「安全区/Nanjing」ご来場ありがとうございました。 公演情報 「安全区/Nanjing」ご来場ありがとうございました。」の観てきた!クチコミ一覧

満足度の平均 5.0
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  • 満足度★★★★★

    今回も魅せた会話劇
    旧日本軍の南京侵攻で、南京市街に設けられた「安全区」。ここを舞台に物語は展開する。
    主役は日本や英国に留学経験もある中国人経済学者。日本軍の侵攻後、国民党幹部の兄から諜報活動を頼まれ、南京臨時政府にやってきた特務機関の中尉の下僕となって自宅を守ろうとする。そこに戦地を渡り歩いてきた従軍僧が訪れる。作・演出の嶽本あゆ美の手腕は、今回もこの3人の会話劇で遺憾なく発揮されている。
    見どころは、この怪しげな従軍僧だ。中尉は日本軍が民間人も暴行、殺戮するなど暴虐の限りを尽くしたという欧米によるリポートへの反証をする任務を帯びていて、従軍僧に南京などの戦いの現場を聞く。だが、この従軍僧は「殺される前に殺す」「戦場になった場所にはそもそも慰安所などない。民間の女性を相手にするのは当然だ」などと、暴虐はさも当たり前だというようにうそぶく。そんな彼の傲慢とも言える言動が、何だかまっとうな話に聞こえてくるが、それが嶽本の描く戦争の狂気だと思い知らされるわけだ。
    日本軍は捕虜を取らない、という指令を出していた。日本軍に大量の捕虜を国際法に則って処遇できる能力などないからだが、捕虜を取らないというなら現場は、自分たちをいつ襲うかしれない敵国住民を殺すしかない。今回の戯曲では真正面から触れてはいないが、それが南京大虐殺につながったということは容易に想像できる。

    前作の「太平洋食堂」「プロキュストの寝台」でも魅せたが、今回も戦争の狂気という大テーマに、戯曲の力でもある舞台での会話の応酬で、約二時間の上演に釘付けになる。

    熊本の皆さん、ぜひ見てくださいね。

    ネタバレBOX

    中国人経済学者を演じた立花弘行、特務機関中尉を演じた清田正浩、そして従軍僧を演じた間宮啓行。この三人の俳優は、下北沢の小劇場で息もつかせぬ迫力をまとって嶽本会話劇を演じきった。見応え十分。

    さらに、この劇では効果音がきわめてうまく使われている。舞台袖で発しているスタッフの力は大きい。
  • 満足度★★★★★

    感慨深い
    この事件はあまり詳しくないまま見てしまった為、少々難解なものとなったのだが、演技力の高さと迫力で終わりまで見入ってしまった。
    音楽も良く、客席横の紐で奏でる音が印象的だった。

    このような内容は、描く方向により違って見えてくるもので、今回は中国人側から見た南京事件。今度は日本人から物があっても比べられて面白いかも知れない。

  • 満足度★★★★★

    小説では一人称の語りになるが、芝居では登場人物のそれぞれの視点から感じ、思い、その重層するような思考が緊密に表現されていた。全体としては骨太で硬質な作風に仕上がっていた。戦局の急展開、その限定された時間に合わせた濃密な会話に緊迫感が溢れる。戦争という理不尽にして無慈悲な人間ドラマは観応え十分であった。

    ネタバレBOX

    堀田善衛の小説「時間」が原作。堀田氏の小説は自分が20代の時に「孤独の広場」(昭和27年1月・芥川賞受賞)を読んだだけだが、その印象は硬い文章のような記憶がある。
    作・演出の嶽本あゆ美女史は、原作と言うよりは堀田善衛という作家の著作に魅せられたようで、当日パンフ..B4版二つ折りの片面全頁を使って小さな文字で熱い思いを書き綴っている。ほぼ書き出しで「『世界の見方』を根本から変えてしまった」と記している。その思いを明確に描き出した秀作だと思う。

    舞台セットは、中国風の螺鈿屏風、机などの調度品を配し臨場感を漂わせていた。その舞台美術は隙がなく、物語も緩い遊び心なども入れず、最後まで緊張・緊迫感という硬質さを貫いていた。
    梗概…1937年、中国・南京を占領した日本軍は暴虐のかぎりを尽くした。掠奪、陵辱、殺戮という非道の数々。この人倫の崩壊した状況下で人が為しえることは何か。そして日本軍が撤退することになり…。南京事件を中国人知識人の視点から観せる。

    現在でも世界中のどこかで「紛争」「戦争」という”人食い鬼”が跋扈している事実…人類最悪な不条理、その問題を自らの問題として受け止めることが難しくなっている。人は自分が見聞きした出来事の中でしか考えられない。その先にある不幸な出来事を想像することは出来たとしても、現実感が伴わない。時代という状況に嵌め込まれて自分が何を行っているのか解からないうちに、理不尽なことに関与(巻き込まれて)していく。主体的な、自覚ある「行為」でないため責任も希薄。
    国家は自国の体制・権力を守ることに専念し、人は歴史の中に消えていく。だからこそ、個々人の記憶を残し、語り継ぐことが大切になる。人間として、どのようにこの時代の中で生きていけばよいのかという事を「時代の動き」を読み取り対応して行く事が重要、そんな思いにさせられる。

    公演は、中国という地における戦況の変化、それに伴って人の本能・本質という心の在りようも動く。大きな世界観に翻弄される人間の慟哭が聞こえるようだ。それを役者陣(6名)は、登場人物のそれぞれの性格と立場を確立し、切迫した状況をしっかり体現していた。物語の重厚さに負けない、その重圧のような雰囲気を凌駕するような演技、その役者間のバランスも素晴らしかった。

    次回公演を楽しみにしております。
  • 満足度★★★★★

    弱者の痛み 必見
     タイトルからして如何にも戦争の持つ錯綜した情報のアイロニカルな性格、敵味方の悪意を、そして本当の所は誰にも分からないという混乱が、弱者に与える皮肉な結果を示唆している。

    ネタバレBOX

    舞台は蒋介石軍が首都と定めた南京陥落前夜から、南京に駐在した外国人特派員が本国に逃れた後、日本軍が蛮行を犯し、ハーグ陸戦条約に違反したとして告発。日本は欧米列強の非難の的となっていた。その対外処理を急遽委託された為、宣撫部隊中尉、田之倉が半年遅れで赴任し実際には何があったのかを調査した期間に纏わる物語である。
    主要登場人物は、特務機関員・宣撫部隊中尉、田之倉 肇、田之倉が住むことになった屋敷の本来の主人であり、東京帝大に留学していた経験を持つ中国の経済学者、林 英呈、従軍僧を装うが、実は陸軍参謀本部のスパイをも務める林田の3人だ。
    林の兄は、蒋介石の側近、南京陥落直前に蒋と共に南京を脱出した。英呈は兄の命により、家を守り血統を守る為に南京に残った。これは、中国の家族制度とも関わりのあることで、長男の権威・権力は絶対であった。
    今作は嶽本 あゆ美氏が、堀田 善衛の「時間」をベースに作劇した作品である。登場人物のキャラクターは、原作と今作シナリオではかなり変えてあるとのことだ。無論、堀田氏のご遺族の許可を得てのことである。だが、最も大切な点は、原作でも演劇台本でもこの日記の作者に中国人を据えていることである。即ち、攻撃した側ではなく攻撃された側、弱者の痛みにその視座を据えているのである。その為、戦争という虚偽の氾濫によってカオスと化す状況に、痛切な人間の痛みという視点が鼎立されているのだ。この視座によって、今作は、人間芸術としての普遍的位置を獲得しているといっても過言ではない。
    更に、林の妻の妹、周 茉莉は、日本兵に襲撃されて生き残ったものの、集団レイプで受けた魂の傷は彼女の生涯を葬ってしまうほどの傷を与えたばかりかレイプが原因でうつされた梅毒の痛みを抑える為にアヘン中毒に陥る様、それを克服しようと懸命に努力する姿は心を撃つ。
    演技では、先に挙げた3人の役者の演技が秀逸であった。ぜひ、見ておきたい舞台である。

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