かずの観てきた!クチコミ一覧

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明治百五十年異聞『太平洋食堂』『彼の僧の娘』

明治百五十年異聞『太平洋食堂』『彼の僧の娘』

メメントC+『太平洋食堂』を上演する会

座・高円寺1(東京都)

2020/12/02 (水) ~ 2020/12/06 (日)公演終了

満足度★★★★

鑑賞日2020/12/03 (木) 13:00

座席1階

大逆事件を紀伊半島・熊野から描いた物語。メメントCの代表的な演目で、再び「開店」となった。熊野の医師・大石誠之助が貧富や身分の区別なく食卓を囲むレストランを開いたところから物語は始まる。
政府による言論統制が強まろうとしている時期、熊野という「地方」でも日露戦争を戦う日本国民の戦時高揚ムードが高まり、平和を愛する人たちへの言論的な圧力が強まる。太平洋食堂は言論の自由空間でもあった。劇中、「大日本帝国、万歳」ではなく「大日本帝国、アブナ~イ」という場面では拍手も起きたが、それは現代日本政府の巧妙な言論弾圧(日本学術会議で特定のメンバーが就任を拒否されたこと)に通じるからにほかならない。
休憩を挟んで3時間30分近くの長丁場だが、青年劇場や青年座、民藝、文学座などから実力俳優を迎えて総力戦という舞台に、ひきつけられた。藤井ごうの演出も切れがあってよかった。
最終盤、大逆事件裁判の論告や最終弁論が出てくるが、これは今回の改訂で盛り込まれたということだ。これがあることで、太平洋食堂の存在がより明確になるし、いかにこの裁判が政府の一方的な断罪であったか、当時既に大きくゆがんでいた日本の司法を浮き彫りにするというバージョンアップがなされている。

拝啓天皇陛下様 前略総理大臣殿【岡山公演】

拝啓天皇陛下様 前略総理大臣殿【岡山公演】

燐光群

岡山市民文化ホール(岡山県)

2020/12/01 (火) ~ 2020/12/01 (火)公演終了

満足度★★★★

鑑賞日2020/11/17 (火) 19:00

座席1階

二つの直訴状というアイテムを時代を超えてつなげた。先の戦争での旧日本軍幹部、そして現在、財務省幹部の指示による公文書改竄。指導者への忖度、仕事への誇りを捻じ曲げられ犠牲になる現場。坂手洋二はこの国の組織の体質は何も変わっていないと明示する。
二つの時代が交互に進化するが、わかりやすい構成だ。歴史と時間を追って、役者たちは二つの役割を演じていく。燐光群には欠かせない円城寺あやのかすれ声が気になった。大丈夫かなと思ってしまう。
戦前と戦後で日本人の本質は何も変わっていないとよく言われ、特に今は新たな戦前ではないかと言われても久しい。だからこの舞台の訴えるところに新味はない。それでも坂手は作り続けなければならないのだろう。そして、自分たち観客もそれを確認し続けなければならないのだろう。世の中、変わらないからもういいよ、と言った瞬間から、戦前の再来は現実になる。

唐版 犬狼都市

唐版 犬狼都市

新宿梁山泊

下北沢 特設紫テント(東京都)

2020/11/14 (土) ~ 2020/11/22 (日)公演終了

満足度★★★★

鑑賞日2020/11/16 (月) 19:00

座席1階

歌舞伎町・花園神社で上演予定だったこの舞台は、下北沢の小田急地下化でできた空地にテントを張って、出演メンバーも少し入れ替えて行われた。
地上の大田区と地下鉄でつながる地下都市の犬田区で生きる男女の物語。唐版を見ていないので分からないが、おそらく今回は新宿梁山泊テイストに染め上げた演出だったのではないか。コロナ対策を兼ねて客席左右の幕を開けての演出、元法相夫婦による選挙違反など時事ネタを盛り込んでの金守珍ワールドだったが、客席の反応はいつもよりおとなしかった。観客側から見てもコロナの影響はぬぐえない。
主役級の水島カンナはこの日も奮闘の2時間半だったが、せりふをかんだりいつものカンナさんらしいすごみが薄れていた気もする。一方、オレノグラフィティの鬼気迫る演技は迫力があった。
さて、テント上演でのラストシーンにある舞台裏幕の開放だが、バックの景色、借景というかこれはとても重要。ただ、場所的にスーパーオオゼキのネオンとかが目立って、現実に引き戻されてしまった。仕方のないことではあるが、やっぱり場所は大切だと思った。

ネタバレBOX

検温や消毒など客席側のコロナ対策は一応、なされていた。客席はやや隣の席との間に余裕があるかなという感じだが、ほぼコロナ前と同じきちきちの配列だ。花道や舞台との距離も極めて近く、それがこの舞台の魅力ではあるのだが、コロナ対策に神経質な人はこの舞台は避けた方がいいかもしれない。あるいは、後ろの方の席を確保する方がいいだろう。役者の汗、つば、思い切り飛んできます。役者さんたちがコロナにかかっていないことを祈るのみです(笑)
プレッシャー

プレッシャー

加藤健一事務所

本多劇場(東京都)

2020/11/11 (水) ~ 2020/11/23 (月)公演終了

満足度★★★★★

鑑賞日2020/11/13 (金) 14:00

天気予報は軍事機密だったと聞く。ノルマンディー上陸作戦が天候を考慮し予定より一日遅れたというのは歴史で学んだが、背景にこのようなドラマがあったとは知らなかった。いつもは3時間というと長いという感想が多いのだが、今回の舞台はそんな長時間座る苦痛など感じない、舞台に引き込まれた3時間だった。
米英の気象学者が正反対の予報を出した。自分も英国には行ったことがあるので分かるが、とにかくこの国の天気は変わりやすい。地元の人と話すとお天気の話題から始まるというお国柄だ。そういう意味では、この変わりやすい天気を熟知している英国の気象学者の方に分があったと言える。
だが、ことは軍事作戦だ。天気だけでなく、月夜であるかどうか、敵が極秘作戦に気付いていないかなどさまざまな要因が作戦遂行を決める要素になる。舞台では、加藤健一演じる英国の気象学者が「(司令官の)アイクはもう結論を決めている」と嘆く場面が出てくるが、最終的には天候の安定が史上最大の作戦に決定的に影響することになる。
原作がそうだったのだと思うが、いつもピーカンのカリフォルニアやフロリダの天候だからと米国の気象学者を小ばかにするようなくだりがあったのはおもしろかった。このあたりは大ざっぱなアメリカ人と緻密(かどうかは分からないが)な欧州との連合軍がうまくかみ合ったから作戦が成功したのだろう。
加藤健一と共演を重ねる加藤忍が今回、軍人なのに妖艶な雰囲気をうまく出していてとてもよかった。

カトケン事務所得意の抱腹絶倒劇ではなかったのは、新型コロナウイルスの感染防止対策だったのだと思う。笑わせる要素はそこかしこにあるが、くすりという笑いであり、そういう意味ではとても配慮された演目のチョイスだったのではないか。また、幕間の15分、非常階段のドアを開け放って換気していたし、座席の間隔も開いていた。加藤健一事務所の今年の公演は結局、これ1本しかできなかったという。そういう意味でこの座組の意気込みというか、何としても無事に終わらせ、かつ、客席を楽しませるのだという空気を感じた。
(本多劇場の非常階段を初めて見た)

火の殉難

火の殉難

劇団俳優座

俳優座スタジオ(東京都)

2020/11/06 (金) ~ 2020/11/22 (日)公演終了

満足度★★★★

鑑賞日2020/11/11 (水) 14:00

座席1階

劇団チョコレートケーキの古川健作。俳優座への書き下ろしで、世代を超えた舞台に仕上がるのではないかと思って出かけた。だが、今回の客席のほとんどが、高齢者であった。マチネということもあったかもしれない。
高橋是清の人生を新聞記者の取材という切り取り方で描いた。それはそれでよいのだけれど、時代が前後するのと場面が切れ切れになっていて分かりにくさがある。時系列に並べても問題はなかったのではないか。あと、やはり休憩を挟んでの3時間は長い。この中身ならもっとコンパクトに、リズム感のある作品に仕上がったのではないか。
しかし、さすがに役者たちの演技力はすごい。高橋是清役の河野正明が特に素晴らしかった。「話せばわかる」人だけに、難題を吹っ掛けられても物腰柔らかに対応する。相手の意見もじっくり聞く。高橋是清という人はそういう人だったのだろう。それを十分に想像させる演技力だった。
今の問答無用、都合の悪いことは逃げる、説明も拒む政治に辟易していると、このような理を尽くし、反対意見も認めて進める政治がとてもうらやましく感じられる。この舞台に登場する犬養毅もそうだが、そうした気骨のある筋の通った政治を問答無用の銃弾で粉砕し、自分たちのやりたいことをやる。ここでは軍部がやりたいこととは戦争の遂行であったが、現在の政治も論議を避けて逃げ回り最後はやりたいことを強行している。今のところ戦争ではないからいいかもしれないが、やはり、こういう政治を見逃していてはヤバい。戦争に突き進んだ過去を嫌でも思い出してしまう。
「殉難」という言葉は古風な感じもするけど、今の時代に殉難が起きないことを切に願う。

忖度裁判

忖度裁判

ワンツーワークス

シアターX(東京都)

2020/10/31 (土) ~ 2020/11/08 (日)公演終了

満足度★★★★

鑑賞日2020/11/05 (木) 14:00

社会派劇のワンツーワークスの新作なので期待して出掛けた。裁判員裁判で何を忖度しているのだろうというところが最大の焦点だったのだが、そのあたりは少し分かりにくかったような気がする。
裁判員裁判で、裁判官と裁判員の関係は微妙だ。訴訟指揮という点では裁判官が行うので、裁判官の敷いたレールに乗っかって裁判員が判断するというのが大方の裁判員裁判である。この制度ができたときに、裁判所が求めたのは「司法に市民感覚を入れる」。では、裁判所に市民感覚はなかったのか。舞台ではそのあたりもチクリと描かれる。
強気の検察にそっと援軍するという裁判長の訴訟指揮が描かれる。そういうことは現実にあるのかもしれない。そのままいったら無罪判決になりかねず、そういう意味では世間の支持を得られない判決を書いたという法廷として非難されることになるからだ。
自分としては、評議の場面だけでなく実際の法廷も描いてほしかった。そして、検察と弁護側の論理もきちんと書いた方がよかったと思う。評議の場面と、裁判員の私的な葛藤のクロスオーバーは成功しているとは言えないのではないか。

JACROW#29「闇の将軍」シリーズ第3弾

JACROW#29「闇の将軍」シリーズ第3弾

JACROW

サンモールスタジオ(東京都)

2020/10/22 (木) ~ 2020/11/08 (日)公演終了

満足度★★★★★

鑑賞日2020/11/04 (水) 19:30

座席1階

第一話と第二話を見ているので、第三話の「常闇、世を照らす」を拝見した。安倍一強の独裁政治に辟易していると、金権政治といわれながらも田中角栄の人間的な側面、有権者への熱意などがとても新鮮に感じる。もちろん、刑事被告人となり有罪判決を受けた田中角栄をその面では評価できるものではないが、この舞台は、田中政治の人間くさいところをうまく表現していると思う。
舞台に登場する自民党の派閥の領袖たちもおもしろい。諸悪の根源と言われた派閥政治だが、今の自民党が安倍独裁で萎縮してしまい、さらなる独裁者管首相の強権的な振る舞いなどを見ていると、当時の方がよっぽど民主主義的だったと言えなくもない。
田中角栄、娘の真紀子、山東昭子はとてもよく似ている。大平首相は「あーうー」という物言いはまねしているものの、もう一歩かな。でも、似ているとかどうとかいう問題ではないのだ。それぞれの持ち味がよく出ていると思った。
このシリーズは日本の政治の権謀術数を描いている。今も当然そういうことは政治の一部としてあるのだが、やっぱり登場人物たちの力がそこそこ均衡していないと、舞台やドラマにしにくいだろう。そういう意味では、今の自民党政治はドラマにもなりにくい、つまらないものだと言えるかもしれない。劇場を出てそんなことを考えた。

私はだれでしょう

私はだれでしょう

こまつ座

紀伊國屋サザンシアター TAKASHIMAYA(東京都)

2020/10/09 (金) ~ 2020/10/22 (木)公演終了

満足度★★★★

鑑賞日2020/10/12 (月) 13:00

座席1階

終戦直後のNHKで、戦争の混乱などで行方がわからなくなった人を探すラジオ番組「尋ね人」の制作を舞台にした物語。戦争中は軍部が厳しい検閲をしたが、戦後はGHQが同様に厳しい検閲を強いた。占領政策を批判するようなものはご法度。当然、広島や長崎の原爆に触れるものも駄目だった。
舞台はピアノ演奏と共に進行する。ミュージカル仕立てでもある。長身の朝海ひかるが、ビシッと筋を通して検閲に楯を突く。枝元萌は軽快な動きで舞台を駆け回る。休憩を挟んで3時間を超えるが、長い会話劇も引き締まった空気で進んでいく。
日本学術会議のメンバー不承認など、事前検閲のようなことは今も行われている。こまつ座がこの演目を今、再演したのは非常にタイムリーなことだ。検閲は今でも行われている。そして、それに盾つこうという人たちはいる。こうしたことを考えさせられる舞台だった。

ブルーストッキングの女たち

ブルーストッキングの女たち

劇団青年座

東京芸術劇場 シアターウエスト(東京都)

2020/09/26 (土) ~ 2020/10/04 (日)公演終了

満足度★★★★

鑑賞日2020/09/28 (月) 18:30

座席1階

演出の斎藤理恵子さんがパンフレットで書いているように、ここに登場する男も女もとんでもない奴らばかりなのだ。青鞜社をつくった平塚らいてうとその周囲の女たちの物語だ。大杉栄などは自分勝手な女たらしもいいところで、今の時代なら絶対に糾弾されている人生だった。そういう意味では、時代に抱かれて自由に生きられた男女であった。
でも、さすがに「とんでもない奴ら」と切り捨てた女性演出家だけあって、伊藤野枝に厳しいところが随所に出てきて興味深い。自分の印象では野枝はバリバリ働いて自由奔放好き勝手に時代に背いている女性、という感じなのだが、この演出家はまるで時代劇に出てくる力なき女のように、よよと泣かせる場面をつくったのだ。

群像劇だから例えば島村抱月とか松井須磨子とか荒畑寒村とか、それぞれの場面を描いている。だがやっぱり、もっと野枝に絞って展開したほうが面白かった気がする。いっそのこと伊藤野枝物語にして、史実にはでてこないような野枝の素顔を膨らませて客席を楽しませるという切り口はあるかな、と思った。

ネタバレBOX

上記ネタバレは、野枝が千葉の寒村に捨ててきた息子との対面場面。思わぬ対面に感激して「何かこれでお買いなさい」とお小遣いを渡そうとしたが、息子にじゃけんにされる、という場面だ。野枝の母親としての心理だが、「とんでもない奴ら」だけに、際立って印象に残る。
星をかすめる風

星をかすめる風

秋田雨雀・土方与志記念 青年劇場

紀伊國屋サザンシアター TAKASHIMAYA(東京都)

2020/09/12 (土) ~ 2020/09/20 (日)公演終了

満足度★★★★★

鑑賞日2020/09/18 (金) 19:00

座席1階

若くして日本の刑務所で獄死した韓国の国民的詩人、ユン・ドンジュの物語。青年劇場に初登場となる温泉ドラゴンのシライケイタの脚本・演出ということで期待して出かけた。
福岡刑務所で鬼と恐れられていた暴力看守が殺害される。看守がきていた服からは一編の詩が書かれた紙が見つかる。所長に殺害犯の特定を頼まれた若い看守が収容されていた朝鮮半島出身の罪人たちの取り調べを始めた。「あんな暴力男に恨みを持っていないやつはいない」との供述が続出し、犯人は簡単に割り出せたと思われたのだが。

舞台は休憩をはさんだ後半に大きく動く。先の戦争中、朝鮮人たちを多く収容していた刑務所という極限的な舞台設定で、人間の優しさ、温かな心の動きなどが随所に顔を出すのがとてもいい演出だと思う。そのものは出てこないが、塀の外と中の凧揚げ合戦は、客席の想像力を膨らませる舞台設定だ。誰も見ていないのに、外で凧を揚げているのが小学生くらいの女の子という人物設定もすんなり受け入れられ、その心の交流に想像が膨らんでいく。シライ演出の妙だと言える。

青年劇場の演目では反戦劇が多く、今回もほぼ同じ方向性である。だが、シライケイタの劇作家としての、あるいは演出マインドがいつもの作品とは違うテイストに仕上げ、客席にこれまでとは違う風を吹かせたと思う。カーテンコールの拍手にそれを感じた。秀作だ。

ネタバレBOX

看守殺しの真犯人は、意外なところから判明する。当時の九州帝大が人体実験をしていたかどうかは知らないけれど、いかにもありそうという設定。最初に刑務所に帝大の教授と看護婦がやってきたときに「何かあるぞ」と感じなければならないのだが、その登場があまりに自然だったために、どんでん返しの伏線をつかめなかった。演出がすばらしいのか、自分が鈍感なのか(笑)

ラストシーンに近いところで出てくる詩の朗読には、心を揺さぶられる。泣きそうになる心を抑えるのに精いっぱいだった。ただ、字幕が舞台の凸凹の部分に当たって読みにくいのを再考してほしい。
拝啓、衆議院議長様

拝啓、衆議院議長様

Pカンパニー

シアターグリーン BOX in BOX THEATER(東京都)

2020/09/17 (木) ~ 2020/09/21 (月)公演終了

満足度★★★★★

鑑賞日2020/09/18 (金) 14:00

価格5,500円

昨年に続く再演。注目の裁判も終わっているが、再演の舞台はどう変わったか。初演に続いて足を運んだ。
昨年よりも、結論が重く感じた。命の価値に差をつけることが、空気感としてより強まっているからではないか。新型コロナで全国に差別感情が広がったからか。死刑になることが決まったのだから、あの一人の男の問題だからもう忘れていい、そんな無言の世論を感じたからか。

命に差をつけられない。何回見ても、結論は同じなのだが、そこに至るまでのルートが違う。再演を見て発見した。

センポ・スギハァラ

センポ・スギハァラ

劇団銅鑼

東京芸術劇場 シアターウエスト(東京都)

2020/09/17 (木) ~ 2020/09/22 (火)公演終了

満足度★★★★

鑑賞日2020/09/17 (木) 18:30

カーテンコールで役者全員が揃った時の皆の笑顔が輝いた。客席はいつもの半分以下だが、芝居が始まったという満足感のようなものだと思う。拍手をしている自分たちも、芝居を見られる満足感に浸された。
劇団銅鑼の伝統の演目だが自分は見るのは初めてだ。命のビザ、杉原千畝の物語。解説は無用だ。何も考えずに舞台に没頭できた。
杉原氏の人柄がよくわかる演出だ。ビザ発行で助けられるユダヤ人家族の物語も対比させながら、本国の訓令に逆らってまでも通過ビザを出し続けた杉原氏と緊迫した当時の世の中を浮かび上がらせる。
途中休憩(10分間)はない方がよかったか。もう少し前半の会話劇を精選して、2時間ちょっとに抑えながら一気に駆け抜けた方がよかったと思う。

ネタバレBOX

独楽が重要なアイテムだ。演出の中で削られそうになったエピソードがパンフレットに書かれていたが、これがあるとないとではだいぶ違う。逆にもっと強調してもいいアイテムだったような気もする。
音楽劇「風まかせ 人まかせ」~続・百年 風の仲間たち~

音楽劇「風まかせ 人まかせ」~続・百年 風の仲間たち~

新宿梁山泊

ザ・スズナリ(東京都)

2020/08/06 (木) ~ 2020/08/16 (日)公演終了

満足度★★★★★

鑑賞日2020/08/14 (金) 14:00

座席1階

このどうしようもない国、でも、愛すべき仲間たちがいるこの国に捧げるこれからの100年の歌。梁山泊らしさあふれる期待通りの舞台だった。

物語は、本日をもって閉店するライブハウスが舞台。ライブハウスといえば新型コロナウイルス感染のクラスターが発生したりして世の中から目の敵にされている。消毒、ビニールやアクリルによる遮断、マスク着用。これらが舞台ではきっちりと守られ、今の世の中を映し出す。演劇を観るということも後ろ指をさされそうな空気の中で、マスク着用の客席(椅子はいつものスズナリの半分だ)とともに、生の舞台こそ最高なのにという思いが充満する。(アベノマスクが捨てられるところはおもしろい)
本当は、梁山泊の本拠地・満点星で繰り広げたい舞台だ。しかし、スズナリも悪くない。役者も観客もマスク姿ならば文句はないだろう。ここで見て驚いたのは、金守珍(ライブハウスのマスター役)の声が通ること、通ること。ほかのメンバーたちも含めて、マスク越しに「普通の舞台」を演じるパワーを感じられる。
主役級の存在感がある中山ラビのほか、日替わりで登場するゲストも見逃せない。ちなみに明日と明後日は六平直政や小室等が登場する。もう一回見に行こうかな。
終戦直後の流行歌から、時代を追って「あの曲」が楽しめる仕掛けもある。でも、インターナショナルを一緒に歌える人は、もう、高齢者の部類であろう。

多様性が当たり前の国になるのはいつのことだろう。次の100年で実現するのだろうか。国の成り立ちからメルティングポットと自称したアメリカも分断するくらいの嫌な世の中だ。舞台中で金守珍が叫ぶ「韓国系日本人が認められるようになったら」という言葉に、強く共感する。

ネタバレBOX

梁山泊の舞台を支える水嶋カンナは今回、丸眼鏡を掛けた田舎っぽい感じの、ライブハウスのバイトの女性役。何だかよくわからない方言連発で異彩を放っているが、やっぱりこの人、マスクとメガネをとってビシッとせりふを決めるところがいい。そういう場面はこの舞台で、一度だけ訪れる。
フライ,ダディ,フライ

フライ,ダディ,フライ

劇団文化座

東京芸術劇場 シアターウエスト(東京都)

2020/08/06 (木) ~ 2020/08/16 (日)公演終了

満足度★★★★

鑑賞日2020/08/06 (木) 19:00

座席1階

新型コロナウイルスの感染拡大でながらくできなかった公演。劇団員たちの意気込みを感じる舞台だった。やはり、舞台人は舞台でこそ輝く。話しに聞くと、休館していた池袋の芸術劇場最初の演劇公演だそうだ。

三好十郎など文化座のアトリエ公演に「慣れて」いた身としては、久しぶりの文化座が席の間隔を広く取ったシアターウエストで、しかもこの演目というのは少し、驚いた。文化座としては、異色の演目と言っていいと思う。

話はテンポよく進んでとても分かりやすい。でも、ちょっとどうかな。ギャグがちりばめられていて面白いのだが、お笑いの切れが今ひとつ。一番面白かったのは、突如登場するおばあちゃんを演じる佐々木愛さんのコメディエンヌぶりだ。
物語の突拍子のない設定は仕方がない。あんな事件があったらまず、警察に通報だよなあ、と突っ込みを入れたくなるが、そんなことはどうでもいい話。やっぱり、舞台はおもしろい。ネット中継では味わえない空気感を久しぶりに味わった。

天神さまのほそみち

天神さまのほそみち

燐光群

ザ・スズナリ(東京都)

2020/07/03 (金) ~ 2020/07/19 (日)公演終了

満足度★★★★★

鑑賞日2020/07/08 (水) 19:00

座席1階

たまたまのタイミングということだが、別役実追悼舞台となったこの演目。別役不条理劇の中でも「最も不条理」といわれているそうだが、その面白さは抜群だ。「あなたの家の前を虎が通りましたか」を軸に進む壮絶な会話劇が展開され、恐ろしい結末へと突き進む。思わず食い入るように見てしまった。
シンプルな舞台装置。交錯する会話でも役者同士の方向性を崩さない演出が、分かりやすさを助けている。坂手演出の妙なのだろう。
何を言ってもオウム返しという、問答無用の「問答」は、何か反論を許さず決定事項には従えというような時代の空気を反映しているような気もする。

劇場は下北沢スズナリ。ギチギチの座席配置が当たり前だったのに、今回は左右に空間があり、足も伸ばせる。お客にはぜいたくともいえるゆったりの配置だが、こうなってみると、ギチギチで熱気むんむんのスズナリが懐かしい。

人間合格

人間合格

こまつ座

紀伊國屋サザンシアター TAKASHIMAYA(東京都)

2020/07/06 (月) ~ 2020/07/23 (木)公演終了

満足度★★★★

鑑賞日2020/07/08 (水) 13:00

座席1階

久しぶりに、舞台芸術の鑑賞。その皮切りがこまつ座だ。井上ひさしが描いた太宰治だが、太宰を通じて井上が客席に訴えかけているように感じる。
自分を追い込まないと書けない、という太宰。精神病院に入れられてしまうところなどがユーモアたっぷりに描かれる。1人何役もこなす脇役たちの演技が秀逸だ。見どころの一つである。
サザンシアターの座席を1人おきにゆったりとったコロナ対策の客席。見ている方は快適だが、劇団の興行としては苦しいはずだ。満席の客席が一体感を醸し出す。そんな演劇の日常が早く戻ってほしい。

新雪之丞変化

新雪之丞変化

Project Nyx

ザ・スズナリ(東京都)

2020/03/19 (木) ~ 2020/03/29 (日)公演終了

満足度★★★★

鑑賞日2020/03/25 (水) 14:00

座席1階

「アングラ女優トーク」と題するアフタートーク付きのマチネを見た。その中で、水嶋カンナともりちえが梁山泊の同期だと知った。梁山泊の舞台に出続け、ニクスを引っ張る水嶋はアングラ女優というイメージだが、桟敷童子で底力を発揮するもりちえはアングラ、という感じはしないなあ(笑)

さて、そのもりちえと水嶋カンナの化学反応を楽しみに見に行ったスズナリ。新型コロナで劇場はどこもすいているのだが、この日のスズナリはほぼ満員だった。やはり、もりちえの存在感はすごい。結構な悪役で、しかも大店・広海屋という男性の役だが、超早口のせりふの切れもよく、もりちえここにあり、という感じだった。

「女歌舞伎」と銘打って和ものに取り組むのはニクスでも珍しい。歌舞伎らしい演出もあったが、何よりラストシーンのどんでん返しがやっぱり梁山泊テイスト。今回も大いに期待に応えた。

「長崎の仇を江戸でうつ」雪之丞役の寺田結美は、一昨年の「星の王子様」にも出演している。今回は大抜擢という感じだが、「日本髪のかつらは重い」(アフタートーク)と言いながら、迫力ある舞台に仕上げて見せた。水嶋は「私は顔でスカウトしました。背が高いのもいい」と語っていたが、これから大きく羽ばたいて次世代アングラを背負う「アングラ女優」になってほしい。

きらめく星座【公演中止3月5日(木)~8日(日)】

きらめく星座【公演中止3月5日(木)~8日(日)】

こまつ座

紀伊國屋サザンシアター TAKASHIMAYA(東京都)

2020/03/05 (木) ~ 2020/03/15 (日)公演終了

満足度★★★★★

鑑賞日2020/03/11 (水) 13:00

座席1階

日本は先の戦争で、庶民の音楽にまで「敵性言語」を排除し、「非国民だ、銃後の守りとしてふさわしくない」などと摘発した。この物語は、どんな暗い時代にも流行歌を楽しむ庶民がいたことを、風刺の効いた舞台で表現した名作だ。

2幕もので休憩を挟んで3時間を超えるが、笑いあり涙ありで十分に楽しめる。オデオン座という横文字の店名のレコード店の娘が、バリバリの帝国陸軍傷痍軍人と結婚する、という設定だ。
市川春代の「青空」。この曲は、他劇団もキーポイントとなる設定・背景で使ったりして、流行した当時を知らない私なのだが、すっかりおなじみになってしまった。
パンフレットやチラシの図柄にも使われている防毒マスクの冒頭、ラストの演出がいい。防毒マスクで何を防ぐのか。焼夷弾の火や煙だけでなく、これまであった文化との隔絶を意味している、のだろう。舞台自体はとても楽しくて一緒に歌いたくなるような感じなのだが、この冒頭とラストに井上ひさしの鋭いメッセージが込められている。

新型コロナの関係で上演期間が短くなったこの舞台。終了後はスタンディングオベーションも起きた。「青空」のメロディーで、今が新たな「戦前」にならないようにと歌いたい。

京河原町四条上ル近江屋二階 ー夢、幕末青年の。

京河原町四条上ル近江屋二階 ー夢、幕末青年の。

Pカンパニー

東京芸術劇場 シアターウエスト(東京都)

2020/03/04 (水) ~ 2020/03/08 (日)公演終了

満足度★★★★

鑑賞日2020/03/05 (木) 19:00

幕末の、坂本龍馬暗殺の近江屋事件をテーマにした物語。舞台には案内役の女性と男性が登場し、竜馬と、同時に殺害された中岡慎太郎の夢が語られていく。
NHKの大河ドラマ「風と雲と虹と」の脚本を書いた福田善之氏の作・演出。パンフレットによると、もう88歳という大御所だ。近江屋事件に興味を持って半世紀、というが、事件のなぞ解きをやろうとしたわけではないという。描かれているのは竜馬と慎太郎に語らせている当時の志士たちの夢。それは妄想かもしれないが、休憩をはさんで2時間の舞台は、生のドラムやギターによる効果音とともに、なんだか懐かしいような青春ドラマのような香りで進んでいく。

ネタバレBOX

新型コロナ騒ぎの中で、堂々たる上演。入場時、観客全員に手指のアルコール消毒をお願いし、後日感染が起きた時の対応策として席番号と連絡先を記入するよう求めた。
延期や中止の判断をする劇団も多いが、このような形で上演をしているというのは、立派だと思う。
グロリア

グロリア

ワンツーワークス

赤坂RED/THEATER(東京都)

2020/02/27 (木) ~ 2020/03/08 (日)公演終了

満足度★★★★

鑑賞日2020/03/04 (水) 14:00

座席1階

物語はまず、雑誌の編集部を舞台にスタート。アメリカでは珍しくないと思うのだが、対人関係や職場に不満を募らせてしまったおとなしい社員が突然切れて、乱射事件を引き起こす。問題はここからスタートする。
事件に巻き込まれ、すんでのところで生き永らえた同僚、事件の直前にスタバにさぼりにいってしまい、巻き込まれなかったものの遺体が次々と運び出される現場を目撃した同僚、そして、別の部屋にいてまったく事件を見ていない上司。この3人がいずれも、その事件をネタに本を出そうとする。これもアメリカではよくあることかもしれない。版権争いに加わっていくのだ。
あまりにもあざといというか、人の不幸をネタに一儲けするという「マスゴミ」と言ってしまえばそれまでだ。だが、大事件をどう伝えていくかはジャーナリズムの本質であり、まっとうな仕事である。それではそのやり方に問題があったかといえば、事件現場を目撃した人に直接あたって話を聞くかどうかは取材のイロハのイである。
メディアのおぞましさを描いてはいるが、この舞台がそれだけかというとそれは短絡的だ。
書かれる人の立場を考えながらきちんと仁義を切って取材をし、どこまで踏み込んで書くのかは、ジャーナリストとしての矜持であり、事件記者それぞれのありようにかかわってくる。だから答えは一つではない。ただ一つ、現場も見ていないのにさも見ていたように書くのは捏造に等しい、とは言わなければならない。

答えは一つではないのだから、ラストシーンを見ると演出の古城十忍さんもかなり迷ったのだろうと推察する。事件を消費して生きていくメディア、そしてそれを見る人たちの前では、事件の関係者が事件の影響を拭い去って人生の新しい一歩をどう踏み出すかということに焦点が当たらず終わってしまう。グロリアの原作は読んだことはないが、もっと事件関係者のもがきみたいなものが前面に出ていたら、この舞台の印象はかなり違ったものになるだろう、と思った。

ネタバレBOX

新型コロナ関連で上演の延期や中止を決める劇団がある中で、ワンツーワークスは予定通り実施。だが午後2時開演のステージは、本来ならもっと満員であろうと思われるのだが、空席が目立った。劇団側の配慮か、一席置きに座らせてくれて、快適な観劇ではあったが。

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