あかつき
劇団匂組
アトリエだるま座(東京都)
2012/11/28 (水) ~ 2012/12/02 (日)公演終了
満足度★★★★
生きる
今、最も本質的でホットなテーマは、生きることだ。グローバリゼーションが、アメリカを中心とした白人による一方的な植民地的支配の焼き直しである中で、我が国の為政者は、自分と自分の仲間だけが甘い汁を吸い、安楽に生き延びることだけを考えて汲々としている。官僚とつるんだ連中が、丸投げ以外何もせずに3~4割を抜いている現状を、民衆はただ認めていていいのか? 敗戦後、我が国にも貧しいながら自由闊達な時期があった。その時代の物語である。人が、未だ連帯とロマンチックを超えないニヒリズムの範疇にいられた頃、我が国の人は人間であり得た。今と違って。そのことを端的に表現している。小さな小屋で、乏しい予算で、作られているが、内容は豊かである。役者のレベルも高い。自然な演技がfできているのだ。観に行く方は、各々、大切なものを掴み取って劇場をあとにして欲しい。
でんすけ
JAPLIN
劇場HOPE(東京都)
2012/11/21 (水) ~ 2012/12/02 (日)公演終了
満足度★★★
ベタ
余りにもベタ。然るに評者は、観客を叱りたい。演者は、余りにも心優しいからである。もう少し、彼らの力を上位に向けさせて欲しいのだ。それに耐えるだけの力があることを役者たちの何人かが見せているからだ。演劇は、歌舞く世界である。それをベタレベルに落とすのは、観客の責任だ。見る側はもう少しソフィスティケイトされた存在であって欲しいとい心から願う。星の数が3つなのは演者の責任ではない。観客の責任である。演者のレベルだけで言うなら星4つをつける。
世界は僕のCUBEで造られる
ACTOR’S TRASH ASSH
吉祥寺シアター(東京都)
2012/11/20 (火) ~ 2012/11/26 (月)公演終了
満足度★★★★
観客を馬鹿にしちゃいけない
シナリオ、演出、振付、音響、舞台美術、照明などプロのものだが、出演者のヒエラルキーは時代遅れ。観客を見下したプロ意識も感じる。これは、出演した子供達に対してではなく、裏方の大人たちに対してである。これだけの才能を持ちながら、何故、観客のレベルも上げようとしないのか? 目先だけで金を稼ごうというのでは、余りに寂しい。下らないヒエラルキーの弊害は、出演者に出ている。ヒエラルキー上位の者は、音節レベルで科白をがなりたてても許されるのか? 科白の意味する所を敢えて曖昧にする、との演出に意味があるならばそれで良いが、そうでは無かろう。腕がプロなだけに、当然、これは意図的なはずだ。であればその必然性を作品に示すべきである。然し、それがあったとは感じなかった。もう少し謙虚に世界と対峙して欲しい。その上で、各々の持っている優れた才能を発揮して欲しいのだ。
苦情★真に受けTV
妹尾Pファクトリー
新宿シアターモリエール(東京都)
2012/11/22 (木) ~ 2012/11/25 (日)公演終了
満足度★★★★★
業界
苦情★真に受けTV
舞台との関係が深い業界を描いているだけに、細部に活きた科白があり、現場と利害のきしみが見えるばかりか、それを逆、矛盾、透かし、換骨奪胎などのテクニックによって笑いに昇華している点で素晴らしい。テーマソングも効いている。
「限定解除、今は何も語れない」+「あと少し待って」
A級MissingLink+三角フラスコ
王子小劇場(東京都)
2012/11/24 (土) ~ 2012/11/26 (月)公演終了
満足度★★★★
以下の通り
限定解除 今は何も語れない
演出がユニークだ。情況把握が困難な中にあって、人はどう動くのか、動けるのか? が ぎこちなさを意図的に表出することによって表現されている。3.11と3.12の事象に対し、また自然災害と人災に纏わる異質な分かり難さが片や神話的分かり難さとして片や隠蔽に由る分かり難さとしてである。然るに問題は庶民を直接襲う。待った無しである。これらの難題を庶民は解決し得るのか? との問いの前でアイデンティティーの揺らぎを表現しているとみて良かろう。演劇的には、稚拙というほかないのだが、コピーライターをやっていた自分が、持ち上げて上記のとおりである。
あと少し待って
群盲象をなでる、といった情況を追体験させる為に照明を落とし、アイデンティティーのハッキリしない登場人物を組み込んだことによってメタレベルへ遷移することに成功している。疑心暗鬼という情況が出来しているからだ。被災地の厳しい情況が、これだけで充分対比されている。このことは、ラスト近く、最悪、と部外者なら評し得る、地場の人々の抱え込んだ問題を「始まったばかりだ」と認識する姿勢に端的に現れていよう。演劇的には、こちらが明かに高い。メタファーとしての含みを活かし得た舞台であった。
星の息子
燐光群
座・高円寺1(東京都)
2012/11/16 (金) ~ 2012/11/28 (水)公演終了
満足度★★★★★
彼我の差
今まで沖縄についていくつもの作品を書き、発表してきたからこそ、大和と沖縄の距離に気付き、更なる深化を遂げた作品だ。フロンティアに自身の身を晒して来た坂手氏の緊張感に満ちたシナリオ、いつもながら、役者陣のしっかりした演技、会場に入るや否や、飛びかかってくる権力の犬達の恫喝、座席へ着くまでに幾重にも重ねられた衝立を模した障害物が、現地の臨場感を想像させる。着席すると、手書き原稿を印刷した実感のこもったリーフレットで更に詳しい現地の様子が分かる仕組みだ。やんばるの森に囲まれた東村高江は、ジャングル訓練センターの隣にある集落だ。この作品の舞台でもある。人口僅か150名のこの集落の周辺に、現在北部訓練場にある22か所のヘリパッド以外に新たに6か所のヘリパッドが作られようとしている。そのうち民家に最も近い物は僅か300~400mしか離れていない。如何に過重な負担が負わされてきたか、現在も続いているかを作品は提示した。我々は何をすべきか。今それこそが、我々に問われている。世界は垂直軸の中にある、という表現に、この作品の詩魂が込められていよう。
真心願
super Actors team The funny face of a pirate ship 快賊船
ブディストホール(東京都)
2012/11/21 (水) ~ 2012/11/26 (月)公演終了
満足度★★★★★
快作
日本史の中で最も興味深い幕末に題を取り、現在なお続く無能で恥知らずな、この国の為政者の支配体制を撃つ言葉が飛び交う。痛烈ではあるが、心と魂の奥深くに秘めた情熱、命と知恵の総てを賭けて問題群と闘う若者たちの姿勢が物語をぐんぐん進展させて気持ちが良い。
ロックミュージカル『Marionnette〜マリオネット〜』
ショーGEKI
こくみん共済 coop ホール/スペース・ゼロ(東京都)
2012/11/17 (土) ~ 2012/11/25 (日)公演終了
満足度★★★★
カルナバル
前後半、休憩を挟んで約3時間の舞台だ。前半は、これでもか、というカルナバルのどぎつさや怪しさ、騒々しさを出され、辟易したが、休憩を挟んだ後半は、場転はないものの、カルナバルのどんちゃん騒ぎから、愛の普遍性を問うストーリーテリングものに質的遷移がなされ、前・後半で対比が為されることによって俄然、面白みが増してきた。全般のアットモスフィアが、未だ残っている中でシリアスな話が進行してゆくのが、ある種のアットモスフィアを生み、本来デモニーッシュな傾向を持つカルナバル的キャラクターが途切れなく登場することによって、完全なハッピーエンドに終わるような結末を避け、謂わば、一抹の不安を残すような大人の演出になった。
赤い羽毛
ぬ企画
中野スタジオあくとれ(東京都)
2012/11/15 (木) ~ 2012/11/18 (日)公演終了
満足度★★★
ゆらぎ
デカダンスとヴィラネルを対比するためには、その揺らぎが現れる場所をきちっと構築しておく必要がある。その構成が若干弱かった。言い換えれば、物語が進行する舞台の設定をもう少し深く考えるべきであった。時代が混沌としているというのは、どういうことなのか? 価値観が多様化したなどという俗説があるが、本当のことか? 価値が、価値観が、無限に風化したのではなかったか? そこに起こったことは何かを、設定で示すべきであったのだ。たとえば舞台上のガラクタの、置き方を鋭く問うべきである。中心と周縁を舞台美術でも表すべきだった。
演技に関しては、やはり、役者の身体から滲み出るもので勝負して欲しい。蜷川さんではないが、初日までに科白が入っているのは、当然の前提で臨んで欲しい。滲み出る者で勝負するのは、其処から遥か先の課題である。
以上のことが整えば、シナリオの詩的イマージュや聖俗の対比などもずっと効果を持つようになろう。
海と日傘
SPIRAL MOON
「劇」小劇場(東京都)
2012/11/14 (水) ~ 2012/11/18 (日)公演終了
満足度★★★★
名作
難易度の高い作品に挑戦し続けている劇団のようだ。今日の公演も頗る難易度の高い作品である。演劇的にドラマツルギーが成立するのは、ひ弱な妻の、死に至る病があるからである。従って何気ない日常の所作が勝負所となる。若手作家でもある夫は、教職にも就いていたが、今はそれも上手くいっていない。夫の収入は殆ど小説の原稿料だけの有り様。従って収入は微々たるものであり、家賃さえ随分滞っている。そのようなつつましい生活の中で病弱な妻が倒れた。余命は3カ月。晩夏に倒れた妻であるが、その儚さは、舞台美術、音響で幕開け早々告知されていたことだ。夏の終わり、ヒグラシの鳴き声、糠味噌臭くないみずや。和室には珍しい全面透き通った硝子張りの戸、そこに巻き揚げてあるすだれの佇まい。
科白が東京の山の手方言で無い所も良い。地方語には詳しくないが、九州弁の男言葉は一見そっけなさそうで優しさや思いやりを感じさせる。体調の優れぬ妻の、お茶目な感性を感じさせる科白も、女性の可愛らしさを見事に表現する。
“あうるすぽっと”の杮落しに上演されたというこの難しい名作を、これだけ魅力ある舞台にしたことに、この劇団の地力を感じる。
傭兵ども!砂漠を走れ! -サバンナ&オアシス-
劇団6番シード
シアターKASSAI【閉館】(東京都)
2012/11/14 (水) ~ 2012/12/09 (日)公演終了
満足度★★★★★
サバンナ編初日
男性中心のサバンナ編と女性中心のオアシス編がある。Wキャストを考慮すると4パターンになる。全36公演の長丁場だ。今のところ、今週金曜の昼は、ゆったり観ることができるとの話だ。
一応、コメディと銘打ってはいるが、内容的にもしっかりしており、シリアスでやっても充分通用する。無論、外人部隊には、様々な経歴を持つ者達がいる。観たいコーナーでも書いたが、自分も外人部隊の現役メンバーと話す機会があったし、自分自身が応募しようかと考えていた時期もある。色々なタイプの人間が集まれば、悲喜交々なことが起きるのは当然だ。まして場所は戦場である。良いことも悪いことも総てが桁違いなレベルで起きる。紛争地を歩いた経験を持つ者なら誰しもが、初めて経験する異様な迄の緊張感・緊迫感や、銃撃される恐怖、地雷や空襲、砲弾、戦車の地響きなどに生きた心地も無かった経験を持っているだろう。生き抜けば、攻撃してくる兵器の種類や距離なども音でほぼ分かるようにはなるものの、良い気持ちのわけが無い。公演では、こう言った背景の緊張感を出すことに成功していた。きちんと取材をし、取材した戦地体験を内在化することに成功しているのである。戦争を知らないはずの世代が、ここまで緊迫した舞台を創ったことを素直に褒めたい。
また、実戦を経験していないからこそ持ちえた正義感や念が、実際の戦争に対する異議申し立てとして機能し作品を演劇たらしめた。ドラマツルギーがきちんと成立しているだけでなく、現代日本の若者の優しさを顕して貴重である。怖い経験をしたことが無い方にも女性にも緊迫感のある舞台として楽しめよう。
木曜スペシャル「谷口浩探検隊」
タッタタ探検組合
劇場MOMO(東京都)
2012/11/07 (水) ~ 2012/11/11 (日)公演終了
満足度★★★★★
タッタタ探検組合の凄さ
基本的に喜劇を演じる劇団であるが、通常喜劇の劇団というのは、笑いを取る為に人間性や品性を犠牲にしがちだ。一流の劇団や芸人でもそういうタイプが多いのではないだろうか。然るに、タッタタ探検組合は笑いも取り、同時に人生の機微をも捉えるのである。これは並大抵のことではない。単に、技術のレベルではなく深く鋭く厳しく同時に温かで品性の伴った堂々たる演劇だ。何より、この劇団は、あくまで人間を描くという点でブレがないこと。それを喜劇という枠で演じて、これにもブレがないことで評価できる。骨太のメインストリームに情況という思い通りにはならない運命・宿命を対置し、そこに起こるべくして起こってくる葛藤を個々人に集約して演劇化している点で本質を衝いているのだ。
シナリオの良さは無論のこと、舞台美術、照明、音響、演技などを知的・統一的なコラボレーションに構成する演出は見事だ。それに応えて芸達者な役者たちが、実に丁寧に身体を律し、時に解放したり、箍を外したりしながら、役を演じるというより役に乗っているのである。而も、この喜劇の要諦を守ったまま、人間の普遍的な価値と其処での葛藤を描くことで、物語を単に社会性のある話題にではなく、各々生きる実存として提示しているのである。このような表出法は、決して国家だの社会だのを論ずることではない。寧ろ、観客と共に生きることなのだ。この姿勢が、一種の優しさと温かさを産み、更には劇団としての纏まりと観客との共鳴作用を産んでいるのだ。
砂のカケラを取りに行く
演劇企画ハッピー圏外
TACCS1179(東京都)
2012/11/02 (金) ~ 2012/11/06 (火)公演終了
満足度★★★★
戦争
砂のかけらが何を意味するかについては観客が各々考えるべき問題であろう。また、戦争が経済を要因としているという視点は、少なくともじっくり考えてみる必要があろう。実際、アメリカ経済は戦争を始終継続していないと成立しない。イスラエルも同様と考えて良かろう。極めてアイロニカルな視点であるにしても、戦争が人間にとって必要なものだという考え方を慎重に再検討する価値はあるかも知れない。
『石灯る夜』
劇団TEAM-ODAC
アトリエファンファーレ東池袋(東京都)
2012/11/09 (金) ~ 2012/11/11 (日)公演終了
満足度★★★★
歪
歪んだ現代日本の病理を耐える方法として、神社境内にある名も無い石の周りを掘り続ける、訳ありの人々。掘り続けるという行為に大した意味は無いが、その事実を自覚しつつ耐え、生きることにも意味はないのか?
現代日本の歪みを、何ら意味の無い行為によって耐えようとする姿勢に、庶民のいじましい努力が見られる。が、耐えるだけの人生に何の意味があるのかを矢張り問いたい。聞けば、この劇団の若手公演とのことである。その若者たちの未来が、閉ざされ、救いの無い罠に満ちたものであることに、暗澹たる思いである。
私は夢見る機械です
劇団HoneyTomato
シアターシャイン(東京都)
2012/11/06 (火) ~ 2012/11/11 (日)公演終了
満足度★★★★
ケッパレ
ロボットを通して見ようとしているのは、あくまで人間である。この視点は、恐らく正しい。人間は、人間にとって汲めども尽きぬテーマだからである。ロードムービーのような手法を用いて描かれた今回の舞台では、主人公のS1が旅先で出会う人型ロボットの様々な特技も紹介されていて楽しめる。更に、劇団の第一回公演で、演技とは演ずることではなく、演ずる対象に憑依されることだと述べているのも矢張り正しかろう。間の取り方などにも見るべき点がある。初心を忘れず、益々、精進して欲しい。
『熱狂』・『あの記憶の記録』3月に完全再演致します!!詳しくは劇団ページをcheck!!
劇団チョコレートケーキ
ギャラリーLE DECO(東京都)
2012/10/31 (水) ~ 2012/11/11 (日)公演終了
満足度★★★★
シオニズム
あの記憶の記録
シオニズム解釈が、現在イスラエルのシオニストたちが主張していることと重なり、歴史的事実総体を表象していないとはいえ、かなりきちんと勉強していることと、芝居としては自然に用いられていたことは確かである。また、シオニストたちが、ホロコーストを政治的に利用していることをある程度描いている点でも評価できる。更に、イツハクや兄の姿勢が、ユダヤ教の戒律に則った生き方に近いものだという点で救いがある。舞台美術、音響、照明なども効果的で演技もしっかりしている。
但し、「建国」以来、イスラエルの基本姿勢は、パレスチナ全域からアラブ人を追放乃至は殺戮することであり、イラン・パペも主張する通り、エスニック・クレンジングを本質とすることは、明らかである。実際、ガザで実験をやり西岸で仕上げを行っているバントゥスタン的政策は、イスラエルの二大国是、ユダヤ国家と民主国家のアポリアを白日のもとに晒している。このことこそが、パレスチナ紛争の最大の障壁なのであり、イスラエルがこの点を正し、アメリカ及び西側世界が、偏見を捨て、国際法上の正義を守り、公正な判断を下さない限り、現在は、パレスチナで起こっている、世界の恥を正すことはできまい。
以上の点を踏まえるならば、この劇団には、是非、アラブの側から捉えたイスラエル問題をも演じて貰いたい。作品例を挙げておこう。“Incendies”などが相応しいと思われる。
クリスマスの悪夢
Wit
サンモールスタジオ(東京都)
2012/11/07 (水) ~ 2012/11/12 (月)公演終了
満足度★★★★★
ウィット
洗練されたシナリオと巧まざる演技、深い知識に裏打ちされ、照明、音響などの使い方の妙を心得た演出、実に楽しい時を過ごさせてくれる舞台である。
全体構造としては、クリスマス前の巷で神の子の生誕を祝い、浮かれて幸せそうな人間どもを見て、気分を害したサタンに捧げられた六つの死に纏わる話をオムニバス形式で展開するという構造になっているのだが、舞台は、地獄のキャバレー、HASTA LA VISTAである。舞台美術も面白い。中央奥には、多少、斜角を利用した少し歪な十字架、舞台床にも赤く太いテープで描かれた十字架があるのだが、無論、登場する悪魔など地獄の住人に踏みつけられる仕組みである。ところでサタンは、何故、アンチクリストであるのか? もと高位の天使であるにも拘らず? 神が、全能であるなら、何故、彼が罪を犯すように創造したのか? 一体、何の為だ? 神が完璧であるというなら、何故、神は悪を創ったのか? 我々に許される唯一の合理的解釈は、神は自らの善を証明する為に、悪を創造したのだ。即ち、神とは偽善そのものである。
舞台に戻ろう。演じられるのは六つの話。ここで6という数字に注目したい。キリスト教神学で6は特別の意味を持つ。神は六日掛けて世界を創造した。また6の約数は、 1、2、3だがこれらは足しても掛けても6になる。逆に6から総ての約数を引くと零になるのだ。つまり、神は零から世界を創造した、と解釈することが可能である。アンチクリストとしてのサタンも当然、この命数を持つ。因みに映画「オーメン」シリーズでダミアンの誕生日時が6月6日6時とされているのは、古代エジプトの一神教に現れる3倍のサタンを表しているという話を聞いたことがある。コプト教にそのような話があるのか否か、神学者ならぬ自分は充分調べがついていないのだが。何れにせよ、以上のような話を含めて極めてアイロニカルな解釈も成り立つ見事なエンターテインメントである。
否定されたくてする質問
箱庭円舞曲
駅前劇場(東京都)
2012/11/01 (木) ~ 2012/11/11 (日)公演終了
満足度★★★★
居たな
表現する者としての漫画家とそれを商品化する者としての編集者の関係を軸に展開している点が、作品を自然なものにしている。我らが生きる資本主義の世の中で、各々が各々なりに真実を求め、自己を主張し、一所懸命に考える。然し、いざ、これらの過程を抱えた労作を提示する段になると、商品化された彼らの作品は、世間の騒音と旺盛な消費行動に、恰も作品そのものが、騒音源の一つにでもなったかの用な様相を呈し始める。創造の過程にあった制作者間の対話すら置き去りにして孤独を析出してしまうのである。表現する者と、それを商品化する者との異相を対峙させることで、メインストリ―ムを構成し、そこに流れ込むように結婚や男女関係が絡んでくる。いつか自分の周りにも居た人々の物語。
若者
劇団 兄貴の子供
中野スタジオあくとれ(東京都)
2012/11/08 (木) ~ 2012/11/11 (日)公演終了
満足度★★★
鏡の砕片
作家自身が述べているように、自らが死んでも地球が無くならない証拠は、自ら死にゆく者にとっては何処にもない。ただ、死は他者の者だからである。この単純な事実を認めない限り、作家に限らず、我々の内一人の例外も無く世界に押し潰され粉々になるのは必然である。この作品に筋があるようでもあり、無いようでもあるのは恐らくこの辺りの事情による。ただ、はちゃめちゃな分、砕けて散った鏡の断片が、意味も無く世界の断片を映すように、観客の心に思い出のかけらを想起させたかも知れないとは思う。それも、非常に切ない形で。
お月さまへ ようこそ
演劇集団ホシノハコ
ライブハウスBogaloo(東京都)
2012/11/04 (日) ~ 2012/11/04 (日)公演終了