満足度★★★★
前口上いわく「我々の隣人となりつつある」イスラム教をテーマに据えた、短編2本の舞台。26日の晩、Space早稲田で観て来ました。Ammoさんの『僕たちは他人の祈りについてどれだけ誠実でいられるか(仮)』【女たちの祈り】編(95分)。
ネタバレBOX
『六月の長い夜』
1967年6月の或る日の夜。エジプトの首都カイロに住む一組の夫婦。互いに敬虔なイスラム教徒でありながらも、西欧的な価値観で行動する妻に耐え切れなくなった夫は、ついに離縁を決意した。イスラムの教義に従い、自宅に招いた長老の許しさえ得れば、妻と正式に別れることが出来る…しかし長老は一向に姿を見せない。おりしも、聖地・エルサレムでは、敵国イスラエル軍による侵攻が最終段階を迎えつつあることを二人はまだ知らない。
『兄はイスラム原理主義者になった』
長年、引きこもりだった兄ジェームスがロンドンで過激なイスラム原理主義者になったと知った、ジャーナリストのエマ。彼女はジェームス本人に、自分の母や妹に、ジェームスと同じ宗派に最近入信した信者に、ビデオカメラを向けながらインタビューを試みる。どうして兄はイスラム原理主義に身を投じたのか? 兄と互いに理解し合えることはできないのか? インタビューを・対話を重ねるにつれ、エマの疑問と願いは…。
9月28日に拝見した『桜の森の満開のあとで』と同じく、南慎介さんのホンですが、まるで外国の作品のような乾いたタッチで描かれた舞台です。2作とも西欧社会・キリスト教社会の価値観とイスラム教義における価値観とのパラダイム(支配的規範)の対峙を通して、人間の「個」と「個」の間の断絶、その断絶を乗り越えての相互理解・宥和の可能性を問うた作品だと、自分は解釈しました。
でぇ~、かなり重いテーマです。転び伴天連で讃美歌も唄えるけど、浄土真宗の檀家でお経も読める支離滅裂なオイラ、観ているうちに考え込んでしまい、終演後も普段使わぬ脳みその回路、フル稼働したおかげで、その日の夜10時、頭がパンクしちまいました(笑)
100%の理解はできないまでも、自分と異なる価値観の存在を認め・尊重する…結局、この程度の凡庸な結論しか導き出せなかったのですが、宗教に限らず、政治・社会問題・レイシズム等々、今の世の中に点在する様々な衝突のインパクトを少しでも和らげていくには、それしかないのかな?
満足度★★★
正直、何回観ても難解!な作品だとは思いますが、実は当初、予定に無かった観劇ゆえ、普段なら、事前には避けている、他の方の感想ツイートの類、目を通してしまっていた怪我の功名⁉︎か、難解→拒絶反応とはならず、割と落ち着いた気分で味わえました。
ネタバレBOX
サンプリングに乗せて語られる「ワタシはヒトを殺しました」からの一連のやり取り、それぞれのペアで意味合いは違うのでしょうが、その意図までは察し切れませんでした。
あと、セリフ回しは、ラップではなく、まさしく台詞を口にしているのですが、徐々にグルーヴィーな感覚に囚われ、ラストまでグルーブ感に「吞み込まれた」ままで過ごすことに!…ということで、決して世間受けする内容ではないものの、不思議と、また「体験」してみたいという気にさせられた60分でした。
満足度★★★★
舞台美術は前作『量子的な彼女』に譲るとして、芝居としては、本作、よりクリアで足回りのいい(☜小型車のCMかぁ!笑)構成だなぁ、と感じました。
ネタバレBOX
「めんこい」という表現がしっくりくる藤本紗也香さんに、江口寿史作品に登場するポップ&不条理な美少女キャラの池田萌子さん…『量子的な彼女』から引き続きの役者さんが多い座組は、互いに息もぴったりで、まさしくNICE STALKER COMPANYといった趣き。さらに、配役は、ひょっとして当て書きされたのかな?と今でも半ば、そう信じている程に、それぞれがハマり役。
そんな見事なキャスティングの上で、「1999年12月チーム」「予言者3人組」「2017年の公園チーム」の各エピソードを、巧みなハンドリング操作で進行させていくのですから、面白くない訳がない!…という訳で、存分に愉しまさせてもらいました。
次回本公演、来夏まで待てないぞ!とイトウシンタロウさんに文句の一つも言いたいほど、次回作が愉しみな団体になりました、とさ♪
【追記】
山本光さん演ずる女子高生「光」の等身大の存在感、とても印象に残り…いや、目に焼き付きました、
満足度★★★★
不器用な男女の紡ぐ愛のかたちを、いまどき珍しいくらいの、愚直だが繊細なタッチで描いた2時間10分。ザムザ阿佐谷という器を通して増幅された、役者さんたちの熱気に終始当てられ、終演後も暫し腰が立たない程でした。
ネタバレBOX
佐藤健士さん、東澤(とうざわ)有香さん、主宰の小栗剛さんのキコ勢に、客演ながら、鶴町憲さん、春名風花さん、川上憲心さん、百花(ももか)亜希さん。昨年9月の『平日の天使、その他の短編』から引き続きの役者さんが多い座組、なんだか「キコ一座・奮闘公演!」みたいな感覚で、賑やかな序盤の舞台、眺めていました。
でぇ、本作のキーワードである「不倫」には前作『ミートソース・グラヴィティ』を、(今回は「戦争」でしたが)おはなしの推進力たる道具立てには同じく前作の『平日の天使』を、頭に浮かべながら観ていたんですが、舞台が進展…いや「急迫」するにつれて、前作の残像は霧散しました。音楽好きのアンちゃん・敏和を初めとした登場人物たちを、「愛」を描くためとはいえ、どうしてここまで追い詰めるんや!と半ば憤慨しながら(笑)、板の上から一刻も目をそらすことが出来ずにいました。
初めにも述べた通り、「終演後も暫し腰が立たない程」消耗しました。他の方のツイートにも同様の感想がちらほら。観客の五感をグリップして放さない、腕力のあるラブストーリー(&ピースもかな?)の舞台、全身で堪能させてもらいました。感謝!
満足度★★★★
代々木上原の駅から根性試しみたいな急な上り坂を、土砂降りのなか、傘をさして昇り切り、日頃から運動不足のオッサンの体力、約50%を消耗した状態で観てきました。
ネタバレBOX
レストランのコックとウエイトレスの不倫話が、同僚のコックの登場で、輪廻転生の壮大な?ドラマへとなだれ込む…最初の短編『ミートソース・グラヴィティ』は、主人公の、ごく平凡なコックの若者とウエイトレス、同僚のコックとの掛け合いの妙、奇想天外な人物設定共々、愉しませてもらいました。
お次の『赤猫の舌』は、安穏な暮らしと引き換えに、コトバ(詩)も・愛も・性さえも管理下に置かれた、近未来の東京に生きる「恋を知らない」若い男女が主人公。でぇ、「男女」なのにも関わらず、なんですけど、この主人公2人、どういう具合か、観ているうちに、『銀河鉄道の夜』のジョバンニとカムパネルラにイメージが重なってしまいました。もし今の時代に宮沢賢治が生きていたら、こんな話を書くんじゃないかな?
『赤猫の舌』を観終わっての感想でした。
10分間の休憩を経て始まったのが、表題の『平日の天使』、80分?程の中編です。
愛娘が感染したのは、原因も対抗策も全く不明の病気。しかも、最初に診断を下した病院の他は、どこの医院も診察さえ拒み、ネットで見つけた情報も何者かに即座に消されてしまう…事実婚とはいえ親子三人、それまで幸せな家庭を築いてきたクリーニング屋の夫婦は進退窮まり、協力者たちと共に、近くのスーパーに人質を取って立てこもり事件を引き起こす。世間の耳目が集まったところで娘の病を公表し、病気を治す新たな情報を手に入れようと…。
最初はコメディ調だったのが、段々とサスペンス&バイオレンスな展開に! 映画館で洋画でも観ているような気分に陥りました。
家庭で作ったカレーライスに入っている、せいぜい面取りした程度のゴツゴツしたジャガイモの食感…そんな肌に伝わる温かみみたいなモンが、セリフの端々に込められた、そんな素敵な3つの作品でした、とさ♪
満足度★★★
赤穂浪士が吉良邸に討ち入った元禄の年(1703年)。
大阪で起きた若い男女の心中事件を題材に、近松門左衛門が書いた人形浄瑠璃『曽根崎心中』。
未来成仏うたがひなき恋の手本となりにけり
当時の、そして現代でも浄瑠璃や歌舞伎の演目として人気のある、遊女お初と手代・徳兵衛の悲恋物語。若い人たちが取り上げると聞き、王子まで駆けつけました。
ネタバレBOX
上はサラリーマンから下は女子高生?までの、男女6人。歌舞伎における黒衣装束を身にまとった司会者に促されるまま、自身の「イチバン燃えた恋の話」を披露させられます。そして、その高揚した雰囲気のまま、台本を手にした6人は『曽根崎心中』を演じていくうち、知らぬ間に、3組のお初・徳兵衛へと…。
虚実ない交ぜの展開を通して、『曽根崎心中』の精神世界を、より浮き上がらせる80分(…だと、自分は理解しました、汗)。
現代の男女にお初・徳兵衛をオバーラップさせる、このアプローチ、正直いって、既視感ありありアリエール!
芝居が始まってから、しばらくの間、懐かしさのあまり、「遠い目」になったのは、そのせいかな?
もっとも、そのオーバーラップさせた男女が「3組のペア」であるところに、脚本家の非凡さが感じられます。なんせ、おはなしが進行するにつれ、『曽根崎心中』の世界がより多面的に…まるで万華鏡を覗いているかのように思えてきたのですから!
3本立った細いポールに、それぞれの「お初」が縛られ、ついには相対死(あいたいじに)する最後のシーン。バルコニー席の観客からは視覚的にまさしく万華鏡覗き状態、だったかと。
ただねっ! まっ、あくまでも個人的嗜好なんですけど、せっかく3組のお初・徳兵衛がいるんなら、その3組の色合いの差、もうちぃーと際立たせてみては? 各ペアの差異が小さい故、お話が少しおとなし過ぎるとか何とか…(以下、フェードアウト)。
普段はあんまし気にしないんですが、今回だけは他人様がどう感想を述べられているのか、ツイッター、目を通してみました…ぎょえ~! 皆さん、絶賛の嵐じゃぁぁぁ!
要らぬことを書いて、申し訳ございませんでした(反省)
満足度★★★
旧約聖書によると、人類最初の女性は、同じく人類最初の男性アダムの肋骨から作られた、とか。
そんな背景も関係するんであろう、劇団「肋骨」蜜柑同好会さんの『アダムの肋骨』、王子小劇場で観て来ました。
ネタバレBOX
12人のカノジョ…12人の女優さんがそれぞれの役柄をきっちりと演じておられました(なんせ、人の顔覚えるの、超苦手なオイラが、女優さん全員の名前と役柄、芝居の最中に完全に把握出来た位ですから!)。
とはいえ、やはり12名のカノジョ、各自のキャラを立てるため、無理に人物設定した感がありました。その為、各登場人物に必要以上に濃淡がついたようにも思えました。
人数、もっと絞った方がよかったのではないかと。
でも、まあ、それはさておき、決してスッキリとした後味の作品ではなかったのですが、役者さん達の好演、作品の持つ空気感、芝居観たなあ♪という充足感をもたらしてくれました。
万人受けする芝居ではありませんが、演劇好きな方には、お勧めの作品ですよ♪
満足度★★★
「西」武百貨店のある側が「東」口
「東」武百貨店のある側が「西」口
のJR池袋駅・西口から歩いて8分、池袋GEKIBAまで行って観て来ました。
ネタバレBOX
この芝居、真っ逆さまに落ちていく最中だった二人が何故か列車の座席にその身を委ねていたり、意思疎通を放棄したような一方的な会話のやりとりがあったり、といった広い意味での不条理劇、のようです。
でぇ、実は正直言って、演劇「好き」ではあるものの、演劇「通」ではないオイラには、作者の意図がよく判りませんでした。
ですが、何て言うか…そう! 舞台の登場人物たちであるオトナになっちまったコドモと一緒に、どっかの広場で「○○ごっこ」に興じているような気分にさせられました。
虚実ない交ぜのコドモらしい残酷さ&我儘さを伴った、だが、どこか懐かしさも漂う1時間強…先の読めない展開にワクワク・ドキドキしながら観劇させて貰いました。
なんか、英語の歌詞が判んないまま、メロディと唄声の情感だけで洋楽を語る(語る?)兄(あん)ちゃんみたいな文章になってしまいましたが、興味のある方は是非、池袋まで足を運んで、ご自身の目で確かめて下さい。
満足度★★★★
~「孤島の鬼」より~ということで、石井輝男の東映映画『江戸川乱歩全集 恐怖奇形人間』のような、猟奇的な・禍々しい内容のものを覚悟?して観に行ったのですが…
ネタバレBOX
案に反して(笑)、繊細な語り口の、観劇後も余韻が尾を引くような、佳品でした。
ヒロイン「秀ちゃん」の日記を通しての独白で進行する本作品。
(観客には、原作にある「誕生」の経緯は伏せたままだが)「シャム双生児」であるものの、精神も肉体も健全な状態にある二人の若い男女「秀ちゃん」「吉ちゃん」に訪れる、思春期への戸惑い・やるせなさ。そして、やがて「秀ちゃん」の心に芽生える、自立への強い意志…「秀ちゃん」の日記にフォーカスを当てているものの、「孤島の鬼」とは全く別のテイストのおはなしに「昇華」されていました。
70分の上演時間を出ずっぱりの、月船さららさん(役柄もあるが、テレビで拝見したときよりも、可愛らしい!声質)、若松力(ちから)さん(声を聴いていて、途中で、『旅とあいつとお姫さま』の「若者」役の方だと気づきました)のお二方による、説得力のある熱演が胸に迫る芝居です。
新宿ゴールデン街劇場という、腰痛持ちには鬼門!の小屋での公演、という障壁を敢えて無視して足を運んだのは、どうやら正解だったようですね♪
満足度★★★★
割と取っつきやすかった前作『愛の技巧、または彷徨するヒト胎盤性ラクトーゲンのみる夢』と違って、攻めてるなぁ!と体感させてくれた本作。ストーリーは、見かけ上は判り易そうでも、底流をなす思想?の高邁さには、凡人のオイラ、残念ながら、手が届きかねました…が、とにもかくにも、なんか凄いもん観せられた気分です。
あと、付け加えるならば、要所要所で登場人物達が放つ「フジタタイセイ」節全開の長ゼリフが、過去作品よりも一層冴えわたっていたように感じられました。
ネタバレBOX
役者陣。
まず、きだたまきさんの声質・セリフ回しが、個人的には、耳に心地よく感じられました。
それから、同じくメガネをかけた役柄なのに、『愛の技巧…』にも出演なされていた、ちゃづけさんは直ぐにわかったのですが、『愛の技巧…』の他にも何作か舞台を拝見している窪寺奈々瀬さんの方は全く彼女とは気づきませんでした。自分の視る目のいい加減さ、痛感させられました(苦笑)
【千秋楽後の追記】
サン・テグジュペリの『星の王子さま』に範を取ったと思われるストーリー
タイトルの『遠き山に陽は墜ちて』の歌詞
から、「出逢い」→「友情・愛情」→「別れ」→「永遠の絆」というコトバが断片的に頭に浮かんだのですが…
公演が終わるまでの間、いろんな方の、いろんな感想、拝見させてもらいました。
>劇団肋骨蜜柑同好会『遠き山に陽は墜ちて』、昨日観劇しました。
>哲学的で文学的で、とても美しいなと全体的に思いました。
>ひとりぼっちは、ひとりぼっちじゃないから、ひとりぼっちだと感じるんですね。
>現実と虚構の中間地点を、ずっとふよふよしてる感覚がとても心地よかったです。
>千秋楽、お疲れ様でした。
自分がどうしてもコトバにして表せなかった『遠き山に陽は墜ちて』への想い。
まさに、この
>ひとりぼっちは、ひとりぼっちじゃないから、ひとりぼっちだと感じるんですね。
だったんです!
このツイートの主、小劇場演劇の舞台でよく見かける、まだ若い女優さん。
梁稀純(りゃん・ふぃすん)さんに感謝!デス。
満足度★★★
昭和生まれの役者さん達のチーム、すなわち「こっち側」チームの回、21日のソワレ(夜公演)で拝見。
でぇ、昨夜(24日)は、平成生まれの役者さん達のチーム、すなわち「あっち側」チームの回、観て来ました。
ネタバレBOX
オイラは当然、昭和生まれなもんで、「あっち」「こっち」な訳なんですけど、とはいうものの、オッサンの目からすれば、どちらのチームの役者さんも区別がつかないくらい若い・若い(苦笑)!
さて、ホンは同じなんですけど、演じるヒトが違うと、芝居の印象、変わって来るもんなんですね。日記がつづられた一冊の大学ノートを巡る3人の若い女性達の1年間の出来事…昭和チームのは(そんな時間設定ではないんですが)一連の出来事があって、さらに1年経ってから、ヒロインが振り返っているようなセピア色のトーン。他方、平成チームのは、今、まさに進行中のパステルカラーのトーン。
ヒロインとルームシェアする同級生だったスタイリストとの関係も、昭和チームはスタイリストの友人の方が主導権を握っているように、平成チームはヒフティ・ヒフティに、自分の目には映りました。
どちらが好みか?…それは人それぞれだと思いますが、自分としては、そんなに深刻な印象を受けずに、ポップな感じがした平成チームよりも、昭和チームのしっとり感の方がより肌に合うかなあ。
いずれにしても『面影橋で逢いましょう』、ラフメーカーさんという劇団さんにとっては、小さな宝石箱のような作品。いつまでも大切に演じていって頂きたいと思います。
【追記】
ラフメーカーさん、活動停止なされたようですが、『面影橋で逢いましょう』、どなたか再演してくれないかなぁ。
満足度★★★★
この作品、最初に拝見したのは2年前の秋。
私事で恐縮ですが、その年、2013年は、手術を3回喰らい・入退院を繰り返した、自分にとって大厄難の年。
ということで、すっかりヘコんでしまっていた当時のオイラ、「すっかりヘコんでしまった陽子」さんに、すっかり感情移入してしまったこと、今でもはっきり覚えています(笑)
さてさて時は流れて…昭和生まれの役者さん達が演じる、今回の『面影橋…』。
ネタバレBOX
初日の舞台故か、演技の固さ、見え隠れする場面も散見されましたが、総じて、繊細で、しっとりとした作品の良さ、再び味わうことができました。
特に、ヒロイン役・冬月ちきさんの困り顔? まさに「陽子」そのものでした!
満足度★★★★★
杉並区の劇場施設「座・高円寺」さんで、2009年の開館時以来、毎年、上演されてきた舞台。私も過去数年、季節の風物詩のように拝見してきた作品のファイナル公演です。
ネタバレBOX
イタリアの演出家の方が、日本の子供たちのためにつくった、オリジナルの作品です。
子供たちの、と紹介しましたが、オトナが観ても十分鑑賞に堪え得る…いや、そんじょそこらの芝居じゃ太刀打ちできないほどの、極めてクオリティの高い舞台です。
特に、劇中、現代の日本人作家ならば、子供向けの作品だと躊躇うような「残酷な」描写もあるのですが、それすらも美的感覚に優れた演出の施されように、刮目させられました。
軽妙なクラリネットの調べが流れたかと思うと、イタリア歌劇のテノールが響き渡る劇伴。
観客の想像の翼を広げさせる、シンプルかつビジュアルな舞台美術と衣装。
あるときは優雅に・あるときは弾けるような、お姫さま役・辻田暁(つじたあき)さんのコンテンポラリーダンス。
個人的には、2011、12,13年、そして今回と拝見してきたのに、来年からは観ることが叶わないなんて!!!
名残惜しいばかりの舞台でした。
満足度★★★★
昔、モノクロの映画で観たことがあるんです。
幼少期の熱病のせいで、目が見えず・耳も聞こえず・ただうなるだけの野猿のような少女・ヘレンケラーと、彼女にコトバを教えようと決して諦めずに対面し続けたサリヴァン先生とのものがたり。
ネタバレBOX
サリヴァン先生役の萩原萠さんという女優さん。
映画の同役と同じように、華奢なカラダにそぐわないほどの強い意思と、それでも、どうしたらヘレンの心を開けるのか!と悩み続ける心のゆらぎ…まさに演技で体現されていました。
ヘレン・ケラー役の、わかばやしめぐみさん。
実はこの方の舞台、何回か拝見しているんですが、ひと言で言えば、物凄い(笑)役者さん、です。今回も最後のひとセリフを除いて、ア~とかウ~とか、うなるだけの、いわば、パントマイムのような難しい役柄。それでも、彼女のヘレンケラーが登場した途端、観客席の全ての耳目が彼女のもとへ! その集中と静寂を呼び起こした、彼女の存在感に総毛立つ思いがしました。
場転(場面転換)。
お芝居でよく用いられる暗転ではなく、演者たちが、おはなしの舞台であるアメリカ南部の民謡を歌いながら、灯油の一斗缶2缶ほどの「積み木」状の立方体を並べ替えて、或る時は駅のプラットフォーム、或る時は室内のドアや窓辺…に見立てる手法。
フライヤーで、構成・演出の方は、こうした小道具の演出を「想像力をひらき合うため」と力説されてました。事実、大変、効果的な演出だと感じました。感じました、けどねえ…わざわざフライヤーで触れなくても、ヘレンケラーと違って、昨夜の観客は目も見えるし・耳も聞こえるんだから、「言わずもがな」じゃないかなあと、あまのじゃくは思いました。
料理人は料理を語ることなかれ・ただ供して顧客の評価を待つのみをもって貴しとす
満足度★★★★
3日(金)の夜、前夜の『ゲイシャパラソル』に続いて、観て来ました。
フライヤーの右側、何やら、おどろおどろしい方(笑)、『江戸系 諏訪御寮』。
ネタバレBOX
江戸系 諏訪御寮』は、2014年3月、下北沢での初演を拝見。これ以降、あやめ十八番さんの舞台をフォローする、きっかけとなった作品です。
今回は「肉親の情」がテーマでしたが、過日の『ゲイシャパラソル』の感想でも触れたように、ヒトの心の機微を丁寧に描いた、現代の人形浄瑠璃、といった作風に、強く心惹かれます。次回作が愉しみな団体さんです。
主演の諏訪琴美役・金子侑加さん。
以前、舞台以外の場面で拝見した際、相当、気の強い方だなぁ(震)と感じましたが、そんな彼女の気迫、といったものが初演同様…いや、それ以上に、ビシバシ伝わって来ました。
他のキャストの方々も好演でしたが、金子侑加、彼女ひとりだけを観ていても、充分、もとの取れる舞台でした、とさ♪
満足度★★★★
フライヤーの左半分、派手な方(笑)。あやめ十八番さんの『ゲイシャパラソル』、2日の夜、新宿で観て来ました。
ネタバレBOX
芸者・仇吉(あだきち)を中心に、同じ置屋の同僚や、パトロンの地元選出代議士、隣国の大富豪…といった面々が、未来の日本という設定ながら、人形浄瑠璃的な「情」の世界を展開していきます。
劇中、登場人物たちが披露する、お座敷芸な踊りに小唄…あやめ十八番さんの作品、番外の一人芝居も含めると6本拝見していますが、いつも以上に、和のテイスト満載の2時間でした。
それから、今回、特に感心したのが、わかり易さ。登場人物達の「謎」の部分が、上演時間の中で全て語り尽されていたので、観終わってから、スッキリ納得♪
ただ、我がまま言えば、少しは「謎」の余韻、残しておいても欲しかったかなぁと。
まだお若いのに、着物の着こなしも所作もシャキ!としておられた、小口(おぐち)ふみかさん。
登場時にはド悪党に見えたが、仇吉を奪い合う過程で、人間、そんな単純なもんじゃない!と伝わって来た、代議士役の和知龍範さんに、隣国の大富豪役・塩口量平さん。
登場時どころか、最後の最後まで、まさに「ゲスの極み(笑)」な人物…にもかかわらず、「情の深さ」や「モノの憐れ」を一番体現されていた、森川陽月さん。
役者陣の中で、個人的に印象に残った皆さんですが、他の方々もしっかりと、ものがたりの世界に溶け込んでいて見応えたっぷり!
お席がSOLD OUT、当日券が出るかどうかの盛況でなければ、もっと・もっと自主的に(笑)宣伝に努めたい舞台でした、とさ♪
満足度★★★★
参道の草だんご屋さんを舞台とした、あやめ十八番さんの『雑種 晴姿』、池袋で観てきました。
ネタバレBOX
老舗の団子屋・小堀屋。主人である父親が入院不在の中、母と娘3人、そしてお手伝いさんの女手だけで店を回す日々。でぇ、おはなしは、せっかく高校3年まで進んだのに、ドロップアウト気味の小堀屋の三女と、その彼氏との成り行きをメインに、喫茶店のマスターと彼を励ます亡き妻の幻影、めったに当たらない易者と謎の女(実はお稲荷さんの化身)、ある願掛けのために百日詣をしている若い女、の各エピソード、小堀屋の日常描写を合い間にはさんで、テンポ良く語られていきます。
あやめ十八番さんの前作『長井古種 日月』が、この劇団さんにしては奇想天外(注.それはそれで評価できます)だったのに比べると、本作は「手慣れ感」の強いもの。さらにテンポの良さまで加わったのですから、今までの作品の中では、個人的にイチバン手が合いました。
あと、印象に残った役者さんなんですが、まずは、もちろん(笑)! メインエピソードのヒロイン・三女役の小口ふみかさん。
それから、喫茶店のマスターの亡妻役・片桐はづきさん。ロ字ックさんの『媚媺る、』以来となりますが…またもや胸にグッと来ました、とさ。
満足度★★★
1月に、千歳船橋・APOCシアターでの番外公演・大森茉利子一人芝居『肥後系 雪燈篭』(60分)で、いかにも、あやめ十八番さんらしい作品を観てから、3カ月後。
今度は、馴染みの蕎麦屋に顔を出したら、お蕎麦と蕎麦湯の代わりにカルボナーラとコーラを出されて、こーら、ビックリ!…な内容の本公演、小雨降る日暮里で観て来ました。
ネタバレBOX
巫女(祈祷師?)とか、江戸時代の人形師とか、昭和の女学校とか花柳界とか…しっとりした情感が持ち味の、あやめ十八番さんが、時間軸やら・UFO(バスガイド添乗、笑)やらと、思い切った設定、おはなしに持ち込んで来ました。
実は、同劇団さんの舞台観劇も回を重ね、そろそろいいかなぁ、という気分だったんです。それが、最初は違和感てんこ盛り(笑)の新基軸…だったんですが、途中からは、まあ、これもありかなぁ、と評価が好転しました。意外と作風に固持しがちな小劇場演劇の世界にあって、果敢なトライ、心からエールを送ります。
ご出演の役者さん。
オイラが観た舞台では全て、女ったらしの役だった、和知龍範さん。今回は…違いました(笑)。見た目も所作もセリフ回しも良い役者さんです。もっと大きな舞台で観てみたい方です。
渋谷で拝見して以来となる、母親役の花村雅子さん。リアルでも可愛らしいお嬢さんの
お母様である彼女。背中から伝わって来る母性愛、ちょっと目頭がじわぁーと来ました(苦笑)。
登場した瞬間から目を見張った、黒沢佳奈さん。とてもウチの大学出身者?とは思えないほどスタイル抜群。役柄ともマッチして、好演でした。
演出上の指示とはいえ、無理し過ぎかな?と感じられた役者さんも目にしましたが、総じて良い舞台でした、とさ♪
満足度★★★★
3月に観た『江戸系 諏訪御寮』というお芝居、大層、オイラの趣味と手が合いましたもんで、じゃあもう一回♪ということで、今日(27日)観てまいりました。
ネタバレBOX
教え子の女子高生に手ぇ出しまくりの、教育上ヨロシクナイ!高校教師を軸に、おはなしは進みます。
設定A(メインのストーリー):くだんの高校教師は、全国大会出場を目指す女子高の演劇部顧問。部員の何人かとは性的交渉済み(おいおい!)。ところが、或る日、新たに入部してきた1年生の中に…
設定B:彼が新人教師だった頃。この頃から、教え子に手ぇ出しまくり(こりゃこりゃ!)だったんですが、そのうちの一人と、いつしか本当の恋に落ちて…
設定C:上記の設定Aで、全国大会への演目として選ばれたエピソード。太平洋戦争末期、神社に避難した村人たちを襲ったB29の編隊を、亡くなった夫や家族たちが水色の獅子にまたがって追い払った、という地元に伝わるものがたりの世界。
設定D:そして現代。一人の女性記者が神社を訪ねてきます。以前、この神社の境内で自殺した高校教師のことで…
といった具合の、幾重にも重なったミルフィーユ構造のお芝居ですが、観ている側にはスムーズに話が入ってきます。
規律にうるさい女子高の演劇部だけあって、発生練習のシーンのみならず、普段の挨拶や応答も、声を張り上げて、のセリフ回し。
それと相反する、どこか物悲しげな、女性出演者たちのコーラス。
ピアノ・サックス・ヴァイオリン・ウッドベース・カホン(打楽器の一種)の生演奏も相まって、聴覚的に、観客の感情が幾度も揺さぶられます。
芝居が終わって、ふと気付いてみれば、あのトンデモナイ・クソ高校教師に、あろうことか(笑)シンパシーまで感じる始末。
単純な善悪論では割り切れない、人間の脆さ・尊さ、じんわりと胸に沁み込んできた、お芝居でした。
なお、役者に関しては、一にも二にも、高校教師役・和知龍範さんの好演が印象的でした。
満足度★★★★
フライヤーに惹かれて、下北沢の(柱が邪魔な、笑)L字の劇場まで足を運んでしまいました。
ネタバレBOX
祈ることで、死んだはずの赤子まで蘇らせる、ヒト喰い鬼を祭る社(やしろ)。ただし、それは命を借りた、ということ。いつの日か、家の外からコツンと小石が当たる音がします。そう、それは鬼が貸した命の代償を取り立てに来たのです…
時代設定は「現代」なんですが、反抗期の孫の前に少女の姿で現れた祖母と孫との恋愛悲話、娘や孫娘を犠牲にしてまで命永らえる女(彼女は孫娘の姿で「祈り屋」として現世に残り続けています)などなど、といったエピソード満載の、伝承民話テイストのおはなしです。
で、そんな「伝承民話テイスト」にもかかわらず、場面転換の際、キーボードやサックス、ヴァイオリンの生演奏が、場の雰囲気にそぐわない(☜他のヒトの意見、笑)洋楽・邦楽のオールディースを奏でます(「口直し」的で、ワタシには好感度大でしたけど)。
役者さんは老若男女そろい踏み。とりわけ、小劇団の観劇ではめったにないことなんですが、ワタシより年上!の女優さん、声音がおはなしとすごーくマッチ♪した演技に、とても感銘を受けました。
…とつらつらと感想を書き連ねてみましたが、どうも文章では表現し切れない、不思議テイストなお芝居でした。今日が千秋楽でなかったら、もう一度、観てみたかったなあ!