ALL UNDER THE WORLD
燐光群
笹塚ファクトリー(東京都)
2012/03/19 (月) ~ 2012/03/26 (月)公演終了
満足度★★★★
実験
賛否両論のある舞台だろう。意味の解体を乱数を使うような方法も用いつつやっているので、演劇に意味を求めるタイプの観客には、評判は悪かろう。然し、今迄、燐光群の上演して来た作品の系列にずっと通底する方法のマンネリ化を避ける為、或いは、そこから、一歩踏み出す為に、坂手は、このような形で箍を外したのではないか。何れにせよ、少し長い目で見た時、この作品は、彼の作品系列のターニングポイントとして記憶されるようになるかも知れない。
少なくとも、このような抽象思考に誘い、或いは、素にチャレンジしつつ、観客と相対する剃刀のような鋭さに迄、これらの断片を断片のまま、昇華できれば、更なる展開が見えてこよう。観客の自由な思考が試された作品でもあった。
Vector(ご来場ありがとうございました!)
613
劇場HOPE(東京都)
2012/03/24 (土) ~ 2012/04/01 (日)公演終了
満足度★★★★★
理科系でも分かりやすい
題材の取り方が、先ず良い。命と研究者倫理という極めて本質的な問題をテーゼとして貫き乍ら、現代的視点で普遍性を語り得た。無論、シナリオ、演技、演出、キャスティング、舞台美術、照明、道具方らもこれに応えて良い舞台作りをしている。理科系以外の観客にも、良く理解できるように仕掛けを施している所も、とても自然で、レベルが高い。更に、方法的にひねくりまわし過ぎておらず、直球に近い所で勝負しているのが、爽やかである。適度なユーモアも鏤め、現実的な要素も取り込んで飽きさせない。これからが、楽しみな劇団である。
HELP!-『ハツカネズミと人間』より
ユニット TOGETHER AGAIN
劇場MOMO(東京都)
2012/03/15 (木) ~ 2012/03/20 (火)公演終了
満足度★★★★
バランスのとれた良い舞台
作品自体、如何にもアメリカらしい特性を漂わせることに成功しているのは、演出の巧みさだろう。露骨なレイシズムや、蛮行を平気で行うような力の正義、その情況下で、苦労を強いられるマイノリティーの有り様が、俳優陣の自然で、気配りの効いた演技によって昇華されていた。
随分、久しぶりの公演ということであったが、ブランクは、感じさせない。これからまた、年1本のペースで活動を再開する予定だと言う。期待している。
掏摸―スリ―
サイバー∴サイコロジック
OFF OFFシアター(東京都)
2012/03/14 (水) ~ 2012/03/18 (日)公演終了
満足度★★★
入り方がちょっと
導入部、余りにぺダンチックでダサい。これで純文学と言うのは、文学的認識が浅いのではないだろうか。それに、主人公は、ちっとも悪ではない。寧ろ、それに徹することができずに悩む所が、余りにもありきたりで、そのことが、観客の失意をかったのではないか。悪らしい悪は、一人居た。だが、それはフライアーで言われている父ではない。掏りの演技も未熟であった。にも拘わらず、主人公の顔が、中盤から終盤になってどんどん良くなっていった点、良い役者になる可能性はある。個々の俳優のこれからに期待する。
『一方向』 -真壁茂夫×韓国人俳優-
OM-2
d-倉庫(東京都)
2012/03/19 (月) ~ 2012/03/20 (火)公演終了
満足度★★★★
解釈
もう少しラディカルな作品に仕上がっているのかと思っていたが、演出家のアフタートークを聞く限りにおいては、それほど、意識的では無いように感じた。無論演出をつけていないかに見せ掛けて、実は、人間とは、意味を見付けだそうと試みる動物であることを、個々の観客に認識させる為の罠であるかも知れないのだが。
基本的に科白は、一切なし。叫び、歌、効果音、ギター曲、有名な終戦時の放送などが音の総てである。それでいて、意味は、かなり明らかに思えた。「一方向」のタイトル通り、俳優は一つの例外を除いて、一方向から反対側へ動いたし、そのことは、単純に、時間の流れを想像させた。その分、俳優陣の持つ身体性、基礎力の高さは良く伝わってきた。これらの要素を通して、観客は勝手に解釈すれば良いのである。それが、演出家からのメッセージであろう。
ドグラ・マグラ
劇団霞座
アートスタジオ(明治大学猿楽町第2校舎1F) (東京都)
2012/03/01 (木) ~ 2012/03/04 (日)公演終了
満足度★★★★
流石、演劇専攻の学科を持つ大学の演劇部
原作のテイストを汲みながら、推理を中心に据えて構築してあり、学生劇団としては、間違いなく全国でトップクラスだろう。また、描かれた内容の中心で問われていることが、研究者の倫理であることは、現在、生起している、原発問題の中核を成す問題であり、時代感覚も鋭い。舞台美術、照明などにも、様々な工夫がこらしてあり、この舞台から、プロとして巣立って行く人もいると感じた。演技でも、迫真の演技ができた役者が居た。このまま延びれば、プロの一流になれるだろう。ここではあえて、その役名を挙げないが、目の表情などは、特に素晴らしかった。今後を期待している。
荷
東京演劇アンサンブル
ブレヒトの芝居小屋(東京都)
2012/02/24 (金) ~ 2012/03/04 (日)公演終了
満足度★★★★
簡単に言葉を吐けない
荷
東京演劇アンサンブルが、武蔵関にあるブレヒトの芝居小屋で、今回上演したのは鄭 福根作 坂手 洋二演出 の「荷」だ。
描かれたのは、1945年8月24日、舞鶴沖で爆沈した浮島丸事件を巡る日韓関係である。恥ずかしい話だが、評者は作品を見る迄、この事件の内実を知らなかった。うろ覚えに知っていたのは、浮島丸事件という名称だけである。恐らく、読者の多くがこの件に関して知っていることは、自分と大同小異ではあるまいか。この国では、「選良」に都合の悪い事実、情報は隠されるのが常だからである。だが、この件を、事件と呼ぶのは、間違いだろう。これは、日本の「選良」が、自国民に対してと同じように他国の亜細亜人に対して犯した犯罪だからだ。だが、「選良」以外の日本人が、他国のアジア人に罪を犯さなかったというのではない。多くの日本人が、罪を犯した。従って、現在、日本人として生きている我々にも看過できない、民族の倫理的問題を扱った重い作品だ。
評者がこのように断ずるのは、3.11以降も、この国で猛威を揮う「選良」の悪辣は、戦中と本質的に一切変わっていないからである。彼らの薄汚い自己保身と瞞着、また選良の利益の為に今、捨てられている弱者。即ち、子供、女性、障害者、被差別者、下層階級。その構造が変わっておらず、民衆の側からの有効な反撃が、オルタナティブな形で現れることが無いからである。それは、我々日本人の恥そのものだと感じられるのだ。
ネットでは、読まれる文字の量も限られる。また、ネタバレは避けたいので、詳しくは述べない。この舞台で描かれているのは、戦争直後と数十年後だが、これは、過去の作品では無い。当に、今、この国で起こっている現実であり、人としての恥を知る人間ならば誰一人見過ごすことはできない、私の問題である。最後、荷は宙吊り状態に置かれる。然し、これこそ、観客に向けた鋭いメッセージであった。
ワンダース・インベーダー
ジャイアント・キリング
シアターグリーン BASE THEATER(東京都)
2012/02/17 (金) ~ 2012/02/21 (火)公演終了
満足度★★★★
知的
ワンダース★インベーダー
シナリオ、音楽、新旧の価値観とギャグの処理、時間と空間の相違等を、ドラマを構築する際の要素としてキチンと認識し、且つ上手に構成している。これらの処理の手際の良さが、物語の展開を頗る自然に運ぶ縁になっている。非常に知的な舞台構成だ。
シナリオライターが、演劇に必要な、また演劇を成立させる要件を良く知っていることと演出家が、舞台でそれを現実化する技術を持っていることの証である。男・女、若さ・老い、過去と現代、リアルとヴァーチャルなどとの対比が見事である。これらの対立こそが、ドラマを生み、成立させる。舞台を作る側は、想像のきっかけを与え、観客がそれを補完して舞台芸術が存在し始めるのだが、その当たり前のことをキチンとこなしている劇団は、残念ながら少ないのが現状である。それに引き換え、劇団ジャイアント・キリングは、各々のファクターが知的に按配され、劇の展開に無理が無い。その結果、俳優達の演技も自然で、そのことが更に筋の展開に必然性を齎すというプラスのスパイラル効果を生んでいる。効果音や曲の選択に見せるセンスの良さも知性の高さを感じさせる。
更に言うならば、諸要素を統括する視点はあくまで現代にあると言う点を評価すべきだろう。登場人物の設定を見ても、ゲーマーVS過疎のムラ社会という所から始まっているのだ。この対立軸に双方の側から其々のアプローチがあるわけだが、アプローチに於ける腑分けに仕方には、並々ならぬ力を感じる。
これら総体の上に、困難で閉塞的な時代状況を越えようとするテーゼが、作品の筋を通している。そのテーゼを、人間は遊ぶ動物だ、と言い換えても良い。今更、挙げる必要も無かろうが、ホイジンガやロジェ・カイヨワの著作、日本では、後鳥羽法皇の編ませた梁塵秘抄の一節、“あそびをせむとや生まれけむ”が余りに有名である。
この困難な時代、人間の最も本質的な要素を用いて、時代を切り開こうとする姿勢に未来に対する覚悟を見、好感を覚えた。
コルトス脳信号
---
新宿シアター・ミラクル(東京都)
2012/02/10 (金) ~ 2012/02/12 (日)公演終了
満足度★★★★
所見
この劇団、演劇をやってゆく上で大切な要素を2つ持っている。ひとつは、苦悩、もうひとつが、論理の徹底だ。最近の日本に珍しく、自分の表現したいものを持った劇団だ。したがって、描かれる世界が架空であっても、妙なリアリティー^を感じさせる作品に仕上がっている。今後、益々良い劇団になるよう期待している。
『ZIPPY』 ジッピー
anarchy film
新宿アシベ会館B1(東京都)
2012/02/01 (水) ~ 2012/02/11 (土)公演終了
満足度★★★
好感をもった
若者の抱える閉塞感を、こういう形d絵表現していることに、好感をもった。自分としては、とても明快な展開でわかりやすかった。また、会場が、そのまま、飲む空間でもあるような場所だったのも面白い。
DaReDa?
シネマ系スパイスコメディAchiTION!
しもきた空間リバティ(東京都)
2011/12/02 (金) ~ 2011/12/04 (日)公演終了
満足度★★★
楽しめる舞台ではあった
10年続いた劇団ではある。軽妙なタッチとエンターテインメントとしての出来は、合格だ。随所に映画や話題になっている作品のもじりが取り入れられ、つか作品の美学なども散見される。展開は自然である。ネタばれを避けるために個々の具体例を挙げることはしないが、オムニバス形式によって、ショートストーリーが展開され、その底に流れているのは、探偵の仕事だ。芝居を見ながら、観客も推理をすることができる組み立てになっているので、適度な同化と異化が生まれている。
口はばったいことを言えば、イプセンの”人形の家”以来の近代劇は、もはや、観客も単純に劇的世界に同調し、同化することなど不可能になった、という時代背景がある。チェホフでは、それが更に進んでドラマツルギーは解体する方向に進んだ。更にブレヒトによる寓意劇の異化効果の称揚を経て、ベケットに至ると最早、演劇は条理の成り立たない世界を描くことになった。そのような歴史を経て、我らの生きる現代、時間は、総て細切れにされ、最早、立ち止まって己の姿を振り返ることさえできなくなった我らの姿を、もっと辛辣に批判できるような高い志を持てば、更に良い舞台を目指すことができよう。それなしに、スタニフラスキーの演劇論の悪しき解釈で俳優修業をしても始まらない。