇場(東京都)
2022/03/03 (木) ~ 2022/03/14 (月)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
面白かったが、レイ・クーニーなど加藤健一得意のシチュエイション・コメディとは大いに違う。元人気コメディアンで今は尾羽打ち枯らしたウィリー(加藤健一)が、かつての相棒アル(佐藤B作)と一夜限りのコンビを組むという話。ところが、この二人、名コンビといわれながら、実は犬猿の仲…。久しぶりに二人が会うと、ホテルでも、テレビスタジオのリハーサルでも、そして病気のベッドの上でも、たわいもないことで言い争いになる。その大人げなさ、意地の張り合いが笑える。なんとなく、加藤も佐藤もおり目正しいコントをやっている。品のある笑いだ。
窮地を脱しようとするあの手この手が、次々裏目に出るようなおかしさではない。
アルがいない場面では、甥のマネージャーや年配の看護師を相手に、言葉でくすぐる笑い。
コントのナース役のグラマーぶりの強調は、一時代前の眼福。テレビのADが加藤健一の息子の加藤義宗だったとは、後で気づいた。
裸の町
秋田雨雀・土方与志記念 青年劇場付属養成所
青年劇場スタジオ結(YUI) (東京都)
2022/03/04 (金) ~ 2022/03/15 (火)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
お人好しで破産した夫富久(岡山豊明)と、歯がゆい思いの妻キヨ(八代名菜子)を軸に、金貸しの増川(星野勇二)と、憐れっぽいその妻(藤代梓)も絡む。各々の言い分、生き方がくっきりと浮かぶ舞台だった。
増川の「3000円貸したから、3000円かえしてもらうのは当然。そのうち2000円は戻すなんて話を間に受けるとは」という話は至ってまっとう。増川を信じている富久の世間知らずのおぼっちゃまぶりが痛々しいほど。富久は自分の虫の良さがわかるから、信じたいということも自覚している。
ついには海辺で純白のペルシャネコが縁起が悪いから、商売も失敗したと言い出す夫の責任転嫁は、素晴らしく滑稽だった。
なんの商売が潰れたのか、海辺に来てやっとわかる。クラシック専門のレコード屋という、浮世離れした商売だったとは、人物像の駄目押しだ。このレコードが、最後の明るさをもたらす伏線になる
1富久の夜逃げ先の部屋、2同差し押さえ後、3金貸し増川の家、4近くの路上、5海辺の崖の上、6停車場側の支那そば屋、と場所がどんどん変わる。美術と小道具をうまく使って、それぞれリアルな雰囲気を見せている。とくに海辺のバックいっぱいに真っ青な空の布をかけたのは、パッと雰囲気が変わって見事。
この戯曲が変わっているのは、二人舞台にいても、一方だけがずっと話して、相手はほとんど答えないシーンが続くこと。独白、傍白ではなく、相手に聞かせる対話なのだが、ほぼ一方通行。これでも舞台が成り立つのは、発見だった。
1場では増川、2場の冒頭はキヨ、最後の6場は富久のほぼ独演会。とくに6場はずっと黙ってあらぬ方を見ているキヨが、何を考えているのか、セリフはないのに、その内心が非常に気になる場面だった。
不思議の国のアリス
文化庁・日本劇団協議会
ザ・スズナリ(東京都)
2022/02/23 (水) ~ 2022/02/27 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★
別役劇は知的でドライな抽象的遊戯的詩的なものだと改めて発見した。今作はそもそもがナンセンスな「不思議の国のアリス」なのだから、多少の不思議は気にならない。サーカスの団長の父(イワヲ、ロイドメガネが似合う)と娘アリス(紅日毬子)をめぐる因果の糸が最後はほどかれて、意外とわかりやすいとさえいえる。砂漠(=流刑地)での死刑執行はカフカを思わせた。休憩なし2時間10分
「雨が空から降れば」が別役の詩とは知らなかった。この舞台で聞けたのは意外な儲けものだった。
ダンサーであるスズキ拓朗の演出は、まず期待通りだった。とくに、兄(小林七緒)の空中ブランコのシークエンスは、小林の体が次々宙に浮かび見事だった。また、音楽とともに、「後ろの正面だあれ」よろしく、人々が横へスライドしていく場面も印象的。最後はみなロイド眼鏡の父になるイリュージョンも面白い。下半身だけのマネキンを宙づりさせ、上半身は床の穴から突き出すのも、不思議な浮遊感が感じられた。
「ペーター・ストックマン」~「人民の敵」より
名取事務所
吉祥寺シアター(東京都)
2022/02/19 (土) ~ 2022/02/27 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
おもしろかった。室内をイメージした舞台の前方中央に、小学生用くらいの深さの温水プールらしきものがある。温泉をめぐる話だからかと思っていたが、そうではない。トマス(西尾友樹)の民衆への演説会、変じて糾弾会の場面で、いつの間にかくるぶし高の水がはられ、このなかでトマスが小突き回される。彼はずぶぬれになりながら訴え続ける。この迫力はすごかった。このシーンだけでも見る価値あり。
愚かな民衆すべてを敵に回して、自分だけが正しいというトマスは、正義とも独善ともとれる。今でいえばワクチン問題、内部ひばく問題、危険を針小棒大に言う人もいることを考えると、トマスが正しいとは言い切れない。水質汚染問題がどこかに行ってしまいうのは、トマス自身が演説の冒頭で「汚染問題の話をするのではない。もっと大きな話をする」と宣言した通り。イプセンは確信犯なのである。トマスが正しいのか、それとも世間知らずのニセ預言者なのか。民主主義が続く限り、永遠の問題作だ。
町長(森尾舞)初め、住民がトマスの温泉改修案を拒否するのは、数億という費用捻出のための増税と、2年間の営業停止の損失、さらに将来を決定的にダメにする風評被害のせいだ。これは原発から温室効果ガスまで、今も続く安全か経済かの二者択一の問題である。
冬のライオン
東京芸術劇場
東京芸術劇場 プレイハウス(東京都)
2022/02/26 (土) ~ 2022/03/15 (火)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★
佐々木蔵之介の硬軟自在の演技は、ヘンリーの本心がどこにあるのか全くつかめない。リチャードに王位を譲ると言ったのに、いざリチャードがフランスの領土を手放すのを嫌がると、ジョンに王位を譲るのに変えるとか。いうことが二転三転する。一方、エレノア(高畑淳子)の方はわかりやすい。ヘンリーをとにかく愛している。なのに、ヘンリーは美しいロザリンドに心を奪われた。自分は愛を得られないために、あの手この手で振り向かせようとするが、ために逆に疎まれ、幽閉された。またお気に入りのリチャードに王位を継がせたい。一貫しているし、誇張のツボを押さえた演技も笑いを誘う。史劇というより、父親の気まぐれと術策に振り回される夫婦と父子の家族劇である。
意外におもしろいのが、両親どちらからも忘れられた次男のジェフリー(永島敬三)。二幕冒頭のフィリップの部屋で「僕がいるよ。王位を僕に譲って」と嬉々として両手を広げる姿は、哀れかつ滑稽極まりなかった。2時間半(休憩15分)
オペラ『あん』
オペラシアターこんにゃく座
俳優座劇場(東京都)
2022/02/10 (木) ~ 2022/02/20 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
ハンセン病回復者の老女と、前科持ちの中年男の交流。歌い上げるより、セリフや情景描写を節を付けて歌うところが多い。しかし徳江が、社会の役に立たなくても、人間の生きる価値はどこにあるかを語る絶唱に、感動した。
笑う男【2月3日〜9日公演中止】
東宝
帝国劇場(東京都)
2022/02/03 (木) ~ 2022/02/19 (土)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
あまり期待していなかったが、ラストに思いがけない感動が待っていた。主人公グウィンプレン(浦井健治)の必死の訴えも空しく、貧乏人のことなど何も考えない貴族院、上流階級。「あなたのおかげで本当の化け物は誰かがわかった」というジョシアナ公爵(大塚千弘)のセリフが、ユゴーの言いたかったことを語っている。熊谷彩香のデアが可憐で良かった。
MURDER for Two マーダー・フォー・トゥー
テレビ朝日/シーエイティプロデュース
Bunkamuraシアターコクーン(東京都)
2022/01/08 (土) ~ 2022/01/23 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★
二人芝居の片方が警察(探偵)役、もう一人が容疑者を何人も演じ分ける。ただ容疑者は、おしゃべり女主人や、洒落者の男はよくわかったが、あとは誰が誰なのか、私にはわかりにくかった。ピアノをかわるがわる二人で弾くのは流石だし、見ていてもすごく楽しめた。
レストラン「ドイツ亭」
劇団民藝
紀伊國屋サザンシアター TAKASHIMAYA(東京都)
2022/02/03 (木) ~ 2022/02/12 (土)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
アウシュビッツを裁いた1963年のフランクフルト裁判を、22,3歳の若い女性エーファ(加來梨夏子=好演)の目から描く。近所で中の良かった薬屋のアルベルト(松田史朗)が、裁判の初日に被告席にいるのを見て、私はギクッとした。これが自国民が自国民をさばくということかと。普通の生活を過ごしていた人が、突然戦争中のことで裁判にかけられる。「私は貝になりたい」のようだといったら、ナチスの残虐行為と、冤罪も多い日本人のBC級戦犯裁判を並べるのは不謹慎と言われるだろうか。
フランクフルト裁判を主導したのはユダヤ人検事たち。ドイツ国民の中に、被害者であるユダヤ人がいたことは、日本と戦争犯罪追及で違った最大の原因だったのではないか。
自分の使命として証言するオットーを演じた田口精一に惹きつけられた。ワンポイントの登場だが、裁判での存在にいいしれない迫力があった。木下順二「巨匠」も演じられるのではないか。聞くと、92歳、芸歴71年という。納得である。2時間20分、休憩15分含む
愛の媚薬
新国立劇場
新国立劇場 オペラ劇場(東京都)
2022/02/07 (月) ~ 2022/02/13 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
コロナの入国規制で日本人歌手のみによる公演でも、ソプラノもテノール、バリトンも好演して、海外歌手に引けを取らない出来だった(と思う)。理屈抜きに楽しいオペラ。とくに2幕が洒落ていて面白かった。1幕はアップテンポの明るい曲ばかり続いた気がするが、2幕はおちゃめな曲や、しんみり歌うバラードもあって飽きない。
妙薬を買うお金がほしい青年ネモリーノ(中井亮一)を、軍隊入隊へ「20✕✕」「現金」「いますぐ」と絶妙な合いの手で誘い込む軍曹ベルコーレ(大西宇宙)、遺産目当てで女たちがネモリーノによってくるのを見て、「俺の薬は本当に惚れ薬だったんだ」と勘違いするドゥルカマーラ(久保田真澄)。アディーナ(砂川涼子)の歌は「私の顔で男はイチコロ」、妙薬などいらないと、自分の魅力を自慢するので、女性の怖さと滑稽味もある。ネモリーノの愛の歌「人知れぬ涙」は最高だった。拍手も長く長く続いた。
モンローによろしく【2月4日~13日公演中止】
Makino Play
座・高円寺1(東京都)
2022/02/03 (木) ~ 2022/02/13 (日)公演終了
映像鑑賞
満足度★★★★★
洒落たセリフのやりとりとドキドキするシーンの連続できわめて上質な芝居だった。赤狩りのなかで、裏切り、絶望、保身、転落。ハリウッドの映画関係者6人のそれぞれ変わっていく姿、変わらない姿、怒り、悲しみ、赦しの交錯が見事だった。
幕開きは、反戦純愛映画「あかつきの二人」の製作という目標に向けて、主演の二枚目スター、キース(財木琢磨=好演)と監督ビリー(石川湖太朗)が衝突する。目標に対して、主導権の奪い合いで互いが障害になるバディものの常道シチュエーション。そこに女優志望の夢見る皿洗いシェリー(那須凛)が「ギャングに追われてるの」と、飛び込んでくる。そのロマンチックでおしゃべりで空想豊かな姿は「赤毛のアン」のよう。「往きて帰りし物語」の第三の仲間の登場であり、よくできたボーイ・ミーツ・ガール物語の始まりである。探し求めていた「タフでワイルドでいかす」女優を見つけたという設定に、アラレちゃんメガネの那須のまぶしい演技が、すごい説得力を与えている。これが1941年、日米開戦前夜の出来事。
二幕は1951年の、シェリーのバースデー・パーティー。ハリウッドは赤狩りのさなかにある。ここでも会話のウイット、キレ、スマートは絶品。5歳の子ボビーがいるかのような、それぞれのエアー演技もいい。「わたしたち、友達だろ」という言葉が、裏切り、失望、悔恨のドラマの中で、別々の人間の口から4回も5回も繰り返される。そのたびに異なるニュアンスの、異なる人間関係がある。この作劇もうまい。
冒頭の映画「あかつきの二人」の戦前の制作中止と、71年に完成・公開、アカデミー賞受賞という前説は、もしかしたら実話に基づく話?と思わせる。ただし日本未公開、というあたりがフェイクっぽい。実際は大物プロデューサー、ザナック(三上市朗)以外、話は全く架空。でも、ゴシップ記者のエリス(鹿野真央=好演)といい、若いモンローの影で人気を失っていくシェリーにしろ、登場人物は当時のハリウッドにいたであろう人物の一人に間違いない。
2日目の7日金曜夜に観劇予定だったが、行ったら中止だった。うっかり、というか直前の中止決定を知らなかったので。翌週水曜昼も行ったら中止。結局、全公演中止になった。それでも初日1日公演していたので、こうして映像で見られて幸せだった。これが、初演以来29年ぶりの再演というのは勿体ない。
マーキュリー・ファー Mercury Fur
世田谷パブリックシアター
世田谷パブリックシアター(東京都)
2022/01/28 (金) ~ 2022/02/16 (水)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
暴力と絶望とクスリが蔓延する近未来?のロンドンのサバイバーたちの物語。それぞれが妹、母を目の前で殺され、子供を殺され、自分だけが生き延びた負い目を負っている。シェークスピアよろしく、悲惨な過去を再現する語りの力が圧巻だった。
吉沢亮の出ずっぱりの苛立ちとテンションの持続、この世ならぬ半狂乱を演じる大空ゆうひ、ゲームを仕切る加治将樹の迫力、俳優たちの熱演がすごい。しかもかなり精神的にきつい物語。映画ならわかるが、舞台でこれを毎日(時に1日二回)繰り返すとは。俳優の仕事の厳しさを考えさせられた。
作者はイラク戦争に参戦した母国イギリスへの批判として、イギリスが理不尽な戦争の戦場になった情景を描いたという。
理想の夫
新国立劇場演劇研修所
新国立劇場 小劇場 THE PIT(東京都)
2022/02/01 (火) ~ 2022/02/06 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
この修了公演は毎年、期待してみており、今回も期待通りの充実した舞台だった。オスカー・ワイルドというと、耽美的頽廃的作家というイメージなのに、本作は出世と愛と友情を素直にたたえるウエルメイドな舞台。皮肉な視線の影もなく、素直に人間の弱さと野心を肯定する。反社会的なワイルドは、後世が勝手に作ったイメージなのだろうか。まあ、不正や過ちを認めないピューリタン的厳格主義に対する批判は受け取れるけれど。
最初30分の社交界のパーティーの談笑が長くて退屈に感じる。もっとも、これこそ上流社会に対するワイルドの皮肉なのだろう。小悪魔のチェヴリー夫人(末永佳央理、好演)が、主人公のロバート卿(須藤瑞己)を、過去の角栄張りの錬金術で脅し始めてからは、二転、三転、全く退屈しなかった。
休憩後の2幕目(3場)のゴーリング子爵(神野幹暁、出演者の中で好感度は随一)の部屋のシーンは、コメディーの手法が次々繰り出されて、笑えた。次々やってくる招かれざる客、二重三重の勘違い、すれ違い、立ち聞き、と。大変面白かった。
厨川圭子の訳は50年ぐらい前のものだろうか。「宅の主人が」「ワタクシが」「……でございますわ」「…していらっしゃいましたもの」という大仰な表現は、いくら19世紀末のロンドン社交界でも古すぎないか。20分休憩含む3時間15分だった。
天日坊【2月25日-26日公演中止】
松竹/Bunkamura
Bunkamuraシアターコクーン(東京都)
2022/02/01 (火) ~ 2022/02/26 (土)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
荒唐無稽で理屈一切なし。奇想天外なストーリー、殺し、盗み、欲望、絶対絶命と危機一髪、大悪党と小悪党、笑いにコントに、伝統の拍子木の音に、ジャズとロックの音楽をまぶして、豪華で多彩な衣装に、最後は大立ち回りと主人公たちの死にざまで盛り上げる。見世物歌舞伎の真骨頂であった。
天涯孤独の貧乏な男・法策が、頼朝のご落胤になりすまろうとしたが、実は自分自身、木曽義仲の忘れ形見だった!!と、意外な(ご都合主義全開の)展開で次々喜ばせる。河竹黙阿弥の奇抜な物語の骨格を、宮藤官九郎が現代人好みの台本にし、串田和美のけれんみたっぷりの舞台づくりに、当代随一の人気歌舞伎役者が格好良く決める。これぞ「芝居見物」というべき見事な舞台であった。勘九郎は体はやわらかくて、体操選手のような動きから、超スピーディーな殺陣さばきまで、セリフも聞かせるし、見栄も見せる。最初のさえない田舎坊主から、最後の悲劇の若武者まで、平然と人を殺す残虐さから、嘘を通しきれない苦衷まで、見事なふり幅の演技だった。
現代化した歌舞伎セリフだが、わかりやすさと、俳優たちのいい滑舌とめりはりある抑揚と相まって、耳に心地よい。歌舞伎の「歌」は別に、音楽でなくても、このセリフの音の心地よさも歌舞伎なのだなあと納得。
ある王妃の死
劇団青年座
東京芸術劇場 シアターウエスト(東京都)
2022/01/21 (金) ~ 2022/01/30 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★
閔妃殺害の事件をどう料理するかと思っていたが、いたって正攻法の歴史劇だった。事件の首謀者である公使三浦梧楼(綱島郷太郎)を中心にした日本人たちの謀議がだんだん形をなしていく。それと並行して、日本を牽制する閔妃(万善香織)たち王族。景福宮で謁見する三浦(元軍人)と杉村(山賀教弘)に、王妃が「軍人が武器を捨てられるのですか」など、手厳しいことを言って詰問するのは、少々現実離れして見える。日本公使館職員の女性・大山(森脇美幸)が、「あなたたちのしていることは本当に大義があるんですか」と食って掛かるのも、演劇ならではのフィクションである。
当時の日韓関係、ロシアと清もからむ朝鮮半島情勢、それぞれの人物の経歴・背景等、かなり説明しなければならないことが多く、その分、舞台が硬くなったのは否めない。そうしたなかで、日本に祭り上げられて利用される高宗の父・大院君(津嘉山正種)に、一番存在感が感じられた。屈折した役の葛藤と、俳優の力量が重なって、見ごたえあった。「おぬし、はめたな!」と言いつつ、流れに逆らえない悲痛な叫びが耳に残る。
王宮警護の朝鮮人下士官で、閔妃殺害に協力するボンちゃんことウ・ボムソン(山崎秀樹)も印象が強い。生活苦の不安と両班へのルサンチマンをかかえた人物像が、痛々しく感じられた。
このように、日本に協力し、利用された朝鮮人たちが最も大きな存在として浮かび上がった舞台だった。
リトルプリンス
東宝
シアタークリエ(東京都)
2022/01/08 (土) ~ 2022/01/31 (月)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★★
様々な思索に誘う、象徴に満ちた物語と、音楽、ダンス、宙吊りもある大胆でビジュアルな舞台づくり。また見たいと思わせられる至福のひとときでした。冒頭は、霧の中、任務に飛び立つ飛行士(井上芳雄)。砂漠に墜落する経過をコンパクトに見せて、気絶していると王子(加藤梨里香)が「ひつじを描いて」とせがんでくる。異世界に自然に誘う出だしでした。その後は、バオバブの木に星が覆い尽くされるシーンをダンスと映像で見せたり、わがままな花(バラ=花總まり)との悩みの日々、6っつの星々でであった人など、原作でおなじみの話を店舗よく見せてくれる。あっという間の第一幕でした。
花とのシーンは、王子に変わって飛行士が、花と対話することで、作者サンテグジュペリと妻の関係を示唆する。ときおり聞こえる「お兄ちゃん!」の声に、弟フランソワの死が暗示される。物語外の作者の人生を、決して説明はしないが、分かる人には分かる形でほのめかすのも、いやみにならず、巧みである。
第二幕は王子が地球に来てから。冒頭の蛇(大野幸人)の登場から「死」というテーマが暗示される。蛇は、第一幕も少し出たが、官能と不気味さをみせる、不定形的なダンス、身のこなしは素晴らしかった。
そして、狐(井上芳雄=二役)との場面。井上の愛嬌とはにかみのある演技が良かった。舞台の上下の端っこ同士からだんだん距離を詰める下りなど、「飼いならす(この言葉が適当かは、翻訳の問題がある)=友だちになる」、特別の存在に互いがなる過程はわかりやすかった。そして王子が星へ帰っていく日。「星が美しいのは、花を隠しているからだよ」「これで君は星を見るたびに僕の笑い声が聞こえるよ」という名台詞が、生の舞台で体感できるのはミュージカルならではだった」
加藤梨里香が愛らしく明るく、彼女の歌、とくに高音の伸びが素晴らしい。白い壁にたくさんの丸い黒い穴が空いた美術は、何かと思ったが、穴は星をイメージしているのだと、2幕に来てわかった。
THE PRICE
劇壇ガルバ
吉祥寺シアター(東京都)
2022/01/16 (日) ~ 2022/01/23 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
ロシア生まれのユダヤ人という古物商ソロモン(89歳!)を演じた山崎一の飄々とした演技が最高だった。去年の「23階の笑い」とも重なる設定で、言葉のなまりと空気を読まない身勝手ぶりが面白い。仲違いした兄弟を演じた堀文明と大石継太の迫力もすごかった。特に、自分の考えていた父親像を崩され、あるいは目をつぶっていた真の姿を突きつけられて、混乱をきたし目を白黒させる堀は本当に可哀想だった。
2時間半(休憩15ふんこみ)
hana-1970、コザが燃えた日-【1月21日~1月23日、2月10日~11日公演中止】
ホリプロ
東京芸術劇場 プレイハウス(東京都)
2022/01/09 (日) ~ 2022/01/30 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★★
素晴らしかった。戦争と米軍基地のもと沖縄の歪んだ現実を、人間ドラマの中に凝縮してみせた傑作である。特に幼いナナコ(上原千果)の愛くるしさを思い出すハルオ(松山ケンイチ)の語りには、思わず涙腺が熱くなった。米兵相手のバーのママ(余貴美子)の家族の、一夜の物語。本土復帰を2年後に控えるが、米兵の轢き逃げが無罪になるなど、米軍の横暴にウチナンチュの不満は溜まっている。
そんな状況を背景に持ちながら、バーはなにやら怪しげな雰囲気。イエローナンバー(米軍の盗難車)を乗り回すヤクザのハルオに続いて、脱走兵や、本土のルポライターも現れる。ごく普通の夜だったのに、次第に家族の予想もしなかった過去や、登場人物それぞれのトラウマ、心の内底の思いがさらけ出されていく。外はどんどん騒がしくなり、ついにコザ騒動に。
沖縄戦の凄惨、米軍基地の成り立ち、ベトナム戦争の兵士のトラウマや、Aサインバーの実情、脱走兵支援運動、復帰運動や米兵の犯罪がなにも罰されない治外法権等々、見事に芝居に溶かし込んで現実を突きつける。悲劇を語る後ろで不気味な音が微かに唸り続ける音響、登場人物のドラマを際立たせる照明も素晴らしかった
カミノヒダリテ
劇団俳優座
俳優座スタジオ(東京都)
2022/01/07 (金) ~ 2022/01/16 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★★
タイロンが悪魔のように喋り出すところから、どんどん芝居に引き込まれ、ジェイソンとタイロンの対決にはまさに固唾を飲んだ。大変な迫力と、人間の振幅の大きさに揺さぶられる舞台だった。母が不品行な行いに突然のめり込んだり、ジェイソンの父を母は見殺しにしたのか、など理由がはっきりしないところもあるが、そこを役者の迫力と力わざでねじふせた。
ジェイソンとタイロンを見事な声色で演じ分けた森山智寛の熱演は圧巻の一言だった。
背景に古い宗教の教えにしがみつくアメリカ南部の風土があるが、そんな理屈抜きに、舞台の事件に心底ゾクゾクさせられた。
だからビリーは東京で
モダンスイマーズ
東京芸術劇場 シアターイースト(東京都)
2022/01/08 (土) ~ 2022/01/30 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★★
平凡な青年と売れない役者たちのなんてことない話なのに、笑いが絶えず、人生の難しさと面白みを考えさせる。いい芝居だった。ある素人劇団の、2017年からコロナ禍までの3年余りを描く。
2017年11月、石田凛太朗(名村辰)の入団面接から始まる。勘違いで俳優になろうと思い立ち、勘違いで売れない劇団応募した。でだしから、ゆる〜い感じと、上出来のコントのような笑いが気持ち良い。
幼馴染のマミ(伊東沙保)とノリ(成田亜佑美)の二人の女優の、互いに相手を嫌ったり軽蔑したりしつつ、表面は仲良くしている様子が、芝居ならではの形で示される。二人は互いの関係を全く異なるものに解釈しているのが面白い。
倫太郎が年に一回、田舎の父のところに行く。父はアルコールを絶って居酒屋を経営する。父と息子の関係が、凛太郎の「ビリー・エリオット」にめちゃくちゃ感動したことと繋がる展開は、見事な伏線回収に感動した。