無垢なもの
ENGISYA THEATER COMPANY
シアター風姿花伝(東京都)
2012/12/28 (金) ~ 2012/12/30 (日)公演終了
満足度★★★★★
小道具なし
素の舞台でもたいてい小道具は使う。然し、今公演ではそれも無い。場転は暗転により、佳境に入るまでは、ちょっとした転換でも暗転するので、ややナーバスな感じさえしたが、この演出も徹底すると一つのポリシーとして機能し新鮮でさえある。
話を元に戻そう。小道具を用いないということは、形態模写だけでリアルを感じさせるだけの力量があって、初めて成立する。それが、できていた。レベルの高い役者陣である。海外で研鑽を積み、事実を透視する視座とそれを身体に定着させるやり方は、流石に舞踏にも踏み込んだ大村 正康ならではの内容である。
舞台美術も特異でありながら、邪魔にならない。
『SHIT AND LOBSTER』
覇天候
明石スタジオ(東京都)
2012/12/26 (水) ~ 2012/12/30 (日)公演終了
埋める日
スポンジ
OFF OFFシアター(東京都)
2012/12/26 (水) ~ 2012/12/30 (日)公演終了
満足度★★★
アンチ ドラマ?
ドラマツルギーが成立しそうになると、土台から吸い取って箍を外してしまう、というのが、この劇団の”スポンジ”という名の由来なのだろうか? それを意識的にやり続けているのだすれば、もう少し、シャープな批評性を持って欲しい。音響や装置、場転だけで興を削ぐというなら、その向こうに何を見据えているのかが無いと、観客は満足できまい。
このまちのかたち(再演)【多数様のご来場誠にありがとうございました!】
机上風景
タイニイアリス(東京都)
2012/12/20 (木) ~ 2012/12/23 (日)公演終了
満足度★★★★
被害者
殆ど裸舞台なので、役者の力量が問われる作りだが、その辺り、被害者の不自由な体んお動きなども、何ができる、というのではなく何ができない、という形で表現できていてインパクトがあった。宮崎方言で科白が語られるのもリアリティーを加える演出で中々効果的であった。
よく聞く
劇団あおきりみかん
シアターグリーン BOX in BOX THEATER(東京都)
2012/12/21 (金) ~ 2012/12/23 (日)公演終了
満足度★★★★★
必見の舞台
ただでさえきらきらしている才能が、深みを獲得している。設定も抜群だ。舞台上には、カウンセリングルームが設けられているが、カウンセラーの机の前の壁には、緑がかった中間色で描かれた抽象画が掛かっている。お椀型の物体が数個描かれているのだが、見ようによっては乳房ともとれる。下手壁面の前には、スライド式のガラス戸が設えられ、レースの白いカーテンが引かれているが、そこには、柔らかい光が射し込み、硝子の向こうには、青空を連想させるような優しい青が感じられる。中央に置かれた応接セットのソファ、座布団、床や壁面の色合いまで、実に調和のとれた、人を安心させる雰囲気を作っている。更に中央奥にも、具象画が1枚。こちらは暖色系の絵だ。上手が、この部屋への出入り口。総てのセットが、物語を先取りし、サポートし、役者や観客と一体になって躍動しているのである。
無論、脚本、演出、演技、舞台効果、どれをとっても相乗効果が表れる作りになっている。今回、拝見した作品は、心理サスペンスという風合いの作品だが、鹿目 由紀は、心理というものを複合と見ている。これまでの作品でも、彼女はこの問題を孕みつつ仕事をしてきた。自分が、”あおきりみかん”の作品に初めて触れたのは、3年ほど前だが、以降の作品でこの点、彼女にブレは全くない。そのような彼女の本質に根差した心、魂、肉体、身体を持つ主体を、矢張り同じように心、魂、肉体、身体を持つ他者との間にある距離(感)が、恰も人間達を操ってでもいるように作用するのである。舞台上に展開するのは、それ、つまり距離を取り巻く状況との関係で千変万化する人間である。心理学的なサスペンスなので、具体的な筋などは一切、ここでは明かさない。然し、演劇としての完成度の高さは見事という他は無い。更に、隋所に取入れられた笑いや、箍外しを観る楽しみも満載、必見の舞台である。
劇場への案内やスタッフの対応も頗る感じの良いものであった。
弔いの鐘は祝祭(カーニバル)の如く
天幕旅団
劇場MOMO(東京都)
2012/12/20 (木) ~ 2012/12/24 (月)公演終了
満足度★★★
象徴表現
かなり象徴的な表現を用いた演出であった。だが、この作品は、やはりリアリスティックに作る方がインパクトは強いのではあるまいか。スクルージを改心させる為に現れる霊的存在もそれでこそ、活きてくるのではないだろうか?
【緊急再演】つぎとまります【王子小劇場】
劇団肋骨蜜柑同好会
王子小劇場(東京都)
2012/12/14 (金) ~ 2012/12/15 (土)公演終了
満足度★★★★★
オデュセイア+銀河鉄道の夜
属国で現在を生きる若者が喘ぐ閉塞感にも拘わらず、なお踏み止まろうとする覚悟と同時にエスケープへの憧れ、と、殆ど自己投棄を通しての飛躍への意思が、鮮烈である。自らを塵と同一視しても尚、己の内側から芽吹いてくるものから逃げることは出来ない。
泳ぐ機関車
劇団桟敷童子
すみだパークスタジオ倉(そう) | THEATER-SO(東京都)
2012/12/13 (木) ~ 2012/12/25 (火)公演終了
満足度★★★★
ひまわり
ラストでハジメが歩き始める時、それ迄ずっと傾け続けていた首を昂然ともたげ、冷たい冬の大気の中を出掛けてゆく姿にこの作品の要が秘められていよう。母の愛したひまわりのように、例え踏みつけられ泥まみれになろうとも、太陽のようにいつでも笑っていようという覚悟が人の心を打つ。
マペットのクリスマスキャロル
巴プロデュース
Route Theater/ルートシアター(東京都)
2012/12/12 (水) ~ 2012/12/16 (日)公演終了
満足度★★★★
素敵なXマスプレゼント
マペットが初めて用いられたのはセサミストリートに於いてである。教育番組として作られたTV番組であったが、人気を博し、“アベニューQ”というタイトルで劇化されることになった。当然、大人も対象になるので、教育番組より内容的にも複雑で大人びていた。そのように高度化した作品の要請から、マぺティエ自身が人形だけを観客の目に晒していたそれ迄の形式から、文楽のように人形と共に演技をする形に変わったのである。この変化で、より複雑で高度な内容を無理なく表現できるようになったと言えよう。今回の演目はクリスマスキャロルであったが、マペット、マぺティエ、役者が登場しコラボレーションで舞台を作ってゆく。マペットでは顔の表情などを役者の演技ほど上手にこなすことが出来ないとの思いからか、マぺティエが、手指を用いて情況を、或いはメンタリティーを適切且つ雄弁に演じていたことには感心した。
パヴェル=マリア 第7番
劇団リベラトリックス
d-倉庫(東京都)
2012/12/14 (金) ~ 2012/12/16 (日)公演終了
満足度★★★★
歴史
歴史が勝者に都合のいいように書きかえられた記述に過ぎないことは、今更言う迄もあるまいが、滅びていった者達の無念がどうなったかについては、誰しもが心に掛けることではあろう。
戦争とは、無論戦闘行為も指すが、実際には、ロジスティックや情報戦も大きな位置を占める。それどころか戦闘局面などより遥かに大切な部分である。情報戦は、作戦の立案から、情報攪乱・操作、敵の情報インフラ破壊・分断、真実の隠匿等々、様々な側面を持つ。基本的には、情報を制した者が勝つのだ。裏切りなどは、倫理的問題であるより情報の質の問題である。
劇中にも二人の優れたまじない師が出てくる。片や、裏切り者として、片や仇を晴らす者として。彼らの立場を現代に置き換えてみるならば、科学者やメディアの人間とでも言えるだろうか。要は知的エリートである。彼らの画策した結果が、何を齎し、人倫は地に落ちるか否かも劇のテーマとして取り入れられており、楽しめる。
「クララ・ジェスフィールド公園で」
メメントC
pit北/区域(東京都)
2012/12/14 (金) ~ 2012/12/16 (日)公演終了
満足度★★★★
力演
史実に近いのだろう。日本が中国大陸で行った三光政策の残虐非道もきちんと言及されている。日清・日露戦以降、日本は子供が背伸びをするように幼稚な戦争をしてきた。国際連盟での振る舞いを見ても、軍部の独走とそれを許した世相を見てもそれは言える。更に恐るべきは、偶に合理的な意見を出されると愚にもつかない精神論を用いて潰しに掛かる愚かさだ。これが現代になっても一向に変わらないことである。原発推進派の言動を見ればそれらは明らかだろう。
そんな危機感が演じる側にあったのかも知れない。クララの身辺に起こる様々な事柄を彼女の人間関係を描くことで自然に、而も観客に時代を追体験させるような距離感を以て、描いた、緊迫しつつも芸域の広さをうかがわせる力演であった。
それにしても裕仁のポツダム宣言受諾時の声明の、何と民衆と遊離していたことか。その背景にある「国体」護持という概念化の何と言うオゾマシサ、馬鹿らしさ。反吐が出る。
クラウド・エンド・オルタナティブ
激団リジョロ
タイニイアリス(東京都)
2012/12/13 (木) ~ 2012/12/17 (月)公演終了
満足度★★★★
宙吊りという拷問
欺瞞や擬制を排し、己の中心性を見出すべく格闘する若い精神とその苦悩を描いた作品と取ることも可能である。若者が日々感じている閉塞感、空虚感を宇宙空間に於ける絶対的な無根拠、即ち居所の無さと捉えた時、彼らの苛立ち、焦燥、耐え難さ、宙吊りになったままの拷問を生きる虚ろな存在感のあやふや。そんな総てが、彼らの精神を襲うのである。幸か不幸か、多くの若者は対処する術を持たない。その結果、前半部では暴力が全面に出てくるのである。
生きてるうちが華なのよ。
グワィニャオン
萬劇場(東京都)
2012/12/12 (水) ~ 2012/12/16 (日)公演終了
満足度★★★★
面白い
劇場内の案内などにゾンビメイクの役者が立っていて、インパクトがあった。小粋な演出ではないか。芝居は、二場に別れて途中休憩が7分。実は、この7分には訳がある。訳は会場へ行ってのお楽しみだ。
今回は、3団体のコラボレーションであるが、息も合い単なるコメディではなく、作品に人間の、或いは人間関係の深さを投影することで浅薄な物にならず、かといって湿ったりもせず、良い按配の作品に仕上がっている。実際、笑いあり、涙あり。楽しめる。
Knight of the Peach
劇団パラノワール(旧Voyantroupe)
サンモールスタジオ(東京都)
2012/12/05 (水) ~ 2012/12/09 (日)公演終了
満足度★★★★
童話と真
“正と邪”の2バージョンがあって、パラレルワールドになっているとのことだが、自分が観たのは“正”バージョンであった。
痛い生き方をしてきた者の面目躍如。一見残虐そうに見えて欺瞞を排し、却って温かい人間性を表現し得ている。社会の捉え方も資本が総てを支配するという資本主義の根本を捉えて小気味よい。
暴力の象徴としてのやくざも資本の奴隷ではある。が、現代やくざは暴力よりは金の湧く泉を見付けるプロであり、悪知恵と暴力を効果的に用いる技術も持ち合わせているようである。この辺りの描写も興味深い。
ゆめとあくま
劇団 四葉のクローバー
シアターグリーン BASE THEATER(東京都)
2012/12/06 (木) ~ 2012/12/09 (日)公演終了
さぶ
劇団俳小
シアターグリーン BOX in BOX THEATER(東京都)
2012/12/05 (水) ~ 2012/12/09 (日)公演終了
満足度★★★★
手堅さ
終盤、畳み込むような追い込みで緊張感を増した上、思い掛けない真犯人にシナリオと演出の良さを感じたが、無論これだけでは終わらない。真犯人の告白を聞いて許し、却って寄せ場へ送られたことを感謝する辺りの収め方、何事にも間に合わない‘さぶ’の帰宅タイミングを間の悪さで笑わせて観客を送りだす所等も、流石に王道を弁えているのだが、このような職人芸が安定感を齎してしまった。芝居は、スリリングであって欲しい。
『宇宙みそ汁』『無秩序な小さな水のコメディー』
燐光群
梅ヶ丘BOX(東京都)
2012/12/05 (水) ~ 2012/12/09 (日)公演終了
満足度★★★★★
燐光群の社会性
「宇宙みそ汁」は清中 愛子氏の自家製手作り詩集「宮の前キャンプからの報告」、その前後の作品、拾遺と手記、坂手氏へのメール等を坂手氏が演出家として構成した作品である。基本的にはポエティックラングで書かれているテキストを複数の役者が、同時に発声し、詩行に合った所作を織り交ぜながら進行してゆく。そのややアップテンポなリズム感と微妙なハーモニーが美しい。
「無秩序な水のコメディー」は、フランスで催されたフェスティバル、括りのキャッチフレーズとして用いられたようである。ただ、フランスでコメディと言う時、喜劇ばかりを指す訳ではないことも知っておいて損は無い。トラジェディーに対しては確かに日本で言う喜劇に近いが、コメディーということばは、演劇総てを指すことばとしても用いられる。別の言い方をすれば、悲劇は、悲劇の当事者によって書かれるのではなく、その周辺に居る者によって書かれ、喜劇は、悲劇の当事者が生き延びる為に自らを嗤いの種として書く傾向はあるかも知れない。
何れにしろ、「入り海のクジラ」「じらいくじら」は共に海を汚染した二本足の、生態系への誤魔化しようの無い深刻な犯罪と、それだけの罪を犯しながら更なる愚行に走る二本足の「知恵」を告発して止まない。「利き水」も人災3.12を静かに、然し鋭く告発する優れた短編である。
桃中の侍〜壬申の変
演劇サムライナンバーナイン
劇場MOMO(東京都)
2012/11/28 (水) ~ 2012/12/02 (日)公演終了
満足度★★★
男・男 女・女 ミックス
ショートプログラムのキャスティングとしては、男性グループ、女性グループ、混成グループの3パターンがあったのだが、それぞれの作品で、~らしさが見られたことは興味深い。一方、シナリオの発想には、もう一工夫欲しい。
ケイコ
劇団→ヤコウバス
戸野廣浩司記念劇場(東京都)
2012/12/01 (土) ~ 2012/12/02 (日)公演終了
満足度★★★★
雨
10分ほど遅れてしまった。コヘイジの女房の名がケイコなのとコヘイジが稽古熱心なこととは、当然、掛け言葉になっているのだが、コヘイジの友人、タクロウの絡み方が面白い。上演時間1時間20分ほどの短めの作品だが、いくつもの仕掛けが施されていて、観客のグレードによっていくらでも楽しい観方ができる作品である。以下、ネタバレで、いくつかその仕掛けを見ておこう。
元禄ヨシワラ心中
「元禄ヨシワラ心中」製作委員会
SPACE107(東京都)
2012/11/27 (火) ~ 2012/12/02 (日)公演終了
満足度★★★★
忘八
恥ずかしながら日本の古語には知識が無いのだが、今日の舞台で忘八(ぼうはち)ということばを知った。劇中、吉原の楼主が科白で説明してくれたのだが、楼主などをやれば仁・義・礼・智・信・忠・孝・悌の八徳を失くす、それで楼主のことをこう呼ぶ、と説明していたが、ちょっと特殊な言葉の説明は随所にあり、三味の音も良い味を出していた。筋立て、演技、演出も楽しめたのだが、いかんせん、観劇しにくい劇場である。吉祥寺シアターのような段差のある観客席であったら、もっとずっと楽しめたであろうに。観客のなかにも、レベルの低いのが、普段あちこちで観劇する時より、多かった、という印象を持った。