満足度★★★★
月の獣
俳優の繊細な演技で高密度。癒えない傷みを抱え人は生きる。その現実を切実かつ伸びやかに。後半新登場する人物が鮮烈!
稽古場レポ:http://shinobutakano.com/2015/09/24/340/
翻訳の浦辺千鶴さんが「小田島雄志・翻訳戯曲賞」を受賞されました。
http://www.owlspot.jp/odashima_award/
満足度★★★★
秀作戯曲の舞台化
トルコによるアルメニア人虐殺の史実は、今年観た「新冒険王」で触れられていた(確か)。
本作は、二十世紀の前半、虐殺を逃れてアメリカへ亡命した二人の男女・・正確には手に職を持つ成人した男と、彼によって伴侶となる女性として「選ばれた」少女の、到着日即ち結婚生活初日からの、二人の交流の物語だ。二人の間には年齢ばかりでない様々な理解の障壁が存在し、永遠に埋まらないかに見えるのだが、ある時その壁が瓦解する。そこに至るまでのあれこれや、対話の日々が二時間の間に展開する。二人の出自がアルメニアである事の紹介から始まるこの芝居だが、中盤ではあまりその事実に触れられず、その独特の出自を作者が選んだドラマ上の必然性は最後に至ってようやく確認できる。登場人物は二人と、彼らに出会う事になるある浮浪少年、そして少年が老人となった「語り部」の4人。占部房子の彼女らしい演技がピッタリはまり、4人のつなぎ役として良い仕事をしていた、と思う。
海外戯曲の貴重な紹介の企画の一つ。
満足度★★★★
緻密な作品でした。
14歳でピクチャーブライド(ではないが)となった少女。根底がアルメリア人虐殺から移民で国を渡って、というあまり馴染みの少ない題材と思ったが、人間として生きる術を見つけようと長い年月をかけた男女の話なのでテーマ自体も思い気分にさせられる。だが、それだけではない人影から沈黙の間、複雑な人生なのに細かいトラウマ吐露描写に至るまでの緻密さに最後まで引き込まれた。
満足度★★★★
家族になるために
文学座の石橋徹郎、小野事務所の占部房子の熱演が舞台をリードし、アルメニア人虐殺で心に深い傷を負いながらも生き残った男と女が家族になっていく姿を描く。
目の前で家族を殺された男の子、そして女の子。米国にたどり着いた男は同郷の女を妻に迎え、自分が子供時代に幸せだったような家族を作ろうとする。だが、その妻も虐殺で凄惨な過去を持つ。夫と生きようと自らを語り前に進もうとする妻。男は心の傷を奥深くしまいこんで家族の作り直しに努めるが、妻の痛みを理解できない。そんな二人を変えたのは、孤児院を逃げ出した少年だった。
演出の栗山民也がずっと前から温めていたという、リチャード・カリノスキーの台本をシンプルな舞台装置で展開した。力のある二人の俳優だからこそできた、悲しくも温かい舞台だ。