難解
必死で字幕を追いかけたけれど、言葉がほとんど頭に入ってきませんでした。3年前に同じイェリネクの「雲。家。」を観たときにもそうでしたので、やはり自分にとっては理解を拒絶するような抽象的な思考と言葉の扱い方をする作家なのだと改めて思わざるをえません。
満足度★★★★
使者による射撃の報告
難解なテクストを強烈な存在感のある役者5人がグロテスクなユーモアを感じさせる演技で語る作品で、分からない部分がたくさんありましたが、刺激的な演出もあり、110分の間で退屈することがなく観ることが出来ました。
第二次世界大戦中に、ある宴会の中で行われた200人もの大量殺人についての証言を「使者」達が伝えるという体裁で、登場人物同士の対話はなく、延々とモノローグが続く構成でした。
冒頭から笑顔で客席に手を振りながら登場し、途中でも何度も観客に対して「貴方達」との呼び掛けがあり、観客も共犯者のように感じてくる恐ろしさがありました。
舞台上で行われていたことが後になって台詞で出てきたりと、テクストと演出が直接的に対応していない複雑な作りになっていて、よく分からない印象を与えるのですが、『薮の中』的な何が真実か不明瞭な内容に適していると思いました。
多数の銃の上に服を掛けて隠したものの自らそれに躓いたり、ユダヤ人が嘆きの壁で祈るような動きが行われたり、雪崩落ちてくる毛皮のコート等、ブラックな仄めかしが沢山盛り込まれていて、不気味でした。
BGMはウェーバー作曲のオペラ『魔弾の射手』の序曲冒頭部をチープな感じにアレンジしたものが用いられていて、ドイツロマン主義オペラを確立したこの作品をドイツ人としてのアイデンティティーに絡め、オペラの中で描かれる「狩り/射撃大会」を虐殺と重ね合わせ(セットにはわざわざ鹿の頭の剥製が掛けてありました)、さらにこの序曲冒頭部が賛美歌として歌われているということも含めて興味深く、オペラの演出を多く手掛けているヨッシ・ヴィーラーさんらしい選曲だと思いました。
詩的で力強い数々の台詞が印象に残りましたが、台詞として次々に話されると追うことが困難で、むしろ文章で読みたく思いました。
満足度★★
隠ぺいの構造
終戦直前のオーストリア・レヒニッツ村で発生した、ナチスによる
ユダヤ人の虐殺を背景とした、ひとつの事件が隠ぺいされ、
それどころか、記憶まで書き換えられていく。その様が舞台として
再現された本作。観ていて、最近上演されたNODA・MAP『エッグ』と
テーマ的には被る部分が多いと強く感じました。