荷 公演情報 東京演劇アンサンブル「」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★

    簡単に言葉を吐けない
    荷 
    東京演劇アンサンブルが、武蔵関にあるブレヒトの芝居小屋で、今回上演したのは鄭 福根作 坂手 洋二演出 の「荷」だ。
    描かれたのは、1945年8月24日、舞鶴沖で爆沈した浮島丸事件を巡る日韓関係である。恥ずかしい話だが、評者は作品を見る迄、この事件の内実を知らなかった。うろ覚えに知っていたのは、浮島丸事件という名称だけである。恐らく、読者の多くがこの件に関して知っていることは、自分と大同小異ではあるまいか。この国では、「選良」に都合の悪い事実、情報は隠されるのが常だからである。だが、この件を、事件と呼ぶのは、間違いだろう。これは、日本の「選良」が、自国民に対してと同じように他国の亜細亜人に対して犯した犯罪だからだ。だが、「選良」以外の日本人が、他国のアジア人に罪を犯さなかったというのではない。多くの日本人が、罪を犯した。従って、現在、日本人として生きている我々にも看過できない、民族の倫理的問題を扱った重い作品だ。
    評者がこのように断ずるのは、3.11以降も、この国で猛威を揮う「選良」の悪辣は、戦中と本質的に一切変わっていないからである。彼らの薄汚い自己保身と瞞着、また選良の利益の為に今、捨てられている弱者。即ち、子供、女性、障害者、被差別者、下層階級。その構造が変わっておらず、民衆の側からの有効な反撃が、オルタナティブな形で現れることが無いからである。それは、我々日本人の恥そのものだと感じられるのだ。
    ネットでは、読まれる文字の量も限られる。また、ネタバレは避けたいので、詳しくは述べない。この舞台で描かれているのは、戦争直後と数十年後だが、これは、過去の作品では無い。当に、今、この国で起こっている現実であり、人としての恥を知る人間ならば誰一人見過ごすことはできない、私の問題である。最後、荷は宙吊り状態に置かれる。然し、これこそ、観客に向けた鋭いメッセージであった。

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    2012/03/04 03:21

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