タッキーの観てきた!クチコミ一覧

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CHOICE

CHOICE

Charmer Company

劇場HOPE(東京都)

2017/04/26 (水) ~ 2017/04/30 (日)公演終了

満足度★★★

チラシの絵柄は祈るような…作・演出の千賀多佳乃 女史は当日パンフでこの物語は「宗教の話ではないのです。人の心の話なのです」と書いている。もっとも挨拶文の流れからして宗教に無関係ではなく、そこは十分意識していることが分かる。

特に「パレスチナ問題」(「問題」という表現が相応しいかは別)を連想させるような展開である。サミュエル・ハンチントンの「文明の衝突」を再読したくなるような…この公演で描かれる宗教の変遷、布教内容は二大宗教の対立という単純構図である。「ベルリンの壁崩壊」「ソ連邦(国家体制)の崩壊」以後はイデオロギー対立よりも宗教で特徴付けられることが多いと言われている。
この公演もそうした宗教(観)を意識している。宗教上の対立が直接の契機ではなく、民族紛争・地域紛争・政治闘争・テロ行為などが絡んで勃発する、そんなことが垣間見える。
公演は、男女2人の主人公が牽引するが、それは「ロミオとジュリエット」をイメージさせる。シェイクスピア戯曲の”家”の確執を”宗教”に置き換えて、その無情にして無常を嘆くあたりは面白い。
(上演時間2時間30分 途中休憩10分)

ネタバレBOX

舞台セットは、白基調の石造りの街をイメージさせる。左右に非対象の階段、下手奥には傾斜・坂道を作る。そこに色彩豊かな照明を当て情景・状況を現す。

レクティ教とウニ教が過去の諍いを乗り越えて共存しているが、それは表面上のこと。そこには土地を中心とした恩讐が渦巻いている。宗教という正面からは表現し難いテーマ、それを今の世界情勢に人間(個人)の愛という普遍的な思いに背負わせて観せる。その視座から分かり易く展開しようと試みており、物語の捉え方としては面白いが、冗長(丁寧に描こうと説明過多)だったと思う。特に前半、土地(イメージはエルサレムか?)を中心に、そこに住んでいる信仰宗教が違う人々の差別と貧困、表面的な平和と平等への懐疑心を描いている。そのシーンが多いような…。いくつかのエピソードを挿入し、あとは観客の想像力に委ねてもよかったと思う。

冒頭、「オ-バーの選択日」として、一定の年齢に達した時(学院卒業時?)にレクティ教かウニ教の選択を行わせるが、そもそも政治的・経済的な不均衡の中で、真に「宗教(信仰)の自由」が選択出来るのであろうか?物語の根幹に疑問が残った。

また、IS(千賀女史によれば、現在ではDaeshと呼ばれていると)の行為、それが個人的な復讐に端を発している。演劇的な戦闘シーン、政治的な駆け引きの見所もあった。それだけに見せ場、盛り上がりに強弱があった方が印象深い。
見せ方は、宗教の違いを色…レクティは青、ウニは赤という違いで、群集シーンは識別させるなど工夫をしていた。

なお自分が観た回は、何人かの役者が台詞を噛んだり言い直したりしており、緊張なのか練習不足なのか、いずれにしても残念であった。

次回公演を楽しみにしております。
光と影からの恵み

光と影からの恵み

BuzzFestTheater

萬劇場(東京都)

2017/04/26 (水) ~ 2017/04/30 (日)公演終了

満足度★★★★★

登場人物全員が善人であり、それぞれを思い遣る、そんなヒューマンドラマ。自分の大切な人をもっと愛おしくなる。その人のために二度と来ない自分の人生を必死に生きようとする。
生まれ出悩み…人は生まれた瞬間から死に向かって歩み始める。人は何のために生きるのか。この公演では直接答える訳ではないが、生きていく中で味わう喜怒哀楽が夫婦という絆を通して描かれる。その普遍的なテーマを現実的な人物描写や視覚的表現でしっかり観せる。
その観せ方、舞台美術、技術(音響、音楽、照明など)が大きな効果を果たしている。
観劇日は補助席が用意されるほど盛況であり、この劇団・公演の人気のほどがうかがい知れる。
(上演時間2時間)

ネタバレBOX

舞台セット…場内に入った途端、その店内に入ったようで、家族・店に来る人達に混じって自分(観客)も同席しているような心温まる感覚になる。観客に如何に感情移入させるか工夫しているところに好感が持てる。

舞台は東京にある沖縄料理店。上手側に座敷、下手側にカウンター席、テーブル席が設けられ、カウンター内には沖縄の酒(泡盛)。上部には祭りの時の飾提灯が吊るされている。その点滅が照明効果の役割をしている。それ以外にも沖縄をイメージさせるポスターや品書きを貼るなど、雰囲気作りに力を入れている。

日常の坦々とした生活に変わらぬ幸せがあるが、それを芝居の中で観せるには色々と工夫が必要で、観客を飽きさせないことが大切。そこに病という死の影を落とし見せ場を作り出す。水面に波紋を…見事な展開である。

冒頭、赤ん坊を寝かしつけるシーンから始る。主人公・坪内光央(藤馬ゆうやサン)と妻・恵美(上原多香子サン)の娘である。一方、光央の闘病生活は死を強く意識させる。生まれ出悩みのように、生・死を見つめるような対比が見事に描かれる。
その見せ場が、病魔に侵され咳き込む姿、切ない現実を突きつけるが、同時に背中をさすり介抱する妻。その夫婦の愛情、周囲の人々の温かい思い遣りに人の滋味が感じられ、観客に深い感動を与える。愛情は、時に観るのも辛くなる様なシーン、その現実を引き離す役割を持っていたようだ。さらに沖縄の唄、踊りが精神的な安定をもたらすようにも感じる。もちろん日本各地にも同じように唄・踊りはあるが、独特な…原酒と水割りの違いのような”濃さ”で楽しませてくれる。

夫婦とは楽しい時(光)だけではなく、悲しい時(影)もある。それを共有し分かち合う、そんな光景が観て取れる秀作。
次回公演も楽しみにしております。
独立愚連飯店

独立愚連飯店

トツゲキ倶楽部

「劇」小劇場(東京都)

2017/04/19 (水) ~ 2017/04/30 (日)公演終了

満足度★★★★★

「観てきた!」を書いているのが「昭和の日」。昭和の時代には色々な出来事があったが、やはり戦争の記憶ではなかろうか。自分も直接の体験者ではないが、色々な人から戦地や銃後の事を聞いている。今を生きている”生”とは地続きある。

本公演は紛れもなく反戦がテーマ。今、朝鮮半島で きな臭さ を増す中で、時事に合った、そして人間賛歌を謳い上げた秀作。
映画好きであれば、タイトル「独立愚連飯店」から「独立愚連隊」その続編「独立愚連隊西へ」を連想するのは容易い。当日パンフで、脚本・飛葉喜文 氏のつぶやきにも敬愛する岡本喜八監督に捧げます、とある。その映画の主人公・視点のようなものを、本公演では別の視点で担わせているところも面白い。
また「JSA」という韓国映画も連想させ、戦場においても”人間”という個人の思いが優先するような…。
(上演時間1時間40分)

ネタバレBOX

戦時中のある食堂が舞台。政治・軍事的における地政学という領土について、直裁的な表記を避け、東・西・南・北という記号のような呼び方。テーマからすれば戦闘・紛争地域を直接的に連想させることなく、普遍的なものとして観客に考えてもらう、という感じである。

ことさら戦闘シーンを強調しなくても、人間にとって最悪の不条理が観て取れる。その舞台セットは丸テーブルが3つとその周りに椅子があるのみ。冒頭は下手側にある丸テーブルで男たちがポーカーに興じているシーンから始まる。
その食堂に敵(東)国の兵士2人が入ってくる。脱走兵かスパイか、その目的を巡って疑心暗鬼の喧々諤々が起こる。東国ではポーカーもない管理社会として描かれ、管理社会に対する独立自由を謳歌するような対比も見せる。

また、店がある西国が負け、占領下におけるレジスタン活動へ。その活動が今、国会で論議している共謀罪へ結びつけるところがシュール。

役者による状況描写は巧く、ゲームに興じた笑い、戦時下の緊迫した様子など緩急ある演技と音響効果-軍靴の音が段々と大きくなる、という不安と不穏感を煽る。映画「独立愚連隊」では、主人公が従軍記者という設定であるが、この芝居ではクーちゃん(前田綾香サン)が戦場記者・カメラマンとして第三者的というか突き放した視点で見ているようだ。
戦争が起きると多くの死者が出て、その遺体一つひとつに遺族の記憶と感情が宿り悲しみにくれる。利害などが対立する国際社会で”共存”の道を探らなければ戦争・紛争は収まらないのは自明の理であろう。

独立愚連飯店は国家の思惑ではなく人間が集う場所。そして楽しく食する意味で独立している、本公演はその矜持を観ることになる。

次回公演を楽しみにしております。
ダズリング=デビュタント

ダズリング=デビュタント

あやめ十八番

座・高円寺1(東京都)

2017/04/19 (水) ~ 2017/04/23 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

【西洋画版】
客席という安全な場所から貴族という特権または富裕層の生態を覗き見るようなドキドキ感が堪らなく心地良い。公演の舞台美術が素晴らしく、会場に入った途端、物語の世界観に誘われる。観客は視覚から様々な物語を想像し、感覚を目覚めさせ開演が待ち遠しくなる。
公演は様々なテーマを孕んでいるが、それが広がり過ぎると物語を繋げるのが難しくなっただろう。先に記した視覚表現の巧みさに加え、登場人物の性格付けや立場などが丁寧に描かれ、2時間30分の長編であるが飽きさせることなく観(魅)せる。
(上演時間2時間30分 途中10分間休憩)

ネタバレBOX

舞台セットは高円寺・座1の天井部に近い通路まで使用し、登場人物が舞台下を眺める。その俯瞰したような視線は、見方によっては見下したような意味合いを持たせていたようだ。
舞台板は三方に違う空間を作る。上手側は館主人の寝室であり、中央が大広間、下手側に応接および別空間の牢獄を出現させる。天井からは額に入った夫人の肖像画が吊るされている。

梗概…第1幕は、貴族社交場での狡知、虚栄、嫉妬、羨望など虚飾の世界を妖艶な雰囲気を漂わせる。その華麗な社交場(館)の外では奇病(黒死病-ペストのよう)が蔓延し民が恐怖に慄いている。奇病の発症状況について、一見館内(特権階級)は安全と思わせるが、徐々に侵食してくる。また階級と貧富の違いを鮮明に現す仕掛けが牢獄である。第2幕は、下層民(獄に繋がれていた男)が貴族の虚栄の間隙に入り込み、強請脅迫をするようになり悲劇が…。物語は貴族という特権階級でも下層民でもなく、その中間的な市民階級である医者が狂言回しの役割を果たす。

物語は仮想世界…そこに見える人間の本性のようなものは、場所や時代に関係なく自分の感情を揺さぶる。決して気持ち良いとは言えず、むしろ嫌悪する醜さがある。仮面を付けた舞踏は優雅であるが、その下に隠された邪悪な心は、意識無意識に関わらず人が持っている感情であろう。

その表現は、階級・立場をしっかり体現しており魅了してくれる。重層な展開、華麗な雰囲気は第一級の芝居。そのタイトルは「デビュタント」に相応しくない洗練された公演であった。

次回公演を楽しみにしております。
「新宿コネクティブ アナザー1975」

「新宿コネクティブ アナザー1975」

演劇企画ハッピー圏外

TACCS1179(東京都)

2017/04/20 (木) ~ 2017/04/26 (水)公演終了

満足度★★★★

タイトルから明らかなように、1975年の新宿の街を舞台にした物語。当時の情景や状況を背景に、ダークな生業をしている男が、ある女性から依頼された事を解決しようとして、大きな事件に発展していくさまを軽快なテンポで観せる。
(上演時間1時間40分)

ネタバレBOX

舞台セットはシンプル。表現しにくい不思議な形をした衝立(非対称)が2つ。いくつかの市松模様の電話台(携帯電話が普及する前のため固定電話)がある。

冒頭、中国人が経営する中華店、闇カジノ、新宿警察署など人種の坩堝、清濁混在した組織を登場させる。何でもありの新宿という”集”としての街、その世界観を出現させる。さらに新宿二丁目のマイノリティー、新宿ゴールデン街で働く女性達を登場させ、人間の生き様という”個”の部分も描き出す。
さらに三菱重工ビル爆破事件、その過激派運動も見せて、時代・社会が浮き上がる演出は巧み。また、今はない量販店名、固定電話、都庁が建築中という言葉にも懐かしさを覚える。

梗概...闇カジノで受けた依頼事は友人の記憶を取り戻してほしいというもの。東北の富豪の一人娘・使用人の娘、その二人の苛め・蔑みVS嫉妬・羨望という差別を描きつつ、いつの間にかその立場が入れ替わるようだ。キャストはどちらの娘を演じているのか混乱させるほど人物造形が自由に動く。ラスト、自殺しようとする娘を登場人物すべての人が手を広げて受け止めようと...。新宿の街はそれほど懐が広いという、雑然とした街のイメージを逆手に取ったラストシーンは印象的であった。

目まぐるしく衣装を着替え、小物(ヘルメット、量販店の法被等)を持ち変え雑然さを表す。「嫌われ者の絆が謎を解く」というチラシのキャッチコピーが物語を象徴している。この劇団の特長であり好きなところは、前半のポップで少し緩い進みから、後半は謎解きに向けてたたみかけるような展開に思わず前のめりになるところ。

次回公演も楽しみにしております。
大神家の一億

大神家の一億

劇団ハッピータイム

ブックカフェ二十世紀(東京都)

2017/04/22 (土) ~ 2017/04/23 (日)公演終了

満足度★★

タイトルは「犬神家の一族」を捩っているが、内容・ジャンルは全く違うもの、と当日パンフで作・演出の忍守シン氏が記している。もっとも説明のミステリーサスペンスを新感覚クライム・コメディとして描いているが、別の映画のヒューマン・ロードというジャンルの有名なワンシーン取り入れる、そんなパロディも楽しめる。

物語の筋は面白いが、全体的な観せ方(演出・演技)が緩く、遊び心が過ぎたようで少し勿体無い。
会場はブックカフェ二十世紀で、その店内には映画関係の本・雑誌が並んでおり、映画ファンには嬉しい場所であった。
(上演時間1時間30分)

ネタバレBOX

舞台セットは、カフェ店内ということもあり、その内装を考えるとどこまで作り込んでいるか判然としない。劇中で使用するのは固定電話、プラスチック製の網籠が積み重なっていることぐらい。

梗概…チラシ説明から、普通の家庭・大神家に「娘は預かった。返して欲しければ1億円用意しろ」と電話がかかる。しかし、大神家には娘が誘拐された自覚が無い。その代わり母親の姿が見当たらない。話が迷走し、更に話をややこしくする人物たちが現れ、事態は混迷の一途を辿る、というもの。
犯人からの身代金要求は、父親が当てた宝くじ(1億円)が目的。その換金が出来たか確認する手段が、ベランダに”黄色いハンカチ”を掲げること。日本アカデミー賞第1回受賞作品「幸福の黄色いハンカチ」のワンシーン。上演前からこの映画の感動直前シーンの台詞「風呂屋の前にいるんだけど…」が流れている。

映画のイメージを逆手に取った勘違い…「犬神家の一族」というミステリーサスペンスから「幸福の黄色いハンカチ」というヒューマン・ロードへぶっ飛び、ヘイトクライムという誘拐事件へ展開させる筋は面白い。また黄色いハンカチは”帰宅を待つ希望”から”危険を知らせる”というパロディはセンスが良い。

誘拐犯はこの大神家の主人が工場長をしている勤務先の非正規工員。近々行われる人員整理の対象者になっている。また工場長が宝くじが当たったことを吹聴している。そんな採用・就労形態の区別・差別が垣間見え、さらには俺オレ詐欺という犯罪まで持ち込んでおり、世相を意識、反映した描きは鋭いと思う。

脚本の面白さを十分観(演出・演技)せていないのが残念であった。
自分としては、もう少し硬質感があると好かったのだが…。
次回公演を楽しみにしております
「ワーニャおじさん」

「ワーニャおじさん」

劇団つばめ組

参宮橋TRANCE MISSION(東京都)

2017/04/20 (木) ~ 2017/04/23 (日)公演終了

満足度★★★★

アントン・チェーホフの4大戯曲というが、自分は初見である。この劇を現代の日本で上演する理由は何か。”チラシには絶望の過去、忍耐の現在をくぐり抜け、希望の未来を見つめる物語”と書かれている。その内容は、人の本質的な感情は時代を超えて共感する、そんな思いを抱かせる。真面目で平凡に暮らしてきた人間の悩みや苦しみの表現が如実に伝わる。自分は何のために生きてきたんだ、悔悟のような心境かもしれない。

舞台となるのはロシアの片田舎、有産階級と思しき家族とその家に出入りする人々の会話劇。主人公・パトローヴィチ(ワーニャ伯父さん)は、自分はもっと才能・才覚があるが、本気を出していないだけ、そしてそれは今後も続くという傍観者的な姿。人は少なからず持っている感情を剥き出しに観客に迫ってくるようだ。その意味で今の時代に相応しいのか考えさせられた。
(上演時間2時間5分 途中休憩10分)

ネタバレBOX

劇場入り口と反対側に客席を設けた、いわゆる挟み舞台。段差を設けた中央舞台には、丸テーブルとイス、瀟洒な収納棚、横長イスなどが置かれている。全体的に薄暗く重厚という雰囲気を醸し出している。

梗概…ワーニャ(堀越健次サン)と姪のソーニャ(福井夏紀サン)、そして母親が暮らす田舎が舞台。都会に住むワーニャの義弟とその後妻が訪れ、滞在した数日の物語。
田舎暮らしは退屈で惰眠を貪るように描いている。ワーニャ一家だけではなくその知人の医師も含め、皆同じ思いのようだ。都会暮らしの義弟は、この家の者を「怠け者」「わがまま」だという感情を持っている。
ワーニャは、義弟に特別な感情を持つことになる。ワーニャは47歳の独身。朝から晩まで働きづめの生活をしてきた。そして、義弟のために長年仕送りをして彼を支えてきた。しかし義弟は、ワーニャの妹と死別後、若い後妻を娶りこの家や農園を売り払う計画を持ち出す。ついにワーニャが激高し、義弟に発砲するが、弾は外れてけが人なし、警察沙汰にもならない。そして売却計画は流れ、義弟夫婦が都会へ戻る。仕送りもこれまで通りのようだ。そしてワーニャの暮らしは…何の変化もなく流れるままに。

ワーニャの不幸は、人生で賭けに出る勇気がなくそれを他人任せにし、善良だけど臆病な人というイメージである。公演で唯一、義弟の若き嫁に言い寄る場面があるが、出入りしている医師も同様の恋していることを知り、悶々とする姿に真の人間味を見る思いである。素直な気持ち、そこに自尊心、自惚れが見えるが、それこそ嫉妬、羨望などの人の裏側にある暗部、本能であり本質を突いた姿であろう。誰の為でもない自分自身の考えであり行動である。
そんな人の深奥にある普遍的な感情…人の言いなりではなく自立することが大切かも、そんな思いを抱かせる物語であった。

脚本は翻訳劇であるから別にして、舞台美術・技術は雰囲気があり楽しめた。しかし、キャストの演技力に差があるような…そんな違和感を持ったのが少し残念であった。そんな中で、義弟の後妻・エレーナ(石川久美子サン)がスポットライトの中で行う上半身舞いは幻想的で素晴らしかった。

次回公演を楽しみにしております。
食卓の愛~Spring ver~

食卓の愛~Spring ver~

LOVE&FAT FACTORY

シアター711(東京都)

2017/04/20 (木) ~ 2017/04/23 (日)公演終了

満足度★★★

2016年のミニシアターで一番人気のあった作品を長編化したもの。会場内に入るとすぐにあの有名な映画のシーンを連想させるような横長テーブルがある。その映画の食卓シーンはそれまでの邦画で観られた”食卓を囲む”ではなく、人(この映画では家族)と向き合うことがない、そして観客を意識したもの。
本公演も「食卓の愛」というタイトルであり、そこには深いワケが…。
(上演時間1時間30分)

ネタバレBOX

舞台セットは、先に記した横長テーブルが客席寄に置かれている。奥は少し高い段差を設けているが、別の場所へ移動させる空間処理であろう。時々、場面転換として回想シーンが現われるが、その時には舞台と客席の間に紗幕が引かれる。

さて、映画とは「家族ゲーム」(1983年 森田芳光監督)であり、正面切って家族と向かい合うことがない、上辺だけの家族・食卓を描いていたが、この公演では逆に本当の家族ではないが、愛ある食卓を求める人々が騒がしく描かれている。その食卓のメインメニューがカレーライスである。日本人には、煮物やラーメンと並んで好まれる料理であろう。

梗概…食卓に愛!をモットーにしているシェアハウス「コラソンKIYO」の問題を抱えた個性豊かな住人達が巻き起こすコメディ。管理人はオネェ、住人達は霊感占い師、駆け落ちカップル(女性はヤクザ組長の一人娘)、キャバクラ嬢、一見真面目な女。そして主人公の千川もも(斎藤未来サン)が無邪気で好奇心旺盛な魅力ある女性を演じている。このシェアハウスを見張る刑事の存在。

登場人物は魅力的でキャストは熱演している。しかし、刑事が事故死した女性を探す理由が分からず、しかもその成果が表彰ものらしい。またヤクザ事務所へ管理人オネェが昔の友人を伴って出向くなど疑問が残るが、卑小なことかもしれない。
しかし、住人を含め登場人物全員に”もも”の姿が見えるというのが最大の謎であった。それゆえ物語に意外性が乏しくなり、普通の話として展開しラストの衝撃度が弱くなったのが残念。このシェアハウスの住人との絆を大切にしている証だろうか…。目に見えない共感として 居る と想像させた方が面白いと思った。
本公演、映画と違って擬似家族であっても温もりが感じられる家。その食卓の和気藹々の雰囲気を客席に伝えるための横長テーブル、観せるための演出であろう。この独特な観せ方は滑稽で印象にも残る。

次回公演を楽しみにしております。
ナイスコンプレックス

ナイスコンプレックス

ナイスコンプレックス

調布市せんがわ劇場(東京都)

2017/04/20 (木) ~ 2017/04/23 (日)公演終了

満足度★★★★★

第7回せんがわ劇場演劇コンクール オーディエンス賞受賞記念公演にして、この劇団の10周年記念公演第二弾でもある。
チラシにある説明文_認知症または法曹関係に興味がある人は、公演である事件のことを連想するだろう。この認知症に関する事件は多くの注目を集めたが、社会福祉制度にも関心が持たれ、本公演では、その部分は母親との約束事として切り離している。もっと言えば、制度面は切り捨て、母と子(息子)という人間ドラマという視点で描いている。

この劇団は、いつもであれば主宰のキムラ真氏が脚本・演出を手がけるところであるが、今回は演出を弦巻啓太氏(弦巻楽団)へ依頼している。当日パンフにキムラ氏は、初めてプロデュースのみの参加で、稽古場に全く顔出さなかったと記している。それを受けるように、弦巻氏は、家族をテーマにした作品は一本もなく、親子が登場した作品さえ殆どないと書いている。しかし、両者の思いはしっかり伝わるような…。先に書いた社会福祉という制度(枠)を外す事で、より親子関係が鮮明になり感情移入し易くなっていた。<★の回>
(上演時間1時間50分)

注目を集めた事件だけに、その裁判記録(事実)だけを追うのではなく、この公演では懸命に生きてきた親子と温かく見守る人々を描いている。
なお、判決とその後日譚は事実と違い、希望が持てるように感じたが…。
(2017年4月24日追記)

ネタバレBOX

京都地裁の認知症母殺害(心中未遂)事件…公演では舞台背景を北海道、主人公(被告)を劇団作家にしているところが違うが、事件の概要(経緯)は踏まえている。

舞台セットは、心象形成をするような、情景の作り込みはしない。どちらかと言えばシンプルで観客に情景・状況を想像させるようなもの。段差のある舞台奥はカラーBOXを一面に置き、客席寄は半円型で場面によって裁判所被告席をイメージさせる。上手・下手に各1脚(検察官・弁護士席)、また別シーンでは上手側にスナックの出現をイメージさせる。

公判で明らかになった事柄をしっかり取り込んでいる。その印象的なシーンとして、母親の認知症は症状が悪化し、おにぎりの包み紙を食べたり、「キツネがいる」と言って天井を叩いたりする。真夜中に外出し、徘徊して警察に保護されたりもする。生活に窮し自分の食事を2日に1回にし、母親の食事を優先する。さらに暮らしが困窮し、死出の旅路で2人が向かったのは繁華街だった。どこに行きたいかと尋ねて、母親が「人の多い賑やかなところへ行きたい」と行ったからだ。2月1日。雨が降っていたのを、北海道を舞台にしたことから雪を降らせている。そして厳しい冷え込みで車椅子の母に防寒具をかける。それから何時間か過ぎて…。
介護の大変さは、弁護士の家庭にも負わせ、特別なことではないことを強調する。

この公演では主人公を劇作家にしているが、生活苦の中でバイトを掛け持ちし介護を行い時間がない中で創作を続ける。自分の芝居を楽しみにしている人がいるから。その最愛のファンは母親であった。内緒で息子の芝居を観、その過去公演のチラシを持ち歩いている。10周年記念公演におけるキムラ氏のメッセージのようでもある。

この公演の見所であり魅力は、役者の演技力であろう。主役の和田健介(濱中太サン、幼少期の荒賀弓絃サン)とその母親・和田宏子(早野実紗サン)以外は、配役が変わる。特に早野サンの老け役は哀切を感じさせる見事な演技であった。

舞台技術-その照明効果を最大限に引き出すため、セットは白色を基調にした淡色にしている。照射する色彩によって情景・状況がイメージさせ印象付ける。ラストは事件当夜の雨を雪に変え降り積もらせる。実に感動的なラスト。

次回公演を楽しみにしております。

いつまでの森

いつまでの森

劇団演奏舞台

九段下GEKIBA(東京都)

2017/04/14 (金) ~ 2017/04/16 (日)公演終了

満足度★★★★

本公演はテーマ性を強調した物語。「劇団演奏舞台」は試作という公演は観てきたが、今回はアトリエ:九段下GEKIBA開設5周年記念(公演77)だという。
パンフレットには、主宰・代表の浅井星太郎氏が「あの日-2011年3月11日。大震災・原発事故から6年が経ちましたが、未だに真実は「闇」の中…。」と記している。この「闇」を「太平記」の中にある「広有射怪鳥事(ひろありかいちょうをいること)」に想を得た本作は、今の日本の混沌とした状況を隠蔽(闇)として描く問題作のようだ。

登場人物はわずか5人。問題となる地域に暮らす人々と、この地域に興味を持った研究者の目を通して「いつまでの森」に潜む闇_その社会背景を透徹した視線の先は将来の日本の行方を見据えるようだ。
(上演時間1時間35分)

ネタバレBOX

上演前、劇中に流れるラジオ放送(ドリームウェーヴ・架空)が重苦しくなりそうな雰囲気を和らげる。上演前の放送…「男性が女性に大事な話がある。女性は愛の告白またはプロポーズと勘違いしたようだが、男は夜景の光の省エネ化の夢」を語る。その思いが劇中になると一転して環境(自然)破壊の様相へ変わる。実に巧い導入の仕方だと思う。

舞台セットは、特別自然保護区域の名目で「いつまでの森」を追い出された まりも(文月一花サン)が経営する「MARIMO」という飲み屋。限られた空間に、店構え(カウンター、ボトル棚)・赤提灯・店前のテーブル席などを作り、雰囲気は十分醸し出している。

梗概…ドリームエナジーという会社が自然環境保護の名目で「いつまでの森」に住んでいた人々を追い出す。その地から離れられない人々の交流の場が、この居酒屋。また、まりもの同級生・弥生が「いつまでの森」ツアーを勝手に企画し、それに申し込んできたのが鳥越九郎(劇中では「取越し苦労」とからかう)という研究者である。この男、某研究所に勤務していたが、その研究所の研究内容に疑問・恐れをなして辞職したが狭い業界ゆえ、再就職がままならない。この人によって「広有射怪鳥事」に出てくる鳥”以津真矢(いつまで・いつまでん)”の姿、形、逸話が語られる。
さて、研究に用いられた餌によって成長は早いが、飛ばなくなり死に至る。森の中は鳥の死骸だらけ、何が起きているのか?情報の隠蔽、その闇には軍需産業との噂も…。

いろいろな伏線を張り納得度の高い展開である。上演前のラジオ放送が印象深い。マスメディアも政府の広報になり、個人的感情は国の思惑ですり替わり、または掻き消される危惧。
劇中での台詞…「これから」と「それから」という鳥が出会うと、世界が裏返るという迷信のような話。もっとも言語として「今」から「次」へ繋がること、という将来・希望という暗示だろうか。前向きなメッセージと受け止めれば、震災後に(地方)自治体同士の横のつながりが自主的・自発的に行われるようになったと聞く。その意味で中央の統治に変化が…。

次回公演を楽しみにしております。
窓辺の馬

窓辺の馬

東京演劇集団風

レパートリーシアターKAZE(東京都)

2017/04/11 (火) ~ 2017/04/16 (日)公演終了

満足度★★★★★

翻訳劇…その基になった戯曲を洞察し知力を加え、練り上げた脚本に視覚と聴力に訴える表現力は素晴らしかった。キャストは僅か5人。その物語は3つの時代の戦争を背景に、男3人と1人3役(母・娘・妻)を演じた柴崎美納サンの演技が圧巻であった。少ないキャストによる濃密な戦時物語は、今の日本への警鐘、いや世界に通じる普遍的なテーマとしても観応え十分である。
時代に翻弄される人間、その悲哀・無力・滑稽な姿が舞台に立ち上がってくる。

また、演出、舞台美術・技術(照明・音響)が臨場感を醸し出し情景が鮮明に描き出される。

ネタバレBOX

上演前、舞台と客席との間に欧州の古地図が吊るされており、使者が放銃して地図上を赤く汚す。上手・下手の両側にドラム缶が置かれ、上手側に街灯、下手側は上部のパイプ管から水が落ちる。

時代が異なる3つの戦時を背景に、戦死者の悲報を知らせにくる使者。その顔は道化師のようであり役割としてはストーリーテラーといったところ。
第1話…出征する息子の身の回りの世話をする母。気丈に振舞いながらも息子のことが心配な様子が見て取れる。しかし馬に蹴られて死亡。
第2話…父の戦争体験を子守唄のように聞く娘。その話は戦地での恐怖を暗示するような不気味なもの。馬に後をつけられて逃れられない孤独・不安。孤独は理性を奪う。その苦悩の果ての発狂死。
第3話…夫が戦地へ行くまでの準備、勇姿が見られるが、結局行軍中に躓き軍靴で轢殺された(ラストに数多くのブーツ)。

いずれも銃弾という直接的な戦死ではなく、戦時という状況に殺されたかのようだ。そこに戦争の非情さが見て取れる。
人間の最悪な不条理である戦争…その後始末に死体自動収集埋葬機なるものが登場するという。この機械的処理に対し、交わされる言葉(詩のよう)は生きている証のようである。

脚本・演出はもちろん、舞台美術・技術はどれもが素晴らしかった。
舞台セットは平板で骨組みした家屋内(壁は紙張り)と上手側に跳ね橋のような板。室内は食器棚・テーブル、客席寄りに旅行鞄がありその中は多くのスナップ写真、白いカーネーションだ詰められ、死を暗示するような小物。衣装は死者は白装束、白塗顔、一方生きている者は、黒も含め色彩ある服を着ている。照明の陰影、ロウソクの炎が幻想的で、その炎こそ命のようだ。また音楽はパレード、宗教曲など場面に応じて聴かせ、水の音が生きていることを感じさせる。

劇中、ドアを閉める音が”うるさい”という台詞が何度かあるが、その騒がしさ、手の荒さこそ争いという比喩か。もっとも口を噤んで静かにしていては危険を知らせることが出来ないだろう。

次回公演を楽しみにしております。

FAMILY

FAMILY

ヒューマン・マーケット

ウエストエンドスタジオ(東京都)

2017/04/12 (水) ~ 2017/04/16 (日)公演終了

満足度★★★★

某地下倉庫が舞台…劇中の台詞にもあったが、「ロミオ&ジュリエット」のような反目し合うファミリーと一家の男と女の恋愛話から物語が始まる。本公演は登場人物の外見(衣装など)で区別でき、どちらの者か考えるまでもなく視覚で楽しめる。その演出効果は巧み。
またこの対立の構図は、地方(郊外)都市における小型商店の衰退、いわゆるシャッター商店街という課題を垣間見せる。もっともこの課題は背景として表現しているに止まり、物語の中心は両家の確執とそうなった経緯、これからの行方を面白可笑しく描いている。
(上演時間1時間40分)

ネタバレBOX

舞台セットは壁際に脚立やダンボール箱が積み上げられている。一見すると雑然としているが、中央に空きスペースを作りアクションを観(魅)せる。この倉庫は0(ゼロ)倉庫と呼んでいる。この倉庫は両家にとって思い出の地のようで、偶然か必然か分からないが佐藤家(コーポレーション)・鈴木家(商店)の人々が集まってくる。

冒頭は先に記した通り、佐藤家の三男と鈴木家の次女が恋仲になり、鈴木家の母に相談するところから始まる。今では反目しているが10年前までは共同経営するほどの間柄であった。仲違いした原因は子供じみたこと、「銃」と「刀」のどちらが強いかという銃刀の優劣が発端である。先にオチを書くが、決してブラック企業などではなく玩具会社である。この倉庫は商品の保管をしており、初(ゼロ)めて使用した思い出の場所である。両家とも年に1度会合を持っていたが、それぞれの経営も苦しいことからどちらの家も手放そうとしている。

この商店街も後継者が少なくなり閉店が相次ぐ。この両家を取り持つような存在の山田屋(今川焼き店)もその1つ。人気店も時代が現代に近づくほど残念な結果になることが多くなってきている。同時に新たな商売も生まれてくる。本公演でも今川焼きはサーファーショプに変わるようだ。

反目・確執から和解する。それに伴って1人ひとりの心の距離が縮まる。その過程で観せるアクションは、自在な動きの妙(跳蹴りでダンボール箱に突っ込む演技?)、脚立や階段を利用した高低差は躍動感が倍加する。

「家族」をテーマに精神的な再生を肉体的な高揚で謳い上げる。そして背景に地域事情という社会問題を潜ませ表層的な喜劇に止まらず、奥深い物語に仕上がっていた。最後に舞台技術(照明・音楽)も効果的で、映画音楽ゴットファザーや宗教曲のようなものまで。

次回公演を楽しみにしております。
フールオンザヒル

フールオンザヒル

劇団もっきりや

ART THEATER かもめ座(東京都)

2017/04/13 (木) ~ 2017/04/16 (日)公演終了

満足度★★★★

真実は丘の向こうで作られる。丘で空を見上げる男…その言っていることは少数意見でほとんどの人が信じない。大方は大勢が言う言葉を信じる。しかしそれが必ずしも真実とは限らない。大衆を扇動して真実を隠す。公演は今国会で議論している共謀罪へ及ぶような物語。
底流にあるのは”表現の自由”の確固たる信念のような(詩)朗読劇のような音楽劇。(詩)朗読に(音)旋律を付けたような。その詩は、詩人による表現だけに魅力的な言葉でシーンに応じて選択しており、心に留められないのが悔しい。

なお、詩よみ拡大ヴァージョンということなのであろうか、上演前・後にテーブルを舞台に置き飲み物、スナック菓子を用意しもてなす。劇団初めての試みだという。

ネタバレBOX

舞台セットはコの字に囲った本棚(知の象徴であろう)。キャストは客席に向かって二列になって並ぶ。普通であれば本棚を後景にコの字に座るところを敢えて向かい合うような配置にしているようだ。それは観客にしっかりテーマを伝えようとする姿の表れであろう。

当日パンフには、引用した詩の作者の紹介。劇中で歌った曲名を記しており、その丁寧さに好感が持てる。また生演奏、歌うグループ「シャリバリー・カンカラ」という団体の協力も得ている。

梗概…ガリレオの嘆き、真実を語っても誰も信じてくれない。なぜ自分の目や耳で確かめないのか。他人(第三者)の言葉を鵜呑みにするという懐疑的な言葉から物語は始まる。時代は下りブレヒトの「真実を書く際の5つの困難」を引き合いに出し真実とは何か。この後、展開はドイツから日本へ移り、第二次世界戦争後からの時代の変化を描き出す。
第二次世界戦争で戦死した男と恋人の繰り返さないこと、繰り返しの言葉が多いと真実を隠そうとするようで怪しい。さらに高度成長期からバブル期(「鐘の鳴る丘」を「金の成る丘」)というシャレに込めた皮肉な台詞。バブルを風船に見立て破裂させる演出やジュリアナ東京を思い出させる衣装・羽根扇子で観(魅)せる。
圧巻は、震災後の放射能漏れに関する情報隠蔽による指定地域への立入禁止、そこへ強行しようとした場合、テロ行為と見なし共謀罪を適用するという、今話題を盛り込む意欲作のようだ。また足元の暮らしを見つめて、資本(家)と労働(者)という階級闘争のような問題も垣間見せるという幅広い内容の話。

物語は一貫して”詩”の言葉の魅力・力強さを強調して展開していくが、それがどう収斂していくのか興味が尽きない。もっとも本公演では解答を出すようなことはしない。言葉を紡ぎ、情報を隠さず拡散する。しかしその情報にも真偽があり”自分力”を磨き正しく認識し判断することが求められる、そんな感想を持たせる音楽劇のような…。

聴かせるだけではなく、視覚的な演出も面白い。本棚への効果的な照明、和服・ヘルメットなどシーンに応じた情景描写。また切り紙を使用した人形劇も楽しい。
なお、ヒト型に切り取り総理大臣として登場させて揶揄していた。確かに為政者(中心)であるが、その観せ方が直裁的なような気がする。世の風潮として為政者が変わろうと多数の意見が必ずしも正しいとか限らない、という普遍的な捉え方の方が自身の問題として受け止めると思うが…。

次回公演を楽しみにしております。
新入社員のイジメ方

新入社員のイジメ方

劇団カンタービレ

ウッディシアター中目黒(東京都)

2017/04/06 (木) ~ 2017/04/10 (月)公演終了

満足度★★★

観劇した4月は、新入社員が入社してくる季節。物語はその新入社員研修という社会人第一歩を教育するというもの…ではなくタイトル通り、どのようにイジメるか、そんな悪意ある話である。もっとも新入社員研修のシーンと別のシーンが並行して展開するようで、交互に描かれる物語は、その関係性が弱いと思われる。

この公演…イジメでも楽しめたが、自分としては研修を通して学生から社会人へ変わっていく姿、または変わらない人間の本質的な面を描いた物語を観たかった。もっとも、そうすると劇としては「How To」的になるかもしれないが、そこは工夫次第であろう。
(上演時間1時間40分)

ネタバレBOX

舞台セット(転換も含め)は、面白いし見事であった。研修先の寺・本堂は素舞台に近く、中央奥に布が被せられた仏像らしき膨らみ。一方、この地の自縛霊が集まるスナック(上手側にカウンター・ボトル棚、下手側にテーブルセットが設える)は、ある程度作り込んでおり視覚的に楽しませてくれる。この場面転換が早く感心する。

梗概…第3次採用組7名(日本人に多い姓-佐藤・鈴木・高橋・田中・伊藤・山本・小林-観客の中の同姓者への共感効果を狙ったか?)が山奥の寺で合宿研修する。この採用時点で第1次・2次組は京都の寺という区別・差別を表現する。確かに初めのうちは、社長の名前、社是を問うような研修内容であったが、段々と陰湿な苛めという仕打に変容していく。

この山は姨捨山ならぬ人捨山と呼ばれており、自殺者が入山しくるという。そこに何故か、ゲイママ=スミ子・カトリーヌが経営?するスナックに悲恋の女性(ハナ)、覆面女子プロレスラー=ミス・マスカラス、東大=受験浪人生、侍浪人=斉藤次郎何某…など個性豊かな霊が集まり、夜な夜な繰り広げる騒ぎ。

この2つの話(場面)が交互に出現し、次元が違うが時間軸は並行しているようだ。そして終盤近くで絡んでくるが、その繋げ方が強引のようだ。新入社員が研修の過酷さに耐えかねて自殺又ははずみによる事故か…この出来事によって交錯してくる。

本公演で、研修中は財布・携帯電話等を人事部の人へ預けるシーンがあった。さて、新人にとって電話対応が第一関門となると思うが、受話器(固定電話)を取って対応する不安。また郵便物、ファクスなど日常生活から縁遠くなった手段も復活してくる。それに絡んだ”非常識”という新人(若者)ならではの常識、経験・体験を面白可笑しく研修として観せて欲しかった。

大事なことは失敗から学ぶ、などキレイごとは言わないが、失敗を恐れることは前に進めないのも事実であろう。タイトルにあるカレーライスの意味、「夢」と「希望」というスパイスが利いて美味しそうだと。そうであればイジメという個人的な鬱憤晴らしの仕打ちから会社の研修・制度という大きな枠組みで描いていれば…少し残念であった。

次回公演を楽しみにしております。
世界☆独創

世界☆独創

シャービィ☆シャービィ

シアターグリーン BASE THEATER(東京都)

2017/02/02 (木) ~ 2017/02/06 (月)公演終了

満足度★★★★

グリーンフェスタ2017参加作品。
基本はポップであるが、その独特な世界観は浮遊と沈殿という両極端を描いているようで不思議。ステージはプロジェクター映像と効果的な照明が印象的であった。

舞台美術は淡色で軽量なイメージであるが、物語の本質は人の底意地の悪さ、ダークな面を抉り出す、そんな重量を感じさせる。
その世界感で無邪気に遊びまわる少女の姿…ラストの台詞に戦慄する。

(後日追記)

代役!

代役!

劇団ヨロタミ

シアターグリーン BOX in BOX THEATER(東京都)

2017/02/22 (水) ~ 2017/02/26 (日)公演終了

満足度★★★★

グリーンフェスタ2017参加作品。タイトル通りトラブルが生じて代役!を立てることになったドタバタコメディ。設定が舞台劇(イベント)ということであり等身大、日常の行動をそのまま公演に持ち込んだようだ。いわゆるバックステージものであり、公演は舞台上のキャストだけではなくスタッフ、関係者の協力なくしては成り立たない。

もっとも演劇に限ったことではなく、社会(企業)においても同様のことが言えるだろう。例えばプレゼンテーションで発表する人、その資料作りに汗をかいたメンバーがいること。そんな縁の下の人々に謝意を込めて創った作品のようだ。

(後日追記)

ドラゴンカルト

ドラゴンカルト

劇団ショウダウン

シアターグリーン BOX in BOX THEATER(東京都)

2017/01/27 (金) ~ 2017/01/29 (日)公演終了

満足度★★★★★

グリーンフェスタ2017参加作品。サスペンス・ミステリーという分野の作品であるが、ノックスの十戒が気になるきわどさ…しかし、そんなことは卑小なこと。過去と現在を交錯させ時間軸を操る事で簡単に犯人へ辿りつけない。その重層的な構成、そこに潜ませた悲しい思いが心に響く。

この劇団、林遊眼という看板女優がいるが、本公演でも主役であることは間違いないが、一人芝居と違って群像(集団)劇である。その中にあって違和感を感じさせることなく、それでも存在感ある演技で観(魅)せてくれた。
(後日追記)

ギンノベースボール

ギンノベースボール

ラビット番長

シアターグリーン BOX in BOX THEATER(東京都)

2017/02/15 (水) ~ 2017/02/19 (日)公演終了

満足度★★★★★

グリーンフェスタ2017参加作品。この劇団、というか主宰の井保三兎氏の思いかもしれないが「高齢者」と「野球」というあまり結びつきが感じられない切り口。それを古希野球という聞きなれない設定で観せてくるところに、引き出しの多さ豊富さを感じる。

人は誰でも老いていく、それを決して悲観的に描くのではなく、むしろ前向きに明るく描いた秀作。高齢(化)社会という問題と人間の尊厳の両面から鋭く捉える、社会派ドラマ(「戦争」と「平和」も絡め)の中にヒューマン性を取り入れたか、逆に人間ドラマに社会状況を背景として従えたか。いずれにしても奥深い作品である。

(後日追記)

見上げたら、ものすごい星空

見上げたら、ものすごい星空

らちゃかん

シアターグリーン BASE THEATER(東京都)

2017/02/23 (木) ~ 2017/02/27 (月)公演終了

満足度★★★★

グリーンフェスタ2017参加作品。賞は惜しくも逃したが、実に観応えのある公演であった。
この公演の見所…舞台美術が登場人物の心象形成に寄り添うようで、物語の展開をより分かり易くしている。また、劇団の特長である舞台となる場所の設定が、この物語を成す重要な役割を果たしている。郊外の人情味溢れるような街、そんな場所だからこそ物語として成立し、また人間ドラマとして心に残る作品になっている。

最前列は子供用のミニ椅子を用意し、子供を優先しているようであった。この公演は小学生でも十分楽しめる内容で将来の演劇ファンを取り込んだかのようだ。
(後日追記)

鬼泪 〜激情編〜

鬼泪 〜激情編〜

カプセル兵団

シアターグリーン BIG TREE THEATER(東京都)

2017/03/04 (土) ~ 2017/03/12 (日)公演終了

満足度★★★★★

グリーンフェスタ2017で「BIG TREE THEATER賞」を受賞。本公演は再演であるが、キャラクターを増やしてテーマを掘り下げ、「激情」をテーマに新たに作り上げたという。物語に寓話性を盛り込んでいるが、決して教訓臭くならずビジュアル面も含めて観(魅)せる作品であった。
2時間を越える物語で、その世界観は壮大であるが、時々笑いを誘うような小ネタを入れ退屈させない工夫をしている。
また、子供デーを設定するなど、将来の演劇ファンを取り込むような姿勢に共感する。
後日追記

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