ハンダラの観てきた!クチコミ一覧

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「扉」から連想した短編戯曲リーディング/演劇の現場でのハラスメントを考えるフォーラムシアター

「扉」から連想した短編戯曲リーディング/演劇の現場でのハラスメントを考えるフォーラムシアター

日本劇作家協会

座・高円寺2(東京都)

2024/11/30 (土) ~ 2024/12/01 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

 日本劇作家協会が『扉』を題材に公募した短辺戯曲の応募総数、今回は69本。内6本が選ばれ座・高円寺Ⅱでリーディング公演及びブラッシュアップの為の現役劇作家2名によるトークセッションがあった。
 上記公演は昨日のみ、華5つ☆であった。本日(12月1日)は別の演目がある。

ネタバレBOX


 リーディング作品は以下の6作。
今井雅子さん  :『納期』
富田晴紀氏   :『ドラマなんて起こらない箱の中か外』
カタモトキザオ氏:『便所での事件簿』
新宮虎太郎氏  :『贔屓貝』
高山遥さん   :『天国への扉』
中野そてっつさん:『ライスが選べる! サバの夏野菜伽喱ソース洋風小鉢付き定食』
 ブラッシュアップ・セッションに登壇したのは
長田育恵さん及び小野寺邦彦氏、司会は山田裕之氏

 選ばれた作品の質の高さにまずは驚嘆。若い劇作家各々のベースにした様々な作家・作品の影響の残響が観られるものもあるが同時に独自で個性的な作品のテイストをも持つ作品、或いは思い掛けない発想から出発して書かれた作品等何れも個性的で優れた戯曲ばかりで今後の活躍に期待したい。またリーディングに携わった役者陣(5名:井上加奈子さん、鈴木裕樹氏、玉置玲央氏、森下亮氏、矢柴俊博氏)の間の取り方、声の質と活舌の巧み、演出の良さにも唸った。更にブラッシュアップの為に現在活躍中の劇作家からのサジェッションがあったが極めて的確で示唆に富むものであった点にも流石の感を持った。
ウエストサイドのオペラ座の殺人          

ウエストサイドのオペラ座の殺人          

カスタムプロジェクト

調布市せんがわ劇場(東京都)

2024/11/29 (金) ~ 2024/12/01 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

 ジェット団とシャーク団の登場は無論だが、これにオペラ座の怪人が絡む。正答率数パーセントの謎解きに何処まで迫れるか? これが問題だ! 楽しめる。

ロケット・マン

ロケット・マン

劇団鋼鉄村松

劇場MOMO(東京都)

2024/11/28 (木) ~ 2024/12/01 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

 30周年おめでとうございます。こういう作品を劇団初期に初演していたとは。凄い!
今回が3回目の公演、自分は初見で自分の考えていることと重なる部分もあり大変驚くと同時に楽しめました。残席の或る回もあるとか、ベシミル!

ネタバレBOX

 劇団初期に書かれたということは30年近く前に、国家間の紛争や戦争を回避する手法として世界統一政府を樹立して国家VS国家の戦争を失くすことに成功。プロメテウス計画を立ち上げ推進して光速を越えようと実証・実験を繰り返してゆく。この実証・実験に欠かすことのできない証人が、今作の主人公である宇宙飛行士即ちロケット・マンである。今作の凄い処は、これだけ宇宙に関する科学的知識を持ち仮説を含め光速を越える為の論理を構築検証してゆく中で現代物理学で質量を持つ物は光速を越えられないという原理(これは相対性理論で最も有名な公式E=MC²を紐解いてみれば容易に分かる。今更だが一応説明する。因みにEはエネルギー、Mは質量、Cは光速である。要は質量とエネルギーは同質であり条件次第で物質にもなればエネルギーにもなる。光は電磁波の一種の波エネルギー。ところで質量とエネルギーは同質であるが物質が光速に近付けばその形態はエネルギーにより近づくから物質としては存在し得なくなる。これが質量を持つ物は光速を越えられない理由だ)をプロメテウス計画遂行の為に莫大な予算を注ぎ込み世界人口の半分以上は今や食うや食わずの極貧、教育も市民権等ヒトとしての諸権利もあったものではない。この貧民層から偶々エリートコースに掬い取られその内部でそれなりの地位を築いた者たちの中から中央エリートに敵対する勢力も育ってきていた。人類の半分以上を占める下層民が氾濫を起した時彼ら貧民をサポートし反乱の主導権を握り上層部の企てを破壊しようと蜂起した民心の念の深さとプロメテウス計画で探求される宇宙の奥深さのうち、どちらが勝るかについての答えも出して物理学から人間と科学の問題に巧みにすり替え、以て先に説明した物理学的正解ではなく、質量でない概念で光速を越えようとする論理を用いて形式論理として矛盾の無い形でとても観客に分かり易く軟着陸させてみせたシナリオの見事なこと。演出も切れのあり、役者陣の演技も良い。
 浦島太郎が抱えていたであろう果ての無い寂寥にも、より受け入れやすい答えが出せているのではないか。この点も見事である。
『晴耕雨読』

『晴耕雨読』

ウテン結構

六本木ストライプスペース(東京都)

2024/11/26 (火) ~ 2024/12/01 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

 今作、既にSpiral Moonが上演しているが、こんなに印象が違うとは!

ネタバレBOX

 音響の使い方(終盤の照明も)が極めてソフィストケイトされており上手い。脚本はSpiral Moonのものと男女の入れ替え等多少書き換えはあるが大きな相違は無い。但し演出、舞台美術は可成り異なり役者も無論異なるので脚本が同質であっても、演出、舞台美術、役者の違いがこんなにも大きな印象の差を生み出すのか! と驚きを禁じ得なかった。既にSpiral Moon版を観た方々も十二分に楽しめよう。
 基本的に出捌けは観客席後方の溜まりから役者陣が客席間の通路を通って入退場するが、演技空間の中央に置かれたテーブルと椅子の下手のベンチ、上手の椅子2脚に一旦演技を終えた役者が座れるようになっている。他下手やや奥に衝立が置かれここが袖としても機能する。また上手側壁の手前には白い布が天井付近から下がっているが、壁を意味して居ると考えられる。この演技空間から見た客席側が部屋の窓という設定である。
 物語は幾つかの挿話をオムニバス形式で紡ぎ展開するが、きりの良い箇所で断絶させ、終盤「竹取物語」のかぐや姫の失踪をモチーフに現実に存在し続ける人間たちとファントーム的傾向を漂わせる或いは本質とするかぐや姫を対置していわば条理と不条理の世界を同時に強調、表現して見せる点が秀逸。尚登場人物たちは履物を履いている者、履いていない者の二通りに別れるが、屋内、屋外でということはあるものの、終始履物を用いる者達は実際に存在し続ける通常の人間を、裸足の者達はファントームを意味していることも見逃すべきではあるまい。
ゴーギャンおやじ2

ゴーギャンおやじ2

グワィニャオン

シアターグリーン BIG TREE THEATER(東京都)

2024/11/27 (水) ~ 2024/12/01 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

 初日を拝見。華5つ☆ タイゼツベシミル❢!(追記後送)パート1,パート2でトーンが大きく変わる。間に10分の休憩が入るが、この休憩中も板上では名場面集が上演されている。

ネタバレBOX


 アメリカの実質的植民地同然の属国としてしか機能していない情けない祖国の為政者共の体たらくと、とうの昔に畜人と化した上その下で蠢く畜生同然の多数派。これらの小賢しい畜生VS棄民同然の自由人。
 ちば てつやの傑作「あしたのジョー」を、福生にある米軍横田基地の絶え間ない軍機の騒音と基地の街特有の人間精神内面からの浸食を経て生きる為に実存せねばならぬ泡沫の如く遇される人々の待ったなしの生活とその遣る瀬無さ悔しさ屈辱を跳ね返そうとする正当な反発が、国民を守るべき祖国の国家暴力装置である警察に対峙せざるを得ない状況を重ね合わせつつ遺憾なく描いて見せた傑作。断固観るべし!!
お父さんと漫才(東京公演)

お父さんと漫才(東京公演)

Card Case (宮下涼太プロデュース)

高田馬場ラビネスト(東京都)

2024/11/22 (金) ~ 2024/11/24 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

 楽日、ソワレ公演を拝見。華5つ☆。世話物の持つ柔らかな感性を見事に描き観客を自然に巻き込む手腕が素晴らしい。ベシミル! 
 ネタバレでも内容についての詳述はしていない。何故なら会場に出掛け、実際に舞台を観ないとこの一体感は味わえないからである。

ネタバレBOX

 敢えて「世話物」という言い方を採る。無論、このような言い方は現在の日本では浄瑠璃と歌舞伎で用いられる以外には余りあるまい。だからこそ、こう言いたいのだ! 最早、現代日本社会でこのようなタイプの人情は完全に滅びたと感じざるを得ない日常を経験し続けていることがその理由だ。少なくとも東京の街中、公道、電車車内、公共施設、大型の販売店等で人々の行動を見る限り公共マナーは完全に地に落ちた。洋の東西を問わず、外国人の方がよほどまともである。これに対し現代日本ではディスコミュニケーションが当たり前で、何か起きた時、状況に応じたコミュニケーションができる人は稀になった。誰も自分でことに当たろうとせず、知らんぷりを決め込み誰かが何かを始めるのを待っている。失敗でもすれば冷笑、嗤笑、憫笑、忍び笑いの嵐だ。こんな具合に笑っている連中その者たちが考えていたことは明らかである。自分がしゃしゃり出て失敗したら・・・。である。
 今作の登場人物にそんなキャラは幸いなことに一人も居ない。そのような老若男女が紡ぐ庶民の人情譚である。今作が凄いのは、脚本、演出、キャスティング、演技、舞台美術や照明、裏方さんの対応総てが混然一体となって表現しているもの・ことと、その実現である今公演が実に自然に観客を巻き込み演劇空間を成立させていることだ。
 重複にはなるが、世話物とは庶民つまり我々と同じ町場の人々の話であるから、最も大切なことは観客に自然に感じられることだ。言うは易いが舞台でこれを実現することは極めて難しい。冒頭に上げたような日々が今や都市部の日常となる中、今作に描かれるような人間らしく温かい人情のある、そしてそれが通用する世界へのノスタルジーでは無いことを今後の日本で尚生き続けねばならぬ総ての人間の為に願う。
クリスパ ❤ グランデ

クリスパ ❤ グランデ

劇団娯楽天国

ザ・ポケット(東京都)

2024/11/20 (水) ~ 2024/11/24 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

 貫禄の第50回本公演。随所に歴史を重ねてきた劇団ならではの表現、表象があり、流石と唸らせる。

ネタバレBOX

 娯楽を標榜しての本公演50回目、流石に貫禄がある。しょっぱなから雰囲気が矢張り凡庸な劇団とは異なるのだ。自分が感じたその理由を少し説明しておくのも良いかも知れない。
板ほぼ中央の浴場手前下足入れの上辺りに照明の加減で十字架に見えるオブジェがある。銭湯が英語のセイントに掛かり、当然のことながら登場人物たちの苦境を救うプレゼントの持参者である聖人の名に掛かるのである。更に何故、この聖人が閉めた銭湯に入れたのか? については直ぐ気付けるだろうが一応記すと、初めて訪れた町で銭湯を探す場合、高層建築の多く無かった時代には、これを探せば良かった。贈り主は、Xmas前日、ここから入って子供たちの眠る枕元にそのプレゼントを届けるのだから。だが、これだけでは終わらない。板上で芝居が始まるとほぼ同時に客席側から讃美歌を歌いながら入場してくる白装束の集団が現れるからである。このような幾層もの表象や暗示、象徴、関連文化迄がオープニングの僅かな時間の中にそれとなく埋め込まれ洋式ウェディングという儀式の文化的背景と日本の伝統や生活とをしゃれっ気たっぷりに融合し止揚しているのである。
物語自体の内容を余り詳しく記すことはしない。誰もが観れば分かるように創られているからである。
 だが終盤、聖書からの引用をキチンとし的確なタイミングで新郎となる者、また新婦となる者各々に理に適い而も柔らかく、言われる側に相応しい内容の説諭をして聞かせる神父の威厳に満ち静かだが揺るぎのない挙措を支えている精神沃土迄感じさせる程、西洋の宗教の最も深く高貴な部分を縦糸にして示し、一方目まぐるしく変わって予想を裏切られ右往左往する大多数の普通の人々の置かれた思うようにならぬ状況とを横糸に表現している今作の脚本、それをキチンと構成し劇化した演出、これら総てを肉化し舞台上に奇蹟を具現したかのような神父役を始め個々の役者陣の演技が程よく噛み合い良い味の作品に仕上がったことは記しておく。
オーロラの碑

オーロラの碑

演劇なかま高円寺

座・高円寺2(東京都)

2024/11/22 (金) ~ 2024/11/23 (土)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

 タイトルのオーロラの碑はかつてここに建っていた杉並区立公民館で、アメリカが安保理で決議された戦略的統治地域に指定されたミクロネシアのビキニ環礁・エニウェトク環礁で(計67回行われた核実験)1954年3月1日に行われ最大級の死の灰を降らせた水爆ブラボーの核実験により第五福竜丸等(2015年水産庁公開資料によると1423艘)の漁船が被ばくし船員、獲られた鮪等が被ばく“原子鮪”“原爆鮪”などど大々的に報道され廃棄される中、杉並区議会は区民からの陳情翌日の1954年4月17日に全国初の水爆禁止決議を採択。総署名者数18.200.644筆に及んだ署名運動の足跡を残したい区民の念で建てられたモニュメントの名である。全公演字幕付き。追記後送

宙浮くカルト

宙浮くカルト

中央大学第二演劇研究会

シアター・バビロンの流れのほとりにて(東京都)

2024/11/14 (木) ~ 2024/11/17 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

 実際に大きな事件を起こしたカルトをベースに入信した信者、教団幹部、入信者家族や教師等関係者を中心に描いた作品。最初の事件発生から既にほぼ1ジェネレーション。事件は我が国の不健全性の陰画と見ることもできる。

ネタバレBOX

 ホリゾント中央にはラメのような光沢を持つ光背が掛けられ教祖の威光を高める演出が為されている。この光背の左右にはブルーの布が下がり出捌けに用いられる。また上手・下手側壁には黒幕で袖が作られこの2か所も出捌けとして用いられる他、演技スペースを広く取る場合は、テーブルやベンチを側壁にはめ込んで収納できるようにもなっている。室内は壁、家具類は基本的に白、教祖の座す椅子の膝から下の部分だけが黒い布で覆われている。 
 登場人物のうちカルト信奉者の衣装は白、教祖の衣装は黒っぽい。また司教も白い着衣だが上着にはかなり長い帯状の布を首回りに掛けて権威を現わしている。彼女がこのカルトの実質的推進派の中核を為しているのは教祖の実の姉であること、教祖に祭るのはジェンダーギャップのある社会では男の方が適当との判断からであろう。因みに教祖が訓戒を垂れる儀式の際は宙に浮く形を採っているが今作が実際に事件を起こしたカルト集団を下敷きの題材として用いており、事件を起こしたカルトの教祖は浮遊し得たとの噂が散々流されたからであろう。司教は入団者たちを新人類と呼びこれまでの宗教の如く既成の神を信仰の対象とするのではなく未来に生まれるべくして生まれる神を崇めることを目指しているが、今作で描かれるカルト内部では、入団者の間からも注射や薬物で五感の亢進性を高め一種のエスパーに仕立て上げようとするカルトの方針を問題視する意見が出、教団の掟に背いたと見做された者は殺害することも止む無しとの発想が強くなって教祖も姉とは異なる世間一般の道理に近い姿勢を取り始め遂には姉及び強硬派を追い詰める事態に至ってカルトは崩壊する処まで描き後日譚も描いて着地させている。
 これ以外にも序盤で血縁を否定しカルトの信者となった者を家族として接し他の諸々の社会的結束を断って自分たちの内部規範の内だけで行動し、判断する組織の道程を今作は中心に描いてゆくのであるが、入信した者達の殆どが学校の勉強は良くできるが、身内の関係(親子関係のミスマッチや親の愛情が子供に伝わらない等深刻極まる問題を抱えていること)が上手く行かないことが入信の契機となっていることの不気味もキチンと描かれている点は特筆に値しよう。警察や公安に親族が相談しようにも入信者本人の意思で教団の拵えた施設に家出をして移っているので個人の意思を権力がしゃしゃり出て規制するのも憚られるという、敗戦前の警察権力の横暴から来、敗戦後に曲がりなりにも民主主義国家を標榜して何とか被って来た仮面を剥がすわけにはゆかぬとの判断もあるのだろう。決して国民を守るなどという発想でないことは人権などあって無きが如き裁判や絶え間なく起こっているでっち上げによる起訴等の実例をみれば明らかである。何れにせよ、我が国が抱える様々な矛盾と国民無視の態度、政治の救い難さ、そして民衆の大多数の不甲斐なさが生み出したこのような不気味な事件を敢えてベースにして作った作品である。若者たちの健康な感覚がグー。
Day Dream Dance D.C.

Day Dream Dance D.C.

空想実現集団TOY'sBOX

ウエストエンドスタジオ(東京都)

2024/11/13 (水) ~ 2024/11/17 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

 βチームを拝見。

ネタバレBOX

 板上は基本的に裸舞台。箱馬が3つ置いてあるだけだ。物語は可成り単純。この店のステージで踊れればそれだけで大した才能と評価される名門スタジオのオーディションに受かった5人のダンサー。然し今まではステージらしいステージに立ったことも無い者が殆ど。どうして受かったのか? 不思議に感じている者さえ居た。とはいえ合格は合格、今迄逃げていた自らの不甲斐なさから脱却し雄飛するチャンスではある。だが給料は良いもののやらされることは1日中地下室の掃除、レッスンも無ければ公演へ向けてのミーティングらしいミーティングも稽古らしい稽古も一切ない。而も音響機器等ダンスを踊る際に必要な器具は何時のまにか撤去されていた。
 然し、オーナーサイドに1人、この5人を陰ながら支えてくれる人物が居た。彼女はダンスに必要なラジカセやダンスに適したヒット曲等を目立たぬ場所に予め隠し、ダンサーたちにヒントを与えてこれらを見付ける段取り迄つけてくれる。
 然しオーナーの目的は、先代の遺言に沿う形を採ってこの店をステージ諸共解体してしまうことであった。それが体は弱かったが優しかった父の誕生(逝去)日の2日後に落成したホール、ステージと組織のトップとして完全だが、仕事ばかりで体の弱い父にも、子供である自分にも目もくれなかった母への復讐であったのだ。唯母の残したとされる遺言状には、このホールを作ったのは、若いダンサーを目指す者がⅠ人でも居る限りその夢を叶える為の場を提供しようとの念からであったから、この趣旨に後継者が沿わない場合は一切の相続をさせないとの文言が記されていたのである。この内容を守った上で余りにレベルが低いダンサーばかりでは名門となったこのホールの名を汚すことになる。それをオーナーは狙っていたのである。
 ネタばれは此処迄。By the way,大団円では、無論もう一段盛り上がりや感動のシーン、或る種、ドンデンがあるが、其処は観て頂くとして、ダンスや演技について以下に少し述べておく。ダンスで一番切れのあったのは、オーナー役。体幹がしっかりしているのだろう。しっかりした体幹から繰り出される四肢の動きはスピード、切れ共に一番素晴らしい。次に上手いと感じたのはAの記号を衣装に付けて踊るダンサー、その次がDの記号のダンサー。キャラ的に魅力的なのがジェンダーギャップそのものを生きるオカマダンサー。
 物語をもう少しドラマチックに仕立て上げるにはオーナー役はダンスが一番上手いのだから、先に述べた事情以外にダンスの才能の問題を絡めてオーナーにもう1つの屈折を付け加えるということもできるのではないか? とは思った。
ジゼル、またはわたしたちについて-Giselle or about us- 2024 TOKYO Remix

ジゼル、またはわたしたちについて-Giselle or about us- 2024 TOKYO Remix

waqu:iraz

スタジオ空洞(東京都)

2024/11/12 (火) ~ 2024/11/17 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

 U~~~む。épave(s)!

ネタバレBOX

 オープニングはダンスで始まり基本的には群舞だが、完全にフォームが同じという訳dえはなく時折個的なダンスをする者も居る。こういったダンスを随所に織り込みつつ、各挿話が展開する。客席は演技スペースを半円形で取り囲むような感じに設えられ展開される個々の挿話は極めて2人称的な世界で異性間、同性間どちらも描かれるが当然の事ながら3人称世界が形成することのできる客観性や普遍性は端っから期待の仕様が無い。従って登場する人物総て、関係性総てはépave(s)でしか在り得ない。ということは、己の世界に精神的深み等は間違っても宿せないということである。
 説明によるとディバイジングシアターという形式の表現法ということだが、今の若い人たちの人付き合いの中心がSNS的手法なら、それは基本2人称世界なので自分達が2人称世界でしか交流していないことにも気付かないのかも知れない。ラップ調の歌詞も歌われたりするが、自分達独自で生み出したものでもないのに形だけ真似て何になるのか? ジャズでもラップでもロックや印象派が生まれた頃やダダ、シュールレアリズムが生まれた頃でも一部のごく少数の賛同者以外、最初は理解されず無茶苦茶に叩かれたりして、それをバネに更に力を付けて来た歴史と生き様、無理解な社会との格闘があった。そういった過程を無化して表面だけなぞってもどれだけの意味があるのか? 自分達で自分達の表現を作り出してこそのアーティストであろう。
栗原課長の秘密基地

栗原課長の秘密基地

SPIRAL MOON

「劇」小劇場(東京都)

2024/11/13 (水) ~ 2024/11/17 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

 華5つ☆、必見! 脚本、演出、演技何れも素晴らしい。流石にSpiral Moonの作品だ。殊に要を得た脚本が、役者が脚本に書かれた役を演技するというより、演技者に憑依するような脚本と感じる程脚本、演者の表現が素晴らしい。ネタバレ部分は、取り敢えずのネタバレ迄、余り詳しく書き過ぎるとこれから観る人の興を削ぎかねないから。

ネタバレBOX

 脚本は土屋 理敬さん、この脚本を選ぶ目がグー。演出はいつも通り秋葉 舞滝子さん。
 物語は児童書等の出版も手掛ける出版社の一室で展開する。板上は下手側壁の奥に出入り口のドア、壁の手前にクロスの掛かったテーブル。椅子は3脚。壁面には時計が見える。ホリゾント手前にも矢張り同様にクロスの掛かったテーブルと椅子3脚、上手側壁も同様にテーブルと椅子が並んでいる。無論下手と上手の席は相対して向き合っていて下手テーブル側は受賞者が入場時に座る席。ホリゾント前の席には審査員の席がそして上手の席は受賞した3人が賞状や盾、賞金を貰って着席する席があり、壁には伝統あるきつつき賞受賞を記す看板が掛かっている。因みにホリゾント審査員席の更に上手の壁の前には受賞者各々への賞品が置かれたテーブルがある。
 きつつき賞は児童文学会では権威も伝統もある文学賞であり児童文学の一流作家の登竜門としての地位を占めている。従って大賞を獲得した作品は必ず出版され読者の目に触れることも多い為児童文学作家を目指す作家志望者には垂涎の的である。今回の応募は382作品。選ばれたのは大賞が1編、佳作が一編、そのほか功労賞が1編の3編。出版界の不況もあってどの出版社も台所事情は厳しい。
 そんな状況の中、今回この賞授賞式の責任者を務めるのは、ビジネス情報誌の鬼編集長と評され辣腕を揮ってきた栗原。妻子ある身だが不倫をし不倫相手と別れたことで、セクハラをしたとの噂を流され、無実であった為児童書部門への左遷で茶を濁された。この授賞式で問題があれば忽ちリストラされかねない状態を自覚せねばならぬのは、人間関係のプロとしてのサラリーマンの習性である。
受賞式が始まって間もなく、緊急事態が発生、事前に充分な調査が為されなかったのか、或いは栗原の左遷が決まった直後の授賞式だった為か事情はハッキリしないが、佳作を獲った作家が実は可成り売れっ子の現役AV女優であることが判明、授賞式は急遽中段された。
ジキルの告白

ジキルの告白

ISAWO BOOKSTORE

サンモールスタジオ(東京都)

2024/11/06 (水) ~ 2024/11/12 (火)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

 今作は実際に起こった事件をベースに書かれた。事件は井上陽水の「氷の世界」が流行った頃起きた。大学助教授による教え子殺人事件の舞台化である。痴情のもつれ、そう言ってしまえばそれだけの事件である。然し犯人はインテリ、名の知れた大学の助教授であり犯人が罪を認めてから被害者の遺体が発見されるまでに7か月以上を要した点は極めて特異である。このように解明に時間が掛かったのには、無論理由がある。

ネタバレBOX


 その理由とは錯綜化である。犯行を犯したのは芥川も激賞した「The turn of the screw」を書いたHenry Jamesの研究者・大迫だが、事件を起こした年、彼がゼミで使った教本はStevensonの「Strange case of Dr Jekyll and Mr Hyde」という設定になっている。この設定が起こった事件通りなのか或いは創作であるのかという点迄自分は調べなかったので不明であるが作品化するに当たっての常套手段ではある。閑話休題、本題に入ろう。
 今作の錯綜は作家が事件を起こした犯人よりも周囲の人間を描くことに重点を置いて書いていることが無論その契機となってはいる。然し日本の研究者の一般的な在り様というか体質が関係していると解釈したのが自分の観方である。先にも述べたように事件自体は何処にでも転がっている痴情のもつれに過ぎない。特殊なのは周囲の対応なのである。自分はこのような特殊性に着目したという訳だ。研究者になる過程で修士課程、博士課程を経て多くの研究者はその道の専門家となるが、修士論文、博士論文を提出しなければ過程を終了したことにはならない。そして論文が通るか否かは査読で決まる。当然の事ながら指導教授を含め幾人かの先達が書かれた論文を読み判断をする訳であるが、論文提出者の今後の為に先達はサジェッションもするのが通例だ。そして研究者として生きて行く為に必要な最低限のことは、論文に記されていることに客観性があるか? ということである。無論他者の論文を真似たり、データを盗用するなどはもっての外、判明すれば忽ち落とされる。こういった事情もあるので兎に角、自らの視座で集めたデータを用いて客観化するという手法は謂わば研究者たる者の宿命と言えるかもしれない。それで大迫の犯行自認後も中々事件の解決への端緒が開かれなかった。而も航空機ハイジャック事件等もあった時代であるから成り行き次第で学生たちが大学を占拠して大学サイドの「倫理的腐敗や隠蔽」として問題化することも警戒せねばならなかった。周囲の者たちが置かれた状況はかようなものであった。だが被害者の遺体が発見されるのが極めて遅くなった理由は、矢張り大迫の個人的な心理的傾向に原因があったと思われる。この大迫の心理を心理学的に解いてゆく展開であったら、自分にはより面白い作品になったと思えるが、犯人そのものが犯罪を犯すに至り、事件の未解決化を図った心理的闇が抉られ描かれなかった点が自分には表層的に思えた。
La Memoria del pueblo ~民族の記憶~

La Memoria del pueblo ~民族の記憶~

ARTE Y SOLERA 鍵田真由美・佐藤浩希フラメンコ舞踊団

渋谷区文化総合センター大和田・さくらホール(東京都)

2024/11/06 (水) ~ 2024/11/07 (木)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

華5つ☆見入り、聴き入った。

ネタバレBOX

 カンタはスペインから来た本場の歌い手。踊りは日本のフラメンコでこれだけ質の高い作品を見せることができるのはArte y Soleraだけではないかと思わせる踊り手たち。しょっぱな、照明は昏めで恰も洞窟内で歌い、踊るジプシーの様な雰囲気で始まる。往時にはスペイン伊達そのものであったであろう初老の男性ダンサーの踊りでいきなり惹きつけ、次には♂vs♀の掛け値なしの争闘。ジプシー女性の激しい叩きつけるような野生のエネルギーをそのステップ、四肢の躍動に急止、舞いつつ用いる優雅な手指の動きや回転の妙で存分に表現。急止した時の勝ち誇ったようなポーズに秘められているであろう女性故の哀しさや流離う宿命から公教育を受ける機会が殆ど無いことから文盲も多く貧しさに苛まれる女性たちの意地が表現されているように思う。腰の曲がった老婆が男性に合わせるシーンもあり当に老若男女入り乱れての男対女のぶつかり合い。見事である。
軌道

軌道

劇団カルタ

阿佐ヶ谷アルシェ(東京都)

2024/11/02 (土) ~ 2024/11/04 (月)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

 鉄道に夢中になる友人は子供の頃周りにかなり居た。然し自分には余り興味が持てず縁遠いままであった。唯一鉄道関係で縁があったのはHIゲージ上を走る鉄道模型(山林列車の牽引車と貨物車)であり、小学校時代から始めていた縦走の為に長野方面へ向かう鉄道であった。それだけに今作に描かれた運行する側の人々の労働の苛酷、苛烈は、ショックを受けるに充分過ぎる程のインパクトがあり、鉄道に夢中になっていた子供の頃の友人たちも或いはこのような苦労を既に話に聴いて居た為かも知れないと思い返していた。(追記後送)

#ヘスティア

#ヘスティア

ゴセキカク

シアター・バビロンの流れのほとりにて(東京都)

2024/10/31 (木) ~ 2024/11/04 (月)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

 タイトルのヘスティアは、今作に登場するVチューバーの名前である。(追記後送)

ネタバレBOX

 物語は現代日本で暮らす日本人という可成り特殊な生き方に固定されたまま相変わらず受け身で生きて行く術しか持たぬ多くの人々が抱える日常を、正(まさ)しく現代日本の哀しいカリカチュアとして生々しく描いた作品と観た。
うすらひの下に、いる

うすらひの下に、いる

ここ風

「劇」小劇場(東京都)

2024/10/30 (水) ~ 2024/11/03 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

 脚本は先ず擽りから入ってくる。自分は他の人々の多くが笑うシーンを大抵面白いと思わない。ほんとに偶に一緒に笑えるだけである。ところが今作の擽りに関してはその擽りの95%位まで素直に笑うことができた。その原因の1つが登場人物のキャラ設定の非尋常性にある。先ず、このことから笑いに必要な脱臼が巧みに埋め込まれていることが分かる。(追記後送)

ネタバレBOX

 物語は次に謎を提起する。そして次に逃げ場無しの深刻な内容へ怒涛の如くなだれ落ちてゆく。
 そして終盤は
憂鬱なロケット

憂鬱なロケット

友池創作プロジェクト

「劇」小劇場(東京都)

2024/10/23 (水) ~ 2024/10/27 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

 全く頭を使わず仕事帰りに楽しむことができる。

ネタバレBOX

高校時代科学部の活動と十数年後の現在がクロスしつつ展開する物語。発想も実際に良くあるペットボトルを使って何か有用な物を作るとエコロジー絡み。ロケットを作るのだが、これを全国大会に出し優勝したメンバーたちのその後が入れ子細工で展開する。ロケットがミサイルと実質的に極めて近いことは科学少年・少女でちょっと気の利く子なら小学生でも直ぐ気付く。そこに全国模試2位の秀才が絡み部員同士の恋愛感情が絡んで思春期部活のあれこれが観客にも想起される、と同時にかつての同級生が結婚して数年しか経たないのに中三の娘がおり、思春期の反抗が少し複雑なかつての同級生の家庭の有様を薬味として添える等である。
 こういったありきたりの状況に荒唐無稽な政治やスキャンダラスなその手法が絡み、マスメメディアが絡んで最終場面ではドンデンもある。
Nel nome del PADRE パードレ

Nel nome del PADRE パードレ

サカバンバスピス

APOCシアター(東京都)

2024/10/17 (木) ~ 2024/10/27 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

 評価ポイントが少し低いのは、日本人観客の多くが背景を理解できないからだろう。観る側の世界に対するアンテナ張りを意識させる作品である。(追記後送)

ネタバレBOX

 板中央にはテーブル、クロスは白。テーブル短辺各々に木製椅子。客席は対向した位置に各々作られている。センターのテーブルを挟むように部屋の短辺の片側には隅に女の子の人形が置かれた黒いベンチ、ベンチの手前に木製の椅子。反対側には棚、棚には珈琲を飲む為のポット、カップ、ソーサー等々の茶道具、本、食品缶詰等。棚の脇に食品クーラー等。更にその隣には電話台に載せられた電話。
 ストーリーが開始される前には黒服を着た男と白いワンピースを着た女が部屋が上演開始時に必要とする板の結界をテープを貼って示すとか、備品のレイアウトを完了したり、テーブルにクロスを掛ける等の作業をしており、作業終了後は直ぐ捌ける。(実はこの2人がK家の使用人と解される存在である)
大正元禄ロックンロール家族1926

大正元禄ロックンロール家族1926

エリィジャパン

吉祥寺シアター(東京都)

2024/10/18 (金) ~ 2024/10/22 (火)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

 A班を拝見、

ネタバレBOX

初日ということもあった為か、音響と台詞のバランスが適切でないシーンが結構あり、台詞が聞き取れないシーンが多々あった。音楽劇と銘打っているだけあって歌を歌う役者陣の声は中々良いがマイクの使い方は習熟度が足りないのか或いは初日で緊張したのか? 途中から良くなったので後者であろうが、ちょっと残念であった。リハをしっかりやって板の上に立って欲しい。
 また、ファーストシーンで石炭を掘るシーンが出てくるが、ここにカンテラを下げて灯りを持ってくる役目の女性が出ていたが、ホントに夕張ではこんなことに女性が関わっていたのか? 疑問に思った。自分の読んだ本で九州の炭鉱の切り羽では、男が鶴嘴等で石炭を掘り起こし(サキヤマ)女は切り出し掘り出された石炭を男の後ろに居て籠などに集め坑道で用いられていたトロッコに載せる作業をしていた(アトヤマ)。炭塵爆発等の事故があれば無論死の危険がある中、地下の坑道での作業は単に肉体的にキツイばかりではなく、暑さと命の危険にも日常的に対峙する環境であり、一緒に作業をする者達は夫婦も多かったが妻帯者が別の妻帯者と組むことや、妻帯者が未婚の者と組むことも珍しくなかった為、この苛酷な状況で一緒に仕事をする間に男女の仲になり山から脱走するケースも可成りあった。無論、切り羽の作業では女性も半裸で作業していたから、猶更であったことは想像に難くはない。こんな状況をも実際に炭鉱夫をしていた山本作兵衛さんが描いた有名な絵から了解を取って借用し背景に映すなどの効果を狙っても良かったハズだ。そうすれば晃と志津香の関係もぐっと深いものに見えたに違いない。
 1926年といえば昭和元年でもある。最も極端に短い元年ではあったが。物語はほぼ時系列で展開し描かれる場面は殆どが大正時代である。登場人物たちを襲う様々な事件や事故、戦争や災害などについて深い掘り下げがある訳でもなければ人間関係のゴタゴタや先に挙げた様々な事柄によって変化する心理や人間関係の機微についての掘り下げも浅い為、観客の心と魂を深く揺さぶるような対立を言語化した台詞よりも、ゴフマン流のドラマツルギー理論を援用したような創りになっているので余り心と魂に響かない。ルシファーと契約して格段に腕を上げたとされるブルースと呼ばれる男が時折吐く台詞には中々穿ったものが多いが、また崔の歌う歌詞には彼の在日としての苦悩が偲ばれる言葉が多いが、他の出演者は、この作品が展開する居酒屋食堂「八尋」の店主の立ち居振る舞いに深い人間性を感じさせる他は、晃を除き殆どの登場人物がありきたりのドラマツルギーに従って演技しているように思われた。

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