ヴォンフルーの観てきた!クチコミ一覧

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時々展覧会

時々展覧会

時々自動

元映画館(東京都)

2022/04/28 (木) ~ 2022/05/01 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

由緒正しき日本の前衛。倒すべき敵は妖怪キャピタル(資本〈主義〉)。芥正彦の舞台を観に行った時と似た感慨に。
『人工地獄(Artificial Hells)』とまで言われているインタラクティブアート(双方向芸術)の世界。今回はコロナ対策の為、当初の予定の「作品(俳優)展示会」を断念。通常の舞台の形を取ることに。若者が目立つ客層は現代美術(コンテンポラリー・アート)の愛好家のよう。37年の歴史を持つこの劇団の訴求力の高さ。主催の朝比奈尚行氏の挨拶から始まり、後ろのスクリーンには映像や写真や絵が流れる。所々、朝比奈氏の解説入り。全てのマイクスタンドに血が滲んだ包帯が巻かれ、無機生物のよう。

まずスクリーンに旅一座の面々の冒険の旅が映し出される。これがPV調のかなり良い出来。体調不良で降板となったチカナガチサトさんも映像のみで出演。「東京少年」の笹野みちるを思わせる中性的な魅力。そしてその面々が会場に入ってくる。
サーカス団のような思い思いの出で立ち。全員歌唱力は折り紙付き。なかでもホアキン・ジョーカー風味なクラウン・メイクの伊地知一子さんと柴田暦(れき)さんの歌声が印象に残った。会場に防音設備がないことを逆手に取り管楽器なし(ウクレレのみ)のアカペラ縛りでいきなり始まる合唱。しかも無茶苦茶レベルが高い。足踏みで異なるリズムが刻まれ見事なアンサンブル。この展開が苦にならないのは曲の素晴らしさ。今作の楽曲の殆どを作曲した故・今井次郎氏の才能。

ニュートンが発見した「光にも重さがあること」、降り注ぐ光の重さで潰れていく動物達の姿が絵本のようなイラストで展開される疑似科学テイストな“みんなのうた”の『また森へ』。
時々失神したり眠りに就いたり突然誰かがスキャットを口ずさんだり・・・。
「『風吹き』やろうか。」と誰かが言い出し、何度も歌詞を変えて歌われる代表曲的『風が吹いてきたよ』。
『革の鎧』の歌詞が意味深。
「もしもわたしに勝ち目があるなら
 何も信じぬ虚ろな心
 これを頼りに撃ち進むだけ」

会場の元映画館を拠点に今後活動していくそうだ。ハマる人はかなり深みにハマりそうな『It's sometimes automatic.』。

ネタバレBOX

上京してすぐ何かの切っ掛けで足を運んだ人が観たならば、「東京は怖い所だ」と思うだろう。

遅れて合流してくる三井耶乃(かの)さん(別の人かも?)、いきなり服を脱いで下着だけに。(「何でもするので入れて下さい」の意味か?)。訳が分からないが歌声は続いていく。

紛争地域へ観光旅行に出掛けたカップル、戦争を娯楽として目茶苦茶楽しむ。実は移動中のトラブルで自分達の祖国に戻っていることに気付かない『素敵な夜』。曲の前に作り始めたポップコーン、パンパンと弾け鳴り響く破裂音が爆撃音へと重なっていく。POPなイラスト風絵画で綴られる。

ラストの量子力学漫才は、理系の学生が見たら大爆笑だろう。『インターステラー』を観ているような知性の地平に圧倒された。
グレーな十人の娘

グレーな十人の娘

劇団競泳水着

新宿シアタートップス(東京都)

2022/04/21 (木) ~ 2022/04/29 (金)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

滅茶苦茶評判が悪い為、身構えたが果たして・・・?
正直、普通に面白かった。

両親が死に、母の妹である叔母(ザンヨウコさん)に育てられた五姉妹の物語。華のある女優ばかりで艶やかな舞台。

長女役は都倉有加さん、バリバリ働くキャリアウーマンのシングル・マザー。
二女役の小角(こかど)まやさんは盗癖のある今作のキーパーソン。
芸能界にスカウトされて東京へ行く三女役佐藤睦さんは川口春奈っぽいクールな美人。
語り手であり、そのマネージャーとして一緒に東京へ行く四女役は小川夏鈴さん、宮地真央似。
五女役の橘花梨さんは出る度に印象に残る女優で、今回も一番残像が焼き付く。自分に自信がないネガティヴな末っ子役を好演。
長女の娘役、成瀬志帆さんは吉高由里子似の目立つ美人。(一之瀬花音さんと混同していた)。
五女以外家を出ていたが叔母が晩婚する連絡を受け、久方振りに帰郷。

相手側の娘達も挨拶に来る。
三女役江益凛さんの細かい動作や表情に味がある。
女子高生の二女の娘役鄭玲美(チョン・レミ)さんもかなりの手練。
二女役加茂井彩音さんはちょこちょこ観客を大いに笑わせる場面が。
遅れてやって来る橋爪未萠里(いゆり)さん演じる長女の登場からミステリーは幕開く。
ウディ・アレン調の和やかなコン・ゲームを思わせる展開、この事件の真の目論見とは果たして何なのか?

ネタバレBOX

冒頭の伏線で、妻に先立たれた父親がおかしくなってしまったことが語られる。嵐の深夜、長女が母の妹(叔母)に泣きながら電話して助けを呼ぶシーン。その後、父が死んだこと、長女が妊娠してシングル・マザーになったこと・・・。
父に犯されて孕んだ長女、叔母がその父を殺害したことが暗示される。すわ、横溝正史か!?因業極まりない一族の秘められた過去が思いも寄らぬ悲劇の連鎖を産み出すのか!?と身を固くしたが全くの見当違い。(多分ミスリードだろう)。

実際のネタは『カメラを止めるな!』の上田慎一郎監督の2作目、『スペシャルアクターズ』のような話だった。今作に頭に来た人々にこの映画を観て欲しい。こんなことで頭に来るのは余程良い作品ばかり観ているからだと実感できる筈。糞映画の世界は底なし沼だ。

女子高生を演じる二女の娘役鄭玲美(チョン・レミ)さんは役柄と同じく本当に28歳だった。衝撃!

この話を時系列に整理。
①父は自分が死んだことにして失踪。(それは叔母しか知らない)。別の家庭を設け娘が誕生。
②二女が服役クラスの窃盗事件に関わり逃亡生活に。(父が死んでいないことを叔母から聞き出す)。その時叔母に睡眠薬を飲ませて眠らせる。
③二女が重い病に罹り、親友の刑事(橋爪未萠里さん)に「自分が死んだらこの手紙を叔母に渡してくれ」と託す。二女は亡くなる。
④叔母は手紙の通り、演技代行の役者達を雇い偽装結婚を装って娘達を集める。全員に薬を飲ませて眠らせ財布を盗む。(叔母と役者達は眠った振りの演技)。

[二女は叔母の財布の中の鍵を使って地下の金庫から宝石を盗む。更に共犯だった結婚詐欺師(松尾太稀氏)を殺してそれを独り占め。睡眠薬を使った事から二女の仕業だと勘付いた叔母は、世間体を考え男の死は事故死だと報告。宝石は盗難保険が掛かっているのである程度は補償される。五女にだけ、二女からの手紙を渡す。目的は二女が何処かで元気にやっていることのアピール。]
以上括弧内は、娘達にそう思わせようとした嘘。

真相は家族全員を集めて、ニ女の葬式を行うことだろう。演技代行の役者の一人(江益凛さん)は失踪した父の娘、皆の腹違いの妹であった。自分が死んだ時に皆を一度昔のように集めてワイワイやって貰いたかったのだ。死んだことを伝えるとしんみりするので、宝石泥棒のふざけた女を騙り戯れてみせた。

まあかなり無理のあるネタで、作家の二転三転した苦しみを感じる。重要なのは五女の視点。誰からも疑われない無防備であどけない天然女に思わせつつも、実は全て判っていて騙された振りをしていただけのキャラにすべき。そうでないとこの話は落ちない。
FLOWER DRUM SONG

FLOWER DRUM SONG

エイベックス・エンタテインメント

日本青年館ホール(東京都)

2022/04/23 (土) ~ 2022/04/27 (水)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

第一幕85分休憩20分第二幕60分。

チャプスイとは、アメリカでの中華料理の代名詞となった人気料理で日本で謂うところの八宝菜。いろんなものを炒めて餡掛けにしたもののこと。

1949年中国共産党が中華人民共和国を樹立。非共産政党を弾圧、独裁を強めていく。今作の主人公達は虐殺を怖れてアメリカへと密航。事実、大躍進政策によって1958年から1965年の間に4500万人以上が餓死。1966年に起こった文化大革命では、死者1000万人〜2000万人以上と言われている。

『フラワー・ドラム・ソング』は、1957年中国からの移民C・Y・リーにより小説が出版されベストセラー、1958年ミュージカル化、1961年映画化。中国移民の老人がアメリカ文化を拒絶して暮らしているも、最後は受け入れていく話。2002年かなり改変したリメイク作品が今回のもの。

1960年父の形見のフラワードラム(花柄の鼓)を持ってサンフランシスコのチャイナタウンにやって来たメイ・リー(桜井玲香さん)。客の入らない京劇の劇場を経営している父の旧友ワン(石井一孝氏)とその息子ター(古屋敬多氏)のもとへ。メイ・リーはターに恋するも、ターは看板ダンサーのリンダ(フランク莉奈さん)に夢中。そこに敏腕エージェントのマダム・リャン(彩吹真央さん)がやって来て劇場をナイトクラブに改装してしまう。

石井一孝氏と彩吹真央さんがずば抜けている。二人が歌い出すと劇場の空気が変わる。流石の腕前。桜井玲香さんも歌はメチャクチャ上手い。ひたすらクラブでのショーが続く感じなので、派手に生バンドが欲しいところ。ステージの合間にエピソードが展開する位で丁度良い。一日三回公演、フランク莉奈さんが連発する「Fan Tan Fannie」が盛り上がる。ゲイの衣装係ハーバード役泰江和明氏は場内案内もその美声で見事にこなす。

ネタバレBOX

話が判り辛い。古屋敬多氏が桜井玲香さんを好きなのかどうかハッキリしない。フランク莉奈さんに振られたから言い寄るようにも見える。
ダイバーシティ(多様性)を重んずるとドラマに成りにくくなる。金子みすゞの詩、「みんなちがって、みんないい。」にしか成りようがない。
桜井玲香さんは歌は美声で上手いのだが、歌詞(台詞)が頭に入ってこない。声質のせいなのかも知れないが、まだまだ伸び代はある。

伝統を重んじる父親とアメリカで成功したい息子の対立。いざナイトクラブが大人気になっていくと父親はアンクル・サミー・フォンと名乗り自らがスターへと。複雑な思いの息子は、逆に伝統回帰の京劇へと向かっていく対比。
拝啓、モリエール様 -モリエールへの挑戦状- 〜“ドン・ジュアン”より〜

拝啓、モリエール様 -モリエールへの挑戦状- 〜“ドン・ジュアン”より〜

good morning N°5

中野スタジオあくとれ(東京都)

2022/04/22 (金) ~ 2022/04/29 (金)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

14世紀スペイン、ペドロ1世の宮廷に出入りしていたドン・フアン・テノーリオの伝説をティルソ・デ・モリーナが1630年『セビーリャの色事師と石の招客』で戯曲化。1665年フランスでモリエールがキリスト教狂信者への憎悪を込めた『ドン・ジュアン』を発表。15回で上演中止に追い込まれる。1787年モーツァルト作曲で有名なオペラ・ブッファ『ドン・ジョヴァンニ』も同じ話。
稀代の女たらし、伝説のプレイボーイ、この世の価値観の全てを嘲笑うエピキュリアンのニヒリスト。最期は教訓的に地獄に引き摺り込まれるのだが、彼の人気は決して衰えない。

前作の朝日新聞夕刊の劇評が虚偽情報ばかりで一部で話題になった劇団。15年前の旗揚げの場所で15年前と同じチケット代で演る試み、勿論大赤字。開場前からファンがとぐろを巻いて異様な熱気。劇団のTシャツを着て、タオルは飛ぶように売れる。澤田育子さんのカリスマ性か。こんな感覚は久し振り。全員開演ギリギリまで舞台に立ってお出迎え、客と交流。野球観戦と同じ自由なスタンスで観劇を楽しんで欲しいと語る。

松山ホステス殺害事件の福田和子(15年近く逃亡生活、時効成立21日前の逮捕)を模した澤田育子さん。殺したホステスの荷物にあったモリエールの本を読んでみる。

ドン・ジュアンを演ずるは千代田信一氏。「平成の無責任男」ザキヤマを彷彿とさせるやりたい放題。「ワンワン」と手で犬になる持ちネタは秀逸。召使は藤田記子さん。

全員怒涛の早口で台詞が聴き取れようが聴き取れまいがお構いなしで捲し立てる。二つの話が同時進行していく構成。老若男女、一度ハマったらずっと通い続けたくなるスナックのような劇団。一度は観に行った方が良い。

ネタバレBOX

冒頭、「モリエールを知ってますか?」と新橋で酔客に街頭インタビューをする映像が流される。個人的にここが一番笑えた。

澤田育子さんが時折、中森明菜に見えた。ラストの歌はウクライナでの戦争へのメッセージにすら聞こえる大熱唱。
ムーランルージュ

ムーランルージュ

ことのはbox

萬劇場(東京都)

2022/04/20 (水) ~ 2022/04/24 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

斎藤憐の80年代後半に発表された戯曲。「ムーラン・ルージュ」とはフランス語で「赤い風車」を意味する。19世紀末パリに誕生したキャバレーでフレンチカンカンなど扇情的なショーで大人気となった。今作の「ムーランルージュ」は「ムーラン・ルージュ新宿座」のことで、戦前から戦後まで存在した大衆劇場のこと。

戦後、廃墟と瓦礫の焼跡の中で「ムーランルージュ」は再建される。幕が開けば橋本愛奈さんのレヴュー。流石に歌が上手い。オーナーの青山雅士氏は彼女を口説き続けている。
そこにニューギニアで戦死した筈の彼女の旦那である松浦慎太郎氏が生環。彼は座付きの構成作家であった・・・。長身で端正な顔立ちの松浦慎太郎氏はいずれ映像方面で成功することだろう。

戦時中は内務省や警視庁の検閲で何度も上演不許可を受け、戦後もGHQの検閲で何度も書き直しさせられる台本。レヴュー一座の群像劇でありつつ、敗戦直後の日本人が共有していた気分が見事に醸成されていく。

米兵達にレイプされていたところを救われる石森咲妃さん。
GHQの検閲官である日系人を怪演した如月せいいちろー氏。
必ずねづっちのようななぞかけで事態を比喩するベテラン大道具役佐野眞一氏の名演。
空襲で亡くした赤子の亡霊と共に生きる篠田美沙子さん。
役者陣は皆魅力的で各々見せ場がある。

阿佐田哲也の『麻雀放浪記』なんかを思い出す、捨て鉢でニヒルな魂の抜け殻、アプレゲールの無頼派。生と死、恋と嫉妬、アメリカと日本。アメリカに敗戦し占領された現実から目を逸らし、悪い軍部から解放して貰い救われた善良な民衆の振りをする日本人の変わり身の早さ。大勢に迎合することを美徳とした全体主義。太宰治の懊悩。「愛する者を食べさせてやること以上に価値のあることはない。」との真理。

歌われる楽曲のセンスが良く、1933年のアメリカのヒット曲、『イッツ・オンリー・ア・ペーパームーン』が作品のキーとなる。
「これはただの紙の月
段ボールの海に浮かぶだけ
でも君が信じてくれたなら
それは本物にだってなれる」

ネタバレBOX

第一幕は東宝調、第二幕では一座に拾って貰った石森咲妃さんが見事な歌い手に開花、日活調で堂々と歌い上げる幕開けが見事。
ホンの完成度が高く、これを岡本喜八や深作欣二なんかのジャズのリズムで細かくカットを刻める監督が映画化したら傑作になっただろう。ちょっと今回の演出では力不足の感も。複数の登場人物達のエピソードがうねりを打って、ラストのレヴューに集約されていく。薬で狂い滅び朽ちていく松浦慎太郎氏。皆、袖で彼の苦悶を心配しつつも幕は上がる。ショーは始まり、彼女達は笑顔で踊り出す。
ミュージカル「弥生、三月 -君を愛した30年-」

ミュージカル「弥生、三月 -君を愛した30年-」

エイベックス・エンタテインメント/クオーレ

サンシャイン劇場(東京都)

2022/04/21 (木) ~ 2022/04/24 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

『弥生、三月』、波瑠と成田凌主演の映画は当時観た。高田馬場で再会した二人、逃げる波瑠を追う成田凌。大森ベルポートでやっと捕まえる。「随分、走ったな」と映画館で感心したもの。1986年の3月、高一の時に出会った二人の人生を2020年3月まで三月縛りで描いていく。数年単位で飛び飛びの三月のエピソードだけで、間に何があったかは観客の想像力に任せる試み。
菅田将暉と小松菜奈主演の『糸』と話がこんがらがる。要はお互い好き同士の二人が、あれやこれやの障害で中々結ばれないさまに一喜一憂する『君の名は』(岸恵子主演の方)系すれ違いメロドラマ。観客がやきもきしたら勝ちのジャンル。 映画はイマイチで、これをどうミュージカル化するのか見当が付かなかったが・・・。

正義感のやたら強い弥生(田村芽実〈めいみ〉さん)、Jリーガーを目指す山田太郎、通称サンタ(林翔太氏)、薬害エイズで苦しむサクラ(岡田奈々さん)の物語。
語り手として神里優希氏、見事なバレエを踊りながら舞台転換を行うkizuku氏と大倉杏菜さん(やたら巨乳)、ずっとピアノを演奏し続ける安藤菜々子さん。演出に品があって美しい。楽曲にもオリジナリティが感じられ、繰り返す詩の構造も効果的。ピアノの旋律が奏でられ続け、真白な精霊のように優雅に舞う二人の男女。バックのヴィジョンに映し出されるイラスト調の背景のセンスも冴えている。出演者の歌唱力も本格的。
胸を焦がした高校時代からそれぞれの道に別れ、家庭を持ち夢に挫折し何度も人生を諦める。その度に目に見えない不思議な絆が自分達を繋いでいることを感じていく。

『奇跡の人』のサリヴァン先生に憧れて教師を目指す弥生。演ずる田村芽実さんは元アンジュルム。時折表情が若き日の吉永小百合を思わせ、古風な顔立ちが清楚で役に合う。物語のキーを握る岡田奈々さんも素晴らしい歌声で、登場するとステージがぱーっと明るくなる。
演出の菅野こうめい氏がいい仕事をした。

ネタバレBOX

演出の菅野こうめい氏の才気が冴え渡る序盤は傑作の雰囲気がムンムンする。それが段々とトーンダウンしていくのは、原作のストーリーテリングが映画用の為、話が散漫で年表を見せられている感覚に。端折った部分こそ重要なエピソードだったりする。
ここは早逝したサクラ(岡田奈々さん)の視点を作って、二人を温かく見守る構成にした方が良かったかも。息子のあゆむ(神里優希氏)が語り手なのだが、殆ど登場しないし話にリンクしない。映画ではサクラの好きだった曲、坂本九の「見上げてごらん夜の星を」がキーアイテムに使われている。今作もそんなキーアイテムを設定すべきだった。
安心して狂いなさい

安心して狂いなさい

中野坂上デーモンズ

北とぴあ ペガサスホール(東京都)

2022/04/17 (日) ~ 2022/04/24 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

開演前SEで延々般若心経が流れ、野性爆弾のようなガロ系の笑いを想像する。

冒頭、作・演出の松森モヘー氏から説明が入る。今作の世界はメタバース(仮想空間)であり、20代30代の歳が近い年代を中心とした小規模なコミューンであると。精神だけをアバター(分身)に移し、仮想世界で生を謳歌している。
舞台上、沢山の男女が四方八方上下左右に設置された出入り口から共用スペースに現れる。皆言う台詞は決まっている。「〇〇さんを知りませんか?」

筒井康隆の『マグロマル』のように噛み合わない会話が延々と続く。興味深いキャラは四人。
「私のことが嫌いなの?嫌いなの?」と男をひたすら追い掛け続けるメンヘル系のまちだまちこさん
小さなウェブ雑誌の記者、加藤睦望さん。誰も彼もにインタビューを仕掛けてメモを取る。
柿原寛子さんは統合失調症なのか?存在しない架空の男をずっと捜し続けている。
一番観客を慄かせたのが、中尾仲良(なかおなかよし)さん。後半白目をひん剥いての大暴れ。核兵器のような凄え女優を抱えているな。MVP。
そのうち、どうもこの世界からログアウト出来なくなるバグが発生して・・・。

当日パンフには、大学時代パニック障害を患った松森モヘー氏がこの劇団をリハビリ的に旗揚げして、「安心と狂気」の十年を歩んだことが吐露されている。ただのおふざけではないのだ。

「張り裂けた胸はくっつかない セロハンテープでとめた心 またいつ剥がれるのかと 今日もびくびくしながら生きるぜ」
amazarashi 『爆弾の作り方』

ネタバレBOX

つまらなくはないのだが、そこまで面白くもならない。終わりようのない物語にどうケリをつけるのか?“謎”と“真実”が必要か。
そもそもここは仮想空間ではなく、本当に現実だったことにする。どんなにうんざりした設定でもログアウトなんて出来ない。このアバターで何とか生き延びるしか手はないのだ。道はある!、・・・多分。
偏執狂短編集V 前夜祭

偏執狂短編集V 前夜祭

劇団パラノワール(旧Voyantroupe)

すみだパークシアター倉(東京都)

2022/04/16 (土) ~ 2022/04/24 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

メチャクチャ面白いか超つまらないかのどちらかだろうと予想して賭けてみたが・・・。

『黒の章』
①H+(トランスヒューマニズム) -頽廃芸術展-
②メンゲレとグレーゼで
③黒髪と魚の足とプレシオサウルス

『白の章』
④ジャンヌダルク異端審問裁判
⑤きこりと木の精
⑥ニヒリズムの肖像 2022

①1941年、ヒトラー(井口ジョージ氏)が画家のツィーグラー(和日和生〈のどかかずき〉氏)に退廃芸術について講釈を垂れている。そこに時空を越える伝説の男サン・ジェルマン伯爵(窪田裕仁郎氏)が現れて、ヒトラーに彼の憎むスキャンダラス画家エゴン・シーレ(平良和義氏)の日々を見聞させる。
②アウシュヴィッツ収容所で過酷な人体実験を繰り返したメンゲレ医師(宇田川佳寿記氏)が主人公。今作では彼は周囲の誤解に巻き込まれた善人として描かれている。傍に控えるのは19歳でアウシュヴィッツの看守になった女性看守イルマ・グレーゼ(木下紅葉さん)。性的サディズムの権化でナチスの最年少刑死者。メンゲレは双子を使った人体実験をする羽目になる。
双子の被験者役の杉山華子さんが可愛かった。
③知的障害者を多数雇用したような気違いサーカス団。そこに訪ねて来たのは医学研究者(上原ぺこさん)、合成麻薬MDMAを使って損傷した脳機能が回復される論文が証明されたとの報告。
フタバ役の小野瑞季さんに何故か見覚えが。大槻ケンヂの『くるぐる使い』をいつか演るならば、是非彼女で観てみたい。
④ジャンヌ・ダルク(やすいまほさん)がフランスのルーアンで異端審問に遭う。
⑤謎のきこり(高橋弘幸氏)が31人の女性達の足首を切断して拐っていく奇怪な連続誘拐事件。落合刑事(窪田裕仁郎氏)は憧れていたミステリー事件に遭遇して大興奮。
高橋弘幸氏の造形したキャラが良い。
⑥19世紀フランスで死刑となった犯罪者でありつつ、詩人として人気を博したピエール・フランソワ・ラスネール。彼をモデルにした男、演じるは平良和義氏。
死刑執行人の一族、サンソン家に嫁いだアヴリル(杉山華子さん)は歪んだ階級社会を憎んでいて、この世を正そうと密かに心に期していた。彼女に恋するも選ばれなかったシャルル(宇田川佳寿記氏)、彼女の兄代わりのジャン(山下諒氏)。結婚式の日、事件が勃発する。平良和義氏のキャラが決まっていて、フェンシングの殺陣も見事。杉山華子さんは絵になる。

⑤と⑥は見所あり。『白の章』の方がお薦め。

ネタバレBOX

①幼女を裸にしてモデルにするエゴン・シーレの倒錯美。ヒトラーは怒り狂うが、自分との共通点を見い出す。善悪の彼岸に立ち、世界や自分を滅ぼしてまでも追求したい“美”があった。話が長く無駄が多い。『新・デビルマン』みたい。
②話が長く無駄が多い。
③唐十郎調で空気がガラリと変わり、ちょっと面白そうに。白痴の振りをしていた元研究者(小野瑞季さん)は恋人(山本リョウ氏)の損傷した脳が治療出来なかった罪悪感から苦界に身を投じていた。後半がつかこうへい風味でだらだらだらだら長く引き伸ばした感じでぐったり。話もひどい。
④企画系AVのような雑な作り。イングランド人の看守達にレイプされ続けるジャンヌ。フェミが見たら発狂するような描写。どうにもつまらないのだが、火刑に処せられる最期のジャンヌの台詞が良い。「お前達男共を永遠に呪ってやる!いつかお前等が女達に支配され差別される日がきっと来る!」
⑤江戸川乱歩風味で『盲獣』なんかを思わせる。凄くキャラも流れも好きな感じ。
⑥凄く良く出来ている。全ての展開と伏線に無駄がない。貴族共が邪悪すぎる気もするが。ラスネールの処刑からのエピローグがぐだぐだし過ぎで残念。もっとズバッと決めて貰いたかった。ラスネールのここぞと歌う歌の歌詞とメロディーがイマイチ。人の胸を打つ言葉がここでこそ必要だったのだが。

石井輝男や牧口雄二のセンスが足りない。エロと笑いとグロのバランスか。『恐怖奇形人間』の土方巽なんて、作品を超えてしまっている。
エゴ・サーチ

エゴ・サーチ

プラグマックス&エンタテインメント / サンライズプロモーション東京

紀伊國屋ホール(東京都)

2022/04/10 (日) ~ 2022/04/24 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

開演前SEでオーストリアのバンド、オーパスの代表曲「ライブ・イズ・ライフ」が何度も何度も流れる。(『oktoberfest 2019』version)。これを聴くと、「ああ鴻上尚史だなあ」の気分。選曲のセンスはいつも抜群。今作も沖縄民謡「十九の春」の使い方が秀逸。(元曲は鹿児島県の与論島がオリジナルらしい)。

ガジュマルの古木に住み着く、赤い髪をした精霊キジムナー(村上航〈わたる〉氏)。沖縄の離島に遊びに来た吉田美月喜(みづき)さんの前に姿を見せる。東京から遊びに来た吉田さんは「また来る」と約束。しかしやって来ない・・・。

作家志望の青年、今江大地氏はアイディアは有るのだがなかなか筆が進まない。担当編集者の南沢奈央さんははっぱをかけるも、ネットで検索すると彼がブログやツイッターで遊んでいることを知り叱責。だがそれは濡衣で、同姓同名同プロフィールの人間がネット上に存在していることを知る。

インターネットを使ったステマ・ビジネスの会社、社長(渡辺芳博氏)と阿久澤菜々さん。ふざけたフォークデュオ『骨なしチキン』の二人(佐藤修作氏と古木将也氏)が「金はあるから有名にしてくれ」と依頼。彼等を売り出す仕掛けを練る。

話と全く関係ない木村友美(ゆみ)さんの底抜けの明るさが印象に残る。ハモりが凄まじかった。
イケメン結木滉星(こうせい)氏はボクサー飯田覚士っぽくてカッコイイ。

取り留めのなく投げ出された話が一つずつ結び付いていく。一体これは何の話なのか?的面白さ。

ネタバレBOX

ちょっと話が適当で、面白く感じなかった。
事故で恋人、吉田美月喜さんを死なせてしまった今江大地氏は自責の念で自殺を試みるが、命は助かり部分的記憶喪失に。彼を愛していた元同僚の結木滉星氏は彼とコンタクトを取る為に、彼の名前を騙ってネット活動。自分が死んだことを認められずに亡者となって現世を彷徨う吉田さんにキジムナーが逢いに来る。記憶を失くした今江大地氏が執筆するのは吉田さんから聞かされた話。全ての謎は彼が自殺未遂したマンションの屋上に集められていく。

結木滉星氏が同性愛者であることが非常に面白い設定なのだが、それを生かせず適当なキャラに。恋愛詐欺を繰り返すエピソードはただのノイズでしかない。キジムナーが普通に存在出来て、亡霊の吉田美月喜さんは誰にも見えない設定も必要だろうか?何か消化不良。
物語の構造としては、主人公の失くした記憶を亡霊やキジムナーが取り戻すもの。彼が書こうとした小説の先に、秘められた何かがなくてはならない。

当日配布パンフに書かれていたandymoriの『1984』、素晴らしい曲。ヴォーカルの姉、亡き小山田咲子さんに思いを馳せる。
シェイクスピア物語 ~ 真実の愛 ~

シェイクスピア物語 ~ 真実の愛 ~

「シェイクスピア物語」公演実行委員会

KAAT神奈川芸術劇場・ホール(神奈川県)

2022/04/15 (金) ~ 2022/04/24 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

ヒールのエセックス卿(村上弘明氏)は史実ではエリザベス女王の愛人であったロバート・デヴァルー (第2代エセックス伯)がモデルか。
舞台は16世紀、当時のイギリスの演劇界では女性がステージに立つことはタブーとされていた。絶大な人気を博したものの女性であることがばれて処刑されたダンカン・ランズウィック(真野響子さん)の亡霊が今も彷徨い続ける。
役者から作家を始めたばかりのウィル・シェイクスピア(内博貴氏)は新作の執筆に苦戦中。偶然見かけたジュリエッタ・ド・キュープレッド(熊谷彩春さん)に一目惚れ、恋に落ちる。だが、彼女はエセックス卿の婚約者であり・・・。

ネタバレBOX

『恋におちたシェイクスピア』を期待して観に行ったが、音楽も曲も凡庸、脚本も演出も退屈。熊谷彩春さんなんか最高の素材なのに勿体ない。何かこの劇場で演る作品は低レベルなものが多い。本当に良い作品を創ろうと思っている人を集めて欲しい。
Break a leg!
飛んでる最高

飛んでる最高

艶∞ポリス

駅前劇場(東京都)

2022/04/13 (水) ~ 2022/04/24 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

「やだ、おっかしー!」
超絶面白い。笑いに真剣に向き合っている。この作家(岸本鮎佳さん)の姿勢にリスペクト。本当にもう一回観ようと思ったが日程的に無理だったのが残念。終演後、出ている一人ひとりの役者が魅力的で愛すべき存在に感じられる。要らない人物が一人もいないのは作家の底知れぬ才能。これはハマるわ。やっぱり世の中、自分が知らないだけで才能に溢れ返っている。
ぶつ切りのコントみたいに感じるが、実は全てがパズルのピース。時系列がシャッフルされていて、段々と全体像が見えてくる相当練り込んだストーリー。これが令和最先端、頭がおかしい。

航空会社、空港での業務を担当する面々。
不倫を拗らせた山田瑞紀さんはエロい。
岸本鮎佳さんは完全にイカれている。
性欲の塊の機長、渋江譲二氏のキャラの立ちっ振り。

ハワイに向かう仲良しおばちゃん三人組。
似非リッチ、高野ゆらこさんが圧倒的。何か凄いカルチャー・ショックすら覚えた。江頭2:50のような飛び道具感。女性は全面的にこの笑いを支持するものだと思う。
関絵里子さんと航空会社グランドスタッフ小林タカ鹿氏の夫婦間の物語も温かい。
今藤洋子さんの芸能マネージャー物語も美しい。

イケメン太田将熙(まさき)氏も最高。そりゃみんな笑うわ。
空港バイト、奥村佳代さんの表情と口の歪みのインパクト。

冒頭、不倫を拗らせた山田瑞紀さんがカッターナイフで暴れている。岸本鮎佳さんと小林タカ鹿氏が切り付けられた。一体、何が起きたというのか?

ネタバレBOX

高野ゆらこさん、今藤洋子さん、関絵里子さんのパワーは凄い。これにはひれ伏す。これぞ日本が海外に誇るべき笑いのジャンルなのだ。韓国が『パラサイト』なら、日本には彼女達のドメスティックでエコノミック・アニマルな生き様が。『オバタリアン』(死語)こそが日本に残された指針なのか?(『ドライブ・マイ・カー』ではなさそう)。

超面白いのだが、後半の関絵里子さんと太田将熙氏のネタバラシ的エピソードがイマイチ。流れを盛り下げてしまう。

ラストは冒頭の話の続きで締めるべき。ちょっと順番が違う気がした。
茶の間が水浸し【4月14日~17日公演中止】

茶の間が水浸し【4月14日~17日公演中止】

吉祥寺GORILLA

サンモールスタジオ(東京都)

2022/04/13 (水) ~ 2022/04/17 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

『ドント・コールミー・バッドマン』とか『だからビリーは東京で』にグッと来た人には通じるものがあるかも。
「痛みと憂いの雨が降り続け、何処もかしこもひたひたと浸水し水が溢れ返っていくようだ。これ以上、水嵩が上がればもう息が出来なくなる。このままでは俺は溺れてしまう。助けてくれ。」みたいな話。
学校でも家でもひたひたと水が迫って来る。何処にも逃げ場はない!そんなリアルな感覚は皆が思い当たるもの。
主演の平井泰成氏を見ていて、令和のカリスマ(依代)のようにすら思えた。amazarashiの秋田ひろむのように、何かを象徴しているのか?この人を使って今何を発するべきなのか?『コインロッカー・ベイビーズ』のハシのように「これが僕の新しい歌だ」なんて決めて貰いたい。

初期の石井聰亙とか森田芳光の感覚。高三で学校に通えなくなった主人公はフリースクールに転入。そこは通信教育と通学が半々、担任(鳥居志歩さん)に誘われ演劇部に入ることに。犬のジョン(日下麻彩さん)が語り部となり、彼のゴボゴボと水の音に苛まれる青春が語られる。

前半は凄く好き。

ネタバレBOX

ラストの舞台では自身の家庭をモチーフにして、それを実の両親が眺めるくだりなんか欲しかったかも。リスカ少女、山下真帆さんのキャラをもう少し固めた方が良かった。

一発目の浸水で小さなプラスチックのボールが散乱。青、水色、白とそこらかしこに散らばった。だが二発目も同じ手法だと舐められる。二発目は本物の水であるべきだった。(諸事情あるだろうが)。『マグノリア』のあっと驚くラストのように、登場人物達のにっちもさっちも行かない切迫した状況を引っ繰り返す、「もう何もかもおしまいだ」のタイミングで発生するべき。

冒頭に記した前述のニ作品が如何に優れているか、と云うこと。駄目な点を差し引いても打ちのめされ圧倒された感覚があった。今作は中途半端に話を畳もうとし過ぎたか。先に決めたラストに合わせていった感じが拭えない。作家の意図を無視してキャラクター達が傍若無人に存在しなくてはいけない。「いや、これじゃ纏まらないじゃないか」、という作家の悲鳴が聴こえる作品こそ嘘がない。

初日以降全部中止となってしまった。残念。平井泰成氏は最高だった。

森崎真帆さんへの脅迫状が原因とのこと。酷い話だ。
もはやしずか

もはやしずか

アミューズ

シアタートラム(東京都)

2022/04/02 (土) ~ 2022/04/17 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

主演の橋本淳氏、た組の『在庫に限りはありますが』の妻に不倫されるハンバーグ店店主が印象深いが、今回は全く別のキャラに。自閉スペクトラム症の弟の事故をトラウマに抱え、大人になり結婚した今もずっと引きずっている。
妊活に励むその妻、黒木華さん。この当代随一の天才女優の内面はぽっかりと口を開けた暗いがらんどうのよう(偏見)。昔『黒い家』と云う映画のキャッチコピーに使われた「この人間には心がない」の文句を思い出す。ニコニコ笑う彼女との暮らしはゾッとする。
主人公の母親役、安達祐実さんも負けてはいない。この二人の怒鳴り合いが見てみたかった。これだけキャリアを積んでもイメージとしては若手女優。
主人公の父親役、平原テツ氏は珍しくまともな人間像だがクライマックスで見せ場あり。
黒木華さんの妹役、天野はなさんは見事なキャスティング。何となく同じ雰囲気を纏っている。
上田遥さんも抜群のキャスティングで、本物か?と思った。こういうキャラをこのタイミングで放り込むセンスが図抜けている。
個人的MVPは藤谷理子さん、児童発達支援センター、療育園(?)の研究生。菅野美穂のモノマネをする高田紗千子(梅小鉢)に喋り方がそっくり。人をムカつかせる天才で、クライマックスの安達祐実さんとのバトルは語り草。このシーンだけでも観る価値充分。かなりこの役に手応えがあったのでは?

作者はピンボールのように跳ね回る女性の感情の描き方が絶品。一度感情のスイッチが入ると全く論理的な会話にならず、無駄な遣り取りが途方に暮れる程延々と続く。周囲の女性の嫌な面を逐一メモっているかのような人間観察。

かなり面白い脚本。
子供時代、障害児の弟の事故がトラウマになっている主人公。妊娠した妻が出生前診断で障害児の確率50%と聞かされる。動揺し困惑しどうにか妻を説得しようとするが・・・。

ネタバレBOX

藤谷理子さんVS安達祐実さん&平原テツ氏のバトルが最高。子供を事故で失った遺族の家を訪ねてきて、遺族の心のケアの会へ勧誘。その無神経な物言いにブチ切れた二人、平原氏は彼女を包丁でぶっ殺そうとする。ストレスから異物を口にするようになった橋本淳氏は、その修羅場に我関せずでスティック糊をパクパク食べる。この青い糊がういろうみたいで美味しそう。

ここから時間は飛んで、離婚して一人暮らしになった橋本淳氏がデリヘルを呼んでいる。そこにいきなり押し掛けるのは別れた妻と自分の両親。左肩に薔薇のTATTOOの務所帰りのデリヘル嬢。逃げられない状況。一体何の話なのか判りゃしないギャグ。観客大受け。

産まれた子供に障害がなかったことから、今更よりを戻そうとする黒木華さん。スマホの赤ちゃんの写真を見せようと。
泣きながら弟の事故死のトラウマを吐露し、自分に子供を育てていく自信がないことを言葉を尽くして伝えようとする橋本淳氏。「いつまでも過去に拘っていては・・・」と両親は復縁を後押し。多分この流れに押し切られて行くんだなあ、と観客は思う。そこにベランダの窓と対面の壁の上部から滴り落ちる大量の血。これは幻影なのか、それとも暗示なのだろうか?

ラストの話のまとめ方に逡巡したような停滞。何か違う。デリヘル嬢の上田遥さんも同席していた方が良かった。そして彼女に最終的なジャッジが委ねられるような。
ツインテールドールハウス

ツインテールドールハウス

四日目四回目

北池袋 新生館シアター(東京都)

2022/04/08 (金) ~ 2022/04/10 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

この作家、こじらせてるな。大林宣彦とか『台風クラブ』とか、観た筈なんだが全く思い出せないあの辺の自意識暴走映画の数々。自主映画の与太っているあの感じ。それと共に松竹の誰にも評価されなかったが、観た人間の記憶深くにこびり付いた無名映画なんかの味わいも。特に何の説明もなく突き放される感覚が逆に心地良い。

主演の“金曜日のアイ”さんは『翔んで埼玉』の二階堂ふみ似。自信過剰で何でも出来る。
お嬢様役水落燈李さんは写真の撮られ方がエロい。(撮る撮られるは一方的な物だからエロスが成立するのか)。
親友役は「ラビット番長」の鈴木彩愛(あやめ)さん。
優等生役は井澤佳奈さん、ピアノは弾いているのか?
カメラでしか他者と関われない自主映画顔の越石裕貴(こしいしひろき)氏が最高。こういうキャラの出現で男性客はホッとする。西海渡と云う名前であだ名はマゼラン。秀逸。
誰も彼もが無意識のうちに何かに追い詰められて苦しんでいる。

話は越石氏に撮影のモデルを依頼されたアイさん。その様子を覗き見ていた水楽さんもモデルを頼まれる。ツインテールのロリータ・ファッション。そこで事件が・・・。
脇を固める鈴木さんと井澤さんが巧い。

ネタバレBOX

水楽さんは撮影終了後固まってしまい人形化。実家に電話すると「あの娘そういうとこがあるから。どんな形であれ幸せそうならそれでいい。」と突き放される。
アイさんは自宅に連れて帰ってずっと世話をすることに。
ある時彼女のおさげを解くと、彼女は動き出し御礼を言って帰宅していく。
ラストは彼女の屋敷の庭園で行われている桜の会を訪ねて行き二人は再会する。

レオス・カラックスの『ポーラX』と云う映画があって主人公は“真実”を文学にしようともがき苦しむ。そして最後に到頭気付いてしまう。偽物の自分が“真実”だと思って手を伸ばしていたものもまた偽物でしかないことを。「偽物の自分には偽物しか手に入らない」。
人間の永遠のテーマである「自分と他人」。この病をこじらせていって欲しい。
そのあとの教員室

そのあとの教員室

enji

吉祥寺シアター(東京都)

2022/04/08 (金) ~ 2022/04/12 (火)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

舞台美術が見事、しみじみと見てしまう。市川崑映画のように小道具から凝りに凝りまくっている。音響もかなり練られていて雨漏りの音からぐっと来る。戦後まもなくの時代の雰囲気を巧く表現。
舞台は教員室、GHQ主導による教職追放が行なわれ、軍国主義思想を持つとされた教師達は排斥に。そこに現れたGHQの女性、戦時中のこの学校の教育がどのようなものだったか、教師一人ひとりに己の責任を追求していく。

御真影(昭和天皇の肖像写真)。
奉安殿(御真影や教育勅語を安置する為に学校に置かれた社のようなもの)。

千代延(ちよのぶ)憲治氏 グアム島からの帰還兵の教師。骨の髄までガチガチの帝国軍人。
鈴木浩之氏 怪優伊藤雄之助っぽい前教頭、職を奪われることに。戦時中から天皇崇拝の教育に批判的だった。
松山尚子(ひさこ)さん 敗戦後、すぐ米軍に寝返って愛人になった女教師。
足立学(がく)氏 新教頭であり、松笠(マッカーサー)なんて名前のギャグも。
紗織さん 善人っぽい若い女教師。
蜂谷英昭氏 若い女教師の婚約者。
永井博章氏 亀田親父似の大工。英語ペラペラで有能。
家納ジュンコさん 日本人ながらアメリカ人の養女になったGHQの教育改革の責任者の一人。

前半はどれだけ歪んだ教育で子供達を洗脳してきたかを突き付けていく。生徒達から調査収集した声が教師の罪を糾弾する緊迫感。糾弾された紗織さんのエピソードが素晴らしい。千代延憲治氏が逆に米国の教育の罪を糾弾するシーンにも観客は固唾を呑んだ。
後半は探偵物調にシフトチェンジ。語られるテーマは重い。
崇拝する錦の御旗が“天皇”から“民主主義”になっただけで、権力と同調圧力に屈することには何の変わりもないのだ。

ネタバレBOX

生徒への調査による回答用紙は紗織さんを糾弾する。「戦時中、何か事ある度にビンタをされた」と。罪の意識に泣く紗織さんは「教師を辞める」と口にする。だが生徒の文章はこう続く。「今後教えて貰いたい教師は?」「先生(紗織さん)です」。

千代延憲治氏は家納ジュンコさんを糾弾する。空襲で日本の何の罪もない故郷の村を焼き払い人々を殺戮した罪、原爆を落として無差別大量虐殺をした罪。「米兵をそう教育した貴女の罪は裁かれないのか?」と。ここのシーンが今作の一つのクライマックス。

演出が固い。教員室を覗き見ている子供達なんかを配置して多角的に攻めても面白い題材。視点がもう一つあると構図が立体的になる。自殺した教員の肉声が聴きたかった。事件の真相が天皇崇拝思想の核心を抉るものであって欲しかった。
「流れる」と「光環(コロナ)」

「流れる」と「光環(コロナ)」

劇団あはひ

東京芸術劇場 シアターイースト(東京都)

2022/04/03 (日) ~ 2022/04/10 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

『流れる』

高尚で難解なスカした会話の応酬で観に来たことを後悔させる、批評家狙いの張りぼて作品ではない。能の『隅田川』だとかほぼ一切関係ない。鈴木清順やキアロスタミ(『風が吹くまま』)、ATG映画なんかの手触り。奇妙だが心地良い世界。台詞が断トツに秀でている、ギャグ満載の絶妙な遣り取りの会話劇。
「ああ え? は そう はあ そうか」。

予備知識として『鉄腕アトム』の設定だけ知っておいた方が良い。科学省長官であり天才科学者の天馬博士の息子、飛雄が交通事故死。彼は息子そっくりのロボット、アトムを作るもやはり息子の代わりにはならず、ロボットサーカスに売り飛ばしてしまう。

松尾芭蕉役上村(かみむら)聡氏、鈴木浩介の雰囲気で何処かロンブーの淳っぽくも見える。目を大きく見開いて唖然とするアメリカンなリアクションに観客もどっと受ける。とにかく自然な口調がジャズのベースのよう。
河合曾良(そら)役中村亮太氏、その辺の大学生そのまんま。リアルで憎めないキャラ。
謎めいた女役鶴田理紗さん、乗船券の売り切れた渡し船に乗りたがる。何を思っているのか皆目見当が付かない。
天馬博士役踊り子ありさん、『どッきん☆どッきん☆メモリアルパレード』で演じた鮮烈なヒロインが記憶に新しい。会話の受けが見事。
アトム役古瀬リナオさん、148cm でまさに子供のよう。歩き方、動作、会話がロボットそのもので目を奪われる。この役は難しい。

話は旅に出ようと船を待つ芭蕉と曾良が喫煙所にいるとチケットを探す女が現れる。向こう岸では慰霊祭、船はなかなか出航しない。

かなり面白かったのでもう一本の『光環(コロナ)』も観たかった。何の先入観も持たず目の前の遣り取りを味わった方が楽しめる。取り留めのない会話と間だけでこの空間に魔法をかけてみせた。

ネタバレBOX

隅田川で数年前、天馬博士の息子、飛雄が水難事故で死亡。去年また男の子が溺れて亡くなったが見付かった遺品には「トビオ」と書かれてあった。しかも誰も遺族は名乗り出て来ない。そこで地元の住民は慰霊碑を建て慰霊祭を毎年やることに。天馬博士は「もう二度とこんな事が起こらないように」と、飛雄そっくりのロボット、アトムを創造。水難救助の任を与え渡し船に乗せて警備を行わせている。そして自ら船頭として船に搭乗。天馬博士は妻が亡くなってから髪を伸ばし、一見女性に見える。
アトムはお母さんを探し続けている。飛雄の記憶なのか?存在しない幻を追い求めているのか?
謎の女は「一年前に死んだ子供は自分の子だ」と言う。

推論として、飛雄の死に哀しみ母親も早世。母親を待つ飛雄は亡霊としてもう一度水死を繰り返す。それを知った母親の亡霊が慰霊に向かう。(全く違うかも)。

松尾芭蕉とかアトムの記号が強すぎて、物語の邪魔をしている感も。普通に妙な余韻の残るちょっと不思議な話で良かったような。何の意味もない普通の会話だけでこれだけ面白いとは。受け答えと間、松尾芭蕉以外の内面が全く見えない設定の面白さか?
LAST RENTAL VIDEO

LAST RENTAL VIDEO

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萬劇場(東京都)

2022/04/06 (水) ~ 2022/04/10 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

『トイ・ストーリー』や『シュガー・ラッシュ』風味で『ラスト・アクション・ヒーロー』なんかも思い出す。

寂れたレンタルビデオ店、常連客のカップル(奥田龍平氏と熊手萌〈めぐみ〉さん)が週一で借りに来るぐらい。映画大好きな奥田氏は夢中になって作品を選び、大好きな奴は何度も借りる程。そんな男に付き合わされて、ワンカップ大関片手に斜に構えた熊手さん。けれど再生ボタンを押せば二人が部屋で眺めるレンタルDVDは虚構のマジックで世界を塗り替えてくれる。

閉店後の店では借りられなかったDVD達が思い思いの鬱憤を吐き出している。
藤代海(ふじしろかい)氏、アメコミ映画のスーパーヒーロー。やたらカッコイイ。
椎名亜音さん、無視されまくるコメディ映画ヒロイン。
松岡里奈さん、ヘイトを買いまくるミュージカル映画ヒロイン。歌が場にそぐわない程巧い。
緑川良介氏、探偵映画の知的な主人公。
小島ことり氏、魔法ファンタジー映画の主人公。

他にも、怪獣ヤクザホラーダンスお姫様冒険戦争サムライアクション・・・、ありとあらゆる映画が借りられるその日を待ち望んでいる。
借りて観て貰えないと何も始まらない存在、何年も見向きもされない日々に嫌気が差し、それぞれ現状を打破せんと策を講ずるが・・・。

映画愛に満ち溢れた逸品。奥田熊手カップルを観ているだけで幸せな気分。今作のアイディアは抜群で、何かの拍子にディズニーに目が止まってDisney+の配信作品なんかに声が掛かったら面白い。脚本の奥行きは深く、映画マニアならニヤニヤする筈。キャストはやたら豪華でサービス抜群、お薦め。

ネタバレBOX

店を脱走しようとする一団は大通りの交通量の激しさに討ち死に。緑川良介氏率いるグループは他の作品を殺して自分達のレンタル率を上げようと企む。

敢えて文句を付けるなら、後半の展開がイマイチで、緑川氏の行動に哲学がない。『ブレードランナー』のルドガー・ハウアーのように神々しくカリスマとして描くべき。全てを無意味だと理解してもこれをやらなくてはならなかったのだ、と。

みんなに呆れられる脳天気なミュージカル映画、松岡里奈さんをカップルが観賞。この下りを伏線として虚構と現実の垣根を揺さぶって欲しかった。彼女の映画に心揺さぶられるカップル。DVD界の物語と現実世界の物語を同時進行させてクライマックスに混合させカタストロフィを。
もう少し短くシェイプしてスタンダードな作品に刈り込みたい。
海街diary

海街diary

“STRAYDOG”

シアターサンモール(東京都)

2022/03/30 (水) ~ 2022/04/03 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

当時、映画は観た。綾瀬はるか、長澤まさみ、夏帆、広瀬すず四姉妹に母親役は大竹しのぶ。広瀬すずのイメージ・フィルムみたいな感じの記憶。(是枝裕和監督はアイドルの箔付けみたいな仕事ばかりやっている印象)。
今回の舞台は、花奈澪さん、須藤茉麻さん、後藤萌咲(もえ)さん、KANOさん四姉妹に母親役は芳本美代子さん。キャスティングが絶妙で、その時点で勝ちは見えている。
花奈澪ファン感謝祭を思わせるようなコスプレ祭り。喪服、ナース服、チアガール、浴衣・・・。ますます綺麗になっているように見えた。更にファンは増えるだろう。須藤茉麻さんはナイスバディを仕上げてサバサバ系女子を好演。後藤萌咲さんが自然で驚く程良かった。わざとらしさがない。KANOさんは高畑充希っぽく手堅い。いつの間にやら渋い助演女優になっていた、みっちょんも見せ場を作る。
特筆すべきはカマドウマの存在で、話の進行が停滞し行き詰まるタイミングで発生。このアイディアとセンスが森岡利行監督の真骨頂。「ああ、そんな手があったか?」と同業者は感嘆する筈。ここを思い付くのと付かないのとは雲泥の差。
姉妹ユニット『Les.R』(レ・アール)の生演奏が舞台上段で奏でられ見事。ドジ看護師アライ役の高野渚さんが観客を泣かせる名シーンを披露。この人、やるな。

父親が浮気から離婚、ニ年後母親も男を作り、祖母に子供達を押し付けて出て行った。母親代わりとなった長女花奈澪さんは看護師となって鎌倉の広く古い屋敷を切り盛りする。次女の須藤茉麻さんは信用金庫に勤めるも恋愛依存症体質、三女の後藤萌咲さんは勤務先の店長とデキている。ある日出て行った父親の訃報が届く。身寄りのなくなった再婚相手の娘、KANOさんを四女として引き取る事にする花奈澪さんだったが・・・。

大阪公演もあるのでお薦め。映画を観ておいた方が更に楽しめるかも。花奈澪さんの演技は本当に素晴らしい。

ネタバレBOX

KANOさんが完全無欠のスーパー美少女なのが勿体無い。家族と故郷を失い、見知らぬ他人との同居生活の日々に戸惑い孤独を噛み締めつつも、いつの日にかこここそが自分自身の生きる場所だったと気が付く過程が重要。彼女のエピソードが情報の羅列で余り意味を為さない。

『リトル・フォレスト』もこの流れで舞台化出来そう。(韓国版の方が良い)。
STRAYDOGは階戸瑠李さんが亡くなってから、久し振りに観た。
ながいながいアマビエのはなし

ながいながいアマビエのはなし

劇団 枕返し

小劇場メルシアーク神楽坂(東京都)

2022/03/31 (木) ~ 2022/04/03 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

開演前SEで繰り返された槇原敬之の『PENGUIN』がめちゃくちゃ良い曲。開幕するとこの曲を使う意味が解けた。
「人生大逆転ツアー」と銘打ったバスツアーの参加者達。車の故障の為、下車すると深い森が眼前に広がっている。森に行ってみようとする者達とそれを拒否する者達に分かれる。そこに現れるのが皆さんお待ちかねアマビエ兄妹。人間大のペンギンの姿形に河童のルックス。驚愕した残りの皆も森へと走って行くのだが・・・。

アマビエとは江戸時代(1846年5月)熊本県の海に出現した謎の妖怪。夜ごと海に怪異な光が発生、役人が小舟で調査に赴いた処、人語を解する化物が出現。「今年より六年の間、豊作が続くが同時に疫病も発生す。私の姿を描き写し、その絵を人々に見せよ。」とのお告げ。絵心のない役人は海上でせっせとアマビエをデッサン。その絵を江戸に送った。数度の清書の段階でアマビコがアマビエになった説もある。
全国民に見せるべく、絵なんてろくに描けない男が代表してアマビエを描かせられる災難。「何で俺が・・・?」と身の不運を呪ったことだろう。その苦渋のアマビエの絵が200年近く経ってブレイクする面白さ。多分本物は全くこんなんじゃなかった筈。

今回のコロナ騒動でマニアック妖怪アマビエが大注目。妖怪掛け軸専門店の「大蛇堂(おろちどう)」のツイートから、このブームが始まったとされる。アマビエの絵を掲げることでコロナの災厄から逃れようと。

御利益があるかも知れないので、是非アマビエを拝みに足を運んでみては如何だろうか。

ネタバレBOX

アマビエが伝える疫病はコロナ、しかし皆もうとっくにそんなものにうんざりしている。森から出ようとする人達に対し、アマビエは個々の記憶のイメージを弄って訴え掛ける。「ここから出てはいけないのだ」と。子供の頃の鬼ごっこ、未だに「もういいよ」と言われるのを待ち続ける男。サウナに入ったが、出るタイミングが分からずずっと我慢する男。新婚3ヶ月で離婚を切り出された男。騙されて多額の借金を抱えた女・・・。
話の途中で放り投げたように物語は終わる。

「人生大逆転ツアー」がそもそも何をやろうとしていたのか意味不明。もう安易に「自殺ツアー」でよかったのでは。そこに偶然居合わせた離婚した夫婦を話の核にして、死にたいのにコロナに怯えてマスクをする面々の矛盾。アマビエとの出逢いで森を出る男と最後まで出ない女。

「たぶん君と僕とじゃ行けない場所が、二人の行かなきゃいけない場所」と槇原敬之は歌っていた。
彼女たちの断片

彼女たちの断片

東京演劇アンサンブル

渋谷区文化総合センター大和田・伝承ホール(東京都)

2022/03/23 (水) ~ 2022/03/27 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

私の体は私のもので、他の誰のものでもない。

大学生仙石貴久江さん(初音ミク調の髪色)が推しとのセックスで妊娠。友人の永野愛理さんに相談するとネットで色々と調べてくれる。
日本ではまだ認可されていない経口中絶薬(Women on Webと云うカナダの非営利団体が世界中の女性達の安全な墮胎を支援する為安価でネット販売)を使うことに。
かなりの出血を伴う人工流産の為、永野さんの母(原口久美子さん)の友人(洪美玉〈ほんみお〉さん)が家を貸してくれて泊まることに。
その夜、その家に集まった女達の抱えてきた痛みを大きな真白なシーツのような優しさが包み込む。

友人の山﨑智子さんの歌うオリジナル曲が素晴らしい。沖縄民謡調のこぶしが効いている。
その家の家主である志賀澤子さんと常連の喫茶店店員、奈須弘子さんの語るエピソードも印象的。最早文学だ。珠玉の連作短編集を読んでいる感覚。

これこそ女性監督が映画化してTOHOシネマズシャンテなんかで上映するべき題材。連日女性が押し掛けムーヴメントになることだろう。今作を必要としている女性は無数にいる。
こらえ切れなかった痛みとそれをねぎらう優しさが空間に満ち満ちてゆく。どんなに言葉を尽くしても誰にも判って貰えなかった苦しみを、自身の痛みとして受け止め抱き締めてくれる人達との出逢い。そりゃ演者も観客も皆泣く。頬を伝う涙で気付くのは、誰かに分かって欲しかった自分。

作者の石原燃さんは太宰治の孫!
必ず再演されるだろうから、必見。

ネタバレBOX

家父長制と云う言葉がいかめしく古臭い。もっと別の言い換えが出来ないものか?本当に今作を観るべきは十代の少女達だと思う。TikTokに夢中な彼女達に伝える言語を模索しなくてはならない。フェミニズムが本当に日本で覚醒する為には、男社会の間違った価値観に支配誘導されていることを気付かせないといけない。そしてそんな価値観は如何様にも変えられることを伝えないといけない。

寝室で仙石貴久江さんと語る永野愛理さん、大きな壁面に彼女の姿が大写しにされるLIVE的な演出。リアルタイムで撮影されたものを映し出している。効果的で良い。
永野愛理さんにカリスマ性すら感じた。彼女の語り口なら話を聴いてみようと思う人も多いのでは。
洪美玉さんに非常に見覚えがあるのだが、思い出せなかった。志賀澤子さんが堕胎と日本の歴史を滔々と語る部分の演出が余り好きじゃない。作品内に巧く忍ばせて欲しかった。

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