満足度★★★★
どこまでも黒い別役世界
メルヘンチックな作品にもどことなく毒というか、刃が隠されている感のある別役実の世界。本作も、ドンキホーテばりの勘違い「騎士」でも登場するのほほんとしたお話と思いきや、真逆であった(戯曲を読まず観劇)。
この作品が書かれた頃は、人死にが出るドラマでの「死」を一つの隠喩として味わったのかも知れない。そのフシが戯曲にもある。生きたいというが何のため?との問いに答えられない男・・。だが、もはや作り手(俳優、演出)自身が、舞台上の「死」を比喩的に扱う事が出来ないのではないか。恐ろしい光景が、平安な日常にピリリとスパイス、では終わらないのである。二人の老俳優(達者であった)の「死」や「殺し」についてのまるで世間話のような会話は、達観を誰もが疑わないこの俳優以外に考えられない、くらいに嵌まっていた。
この形が別役氏の狙いであったかどうかは分からないが。
満足度★★★★
人生の年輪には勝てない
別役実フェスティバル参加作品。彼の不条理劇のうちでも非常に示唆に富んだ名作を、テアトル・エコーの名優たちが演じた。「殺さなければ、殺されるよ」。この舞台を貫くテーマは、戦争から遠い時代は「不条理劇」だったかもしれないが、戦争ができる法整備がなされた今は舞台の上でのできごとではなく、現実のことになっている。だから、これはもう不条理劇ではないのかもしれない。
当初のチラシには、「熊倉一雄と沖惇一郎、合わせて173歳の二人の騎士が『生きる手段』を忠告する残忍なドン・キホーテ」とある。ところがこの舞台の稽古が始まる前に、88歳の熊倉さんは入院。ゲゲゲの鬼太郎の主題歌でも知られたベテラン俳優は、この公演を前にして亡くなってしまった。
跡を受けたのは76歳の山下啓介。この老騎士コンビは激しい動きはまったくなく、激しいせりふもない。だが、腹に一物をもっているほかの登場人物を翻弄していく。この戯曲の老騎士は、役者としての経験と、長い人生の経験があればあるほど、この不条理劇の強烈さをにじみ出させていくのだろう。
やはり、人生の年輪には勝てないのだ。