顔を見ないと忘れる 公演情報 顔を見ないと忘れる」の観てきた!クチコミ一覧

満足度の平均 3.0
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  • 満足度★★★

    こまかいところが、作られていく感じ
    刑務所の面会室。テレビなんかでよくみる光景。でも、それが舞台に乗ると、こんなに広い世界につながるのかと、不思議な気持ちになる。

    サイトなんかに写真が載っているけど、まず、舞台美術が不思議。実際に行ってみると、木の匂いと手作り感に溢れる、なんだか暖かいセット。そして、俳優と客席が、ほとんどふれあうくらいの、狭い、緊張感漂う、熱いセット。僕らも演劇の監獄に入れられたみたいな気になる。

    獄中の夫と、面会にやってくる妻の、ふたりのやりとりだけなのに、そこに見たのは、夫役の二口大学さんと、脚本・演出の鈴江俊郎さんの、火花を散らすやりとりだった。濃密な関係を、こっそり、堪能した気分。

    ネタバレBOX

    冒頭、ぎしぎしとやってきた二人は、おもむろにリコーダーを吹き始める。なんだなんだ? と焦っていると、吹き終わって、あたふたと定位置に移動する。この「あたふた」な瞬間から、二口さんに釘付けになった。なんというか、なめらかな佇まいに。

    面会は、緊迫した雰囲気に、なりそうで、ならない。終始、ぬるい、夫と妻のなれあいの空気。でも、その底に、冷たいものがある。次第に、妻に、男の影が。夫は、焦り始めるけれど、それを、気にしないそぶり。

    妻は、夫の窃盗癖を、なじる。こちらは、なんだ、窃盗だったのか、と、安心するけど、妻は、職場で、いじめられるし、息子に、説明できないしで、つらいと訴える。これで、窃盗でつかまるのは四回目。二人とも、どこかで、慣れている。「もうしない」という約束に、安心して、またやってしまうのだろうと、夫を責める。それも、そこまで緊迫はしない。というか、緊迫できないところに、悩みがあるようだ。

    なれ合いの空気というのは、舞台で、よく見かける。でも、そのほとんどは、役者の甘えから生じる、自然と生まれてしまうものだ。ここでは、「抜け出せない、なれ合い」を、「あえて」作ることが要求されている。難しいことだ。しかも、妻の役の押谷裕子さんの方は、結構必死になってしまっている。それを、二口さんは、膨大なぬるさで、包み込む。と、同時に、自分の空気を、容赦ない作家の要求を越えて、するどく、作っていく。こまかいところが、目の前で、今、作られていくかんじがする。

    テアトロに、戯曲が載っていて、読んでみると、この戯曲は、かなりナイーブに、象徴的なモチーフをちりばめて、詩的な伏線を、文字の上で張っている。気づかなかった。気づく必要がなかったのだろう。あらかじめ作られた細部は、その場で俳優が生み出す細部に、瞬時に上書きされる。舞台って、面白い。

    役者と作家の信頼が、濃密な関係を作る。昼ノ月は、京都のユニット。長く続けるつもりだという。今作も、去年初演の再演。じっくり、残して、育てる。地に足のついた、職人のような作家と役者が、高め合うような関係を作っていくのだろう。日々、消費されて、関係が生まれるほどに作品が残らない、東京には、足をつける地がない気がして、少し、うらやましくなった。

    舞台は、最後、それまでのぬるま湯を吹き飛ばす、二口さんの、哀切極まる長台詞(方言がきつくて、ほとんど分からないのに、涙が出る)のあと、それでも夫を捨てられない妻の、「顔を見ないと忘れるぞ」で終わる。昼ノ月は、京都へ帰る。東京へは、しばらく来ないみたいだ。さびしい。また来てほしい。東京の僕は、顔を見ないと、京都の人が驚くくらい、あっという間に、忘れるだろうから。

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