タッキーの観てきた!クチコミ一覧

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NOa「の」八コぶ.ね.

NOa「の」八コぶ.ね.

中央大学第二演劇研究会

荻窪小劇場(東京都)

2024/01/07 (日) ~ 2024/01/08 (月)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

世界に溢れる災い(人災・自然災害 問わず)を旧約聖書の『創世記』にあるノアの方舟に準えて<生きる>ことを模索するような物語。

前半はダジャレのような言葉遊びが多く、話が漂流するようで どのような物語を描きたいのか 解らない。後半から終盤にかけて ようやく言葉や記憶を失った人々を通して、争いごとや災いの惨さ、それでも人生という荒波を乗り越えようとする。人生という航海は後悔の連続かもしれない、そんな味わいの感じられる内容へ。少し回りくどいのが難点か。
(上演時間1時間10分) 

ネズミ狩り 2024

ネズミ狩り 2024

劇団チャリT企画

ザ・スズナリ(東京都)

2024/01/06 (土) ~ 2024/01/08 (月)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

面白い、お薦め。
凶悪少年犯罪をモデルにしたブラック・コメディという謳い文句であるが、その実事件と架空(創作)事件を巧く絡めた力作。少しネタバレするが、舞台となる老舗そば屋・南海亭の姉妹の激論が見所の一つ。この店の店主で父親が少年事件に巻き込まれて殺害された。しかし 跡を継いだ長女は加害者の極刑を望んでいない。一方、次女は自身が痴漢被害に遭ったこともあり犯罪を憎んでいる。そして加害者の極刑を望んでいる。それが<更生>か<死刑>という立場の違いを端的に表している。

物語は、この殺害された店主の意思ー元犯罪少年の更生支援という崇高さ、しかし 理屈で感情を抑えることが出来ない難しさ。その悶々とした感情を巧く表現しており観客の思考を刺激する。またSNS・スマホ時代2024年版としているが、姿なき市民による誹謗中傷 さらには嫌がらせといった風評に現代的な怖さを潜ませる。その見えない不気味さ、それを音だけで屋根裏にいるであろうネズミに重ねる。本当は 誰を何のために狩りたいのか。

また常連客の富永(おとみさん)が、蕎麦でいう隠し味のようで 重苦しく緊張を強いるような物語に程よいクッション的な役割を果たしている。当事者のことを知らない世間、その登場しない無責任な悪意に対し、常連客で家族のことを知っているご近所さんという存在で対抗させる。このさり気無い構図が絶妙だ。
(上演時間1時間50分 途中休憩なし) 追記予定

時をこえて

時をこえて

アンティークス

シアター711(東京都)

2023/12/22 (金) ~ 2023/12/27 (水)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

第1話「ありがとう」と第2話「時をこえて」…両作品に共通しているのは、時間軸の長さと人の絆・縁といった目に見えないコトを味わい深く描いているところ。そして何となく両作品が繋がっているような気がする。また描く視点が独特で感心する。

「ありがとう」は、2008年12月「2つのお話~シリーズ3部作のファイナル『時のコンチェルト』」の一編として上演されている。当日パンフ(脚本/演出 岡﨑貴宏 氏)によれば、今回は<音楽>をモチーフに改訂したバージョン。ちなみに「時をこえて」は新作で<押し花>に願いを込めたと。そして共通するのは「笑顔」をベースに紡いでいる とある。

少しネタバレするが、「ありがとう」は初演当時と1995年を往還するような描き方で、それを眺めている人物は特異な立ち位置にいる。ラストまでその特異な世界観を明らかにすることなく物語を展開させる。一方 「時をこえて」は不思議な存在の少女を介して 人の心が柔らかく解れていく、そんな現代のおとぎ話のよう。どちらもユーモアとペーソスに溢れた人間模様、それを押しつけがましくせず、きわめて自然体に描いた抒情劇といった印象だ。こういった作品、好きだなぁ。
(上演時間2時間 途中休憩なし) 追記予定

薄膜インタフィアレンス

薄膜インタフィアレンス

BEHATI OWL PRODUCE

エビスSTARバー(東京都)

2023/12/21 (木) ~ 2023/12/24 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

舞台は地方都市にあるBar、時は2023年大晦日の夜に集まった幼馴染による心情劇。魅力的な言葉(台詞)に溢れた会話、そこには人の本音と建前という典型的な人間模様が描かれている。言葉は魔法であり呪い…その使い方次第で人を癒したり傷つけたりする。幼馴染ゆえに知り尽くした相手の思いや事情、そのことを遠慮なく言葉に(干渉)する.。相手がそれを どう受け取る または受け止めるのか、その感情の行き違いを巧く表す。トライアル公演とは思えない表現力だ。

地元に残った人、東京で暮らしている人、今では生活環境も違うが、久しぶりに会っても気心が知れた仲、そこに遠慮会釈はない。表面的には厳しいこともズケズケ言うが、心の内では相手のことを心配している。こんな会話を地方都市ならぬ東京のエビスSTARバー(会場の妙)で覗き見る臨場感、一方 舞台となる北陸地方の深夜にしては寒冷さが感じられない不自然さ。出来れば、地元に残った人達は 方言で喋ってくれたら 雰囲気が出たかも(電話通話の時、少し聞けたような)。

シャボン玉を人の多様・多面性の比喩として使っており面白い。劇としては、ノスタルジックな風景の中に悲痛な現実、そこに もう少しユーモアやペーソスを交えて滋味深く描ければ、もっと印象的になった のではないか。次回公演が楽しみな団体(BEHATI OWL PRODUCE)。
(上演時間1時間20分 途中休憩なし) 追記予定

『メトロノームが叫んでる』

『メトロノームが叫んでる』

ウテン結構

六本木ストライプスペース(東京都)

2023/12/16 (土) ~ 2023/12/21 (木)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

現在と未来を往還し、自分の生き様を確認するような展開だが、その世界観が独特で面白い。人間の絆、時間の流れといった曖昧さの中で 自分の存在を確かめる といった感じだ。少しネタバレするが、ウテン結構第2シーズン「雨の世界」から続く後日談のような繋がり。この連関し、深まっていく感覚 好きだなぁ。

会場の構造ー中央に折り返し階段があり、途中の踊り場から<案内人>が見下ろすような描き。同時にタイトルにあるメトロノームの音が時を刻むようで時空の違いを表わす。時空の変化に応じ 小道具を動かしたり配置を変え、情景を巧みに現わす。人物の衣裳は、白または黒という補色を着ており、時間と場所、その立ち位置によって変化する。そこに現在と未来という世界観、そして人間の二面(または多面)性を見るようだ。見方を変える…未来から見れば現在は過去になるという俯瞰構図の妙。

物語の肝は、未来から過去を見る…過ごしてきた喜怒哀楽といった感情を置くことで見えてくる 今の思い。冷徹に見詰めることによって、今後の生き方への大きなヒントが見えてくるような。非現実的な世界観ではあるが、描かれているのはリアルな自己との対話のよう。が、公演の始まりと終わりから 別の捻りを利かせた構成のようにも…。
(上演時間1時間50分 途中休憩なし)

ネタバレBOX

冒頭 ラジオ体操、台詞の読み合わせから始まり、ラジオ体操で終わる。公演全体が劇中劇仕立てで、本筋で描かれているのは或る公演の内容といった構成に思える。なかなか凝った仕掛けで、第2シーズンの公演を散りばめつつ、新たな物語(世界)を築く。

舞台美術は、中央の階段下に額縁状の枠板が立ち、近くに椅子や小机が置かれている。 上手下手の壁には柱時計が並んでいる。ここは未来占い師がいる不純喫茶店、枠板を客席側(床)に倒すことで未来空間へ。本筋は記憶喪失の女1・2の謎めいた話、それが「雨の世界」に登場する女 しおり から続くよう。父の暴力から逃れるために雨の日に出奔する。自分の存在が知られないよう記憶喪失のふりをし、名前も変える。

全体的に軽やかな立居振舞、それは フワッとした衣裳のせいであろうか。先の女1・2&先生、祖母 桜&孫 蒲公英、弓々子とマスターの三組が占い師 避雷針玲子によって未来の自分を見ることになる。未来には案内人(階段踊り場)がおり、現在の人に関係ある未来の人物を引き合わせ 見守る。よく耳にする<過去は変えられないが未来は変えられる>を連想させるような描き方。

照明・音響といった舞台効果と言うよりは、一人ひとりの役者が醸し出す不思議な雰囲気(演技)が、独特の世界観を立ち上げている。敢て効果といえば、やはりメトロノームの振り子の音(未来が叫んでる)であろうか。
次回公演も楽しみにしております。
他人

他人

公益社団法人日本劇団協議会

恵比寿・エコー劇場(東京都)

2023/12/15 (金) ~ 2023/12/17 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

面白い、お薦め。
現代的なテーマのリアルを コメディータッチで描いた珠玉作。
本作は2022年「日本の劇」戯曲賞最優秀賞(竹田モモコ女史)を受賞している。その上演台本(冊子)を無償で配付しており、上演前に1~2頁読んでみた。会話の中に方言があり、急いで当日パンフを見ると彼女の出身地 高知県土佐清水市の「幡多弁」を使用…とある。この方言が、作品の中で独特の味わいと保守的になりそうなテーマへの緩衝的な役割を果たしているようだ。

登場人物は3人の女性。彼女たちと関わりのある 言わば中心人物は登場しないため、「他人」同士が気まずい雰囲気の中で探り合うような会話をしていく。物語は中心人物が不在の一週間、この限られた時間の中で本音と建前 そして<秘密>を紡ぐが、面白さの中に切なさが滲み出るような味わいがある。

3人の女性は年齢や職業、 住んでいる所も地方と都会で地域での付き合い方も違う。勿論 立場や性格も違うが、女性という共通項で親近感、世代や考え方で違和感を浮き彫りにする。一週間という短い そして奇妙な共同生活の中で それぞれを認め合い将来を話し合うが…。

観客は劇中の設定を知っているが、登場人物はその事実をどのようにして知るのか、そしてどんな態度をとるのかといった関心を惹きつける。慌てふためき、戸惑い 困惑といった可笑しみと人に話せない苦悩、そのコミカルとリアルな姿にテーマの難しさを落とし込む。この3人の女性を原日出子さん、畑中咲菜さん、平松美紅さんが見事なコメディエンヌぶりを発揮して溌溂と演じている。観応え十分、ぜひ劇場で…。
(上演時間1時間35分 途中休憩なし) 追記予定

ガラスの動物園

ガラスの動物園

劇団銅鑼

銅鑼アトリエ(東京都)

2023/12/15 (金) ~ 2023/12/17 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

久しぶりの「ガラスの動物園」(作:テネシー・ウィリアムズ、訳:小田島雄志)、試演会とは思えない充実ぶり。演技は迫真の表現、照明・音響といった舞台技術は効果的で物語をしっかり支えている。

登場人物はウィングフィールド一家の3人と後半に現れる青年の4人。物語は一家の息子トムの回想として語られる。1930年代のアメリカ セントルイス、一家が住むアパートの一室が舞台。公演は、四方囲み舞台で 観る位置(場所)によって印象が異なるかも知れない。ペーパー仕様のテーブルや引出しは勿論、蓄音機や電話をピアノ(or硬鋼?)線で吊るした舞台装置。四隅が出ハケ口になっており、寝室、キッチン、玄関ドアといった別空間に繋がる。舞台と客席の間を路地として見立て、室内という閉塞とは違った広がりを感じさせる。

試演会(新人公演)であるから、観どころは 役者の演技であろうが、各者各様 その役柄を立ち上げていた。勿論 個々人の立ち位置と性格が中心であるが、全体として観ると1930年代のアメリカの状況が垣間見えてくる。すなわち1929年のウォール街大暴落 世界恐慌を受けての不況、その閉塞・貧困に喘いでいる。その様子が家族の暮らしに色濃く反映されているような描き方。

さて、個々人を観てみると、次のような性格等が浮き上がる。それぞれの人生観を丁寧に現わし(演じ)ており、滑舌も良い。
●母アマンダは大橋由華さん。過去の栄光に縛られ、現状に不満を抱いている。子供たちを自分の意に添うよう口うるさく説教する。
●娘 ローラは井上公美子さん。足が不自由でインフェリオリティーコンプレックスを抱き、内向的で引籠り。ガラス細工の動物コレクションを大事にしている。
●語り手で息子トムの中山裕斗さん。靴会社の倉庫で働いており、毎夜映画を観に出かける。惨めな人生から抜け出したいと足掻く若者。詩作が趣味。
●ジム・オコナーに伊藤大輝さん。トムの職場の同僚。トムが自宅へ夕食に招く。ローラがハイスクール時代に淡い恋心を抱いていた。既に婚約者がいる。

卑小だが、気になったのは場転換(薄暗)時のこと。
(上演時間2時間25分 途中休憩10分含む) 

ネタバレBOX

舞台美術は、銅鑼アトリエの奥にテーブル・椅子、入口近くに玄関、そして鏡、電話、蓄音機が吊るされている。天井には裸電球やガラス細工。テーブルの上にはバスケットや紙皿等があり丁寧な作り。アトリエ内(壁)は暗幕で囲い、床は黒っぽく 全体的に薄暗く電球が橙色に灯るだけ。これが休憩後には配色を変化させ…。

先に気になることを記すが、場転換時、さらに薄暗くなるが それでも歩く姿は分かる。そんな中で、すぐ足が不自由なローラが普通に歩いて移動 いや機敏のよう。劇中ではないが、物語が始まると また跛行のような歩き方という違和感。場転換も含め公演全体の統一というか自然感がほしいところ。
Strange Island

Strange Island

Nakatsuru Boulevard Tokyo

サンモールスタジオ(東京都)

2023/12/13 (水) ~ 2023/12/20 (水)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

面白い、お薦め。
欲望・愛情・家族・正義・名誉といったことを断片的(場面毎)に描きながら、全体を通して観ると人の生き様を炙り出すような秀作。説明は「地図にも載っていない、とある島の、とある町。そこには、貧富の格差が⽣まれていて富裕層が住む表町と、貧困層が住む裏町とに分離している」とあるが、劇中の「忖度」「記憶にございません」といった台詞に思わず失笑してしまう。表層的には専制政治と社会正義のせめぎ合いといった展開だが、その奥には人間の本性が蠢いている。

内容は勿論だが、モノクロ照明を基調にし その諧調によって重厚感を漂わせる。そんな雰囲気の中で熱く激するような議論が繰り広げられる。個性豊かな人々を登場させているが、何となく どこにでも居そうな(典型的な)人物像を立ち上げる。そこに架空の国でありながら現実と重ねる奇知を感じる。また 舞台セットを動かすことで場景を巧く出現させ、気を逸らせない工夫 迫力がある。観応え十分。 
(上演時間2時間40分) 追記予定

Free Flow Sensation!

Free Flow Sensation!

One Bill Bandit

中野スタジオあくとれ(東京都)

2023/12/09 (土) ~ 2023/12/10 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

他の方は高評価のようだが、自分には心に引っ掛かるモノがなかった。確かに表層的には笑えるが、真に面白可笑しかったかと言えば疑問符が付く。
前回公演「No Robot」も笑わせるといった観せ方だったが、内容は心を育んでいく成長譚、表層的な面白さだけではない 〈ヒューマンドラマ〉としての奥深さも垣間見え 楽しめた。その期待感が大きかっただけに少し残念だ。

物語は、説明の「『本当の保険の契約者』に出会い、唐突に国家を揺るがす陰謀の渦に巻き込まれていく」の通りで、荒唐無稽に展開していく。多くの人が爆笑していたが、漫才のボケとツッコミ のような会話が全編で繰り広げられ、物語そのものの面白さが解らなかった。
(上演時間1時間40分 途中休憩1分)

ネタバレBOX

「本当の保険の契約者」は某国の王女リシェ(原千晶サン)。観光で来日していたが、本国の革命組織に命を狙われ、日本人男性 光屋に救われる。その お礼として滞在中に亡くなった時、保険金の受取人を光屋にしたいという。行き掛かり上、光屋を始め保険会社の川村・堀田・細谷、中学時代の同級生 近藤などを巻き込んで 彼女を匿い無事本国へ帰国させる迄を描く。

*アンケートを書くと「裏パンフレット」がもらえる。それによると某国とは「アンチグア・ダブーバ」という架空の国。また、冒頭 オールロケのオープニング映像(役者紹介を兼ねた)が、物語概要・観光イメージといったところだろうか。

何となく心に引っ掛かったのは、リシェが<王制は国民あってのもの>といった旨の言葉。彼女の言葉の端々には自らの命を軽んじるような発言があるが、逆に それは命に替えて王制を支えていることを示す。一方、革命組織<荒地のチンチラ日本支部2人…ネイサン・マイサン>は民主主義を標榜しており王制打倒を企てている。民主主義の象徴とも言うべき多数決の場面は皮肉が利いており面白い。

全体的にドタバタとしており、その表面的な面白さだけでは勿体ない。他人のために真剣になる、今 失われつつある優しさと温かさを もっと物語に落とし込めたら…。
次回公演も楽しみにしております。
ガラリ

ガラリ

表現集団 式日

麻布区民センターホール(東京都)

2023/12/08 (金) ~ 2023/12/10 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

親心と自立の狭間で悩む少女の旅立ちを描いた心象劇といったところ。人の思いや考え方、どの側面を捉え 見るかによって「ガラリ」と違う。親と子の立場や考えの違い、それを精神科医の問診を通して展開していく。少女の心象であるが、その世界観は分かり易い演出によって巧く表している。

少女の名は 月下海(木下美音サン)、その名の通り深海を思わせるような浮遊感ある舞台美術。同時に、舞台幕を使用して 心に思い描く世界(空想)と現実の世界(問診)…ファンタジーとリアルといった表現の違いも巧い。この違いが テーマ「孤独」を上手く表出している。そして自由・肯定と束縛・心配といった子と親の心情が浮き彫りになる。

親といっても父と母では子への接し方も異なり、親の過去(成長過程)が関係しているという。ただ この親子の関係性は 典型的で斬新な切り口になっていないところ、そして人を観察し深堀しようと試みているが、少し理屈っぽいような気が…惜しい。
(上演時間1時間50分 途中休憩なし) 12.11追記

ネタバレBOX

舞台美術は、客席側(前)と奥(後)は異なる配色でシンメトリー。それぞれ長箱2つと椅子を置き、その間を舞台幕で遮り、美音の心象世界と現実世界を表出する。美音(後)の世界は白布に描いた魚、そして傘や洋服が吊るされている。長箱を始め全体的に白を基調にしており透明・浮遊感を漂わせている。一方、現実(前)は黒茶色で重量感あるもの。この明暗の配色は 衣裳も同じで、美音の世界に登場するのは白服、一方 両親は黒っぽい。医師は黒服の上に白衣で折衷、美音本人は深海イメージであろうか、深緑のフワッとした服で、それぞれの立ち位置を表している。心象と現実を巧く表す演出が、観客にやさしい。ちなみに場転換時の音響はピアノで美音の進路を示唆しているよう。

物語は、美音の進路をめぐって 彼女と両親が話し合うところから始まる。美音は自分の気持(自己肯定)をうまく伝えることが出来ない。両親にしてみれば、態度がはっきりしない娘にイラつく。そして美音は3か月前に意識不明に陥る。その原因と解決を求めて精神科医と両親の話(問診)が始まる。

彼女は自分の世界に閉籠り、そこでは 説明にあるような友の死を抱える元高校球児、作家の夢を捨てた風俗嬢など4つの物語(一冊の本…何を意味するのか)が紡がれる。それは幼い時に見た世界で、自分の気持の表れであった。真に何がしたいのか、何者にもなっていない女性の成長過程が瑞々しく描かれている。一方、両親もその親や家庭環境の中で挫折や諦念といった苦汁を味わっていた。その後悔から娘を同じような目に遭わせない、それが無意識のうちに美音の意識や行動を制約していたよう。

精神科医の問診が両親の深層へ響くといった結末だが、実は兄の陸(演出:佐伯啓サン)が目覚めない美音に話しかけていたと。両親は兄 陸と比べることで美音にプレッシャーをかけていた。美音が目覚め両親と打ち解けるのであれば、ずっと話しかけていたのは両親にすべきでは?
いい子でありたい美音の心情はよく聞く設定。そしてラスト、陸と医師の話(礼を含め)は纏める様な理屈付け、物語を説明したような印象を受けた。
次回公演も楽しみにしております。
クリスマス・キャロル 

クリスマス・キャロル 

劇団昴

座・高円寺1(東京都)

2023/12/02 (土) ~ 2023/12/10 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

面白い、お薦め。
小説を読み映画も鑑賞しているが、舞台は初めて観た。劇団昴のクリスマス・キャロルが今後 この演目の基準になるが、極めて高い水準になるだろう。

物語は、クリスマス・イヴの夜、守銭奴の老人スクルージは死んだ同僚の幽霊と過去・現在・未来のクリスマスの精霊に導かれて、時空を超えて不思議な体験をするといった よく知られた内容。公演の見どころは 勿論スクルージの不思議な時間を過ごす、すなわち心の彷徨を経て心温まるラストへ…。
その展開を支えている舞台美術が素晴らしい。劇場に入った瞬間、その不思議な世界に誘われる。そして歌・ダンスといった観せる魅力、ファンタジーといった雰囲気を漂わせる照明など、舞台技術を駆使した演出も効果的だった。何より宮本充さんの頑固・偏屈な老人エベニーザ・スクルージ役がピタッとはまり、その熱演に観入ってしまう。

内容には教訓的と思われるところも散見されるが、それを上回るエンターテイメント性によって 人の優しさ温かさ、よく耳にする「人は一人では生きていけない」といった普遍的な思いが伝わる。上演時間2時間10分(途中休憩15分)だが、感覚的には あっという間。けっして重く暗くならず、逆に生きる希望と勇気がもらえるような好公演。 12.8追記

ネタバレBOX

舞台美術は、ほぼ中央にレンガ作りの門(出ハケ口)、その上部にスクルージの部屋(ベットや机)があり、左右非対称に階段が設えてある。上手下手に石垣風の門があり、雪が積もっている。天井には3つの針のない丸時計(内にはランプ)が吊るされている。

冒頭、過去・現在・未来のクリスマスの精霊が 予めこれから始まる物語は現実ではない旨説明する。スクルージの今の暮らしを描き、そこに散りばめられたエピソードが過去・現在・未来に少しづつ絡んでいく。勿論 物語の展開にしたがって情景が変わるため小道具・小物、そして登場人物や衣裳が変わる。描かれる世界観は分かり易く、あれこれ考えることなく、素直な気持で観ていられる。その意味では老若男女といった幅広い人々に受け入れられるのではないか。

毎夜午前1時に目が覚める、そして現れる精霊たち。出で立ちは異なり、その姿かたちはスクルージの過去・現在・未来に重なる。精霊は自分自身であり己との対話(悔悟・改心・希望)のよう。それぞれの世界観へ誘われる時の照明が印象的だ。そもそも舞台美術が外国の街ーレトロ感(1843年クリスマス イヴ)に溢れ、その中で色鮮やかな回転照明で幻想光景へ。

先にも記したが、スクルージ役の宮本充さんの演技が見事。そして彼の周りにいる人々を一人何役も担いながら物語を立ち上げているが違和感はない。スクルージの貧しい生い立ちが彼の生き方を決定付けたようだが、強欲を否定しきれないのが現実。今 コロナ禍によって、不寛容で閉鎖的な世になったような気がする。そんな暗い世相を吹き飛ばすような<人間愛>に満ちた公演。
次回公演も楽しみにしております。
待宵に夢

待宵に夢

鵺の宴

萬劇場(東京都)

2023/11/29 (水) ~ 2023/12/03 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

夢想(無意識)の中で朧気に立ち上がる物語、それを現実の恋愛とリンクさせた独特の世界観。主人公 白輪地柚月(井関友香サン)は、幼い頃から何度も同じ夢を見る、が 目覚めれば曖昧なだけで他人に話しても分かってもらえない もどかしさ。しかし 何故か気になってしょうがない。非現実(夢幻)に悩まされ、現実の恋愛に支障をきたすことを恐れている。そんな彼女を悪態をつきながらも優しく見守る幼馴染の須田浩成(村田直樹サン)。彼の純情が少し切ない。

一方、柚月を取り巻く人々の心配を通して淡い恋模様をも描いている。舞台美術によって夢想と現実といった異なった世界観を分かり易く観せる。少しネタバレするが、夢想の世界は着物を着た時代劇、それを俯瞰するように眺める現代 といった見た目でも区別できる。
物語は夢に込められた人の想い、朧=淡いといった比喩であろうか。
(上演時間2時間 途中休憩なし) 

ネタバレBOX

舞台美術は上手 1階部はスナック(カウンター、酒棚、行灯・座卓)、2階部は柚月とその彼 押切春親(松田幸樹サン)が同棲している部屋(ドアとソファ)、下手は暗幕で半囲いし 奥に月がかかる。上手が主に現代、下手の素舞台が夢の中で表れる時代劇。

着物に大刀…一目瞭然の時代物だが、すぐに夢の中の出来事だと知れる。未来が予知できる 夢見の巫女(白須慶子サン)を巡っての殺傷シーン。そこに現れるのは旧知の間柄…仲間だったようだが 夢見の巫女の<力>を利用すべく争いになった。そんな惨い夢を見続ける柚月の苦悩。誰にも相談できず思い悩んでいる。特に付き合っている春親は非現実的なことは嫌い(否定的)で、寝不足の理由を話せない。

行きつけのスナックのママ桜田真理子(和田真理子サン)や常連客が親身になってくれるが…。観所である夢想と現実の関りというか 繋がりがはっきりしないのが憾み。本筋は現代…同棲している柚月、彼女のことが好きな浩成、その彼を応援している人々の心情を紡いでいく。同棲している春親は隙のない完璧主義者のような描き方。付き合った女性は、本音で話すことが躊躇われ離れていく。そこに彼の苦悩をみる。

人には言えない悩みがある、それを素直に言える人がいるかどうか。本音と建前、近過ぎる存在(幼馴染)だからこそ、その良さが分からない。照れもあり真意が伝えられない もどかしさ。分からない面を写し(描き)出す、その意味では現代(本筋)と時代(脇筋)は合わせ鏡のようだ。そこに照れ隠し=ぼんやりとした夢を重ねて恋愛劇にしているかのようだ。
次回公演も楽しみにしております。
演劇制作体V-NETプロデュース公演 ~信号ズ特別公演『終わりで始まり』/ 演劇制作体V-NET短編集『いつかの己を超えて行け!』~

演劇制作体V-NETプロデュース公演 ~信号ズ特別公演『終わりで始まり』/ 演劇制作体V-NET短編集『いつかの己を超えて行け!』~

演劇制作体V-NET

TACCS1179(東京都)

2023/11/29 (水) ~ 2023/12/03 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

演劇制作体V-NET短編集「いつかの己を超えて行け!」…演劇2本立て、小金丸大和 氏の短編「ダブル・ブッキング」と「胸に月を抱いて」を観劇(上演順)。

どうしてこの演目・内容を選んだのか、そこには或る意味が込められており、その気概というか決意に感じ入る。当日パンフの前段に「2023年は、V-NETにとって大きな変革の年となりました。20年慣れ親しんだ稽古場を離れた事をきっかけに、多くのメンバーが離脱」とある。その苦境・困難を2本の短編(内容)に見立てているようだ。そして後段では「いつかの己を超えて行く事で、劇団のこれからの10年を模索」とある。

「ダブル・ブッキング」は、全盛期には何社もの同時連載をこなしていた漫画家がスランプに陥り、何とか再起しようと足掻く。取り敢えず2社の仕事を同時に引き受けたが…。
「胸に月を抱いて」は、彼女が事故によって記憶を失い、自分は松井須磨子と言い出す。そして恩師であり愛人である島村抱月に会いたいと…。この2編に共通するのは、劇作家の苦悩、これからの創作へ思いを馳せること。

2編のうち、「胸に月を抱いて」は観たことがあるが、演出を変えて分かり易くしているといった印象だ。「ダブル・ブッキング」は初めてで新鮮。2編を観ると その共通した思いの強さが伝わる。
卑小であるが、演技力に差があるように思えたのが惜しいところ。星(★)は、今後への期待を込めて敢えて4つ、これからも応援している。
(上演時間2時間 各1時間、途中休憩兼転換時間10分) 12.10追記

ネタバレBOX

舞台セットは、基本的に両短編とも同じ。後ろに段差を設え、やや下手にいくつかの箱馬(椅子)がある簡素なもの。

●「ダブル・ブッキング」
編集者2人が、下手で自社へ作品を先に提供するよう漫画家へ依頼するところから始まる。漫画家はアイデアが枯渇し自信を失っている。編集者が協力しアイデア、プロットを出し、その光景を上手で演じ視覚化して観せる。シチュエーション、設定が変わり その都度 演技も変化し面白可笑しく展開していく。
一方、漫画家は 自分自身(自信)を見失い妻に心配をかけていることを気に病んでいる。しかし妻曰く私は二番目のファンであり、あなた(漫画家)自身が一番のファンなのだから自信を持ってと励ます。

●「胸に月を抱いて」
恋人が事故で意識不明、そして目覚めた時には「自分のことを松井須磨子」と言い「島村抱月に会いたい」と言い出す。困った恋人の佐々野は 彼女を連れ街中へ。怪しげな占い師の言葉に従い、お台場へ向かう。大正期に活躍した島村抱月の多才ぶり、そして今の時代にも同様の才能を発揮している人物に出会う。
島村抱月が乗り移ったであろう人物が、自分の才能の限界、世間の悪評に苛まれていたこと吐露する。そして須磨子こそが抱月の器を超えてという嫉妬にも似た感情を抱き始め、当時の流行り病に倒れたことを明かす。

敢えて この2編を上演…漫画という媒体、島村抱月・松井須磨子という人物を通して芸術=演劇に置き換えてみると、GK最強リーグ戦で優勝している作品を更に超えようという意気込みが伝わる。だから 過去作品のレベルに止まらず「いつかの己を超えて行け!」というタイトルなのかと。
先にも記したが、ほぼ素舞台 それだけに役者の演技に注目することになり…。どうしても一人ひとりの演技力を観比べてしまい、それが作品全体の印象に繋がってしまう。そこが総合芸術といわれる演劇の面白さ 怖さではないだろうか。
次回公演も楽しみにしております。
なにがたりない

なにがたりない

演劇企画 どうにもならない毎日に光を。

北池袋 新生館シアター(東京都)

2023/12/01 (金) ~ 2023/12/03 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

青春のほろ苦い1ページを綴った物語。どこにでもありそうな光景を淡々と そして瑞々しく描いている。それは 同世代には共感をもって、その時期を過ぎてしまった年代には懐古が感じられるのではないか。

時間は流れすぐに消えてしまうが、写真はその瞬間を切り取ってあった事(事実)を残すことが出来る。好きでなくてもいいから、居てよかったと言ってもらえたら嬉しい、そんな切ない心情を繊細に描く。キャストは総じて若く等身大の男女カップルを演じているようだ。

描かれているのは、外見的なコトの善悪といったものではなく、表現し難い内面的(心情)なことー好きだからこそ 信じられなくなったら苦しい思いが加速するーなんとも切ない純情。その理屈では説明できない恋愛物語を上手く表現している。
(上演時間1時間30分) 

ネタバレBOX

舞台セットは暗幕で囲い、ほぼ中央に横長のソファとカラーBOXがあるだけの簡素なもの。主人公 写真家志望の悠作の衣裳は白っぽく、後景と相まって見るとモノトーンといった感じで、それがフィルム写真と重なるようだ。表されているのはバイト先の写真店、それぞれのカップルの部屋といったところ。

悠作は 高校時代に思いを寄せていた女性と付き合いだし、幸せを感じていたが、その彼女が偶然 高校時代の元カレと出会ったことを知り、心穏やかではない。一方、悠作はバイト先の店員で大学の後輩に慕われているが、そのことに気が付かない。さらに同じ大学の男女の恋愛が絡み、それぞれの思いが何となく ずれ恋が実らない。そんな もどかしさが少し甘酸っぱく描かれている。

大きな事件などが起きるわけでもなく、大学とバイト生活が淡々と紡がれ、その中で青春期の それも恋愛という断片を上手く切り取っている。意識しなければ「時間」というかけがえのない、後戻りできない時を無為に過ごす。その瞬間瞬間を大切にして 愛おしい人と過ごしたい、が 一度不信感が芽生えると どうしょうもなく不安になる。一方受け入れられない恋、それでも一緒にいたいという抑えがたい気持が痛いほど伝わる。

ラストは、結ばれなさそうな男女が新しい恋を実らせるような予感。人はどんなに苦しくても立ち止まらない。人に出会い、新しい何かを受け取り与えることで、止まった時間を再び動かすことが出来る。そんな前向きなラストシーンにホッとする。
次回公演も楽しみにしております。
お局ちゃん御用心!!!

お局ちゃん御用心!!!

片岡自動車工業

駅前劇場(東京都)

2023/11/29 (水) ~ 2023/12/03 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

面白い、お薦め。
出演者は全て女優、表層の華やかさの奥に隠された妬みや嫌悪といった陰湿さ、それを大奥という女だけの世界を舞台に面白可笑しく描いている。時は徳川二代将軍 秀忠の頃、となれば秀忠の正室お江と春日局の対立を連想する。タイトルからも そう思うが、それだけではなく奥女中同士の蔑み罵り、新人女中の右往左往、口軽な忍者など、個性豊かなキャラを立ち上げる。

そのキャラだが、華やかなチラシの出演者の横に添え書き(説明)されている。なるほど と唸ってしまうほど的確な表現で笑ってしまう。濃いキャラが舞台狭しと歌い踊る姿は華やかで観とれてしまう。衣裳、立ち振る舞いといった外見だけではなく、群舞のレベルの高さに驚ろかされる。勿論 遊び心あるシーンを挿入し観客を和ませるといったサービスもある。

衣裳は着物のような和洋折衷のような独特で雰囲気のあるもの。頭飾りや扇子など小物も派手で目に付く。一方、舞台美術は和柄文様の衝立2つを自在に動かし情景を描き出す。物語はテンポよく流れるように展開するが、手に捲り台を持って場転換を示し、場面の変化を表す。台本通りなのかアドリブなのか判然とさせない面白さ、かと思えば 捲り台などの工夫で観客を置いてきぼりにしない。演じ手・踊り手・合いの手といった役のキャストが 観(魅)せるを意識したエンターテインメント、大いに楽しめた。ちなみに、演じ手・踊り手・合いの手は、公演ごとにシャッフルするから、都度違った印象になるようだ。
(上演時間2時間 途中休憩なし)

トレマ

トレマ

立ツ鳥会議

中野スタジオあくとれ(東京都)

2023/11/25 (土) ~ 2023/11/26 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

例えが適切でないかもしれないが、文学で言うところの純文学か大衆小説かといったら、この公演は前者だろう。観て楽しむ という娯楽性よりは、会話を通して思惟を深めるといった味わいがあるもの。しかし 観念的といった印象も強く、作者の中では完結しているであろう物語は、観る者に相応の想像力を求める。

「幼馴染みと再会するが、どういうわけか彼が『本物の彼』だとは思えない」という謎めいた説明は、観る者の解釈によって異なった結末そして印象を持つのではないか。不動産会社に勤める男の これから生きる時間とこれまで生きてきた時間、現在と過去の人生が交差したとき、忘れ(止まっ)た時間が混乱と動揺をもって動き始める。そして場所…東京と地方都市(過疎化)といった生活空間の違い 距離が、人と人の絆を脆くさせるのであろうか。何となくタイトルに悲哀が…。

そして不動産屋に絡む存在として、内見を繰り返し行うカップルの志向と諦念といった正反対の思考が面白い。どちらかと言えば理屈めいた会話が、不動産屋の要領を得ない態度や様子を際立たせる。
いつの間にか忘れてしまった出来事、いや自分の心に閉じ込めてしまった苦い思い出が炙り出される。ほぼ素舞台(ボックス クッションが2つだけ)、特別な出来事は起きず坦々と紡ぐ日々、にも関わらず観入ってしまう不思議な力がある。
(上演時間1時間40分 途中休憩なし)11.27追記

ネタバレBOX

不動産屋の男 佐倉井周(佐々木峻一サン)と妻の遥(中村彩乃サン)が雨宿りし雷鳴が轟いた時、周の幼馴染 円山崇(豊島祐貴サン)が現れたところから物語は始まる。その出会いは偶然なのか必然なのか。中学卒業以来20年ぶりの再会、しかし周は幼馴染の崇のことをすっかり忘れていた。

周は結婚し 近々子供も生まれる予定で、平凡だが幸せな暮らしを築いている様子。それから何度となく再開するが、そのたびに崇は変わった姿で現れる。周は学生時代に苛められており、崇に庇ってもらっていた。高校は別々になり、ある時 崇の悪口を聞くが関わりたくないため無視した。庇ってもらったことなど忘れていた。今、崇は生まれ故郷の家で引き籠りになっているはずだが…。

引き籠りの崇と東京で再開する。その姿は妻や不動産を内見しているカップルにも見える。しかし 周が過去の出来事を思い出し、生まれ故郷の崇の家で向き合った印象は霊(魂)のようでもある。崇の存在(生・死)によって、現実か心象劇かという違った捉え方になる。それは 今後の周の生き方に大きく関わってくるのではないだろうか。ラストは、どちらにも捉えることが出来る、いわば観客に委ねたといった印象である。

物語は、周と崇の関わりと不動産の内見を繰り返すカップル 馳川琥太郎(田宮ヨシノリ サン)樋口アヤメ(ぬまた ぬまこ サン)と物件を案内する周や先輩 兼古尚貴(七井悠サン)、この2つの話に緊密な繋がりはない。
カップルの会話は、それぞれの性格であり考え方の違い。同時に社会(世間)に対する見方のようでもある。少しでも良い条件 環境を求める固執か 現状維持の妥協といった対立の中に社会との関りをみる。

最後に都邑といった違い、この距離が過去と現在を分断するような描き方。そしてタイトル「トレマ」、実は過疎化の進んだ街の行き止まり…「止まれ」の看板が修繕されず「ま」の字が「れ」の下にずれ落ちたのだと。全体的に薄暗い照明、忘却も含め 物悲しいような雰囲気に包まれる。
次回公演も楽しみにしております。
クロノスとカイロス

クロノスとカイロス

FREE(S)

ウッディシアター中目黒(東京都)

2023/11/21 (火) ~ 2023/11/26 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

時空や次元を超えて人の思いを紡いだヒューマンドラマ。常に寄り添い見守るような 優しいまなざしの母、言葉少なく不愛想 不器用な父、そんな両親の下に生まれた三人姉妹(長女 辛沙奈サン、次女 鈴木沙綾サン、三女 神咲妃奈サン)が、それぞれの性格や立場を表し、抱いている思いと苦悩を吐露するように展開していく。

「人は何のために生きるのか」といった旨の哲学めいた台詞もあるが、物語は タイトル 説明にある「『時』と『時間』同じ刻を表す言葉『時間』は一瞬一瞬を表し、それが積み重ねられて『時』となり・・・」という内容を準え、答えのようなものが浮き彫りになる。時の積み重ね=生きることによって 初めてそれが分かるのかもしれない。

家族にとって自分の存在が重荷になっているのでは、と悩む女子高生(三人姉妹の三女)、どうして彼女が苦しんでいるのかが物語の肝。しかし早い段階で、彼女を見守る人、その様子から何となく想像がついてしまうが…。
(上演時間1時間40分 途中休憩なし)

ネタバレBOX

舞台美術は、やや上手にパンケーキ店 オカリナ、店先に並んだ樽の上に瓶。下手にハナミズキ、所々に生い茂った葉。シーンによって店内にテーブルや椅子を運び入れる。この劇場の特徴、出入り口近くに別場所(公園か?)を設える。

物語は、三女が高校を卒業してハナミズキに向かって感謝の言葉を言うところから始まる。<感謝>するということは、見えない思いや行為に向かって発する言葉。
店にたびたび来ては、食べないで帰っていく謎の女。立ち退きの嫌がらせか といった憶測をする常連客や三女以外の家族、一方 立ち退き話を知らされていなかった三女の疎外感が絡んで物語が立ち上がる。

母は三女が3歳の時、一緒に出かけた店の火事で、自分を庇い死んだ。自分のせいで と自身を責める。しかし 長女は、自分も一緒に出かけており、母は二人の娘を助けるためにといった事実をいう。この火事現場に生きることを見失った中学生がおり、それが謎の女の正体。娘を助けようとしている女性(母)を助けることも出来ず、死のうとしていた自分が助かってしまう。その理不尽というか嫌悪への贖い(あがない)のためオカリナへ来ていた。<生きること>は一瞬一瞬の時の積み重ねであり、相手を思いやること …あまりにキレイ過ぎるような気もするが。

ちなみにハナミズキの花言葉は「永続性」「私の思いを受けてください」「返礼」らしい。何となく、生きる、自分自身を大切にする、そして相手を思いやる(別エピソードの待ち人や結婚の約束など)に通じるよう。それを 総じて若いキャストが溌剌と演じ、脚本・演出 そして父親役の下出丞一さんが渋く重みをもってまとめている。全体的に重苦しくならずポップな印象の公演、楽しめた。
次回公演も楽しみにしております。
生きてるうちが華なのよ TAIAI

生きてるうちが華なのよ TAIAI

グワィニャオン

シアターグリーン BIG TREE THEATER(東京都)

2023/11/15 (水) ~ 2023/11/19 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

面白い、お薦め。
表層的には、街中に多くのゾンビが現れ、生きている人に噛み付きゾンビにしてしまう、そんなゾンビと生きている人との攻防といった予測不可能な物語だが…。このゾンビになった理由が切なく、そして<生きること>とはを考えさせる。

特定地域の出来事ではないと思うが、何となくケーブルTVの放送を通して 地域に密着したような。そして身を守るために家から出ないようにと注意喚起する。それが何故かコロナ禍の様相を連想させる。COVID-19を介して人から人へ感染し、コロナ陽性者は隔離され不自由を強いられた。また誹謗中傷のような風評(噂)によって傷つけられた、そんな不寛容な世の中への警鐘のように思えた。

勿論、グワィニャオンらしい面白可笑しさは存分に楽しめるが、奥底に潜む狂気のようなものが…。人が かつて人であったゾンビを抹殺する、しかも つい先ほどまで生きていた人(知人)を である。周囲の状況がそう せざるを得ないという怖さ。独創的なゾンビ劇、それは人々の心の脆さと強かさを浮き彫りにするようだ。見事!
(上演時間2時間20分 途中休憩7分) 

ネタバレBOX

舞台美術はカラオケスナック店内、正面に大きなガラス窓。上手に出入口とカラオケ、下手は二階へ通じる階段、カウンター・酒棚、ソファなどがある。ちなみに後々重要になる電信柱が二階の小窓から見える。

外には多くのゾンビが、そして なんとか逃げ込んだ店内は密室状態。どうやって避難するか、その脱出劇が一つの見どころ。そしてゾンビに咬まれたらゾンビ化してしまう、その感染するイメージはコロナ感染そのもの。人と人が通じ合えない、むしろ人が人であったゾンビを殺さなければならない不条理。何とか感染し(咬まれ)ないようゾンビの歯を抜歯し共存を図ろうとする。冒頭 ケンカ別れしたカップルにその情景を重ねるような巧さ。

グワィニャオンの舞台は、設定の妙、心地良いテンポ、そして照明・音響といった舞台技術が効果的・印象的である。表層的な面白可笑しさ、その奥に隠された人を思う優しさと切なさが滲み出るような描き方だから余韻もある。
また 途中休憩(7分)として 場面を停止、撮影タイムを設けるなど、奇知あるサービス(演出?)も楽しい。全体を通して、如何に観客に楽しんで 喜んで観てもらうかを意識した公演といえよう。
次回公演も楽しみにしております。
メタ・バースデイ

メタ・バースデイ

劇団娯楽天国

ザ・ポケット(東京都)

2023/11/15 (水) ~ 2023/11/19 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

面白い、お薦め。
表層的には、定年退職を機に考えること…就活ならぬ終活の一環として生前葬を行う男の物語。現代 初老男の人物像とその家族像を鮮明に切り取り、その世代のリアルを描いた秀作。
少しネタバレするが、男は元高校教師で 謹厳実直で家庭でも厳しかった。家庭内のことは すべて妻任せで家事はもちろん子供のことも見(考え)ていなかった。そんな男の哀愁と今後(第二)の人生を見つめ直すといったコメディタッチのヒューマンドラマ。

描き方としては序盤から中盤まで誤解・勘違いといったドタバタ騒動で笑いを誘い、後半からラストにかけて滋味溢れる展開で泣かせる。その感情の揺さぶり方が上手い。ちなみに男は学生時代にミュージカル研究会におり、高校(教師時代)では演劇部顧問をしていた。その関係もあり劇中でミュージカルナンバーを披露して楽しませる。

男の半生は反省でもあり、妻や子供たちと向き合うことで<生きる意味>を見出す。そのためには 何んらかのキッカケが必要であり、それが生前葬。実に上手い設定だ。
(上演時間2時間30分 途中休憩なし) 

ネタバレBOX

舞台美術は和室…座卓や飾り棚等が配置されている。冒頭 洗濯物が室内に干してあり、だらしない暮らしであることが容易に想像できる。上手・下手にそれぞれ出ハケ口があり、上手に階段があり二階へ。

定年退職をして やることがない男が一日中ぶらぶらしている。妻との会話も ほとんどなく生ける屍状態、そこから脱却するため生前葬を思いついた。同時に自分が本当に死んだときの葬儀の煩わしさを省くため、実家に戻ってしまった妻が驚いて戻ってくるかも、そんな淡い期待もあったよう。4人の子供のうち 3人は家を出、ニートの末っ子との二人暮らし。子供が小さいときには6人家族で騒がしかったであろう家、それが今では寂しいかぎり。

さて、子供たちに典型的な人物像を担わせ問題・課題提起をしているようだ。長男は高校時代に父と喧嘩し家を出たまま何年も帰っていない。長女は実家の近くに住んでいるが、夫は失職中で経済的に困っており 遺産目当て。次女は気功(運気)に係る組織と言っているが何となく胡散臭い団体のよう、末っ子(次男)はニート。子供たちの在り様と退職した父の心情、それは どこにでもありそうな家庭(族)に重なるのではないか。だからこそ幅広い観客層の共感と哀愁を誘っている と思う。

生前葬は学生時代のミュージカル研究会の仲間が取り仕切っており、金ぴかのモニュメントとデフォルメした遺影が飾られ、しかも棺桶まで用意する。そして高校時代の教え子(演劇部)の訳ありな仕草や家出した長男が彼女を連れて帰り、なんだかんだ子供たちは勿論 妻まで帰ってくる。そこで巻き起こる騒動、一転 戻った妻との会話が滋味あるもの。妻曰く 葬儀は死んだ人のためではなく、生きている人々のため(励まし)。一方、夫は生前葬を執り行うことで死を見つめ、今後の生き方を考える。生前葬を通して、死と向き合い 生きることの喜びを知る、これが本公演の肝であろう。

物語はドタバタ騒動(笑い)から、帰ってきた妻 実はといった事実(悲しみ)を明かす。舞台奥の壁が開き、暗幕そしてスモークの中 天国に続くような白い階段が現れる。階段に座り 夫婦でしみじみと話す、それこそが定年退職後の本来の姿のようだ。ラスト 妻に促されて…まさに生き返り、新たに生きる意味を見つけた「メタ・バースデイ」だ。
オペラ座の怪人を歌い踊る。ニートが思わぬところで拳法で活躍するといった観(魅)せ楽しませる。謳い文句「珍騒動を描いた愛と感動の スラップスティック・コメディ」堪能した!
次回公演も楽しみにしております。
結晶

結晶

劇団5454

赤坂RED/THEATER(東京都)

2023/11/10 (金) ~ 2023/11/19 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

面白い、お薦め。
概要は ⽣殖科学に係る物語のようで、「ベイビーラボ」と呼ばれる人工⼦宮施設を介してヒエラルキーを描いているような問題作。説明にある「人工子宮児が『コールドベイビー』と呼ばれ、忌み⼦として扱われていたのも遥か昔のこと」という未来の観点で描いたSF。いわば<出産>そのものの捉え方が違うが、その奥底にあるのは<人>に対する優劣もしくは偏見といった歪な世界観が透けて見える。

上演前、舞台セットの写真撮影が可である旨 案内があった。中央 上部から細長布を円柱状に垂らし、幾つかの透明なチューブ、まさに人工⼦宮施設らしきものを作る。その台座にあたる所は芝(グリーンジュウタン風)であり周りに蔦 葉が巻き付いている。
物語では、現代の「出産児」は珍しく「コールドベイビー」と比較することによって<人間>の在り様を模索する。人の誕生を肉体・精神・経済など多面的な検討を行い、きわめて合理的な考え方をする。それは理論・理屈の世界で曖昧な感情が入る余地がない。にも拘わらず、根幹にあたる台座は芝であり蔦 葉=自然を表している。未来と対比することによって現代の自然分娩、その出産と親(特に母性)の命がけの愛を確認するかのような描き方だ。その発想の柔軟性が、物語に込められた問題・課題の広さ、奥深さに繋がっているよう。
(上演時間2時間 途中休憩なし) 追記予定

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