ハンダラの観てきた!クチコミ一覧

3081-3100件 / 3251件中
ナイアガラ

ナイアガラ

劇団HOBO

駅前劇場(東京都)

2012/09/05 (水) ~ 2012/09/10 (月)公演終了

満足度★★★★★

新宿
 実在する新宿の中央公園の一角に住むホームレスたちの日常を描いた作品だが、舞台美術、演出、演技、シナリオどれをとっても素晴らしいできであった。演技では、やまさん役の俳優がとぼけた味を出して普段演出ばかりやっているとは思えないほどの演技を見せたし、他の役者陣もそれぞれのキャラが立つような、それでいて自然なレベルの高い演技であった。また、シナリオでは、新宿という街の持つ特性も良く出していた。

ネタバレBOX

 一種の都市伝説である小山からの人声は、誰もいないのに聞こえてくるが、其処は誰も立ち入らぬ方が良い場所でもある。新宿に集まる膨大な「人々の念が凝り集まって聞こえるのだ」という科白からは、ごった煮、東京の当に中心・中核を為す新宿の掃溜めの漏らす寂しい吐息そのものだと言うことができよう。
 更に、細かい点まで行き届いた配慮が素晴らしい。やまさんの小屋を撤去する時、小屋の屋根にはちゃんと落ち葉が積もっているのだ。
 作品のスタンスも良い。たとえ今では野宿者になったとはいえ、それぞれが抱えた事情の中で人間の尊厳を失わず共生している。そのような彼らの生き様をそっと、とても自然に提示しているからである。
[◯]A“Lone” ロン

[◯]A“Lone” ロン

「XXXX」

梅ヶ丘BOX(東京都)

2012/09/07 (金) ~ 2012/09/09 (日)公演終了

満足度★★★★

視座
 登場人物、男1人、女1人。この男女の関係に意味を見出そうとすると、不分明になる。意味に拘泥するならば、ピストルの強制する世界と考えるのが、最も近いかも知れないが、それだけに終わらない要素も孕んでおり、ピストルを男性性器と捉える事も可能ではあろう。然し、それでも釈然としない。
 自分は、むしろ想像力の生まれる場所で、役者は身体を用いて互いをインスパイアし、観客がその様子を見て、イマジネーションを広げる共同作業へのエチュードと見た。役者は、当然、観客からのレスポンスに反応して新たなイマジネーションのヒントを身体化する。この行為はループ構造を為していて、少しずつ内容に変化が起こる。その過程をこそ、見るべき作品だったのではないか。肝心なことは、このような視座・視点を持つことによって、意味という監獄から自由になることである。観た者にこのような発想をさせてくれた役者陣、演出家に感謝したい。

El Diablo~BARHOPPER vol.2 ご来場ありがとうございました!

El Diablo~BARHOPPER vol.2 ご来場ありがとうございました!

BARHOPPER

池袋 DiningBarでんでけ(東京都)

2012/09/08 (土) ~ 2012/09/09 (日)公演終了

満足度★★★

préciosité
 バーの中での朗読劇。壁には、映像が流れ、ギターの生演奏が入るが、ギターがイマイチ。シナリオを洗練を装っているが、むしろ、プレシオジテが鼻につく内容であった。
 

ネタバレBOX

 男を惹きつける一人の女を巡る4人の男の物語であるが、女を美化する余り、男の特性である鉄砲玉のような存在の軽さを嘲る、独りよがりな視点が目立った。
 彼女の持つテクニックと美しく見せるコツに対抗し得た唯一の男は、軽薄極まるナンパ師であるが、それもそのはず、軽薄同士だから、表層で一致するのは、当然である。
 だが、このことは、より悪しき主題を孕んでいることに注意したい。死を嘲笑するニヒリズムである。これが、如何に危険極まる態度であるか。我々は既に充分体験してきたはずである。この点で深化を遂げられないのであれば、我々は、再び、軽佻浮薄を通って悪しきダンディになることであろう。
 ハッキリ言っておこう。悪しきダンディとは、精神性の高み深みを欠き、誇りを無くし、自らの宿命を他者の意のままに操られることをよしとし、生殺与奪の判断を他人の手に預けて恥じない態度を実践する輩である。
恋のロジスティックス

恋のロジスティックス

江戸川あどりぶギルド(旧 広域河川劇団江戸川即興職人劇団)

ワーサルシアター(東京都)

2012/09/07 (金) ~ 2012/09/09 (日)公演終了

満足度★★★

恋のオペレーション
 ロジスティックスを担当する物流会社が、業務命令を用いて、社内恋愛を推進してゆく話なのだが、当然、計画通りにはゆかず、嫉妬や連絡ミス、指示ミスなどが、幾重にも絡まって喜劇的様相を呈する。
 ある程度こなれた公演だが、ブランクがあったせいだろうか。若干、切れが悪かったようである。物資の保管移送をするために、倉庫の空き状況、配車の合理的且つ有効な利用を、基本的には机上で決定し管理・運営してゆくのが、この会社の仕事だが、舞台を見ていてもシチュエイションが似ている分、メリハリがつけにくいので、シナリオも冗長になりがちだ。
 更に、舞台上に役者が一人も居なくなる場面では、電車が近くを通り過ぎる音を使って時間を埋めていたが、ワンパターンでは、すぐ飽きられよう。
 更に、演技にも、細部に対する配慮が足りないケースがあった。神は細部に宿る。誰でも言う事ではあるが、やはり、そういった点に気付いてしまう者には、興ざめである。

スキッパーハイ

スキッパーハイ

発条ロールシアター

タイニイアリス(東京都)

2012/09/06 (木) ~ 2012/09/09 (日)公演終了

満足度★★★★

壮大なオプティミズム
 中盤までは結構ファミリードラマ的に展開するが、それ以降は、SFらしいSFが展開する。

ネタバレBOX

 光を超える物理学も出てくる展開で物理学を文科系にも分かるように書いたニュートンなどの雑誌は、かなり読んだだろう。そう思わせる物理学混じりの話が入ってきて、実に面白い。当然のことながらヒッグス粒子の概念や次元、パラレルワールド位は雑誌で調べておいた方が楽しめる。
 おまけに、ラストでは、別宇宙・地球に住む宇宙船遭難者と故郷の星の宇宙人が話をするシーンなども出てくるが、どうやら彼らは恋人同士。その片割れが、それぞれの物理法則が異なる為に、自力では二度と故郷の星へ戻ることもできず、地球探査プロジェクトが終了するため未来永劫救済される望みも断たれ「永久に別宇宙の空間を漂うんだ」と独白するシーンが出てくるのだが、痛切である。だが、凄いのは、彼が、流れ着いた星・地球の在り様を肯定し、其処で希望を持って生きることを選択することだ。このオプティミズムが素晴らしい。
八月納涼公演  松井誠・池畑慎之介

八月納涼公演  松井誠・池畑慎之介

新歌舞伎座

大阪新歌舞伎座(大阪府)

2012/08/03 (金) ~ 2012/08/18 (土)公演終了

満足度★★★★

きっちり
 原作もメリハリのきいた作品であるが、舞台に工夫を凝らして、様々なトリックを上手に見せている。もともと、「四谷怪談」は「仮名手本忠臣蔵」外伝として描かれたと説明にある通り、主君切腹、お家断絶と公の恨みが、忠臣蔵で描かれているとすれば、四谷怪談は、この公に翻弄される私の恨みを表現したととることができよう。この辺りの関係を視覚化し得た舞台であった。裾捌き、時と所によって異なる刀の置き場所など、細かい点にも配慮がなされ、楽しめる舞台になっている。

アンダーグラウンドワンダーランド

アンダーグラウンドワンダーランド

ハイバネカナタ

サンモールスタジオ(東京都)

2012/09/06 (木) ~ 2012/09/10 (月)公演終了

満足度★★★★

演出
 効果の強い視覚表現を多用していて、初めて見ると驚かされるのだが、
視覚的効果の高い物は飽きられやすいのも事実である。

ネタバレBOX

 導入部、アンダーグラウンドへの道行で用いられる凸面鏡に映るクイズ王のimageは、光で彼の足もとに楕円が描かれるだけでも新鮮なのに、更に凸面鏡に反射させることで、不思議の国への導入部として鮮烈な印象を与えるのだが、クイズショウの放射状緑光線の多用などで、折角の効果が意味を減殺してゆくのはいかがなものか。
 また、シナリオには、もう少し明晰さが欲しい。ドッジソンの作品を下敷きにしているのだから、数学的明晰さをベーシックな部分で忍び込ませて欲しいのだ。
Overruled/悪魔のいるクリスマス(二本立て)

Overruled/悪魔のいるクリスマス(二本立て)

もんもちプロジェクト

阿佐ヶ谷アルシェ(東京都)

2012/09/06 (木) ~ 2012/09/09 (日)公演終了

満足度★★★★

英国風紳士の厭らしさ
 イギリス紳士たちの気取った厭らしさが男女のカップルの欺瞞的な会話の中に描かれて楽しめる。swapのような汚い言葉は使わず、互いの相手を取り替えるという遊戯で取り繕う辺り、如何にも狡賢いイギリス風である。皮肉な見方をすると、とても楽しめる。

Overruled/悪魔のいるクリスマス(二本立て)

Overruled/悪魔のいるクリスマス(二本立て)

もんもちプロジェクト

阿佐ヶ谷アルシェ(東京都)

2012/09/06 (木) ~ 2012/09/09 (日)公演終了

満足度★★★★

Lucifer
 神よりも人を知るのは悪魔なのかも知れぬ、との思いが根差してくるような舞台であった。実際、神などよりヒトの心を知るのは悪魔であろう。このシナリオでも神の側の要求は、スタティックであるのみならず、ドグマティック且つ無責任であった。それにひきかえLuciferの何と人間的なことか。この作品を題材に神学論争など始まると面白い。

「消える魔球」(第23回池袋演劇祭【大賞】受賞作品・再演)

「消える魔球」(第23回池袋演劇祭【大賞】受賞作品・再演)

ラビット番長

あうるすぽっと(東京都)

2012/09/07 (金) ~ 2012/09/09 (日)公演終了

満足度★★★★

風格
 流石に前年度の大賞作品だけあって、主張の明確さ、演技、しょっぱなの投球フォームを後ろ姿で見せて観客を引き込む手際など感心するシーンも多く、役者の演技もキャラが立っていて良いのだが。

ネタバレBOX

 タイムスリップが、余りにも唐突な印象は免れない。無論、主人公と沢村との比較などの振りはあるのだが、それだけでは、時空の歪みを物語化するのは難しかろう。
 胸を衝くシーンも後半にはたくさん出てくるし、野球好きのメンタリティーも具現化していて、野球には縁の無かった自分でさえ、野球も面白そうだ、と思わせるだけの力のある作品なのだから、初回のタイムスリップだけは、もう少し必然性を持たせて欲しいのである。
沈没のしらぬゐ【池袋演劇祭にて豊島区町会連合会会長賞受賞!!有難う御座いました!!】

沈没のしらぬゐ【池袋演劇祭にて豊島区町会連合会会長賞受賞!!有難う御座いました!!】

蜂寅企画

Route Theater/ルートシアター(東京都)

2012/09/05 (水) ~ 2012/09/09 (日)公演終了

満足度★★★★

バランスのとれた作品
 芝居自体は、バランスも良く、シナリオが推理仕立てになっていて、ぐいぐい観客を引っ張ってゆくので飽きない。更に神霊の依代として用いられた人形と隗儡師を配して狂言回しと怨霊怪異とを巧みに結びつける手並みは鮮やかだ。
 怪奇現象を顕在化させるのに用いられる方法としては、時空の歪みがあろうが、ここでは、依代としての人形を利用して輻輳化された空間が、必然的に時間を歪ますことを利用している。具体的には、フラッシュバック的手法を用いながら、怨霊の無念を明かし、死の原因を追及してゆくのだが、この辺りが推理小説のように巧みな展開を見せる。
 舞台美術も左右シンメトリカルに舞台の上手、下手の縁に蜘蛛の巣を配置することによって空間の結界を作り、あやかしが成立する舞台を現出せしめている。と同時に蜘蛛の糸に絡まれた因果律をも暗示していよう。音響、照明も効果的である。欲を言えば、和服姿の江戸時代の女性であれば、歩き方はもう少し内股になるのが自然なのではないか、ということだ。膝までを締め、膝から下を内股に歩くのである。すると、和服の裾さばきがより美しくなるはずである。

【初ツアー公演終幕致しました!】都道府県パズル

【初ツアー公演終幕致しました!】都道府県パズル

北京蝶々

王子小劇場(東京都)

2012/08/30 (木) ~ 2012/09/05 (水)公演終了

満足度★★★★

日本のレベル 自らの立ち位置
 アイロニカルで面白い。あちこちでボトムアップでは無い代表の連中の話を聞かざるを得ないようなことも経験してきたが、実際、レベルは、この作品に描かれている代表と同等もしくは低い連中が多い。建前社会のこの国で、「代表」なるものが、3つの看板をしょっているに過ぎない能無しであることは、誰にでも分かる道理だろう。
 シチズンシップを持たない人々が、このような「代表」を居座らせることに一役買っていることも、また。
 従って、北京蝶々が、このシナリオをこのような形で演じたことの意味を、観客は自らの立ち位置の問題として考える必要があろう。我々、故郷喪失者への問いかけでもあるであろうから。その上で、論じるべき主題であり、テーゼであるという具合にラスト部分を解釈すると、活きる作品と見た。

手話版「天気と戦う女」

手話版「天気と戦う女」

長内まゆこプロデュース

【閉館】(東京都)

2012/09/04 (火) ~ 2012/09/09 (日)公演終了

満足度★★★★

全体的な優しさ
 手話バージョンと通常バージョンがある。通常バージョンを拝見。舞台は、5層のホリゾント構造になっており、最奥部以外は、左右シンメトリカルに配置されている。最奥部と奥から2層目までは、雨の流れた跡が、赤、青、黄の3色で描かれ、客席側3層は、同じ赤、青、黄の水玉模様。地は総て白である。通常バージョンでは、無論、音曲も普通に使われ、科白は下手の手話通訳が訳す形だ。
 シンプルな内容のストーリーだが、設定がちょっとコミカルで同時にストレートである。このような設定が、愛の強さを嫌味なく表現することに役だっているのが、好印象を齎す原因だろう。
 手話バージョンと通常版の2種の表現形態を採っていることから明かなように、ハンデを負った方々にも楽しめる内容になっている。手話版では、役者自身が、手話を用いて科白表現をするような形を採るのであろう。ハンデの無い方々からもハンデのある方々からも、想像力をどのように具現化するのか、の具体的問いかけが為されるはずである。できれば、どちらのバージョンも見て比較したい作品である。
 両タイプの作品を見れば、ごっこではない、優しさを考える縁になると思う。

うつろな肖像

うつろな肖像

演劇プロデュースユニット コモレビ

中野スタジオあくとれ(東京都)

2012/08/30 (木) ~ 2012/09/02 (日)公演終了

満足度★★★★

あえて苦言
 良い作品なので敢えて苦言を呈したい。問題が深刻であればあるほど、その原因を掴む為に、地獄くだりをしなければならない。これは、きちんと問題を捉えようとすれば避けられない。この作品は、その意味では、地獄くだりをしている。それもかなりきちんと。
 一方、人間は、地獄に生きることを完全な喜びとするには、弱いように思う。例外はあると思うが、フーコーの狂気に関する定義、”純粋な錯誤”に踏み込むことは、多くの危険を伴う為たいていの人は避けて通る。ここに欺瞞、偽善が屯するのは事実でも、やはり、知のパラダイムシフトこそ肝要だろう。その底に蠢く地獄は表現する者だけが負えば良いのだ。そのうえで、ここで展開されている演繹的手法を帰納的手法に変えてみることの中に、未来という言葉を肯定的に捉えうる縁が隠されているように思う。世界の広がりを捉える自分なりの方法を編み出してほしい。今回は、頭でっかちになり過ぎたので、減点1。

背水の孤島

背水の孤島

TRASHMASTERS

本多劇場(東京都)

2012/08/30 (木) ~ 2012/09/02 (日)公演終了

満足度★★★★★

また見たい
 核武装もそれに必要なプルトニウム生産に役立つ原発も、言ってみれば、不信感と不信感に基づく恐怖が支えているのだろう。その不信感を信頼への希望に変えることによって終わらせているシナリオの詐術が素晴らしい。3時間15分の長丁場で休憩なしだが、パート1~パート3まで、全然、飽きさせず、ぐいぐい引っ張ってゆく力は流石である。金銭的余裕さえあれば、ぜひともリピートして見たい舞台であった。

うつくしい革命

うつくしい革命

劇団フルタ丸

「劇」小劇場(東京都)

2012/08/31 (金) ~ 2012/09/09 (日)公演終了

満足度★★★★

役者の業
 業界人向けか。日本の演劇人の多くが、我が事として見れるような内容である。小劇場演劇に携わる殆どの演劇人が、演劇では食えない。これは現前たる事実である。而も、ぽっと出の何の取柄も無いような連中が、アイドル扱いされて事務所のプッシュだけで大金を稼ぎ、すぐ飽きて捨てられる、スターシステムも間近にある。夢と現実の狭間で、演劇を諦める者も多くいる。業界人なら誰でも知っていることであろう。
 そんな背景があるから、この物語は、変にカッコイイ。革命の仕方がクールなのである。演出レベルのちぐはぐがあったが、まあ、許容範囲である。何より、役者のみならず、表現する者の業を描いたのだから。

ラ・カヌビエール~奇跡のディナー

ラ・カヌビエール~奇跡のディナー

演劇プロジェクト・Decca(デッカ)

シアターサンモール(東京都)

2012/08/29 (水) ~ 2012/09/02 (日)公演終了

満足度★★★★

大人の芝居
 セットを上手に利用し内容的にも深みのある舞台であった。多用されたギャグは洗練されないもので自分の好みではなかったが。ジャズ楽団が、ちゃんとした楽器で演奏しなかったのは、調理器具との合奏をするために敢えてやっていたのかもしれないが、音的には、もう少しまともな音を出してほしかった。フルートは最初、まともな物を使っていたのだから、タンギングまでやれとは言わないものの、もう少し正確な音を出してほしかった。ピアニカも、リズム、メロディーとも及第点ではない。役者陣の演技については、それぞれ、中々きちっとした仕事をしていたと思う。

かわたれの空

かわたれの空

日穏-bion-

シアター風姿花伝(東京都)

2012/08/29 (水) ~ 2012/09/04 (火)公演終了

満足度★★★★

時代背景と深読み
 扱われているのは1952年。1952年といえば総評などもゼネストを決行していた時代であり、サンフランシスコ講和条約発効の年でもある。一方、朝鮮戦争の真っ只中でレッドパージ旋風の影響もまだ吹き荒れていた。済州島4.3事件の4年後に当たっている。
 GHQによる日本支配が公式に終わる前後でもある。これに先立つ1949年には、下山事件、三鷹事件、松川事件が立て続けに起こる。無論、アメリカのスパイ組織が関与したというのが、実際の所だろう。日本の共産化を防ぐ為である。

ネタバレBOX

 このような知識は、当時を描いた作品を見る為には前提条件なのであるが、達夫が、記憶喪失の最中に自分が交通事故にあった原因として、「スパイだったのではないか」と自問する科白は、このような背景にリアリティーがあるからこそ活きてくるのである。
 また、この作品が現代に於いても多くの意味を持つとすれば、アメリカに対する日本の為政者の非合理的精神構造、何でもかんでもアメリカ反対vs追随の日本政府・官僚の姿勢が、民意をではなく、アメリカの施策にこそ重点を置いている近視眼的視点を明確に示していることである。結果、本当に苦しみを負うのは日本の民衆だという事実だ。
 ホームドラマ形式を採っている以上、露骨な形で以上のことを表現している訳ではない。裕仁の戦争責任についても、民衆の言い方として表現されている。だからこそ、観客は深読みする必要があるのだ。原発推進派の後ろに何が見え隠れしているか熟考してみるのも良かろう。本質は変わらない。
【番外公演 とりささ!】 退魔師・裏

【番外公演 とりささ!】 退魔師・裏

とりにく

テアトルBONBON(東京都)

2012/08/30 (木) ~ 2012/09/02 (日)公演終了

満足度★★★★

殺陣
 殺陣の上手さが際立つ。照明も効果的である。また、退魔師と妖魔の敵対関係に陰陽師が関与する弁証法的構図に敵味方の謀略が絡み合って舞台に惹きつける。
 更に、敵味方の仲間意識や裏切り、それを超える価値観としての優しさ、人間らしさが、随所に表現され、単なる活劇に終わっていない。実質を伴ったエンターテインメント仕上がっている。

世界の果て

世界の果て

unks

ギャラリーLE DECO(東京都)

2012/08/28 (火) ~ 2012/09/02 (日)公演終了

満足度★★★★

クリスタルと熱
 中村 文則の小説「世界の果て」の舞台化である。中村と同世代の文学座同期生が中心となって旗揚げしたUNKSの演出、上村 聡史は、硬質な文体でヒトの暗部を見詰める中村の作風に興味を持っていたという。だが、演劇化に当たって、作品にエネルギーを注入し、これまで培い、経験を重ねて習慣化し殻になってしまった自分達の在り様を敢えて再検証してみようとしている。コンテンポラリーダンスの楠原 竜也を巻き込んだのもこのような理由からだと言う。
 当然のことながら、ここまで自覚的に自らの立ち位置を検証し、創作エネルギーを習慣の検証に用い、解体された要素を、再度、構成することは、並大抵の仕事ではない。まして、原作のテイストは、やはり守ってのことである。
 この難題に挑み、成功した舞台ということができる。洗練された演出は小道具の使い方、OHPの適切な使用法、鍛えられた身体に見合う抽象度の高い演技と話法、シンプルな作りで深さをあらわすことのできる知性の高さによって、観客のイマジネーションを掻き立てる。原作の突き放すことによって、ヒトの闇を描く手法にエネルギーを注入することに成功した質の高い舞台である。

このページのQRコードです。

拡大