「安全区/Nanjing」ご来場ありがとうございました。 公演情報 メメントC「「安全区/Nanjing」ご来場ありがとうございました。」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★★

    小説では一人称の語りになるが、芝居では登場人物のそれぞれの視点から感じ、思い、その重層するような思考が緊密に表現されていた。全体としては骨太で硬質な作風に仕上がっていた。戦局の急展開、その限定された時間に合わせた濃密な会話に緊迫感が溢れる。戦争という理不尽にして無慈悲な人間ドラマは観応え十分であった。

    ネタバレBOX

    堀田善衛の小説「時間」が原作。堀田氏の小説は自分が20代の時に「孤独の広場」(昭和27年1月・芥川賞受賞)を読んだだけだが、その印象は硬い文章のような記憶がある。
    作・演出の嶽本あゆ美女史は、原作と言うよりは堀田善衛という作家の著作に魅せられたようで、当日パンフ..B4版二つ折りの片面全頁を使って小さな文字で熱い思いを書き綴っている。ほぼ書き出しで「『世界の見方』を根本から変えてしまった」と記している。その思いを明確に描き出した秀作だと思う。

    舞台セットは、中国風の螺鈿屏風、机などの調度品を配し臨場感を漂わせていた。その舞台美術は隙がなく、物語も緩い遊び心なども入れず、最後まで緊張・緊迫感という硬質さを貫いていた。
    梗概…1937年、中国・南京を占領した日本軍は暴虐のかぎりを尽くした。掠奪、陵辱、殺戮という非道の数々。この人倫の崩壊した状況下で人が為しえることは何か。そして日本軍が撤退することになり…。南京事件を中国人知識人の視点から観せる。

    現在でも世界中のどこかで「紛争」「戦争」という”人食い鬼”が跋扈している事実…人類最悪な不条理、その問題を自らの問題として受け止めることが難しくなっている。人は自分が見聞きした出来事の中でしか考えられない。その先にある不幸な出来事を想像することは出来たとしても、現実感が伴わない。時代という状況に嵌め込まれて自分が何を行っているのか解からないうちに、理不尽なことに関与(巻き込まれて)していく。主体的な、自覚ある「行為」でないため責任も希薄。
    国家は自国の体制・権力を守ることに専念し、人は歴史の中に消えていく。だからこそ、個々人の記憶を残し、語り継ぐことが大切になる。人間として、どのようにこの時代の中で生きていけばよいのかという事を「時代の動き」を読み取り対応して行く事が重要、そんな思いにさせられる。

    公演は、中国という地における戦況の変化、それに伴って人の本能・本質という心の在りようも動く。大きな世界観に翻弄される人間の慟哭が聞こえるようだ。それを役者陣(6名)は、登場人物のそれぞれの性格と立場を確立し、切迫した状況をしっかり体現していた。物語の重厚さに負けない、その重圧のような雰囲気を凌駕するような演技、その役者間のバランスも素晴らしかった。

    次回公演を楽しみにしております。

    0

    2016/03/19 17:09

    0

    0

このページのQRコードです。

拡大