満足度★★★★★
目的のためなら手段を選ばないなら,それは,マクベスの血ぬられた手と同じ
サルトルの『汚れた手』を観た。この話は,オルグの委員長と書記の対立を核心としている。組合の委員長は,暴走し,組合本部をあざむいて独自の路線にひきずりこむ。組合本部は,書記に委員長を説得させ,きかないなら殺害しても良いということになる。
問題は,オルグの委員長は,結構汚いやり方で交渉をまとめ,これがむしろ正論なのだとゆずらない。このため,純粋な書記は,恋人を奪われたと感じた時点で,撃ち殺してしまう。ところが,その直後,組合の路線は見事に亡き委員長の予言した方向に進み始める。
この作品は,書記の恋人が,政策論争を聴いているうちに,しろうとだったのに何か委員長の思想に魅了されていく点が見事に描かれていた。人のしあわせは,固定観念にとらわれるべきでなく,ある部分汚れた部分も乗り越えていくべきなのかもしれない。
書記にとって,そのように,目的のためなら手段を選ばないなら,それは,マクベスの血ぬられた手と同じになる。くりかえし,くりかえし,暴力による殺害と,政権交代が起こるに過ぎないのだから。しかし,この作品では,むしろ,書記が敗北して終わる。
サルトルの『汚れた手』は,素晴らしいものだった。このような有名な演劇では,観客にもすごい人が混じっている。踊る大捜査線のとぼけた署長役の人だった。プライベートな時間を邪魔してはいけない。でも,休憩時間でも,もう一度近くでひとりコーヒーを飲んでいた。
さて,問題は,サルトル『汚れた手』だ。』六場3-4景を再確認しよう。
君か,何の用だ。
窓越しで,私は,あなたとユゴーの会話を聴いていた。あなたを,どうしても一人残していけなかった。愛しているの,私は,ユゴーが拳銃で,あなたを撃つのなら,それを私が身体をはって,阻止したい。
君は,いつから,そんな気持ちを私に抱くようになったのかね。
私はね,いつだって,夢の中で生きて来たのよ。
でも,あなたに会って,本当に好きなものがわかったのよ。
そうか,君は,私ならキスしても,笑い出さないのかな。試してみようか。
そうか,おまえたちは,私ユゴーを,ずっと裏切っていたのか。
黙れ,エドレル,おまえは,もう組合に抹殺されるのだ。
ぼくの手は,震えてなんかいないぞ。
やがて,新しい時代は来る。
おまえのような日和見主義のやつには,未来はないのだ。
エドレル,私は,ちゃんとお前の目を見て,発砲できるのだ。
さて,この巧妙にできた作品は,一時,反共政策に利用される危惧があって,上演を停止されていたという。三時間の回想が終わるとともに,芝居も終わってしまう。
満足度★★★★
驚きの長さなのに、厭きなかった
サルトルの芝居を観るのは、初めてだし、外国の革命や内戦事情などに、疎いので、理解できるだろうかと不安でしたが、人間の本質を深く抉った内容で、私にも共感できる普遍性があり、飽きずに観劇することができました。
だけど、終わって時計を見たら、3時間40分近くの長い上演時間に改めて驚愕!
正直、途中でウトウトしてしまった部分もありましたが、観て良かったと思える公演でした。
主役のユゴー役の中西さんの台詞が、所々、明瞭に聞こえず、しばらくは、心が舞台に吸い寄せられずにいたのですが、エドレルが登場してからは、私も彼の言葉に感化され、説得力のある彼の台詞を通して、ユゴーやジェシカの気持ちが痛い程理解できて、心が痛くなったりもしました。
サルトルって、相当凄い人なんだと、実感した舞台でした。