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独鬼
壱劇屋
壱劇屋さんと出会った、私にとって特別な作品。
再演時に東京で観劇して、一瞬で沼落ち、以降大ファンで大阪遠征もしています。最近は円盤化されないことが多いので、とにかく劇場に足を運んで観ないと二度と観られない可能性が高い。
前回から続投の方も、新キャストの方も、みんなみんな素晴らしかった。全てがパワーアップしてグレードアップしていて、3回観たけど全然足りない。
1番キャラが変わったな、と感じたのは男春。袴姿だった前回は泥棒してても「それなりに裕福な坊ちゃん」て感じで品すら感じられたけど、今回はチョンマゲもあるしまるで農民みたいな格好で、性格もヤンチャになった気がする。鬼や女春といるときの年相応な表情と、仲間であっても邪魔なら殺す冷たい表情のギャップが良い。
藤島さんの刺客、ヤバかったですね(褒めてます)ぐにゃぐにゃした動きと、無造作なようでいて的確に仕留めにくる訓練された太刀筋、鬼に叩き伏せられて悔しさか怒りか叫んだ声が大好きです。
女春と女夏に関して、「目の前で襲われてる人を助けたい、でも敵であっても人を殺すのは良くない、そして鬼にも傷ついてほしくない」ってスタンスがどうしても「自分勝手だ」と思ってしまうのだけど、春はまだ子供だから許せても夏はもう20代で春の時に経験してるのになんでまた同じことする?って思ってしまう。ただ、今回観た回のなかで、自分を守るため腕を犠牲にした鬼にかける言葉を見つけられず「なにやってるんだ私は!」って悔しそうに唇をかみ締めて固く握りしめた拳で脚を何度も叩いてる女夏の姿にモヤモヤがすっと消えていきました。大切なもののために考えるより体が動いてしまうのは、きっと両親譲りですね。
深く斬られてぶらんってなってるだろう腕を女夏に見せないようにくるくるって回転して避ける鬼が優しくて好き。なんでもない、て言ってるみたいで、可愛い。
モブでブラスミの時に初めて拝見した真丸くんの男夏がかっこよすぎてどうにかなりそうでした。鬼と戦う時に2回、刀を背中側で持ち替えてそのまま斬りつける動きがあるけど、あれが最高にかっこいい。親の仇である鬼を、なんなら恋のライバルでもある鬼を、いつか殺すために鍛えた剣の腕で、この技もこの時のために何度も練習してよそで実践してきたんだろうと思うとほんと健気で真っ直ぐ。女のもとに通う合間に自分で賊をまとめあげるだけの力をつけて手下を増やして盗賊稼業もぬかりなく財をたくわえ強い奴を雇えて邪魔になったら躊躇なく皆殺しに出来るくらい頑張ってきたんだなぁ。男夏の拗らせ方は可愛い。
秋になると男を知らずいまだ少女のような女秋と、女には困らないが愛しているのは1人だけな男秋が久しぶりに再開するアダルトエモ展開。女を手酷く使い捨ててきたであろう男秋は立派にDV男に育ってしまって、愛し方も愛され方もわからない可哀想な人...まじバブちゃんで愛しい。怒りで男を殺そうとする鬼を女が必死で止めるのは、鬼にこれ以上殺させないためなのか、それでも男を大切に想っているからか、どちらにしても男にとっては残酷よな。このままいっそ死なせてくれと男は思っていたかもしれないし。
冬の最終戦に男が手下を連れてこなかったのは、秋の戦いの後ひとりになったからなのじゃないかと思う。他の何より、鬼を倒すことだけを思ってひとり鍛錬をつんで冬のあの日に最後の戦いを挑みに来た。女が死んだとは知らずに。
女冬が死んで、思い出のなかで春夏秋冬の女と過ごす鬼の「こうしたかった」思いは強く強く観てる人間の心に届く。女と過ごす時間の中で少しずつ感情を取り戻していった鬼は、春と夏の時間でもっと女と笑ったり楽しんだりしたかったのだなぁ。人の生も死も、本当には理解出来ていなかった鬼が、初めて触れる「死」。死を強く感じることで「生」も感じたからこそ、女のいない世界でも人の生を守り戦い続ける道を選んだのかもしれない、と思った。
女が鬼に願った「人を守って」は、祈りであると同時に鬼にかけられた呪いだなと、女冬の手を取らずに笑顔を貼り付け戦いへ向かう鬼を見て思う。女のいない世界でも生きていくしかない鬼にとって、それが救いであったならいいな。