満足度★★★★
思い出し投稿◎個人的な感慨
個人的感慨が強し。江戸時代の長屋を舞台に翻案した黒澤明監督『どん底』(1957年)を何度となく見たくなってレンタルし、借りれば2,3回見るので10回以上は見ている。原版の舞台化は初見で、戯曲は一度読んだ気がするがあまり覚えてない。実にうまい場面運び、人物の紹介のさせ方、二場の構成も黒澤版は忠実に踏まえていて、日本への置き換えが憎い。アンサンブルの今回が初という「どん底」を、この映画の名場面(殆ど全場面)をなぞるように見た。
今回の原作版では、皆で唄う歌が労働歌のようで感動的だったが、映画では「コーンコーンこん畜生」「コンコンチキのこん畜生」「ハァ地獄の沙汰も金次第」と続くお囃子風。この場面は映画で二度あり、終盤では興が乗って最後までやる。途中「オヒャイト~ロ」と、テンポダウンして笛の擬音の旋律が流れ、鳴り物の掛け合いから段々とテンポアップ、盛り上がって行き、普段憎まれ口を叩き合ってる者らが祭り気分で踊り出す・・。
その映画も10年以上ご無沙汰したこの歳で原作の舞台を観て気づいた事は、如何にこのドラマの人物らの言葉に若い自分が影響を受けたか、だ。舞台を観ながら終始頷き、ほくそ笑み、快哉を心で叫んでいた。
違っていたのは、終盤も終盤、中々に長くたっぷり「演説」がぶたれる。このあたりは作者の書きたい欲求が勝ってしまったのではないか、と感じる所があった。もっとも自分の理想が黒澤の映画版にあったため、全く個人的感慨のための観劇となった嫌いは大いにありそうである。
そんな具合ではあったが、アンサンブルの舞台、若手の演出の下、この古典戯曲を現代に生き生きと蘇らせた秀作だと思う。舞台美術も機能的かつ美的であった。
満足度★★★★★
必見の舞台 花五つ星
最早、古典となったゴーリキイの傑作だが、時代が逆回転している現在の社会状況に於いてここに描かれている世界は、我々の近未来の姿である。
最近多く見掛ける観客に媚びをうるような安っぽい舞台ではない。作品に真正面から演出も役者も取り組んで格闘して舞台化している。そのことが、透けて見えるので、これぞ、舞台演劇という作品に仕上がっている。(追記2015.9.14多少重複する点あり)