満足度★★★
3つの物語がどんな像を結ぶか
3つの物語が並行して語られる。(1)手術で目が見えるようになった女、夫、愛人の三角関係の物語。(2)すぐに記憶を忘れてしまう青年とその友人や先生との物語。(3)とにかく早く走ることに命を燃やしている女、ライバル、コーチ、ドキュメンタリー映像作家(?)の物語。
それらは「現在」に閉じ込められた人々の逃走(の反復と失敗)の物語、という意味で共通性を持っている、と徐々に(わたしには)理解されてきたのだが、その諒解に至るまでの時間があまりにも長すぎたし、待たされたわりには、何かパッと明瞭に像を結ぶようなカタルシスがあるわけでもなく、しかもずいぶんと頭を使わなければ理解できないものになっているので(見える? 見えない? え? みたいな)、もっと体感的な説得力を持っていてほしかった。そのせいか、ところどころでは良いセリフがあったとも思うけれど、それらも、物語から浮いた決めぜりふで終わってしまった感がある。
悪い芝居はこれまでも何度か観ているので、彼らの熱い演技=演出方法に馴染みがないわけではないし、愛すべき人たちだと思う気持ちもないわけではない。ただ、この作品のメッセージを乗せるにあたって、果たしてこの演技方法でいいのかどうか、という点においては疑問を感じざるをえなかった。俳優がダメということではない。むしろ特に大川原瑞穂や池川貴清にはこれまで以上の達成が感じられたんだけれども……。
また戯曲も、いささか風呂敷をひろげすぎた感がある。「闇」にしても、「過去・現在・未来」にしても、「運命」にしても、ただハイテンションで押しきれるテーマではないし、ひとつひとつをもう少し丁寧に掘り下げて、解像度を上げていく必要を感じる。
ハリボテの岩を動かすことで自在に変化する床面(舞台美術)と、それを使いこなすテクニックはお見事。
また、衣装が良かった。時代を超越した感のある色合い。
音に関しては、選曲や作曲も含め、もう少し繊細さが必要だったかも。特に開演前の客入れ時は圧迫感があった。(開始して最初の数分の完全な闇と、光がもたらされる瞬間までは好きだったけど)。
満足度★★★★
疾走!その先には……
闇の中を、行き着く先もないと分かってもなお、「手応え」を求めて走り続ける登場人物たち。その疾走感に興奮し、安易なオチに流されまいとする姿勢にシンパシーを感じました。
エンターテインメント性の高い演出、演技は、舞台と客席の間の壁を突き破るような「突破力」を感じさせるものでしたが、もう少し、表現に濃淡があるといいですね。時には引いてみることで、この劇団、戯曲の持つ確かな質量を実感させる——という方法もあるのではないでしょうか。
満足度★★★
やりたいことをやる、ストレートな実行力
オープニングの暗闇までは興味をそそられたのですが、声が聴こえた途端に興ざめしてしまいました。若い役者さんが客席に向かって大きな声を出し、身体を元気に動かす様子を見どころとするタイプのお芝居で、演技の精度が低く、残念ながら全体的に集中できませんでした。作・演出・出演(ジャパン役)の山崎彬さんは、『駄々の塊です』で岸田國士戯曲賞最終候補にノミネートされ、『嘘ツキ、号泣』ではOMS戯曲賞佳作を受賞されています。せめて言葉だけでも味わえないかと自分なりに努力はしたのですが、役者さんが叫べば叫ぶほど、セリフが耳に入って来ませんでした。
衣装は派手な装飾と際どい色使いで工夫が凝らされていました。キャラクターをわかりやすく表す配慮は良かったと思いますが、安っぽさが気になっていまいました。テカっとまんべんなく白く照らす照明のせいで、粗が見えてしまったせいもあります。そう、LEDの照明がとても苦手でした。装置や俳優だけでなく、劇場の壁も客席もすべて白々しく照らしてしまうのです。闇と対比させる効果を狙ったのかもしれませんが、青白くて明るい光に照らされ、隅々まで晒されることにはリスクもあります。
劇団でバンド活動もされていて、毎公演終了後に無料で短いライブを披露しているとのこと。私が観た回の後もライブが行われていました。やりたいことをやるというストレートな実行力は作品にも表れていましたし、三都市ツアーを敢行する力を備えてるのも素晴らしいと思います。劇団独特の魅力があり、ファンを獲得していることにも納得でした。チラシのイラストがアーティスティックで、形も質感も独特で目を引きました。タイトルもキャッチコピーにもそそられました。
満足度★★★
「小劇場演劇」をビジュアライズ
「小劇場演劇」と聞いてパっと思い浮かべたら、こんなお芝居なんじゃないでしょうか。
若い役者さんがおしゃれな衣装をまとって、声を張り上げて客席を向いてセリフをしゃべり、
やみくもに動いたり、長い暗転があったり…演劇でしかできないことを実践されて
いて、昔の小劇場のイメージがビジュアライズされたように感じました。
LEDの照明も、装置も動かすセットチェンジも見どころがあって、
特にオープニングの照明が良かったです。
なかでも一番好感を持ったのは衣装ですね。
キャラクターの背景がわかるので区別もつきやすく、一生懸命工夫されていると思いました。
ポンチョやカメラに文字を描いていたり、“先生”が着ていた変なガウンも面白かったです。
役者さんは皆さん、とてもがんばってると思いました。
女優さんが可愛いかったですし、“スピード”役の人の体のキレが良いのも印象に残りました。
たとえば劇団鹿殺しだったら菜月チョビさんと丸尾丸一郎さん、
柿喰う客だったら玉置玲央さんなど、劇団を象徴する肉体を持つ俳優が出てくれば、
“悪い芝居”をまた観に行きたくなると思います。
満足度★★★
突き抜けた先には?
若い感性が溢れるお芝居という印象の強いものだと思いました。
テーマが「闇」で、3つのストーリーが時には絡み合い、時には並行してすすめられていく中、自分たちが今進んでいる道(人生?)の先には一体何が見えるのか、私は何を目指しているのか、そんなことをふと考えました。
今回、突き抜けた先に見えるものを3つのストーリー、それぞれにあるわけだけど、個人的には陸上選手のお話が一番胸に落ちたような気がしました。
満足度★★★★★
ダークファンタジー風味
いつもより、ポップでキャッチなテイストで進行しながら、中身は悪い芝居そのもの。日常の中に潜む狂気と非日常を見事に描いている。そして「闇」というテーマは、悪い芝居のすべての作品に通じるテーマだろう。心の闇という単純なものではなく、もっと悪意に満ちたあるいはすべての欺瞞的なものを象徴していると感じた。
今回スタッフワークがとても良かった。特に舞台美術と衣装は秀逸。場面転換さえ、楽しかった。
満足度★★★★★
自分を見つめる
闇を突き詰めて、疾走して広がり続ける物語。暗喩されている細部までは読みきれていないと思うけど、3つの物語が並行に近づいたり離れたり、劇空間に身をゆだねてるととんでもない所に誘われている気がする。このわかりそうでわからない、観客の想像力に委ねる所が余韻にいつまでもひたれてたまらないです。アフターイベントのライブも楽しかった。
満足度★★★★
関西で烏丸と子供鋸人を見てきた後だと・・
烏丸ストロークロックの、地方の風景のザラザラとした感触や、
昭和の街角からNASAめいた夢の景色へと等身大に広げた子供鋸人なんかと比べると、
物語を語る巧さは悪い芝居の方が上かも知れないけれど、
「京都の劇団」としての地の利(現在では東京より地方を舞台にした方が特徴が出やすい気がする
を十分に発揮できたとは言えないような気がする。
作品の完成度だけを見ると☆5つでもべつに良いかもしれないけれど、
上記の2団体が、地方の風景を十分に生かし、
東京の劇団にはとてもできないような地方色溢れる(しかし誰でも楽しめると思う)独創的な作品を組み上げたことで
関西の劇団のこれからを期待させられた後では、
ちょっと作者の頭の中だけで進行する感のある
「マボロシ兄妹」チックな劇世界ではどうしても限界を感じてしまう。
別にけなしてるわけではなく、
今回も山崎氏と大塚氏を筆頭に、
身体能力に優れた役者を並べ、スピード感あふれるストーリーテリングを展開できた手腕があるならば、
もう少し特定なり任意なりの街角から感触を抜き出して
作品の中に埋め込むことで、
全体の質感が激変して
一気に生まれ変わる可能性があると思ってみたりする。
アフターイベントを観ていてふと思ったのだけれど、
この作品のいくつかは、音楽を作りながら、
その音楽からイマジネーションを得て作ったのかもしれないと思ったりした。
それ自体は悪くない(スピード感が出たりもする
のだけれど、どうしても全体を通じての作品の手触りが均一になってしまったりもする気がする。
気のせいか、マボロシ兄妹の方が、もう少し現実のザラザラ感があったような気もしただけに、
2時間の上演時間を擁するこちらは、
全体としての質感にもう少しバラツキ(ファンタジーっぽかったりザラついたり
があった方が皆満足するのではないかという気もした。
満足度★★★★★
圧倒的なデッサン力に裏打ちされた心風景
3月23日ソワレにて再見。
最初は五感から伝わってくるものに導かれ、
組みあがっていく世界のニュアンスに染められ、
さらにそれらが解け、束ねられていく中に、
心に去来し思索し霧散していく想いのありようが
あからさまに伝わってくる。
作り手の心風景のデッサン力と
それを具現化する役者たちの底力に圧倒されました。
満足度★★★
最後は
私も巻き込まれて何かを持って行かれた気がします。
観劇後に軽い脱力感がありましたね
最初の闇と沈黙から後半の激情的な地殻変動?まで
凄い熱量の舞台でした、ただ別記した通り3組の物語が
加不足がありまして、最後の印象実際は物足りなさあります。
満足度★★★★
芝居は堪能しましたが
前回の観劇では,芝居以外の事情で集中できませんでしたが,今回はそのリベンジで,芝居自体に集中でき,芝居を十分堪能できました。演出,舞台美術,音響,照明,結構スゲエじゃんと,感心することしきりです。ただ,ストーリー自体の魅力が自分には伝わり辛く,3つの物語が混在しながら終結するラストは,わかりますが,響かなかったです。これは好みの問題でしょうから,好きな人には堪らないんだろうなぁって思います。でも,面白かったのは確かなので,また観に行きたい劇団とは思っています。
満足度★★★★
なんと言えばいいかわからないけど
「マボロシ」だらけの中で見ることのできないもの、その確かなテクスチャへ、「演劇」という別の「マボロシ」のちからで追いついてみせよう、そんな真摯な欲望を感じた。
この作品を書いた山崎さんが、この次、ヴィトゲンシュタインを扱った芝居に出演するというのも面白い。
出来ればもう一回観て、さらにこの作品をかみしめたいところ。
満足度★★★★★
ひかり と やみ
深く考えずに 観よう
と 出来まして、
物語に入り込めた気がします。
終演後の アフターイベントも、この作品に合っている と 私は思いました。
満足度★★★★
繊細さとぶっとび感!
これまで関西で「悪い芝居」を観劇してきました。東京、という場を過剰に意識していたのはこちら(関西人)だけで、彼らは「いつもの」、いや、いつも以上のスマッシュをうってきてくれたな、と勝手に誇らしく感じました。
人が心に抱えるほの暗い部分がみごとにセリフで表現されていたし、対する明るさにふりきった衣装のぶっとび感も好みです。
終了後にはミニライブも。劇団員の音楽性、世界観、才能すべてが注目の劇団だと感じています。
満足度★★★★
闇の向こう側
チラシがいい。語呂の悪いタイトルもいい。
大阪、新潟とまわってきているので、かなりこなれていたと思います。タイミングを合わせるのが難しいシーンも良い出来でした。背景の美術がシンプルながら力強くて好みです。照明もよかったです。
吉川さん四宮さん退団直後の公演「キョム!」は気迫とともに痛々しさを伴った作品だったと思います。その後も劇団員の退団を経験しながら公演を続けてきた「悪い芝居」の作品はある種の苦悩をモチベーションに創作活動がなされてきたのではないかと推測しています。
しかしここ何作かはその闇の中から抜け出してきた印象です。今作はいい具合に肩の力がぬけて、山崎さんの抱えるあれやこれやがうまく作品化できていたと思います。と同時に演劇をすることの、演劇をし続けていくことの決意を感じました。
去年京都に行ったとき街中で、自転車に乗った大川原さんとすれ違いました。ま、それだけの話なんですけど。