満足度★★★★★
演目の配分が良い夜の部
自分のイージーミスのせいで、「将軍江戸を去る」は、20分遅刻し、二場の途中にようやく間に合いました。
勘九郎さんの血気盛んな鉄太郎の登場場面を見逃したのは残念でなりません。
で、そこでは、「中村屋!」の掛け声も発せられたのかもしれませんが、私が席に着いてからは、勘九郎さんが、青果の名台詞を朗々と発する間でさえ、常に、「高麗屋!」の掛け声ばかりで、これでは、知らない人は、勘九郎も高麗屋なんだと誤解するのではと思う程でした。
「藤娘」の七之助は、見た目は申し分ない美しさでしたが、まだ踊るのが精一杯と言った感じで、余裕がなく、腰をもう少し、落して踊った方が、座りが良い舞踊になりそうな気がしました。衣装の変化と共に、踊りの内容も変化して行くのがこの演目の醍醐味なので、今後に期待したいと思いました。
「鯉つかみ」は、暑くなってきたこの季節には、うってつけな楽しい演目で、あまり歌舞伎に詳しくない観客でも素直に楽しめる作品でした。
1階席の前方のお客さんは、何かと大変そうで、夜の部は、2階席にして、正解でした。
満足度★★★
夜の部鑑賞
歌舞伎の今後を担う、人気の若手役者が揃った公演で、異なるタイプの3作品を通じて、それぞれの役者の魅力が発揮されていました。
『将軍江戸を去る』
最後の将軍となる徳川慶喜と開城を迫る若者との対話劇で、ほとんど動きがなくて視覚的には地味ですが、激動の時代に生きた人達の思いが重厚なドラマとして描かれていて引き込まれました。比較的新しい作品のため、様式性があまり感じられず、照明もドラマテイックな演出となっていて、歌舞伎らしさがあまり感じられませんでした。
中村勘九郎さんの熱血漢っぷりと市川染五郎さんの威厳のある態度の対比が印象的でした。
『藤娘』
中村七之助さん一人舞台の舞踊で、藤の花が咲き誇る中を可憐に踊る姿が美しかったです。爽やかな雰囲気で良かったのですが、生真面目な感じが強く、もう少し艶っぽさが欲しく思いました。
『鯉つかみ』
姫が恋焦がれる男に化けてやって来た鯉の精を本物の男が退治するという、荒唐無稽な物語でしたが、大量の水や、宙乗り、舞踊、早替わり等、ケレンが盛り沢山で楽しめました。雨が降る池の中で鯉と格闘する場面は豪快に客席まで水を撒き散らすのが楽しかったものの、引っ張り過ぎるように思いました。
中村壱太郎さんが演じた姫がコミカルで可愛らしかったです。転換中に定式幕の前に立ったまま三味線と長唄が演奏するのが格好良かったです。
満足度★★★★
昼の部
歌舞伎座が重鎮を配している、一方明治座では若手。
話はわかりやすく、役者の演技にも勢いがあった。これからも、もっと大きな役者になってなっていくのであろう。
日本の古典芸能は人形浄瑠璃、能と共に伝統は活かしながら、新しい試みがに挑戦していって欲しい
満足度★★★★
頼もしい勘九郎実盛
どちらかと言えば、切られ与三の方がお目当てでしたが、作品の完成度は、実盛の方が勝っていました。
とにかく、勘九郎さんの実盛が、理想形に近く、あっぱれです。手堅い配役で、台詞も明瞭。近来の上演の中でも、わかりやすさの点では、群を抜いていました。何度も観ている演目ですが、仁左衛門さんの実盛以外で、泣かされるとは思いませんでした。
小万との経緯を物語る場面は、的確な表現で、観客の目を逸らせずに語る説得力があり、大変頼もしく感じました。
瀬尾役の亀蔵さんは、口跡も良く、今まで拝見したどの瀬尾役より、最期の場面に共感してしまいました。お若い頃から、父が注目していた役者さんでしたので、帰宅して、早速、仏壇の父にも報告したくらいです。
「玄冶店」の場が有名な切られ与三は、七之助さんのお富が美しく仇っぽいのはいいのですが、どうも、実のない、性悪女に見えてしまうのが惜しい。染五郎さんの与三郎は、見染の場の若旦那ぶりはいいのですが、やさぐれた後の強請り場での役作りは、まだ工夫が必要だなと感じました。蝙蝠安の亀鶴さんの軽やかな演技には、楽しませて頂きました。
ところで、この日、明治座のカフェで、河竹登志夫さんはお元気かしらとふと思い出し、帰宅後、自宅の書庫で、登志夫先生の著書を数冊立ち読みしていました。まさか、当日亡くなられていたとは!
虫の知らせだったのでしょうか?
これで、父のご友人は皆さん、父と同じ世界にいらしてしまわれました。
合掌。