寿歌 公演情報 寿歌」の観てきた!クチコミ一覧

満足度の平均 4.3
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  • 実演鑑賞

    満足度★★★★★

     板空間は観客席真正面の長方形空間。上手袖が出捌けである。板上には一台のリヤカー。荷台には芸人であるゲサク&キョウコが芸に用いるチンドン屋風太鼓、空き缶、ジョロ、バケツ、バチ等と生活に必要な水筒、日常食・干し芋の入った容器、捕虫網、飯盒、毛布やラジオ、懐中電灯、帽子等及びコルト45ピストル、フェンシング用剣、日本刀、矢等の武器類が水屋風の家具の棚やスーツケース内、リヤカーの荷台を構成する柱等に要領よく仕込まれている。中でも特筆すべきはリヤカー左前方に取り付けられた九重五郎吉一座と記された旗。役者陣の演技が良い。

    ネタバレBOX

     物語は不条理演劇のメルクマールとなった「En attendant Godot」の系譜に属す作品と言えよう。実際、ゲサク(井村 昴氏)とキョウコ(伊東 由美子さん)の演じる芸は好い加減をベースとし「出鱈目は芸の神髄」と豪語する体の、つまりこれは現実と夢の間に虚構という名の嘘を用いて真実を紡ぐ、芸という名のゲサク流演劇論だ。時に超弁証法的、時に言語破壊またある時は物理的に在り得ない不条理に満ち満ちた芸であり、我らニンゲンの持つ底抜けの奈落に於ける無明へのアイロニカルならざる寿歌と言っても過言では無いほどだ。この2人にひょんなことから加わることになったのがヤスオ(猪股 俊明氏)である。彼は特異な才を持つキリシタンらしい人物。ゲサクも知的だがゲサクとは異なるタイプのより一般に受け入れられ易いキャラを持つ温厚な人物であり、極めて紳士的な人柄である。その彼の特技とは、何か元になる物さえあれば、それを寸分違わず再生できる能力である。一座は彼のこの特殊な能力を高く評価し彼の好ましい人格も相俟って一緒に旅をすることになる。だが彼らの道程は決して楽なものではない。というのも彼らの生きている状況とは、核戦争によって富士山が半分吹き飛ばされる程の被害を受け人類の殆どが既に死に絶えたにも関わらず戦争の影響で部分的に壊れたコンピュータの誤作動による残存ミサイルや小型核爆弾、水爆さえもが発射され続けている世界なのである。核物理学の常識から言えば当然既に地表上の生物の恐らく95%以上が既に死に絶えていても不思議ではない状況であり生きる為に必要な安全な水・食料も基本的には入手できない世界であるが、そこは不条理劇、目を瞑って先に進もう。
     何れにせよこの3人の珍道中は世界を股に掛けることになる。偶々某街で公演を行った際、ヤスオの特技を用いて創出したロザリオを観客たちにプレゼントしたが、その公演のプレゼント後に激しい落雷があり金属でできたロザリオをプレゼントされた観客たちの幾人かが亡くなった。そのことを自らの責任と感じたヤスオはエルサレムを目指す旅に赴く為、一座と別れる道を選ぶ。残されたゲサク&キョウコは、先ずモヘンジョダロ、最終的にエルサレムに行こうということになるが、ちょっと深堀すると実に興味深い思考が見えてくる。タウヒードの思想である。イスラム教は7世紀に起こった一神教であり、ムスリムにとってユダヤ教、キリスト教は謂わば兄弟のような宗教であり信ずる神は同一である。異なるのは預言者なのである。ユダヤ教の預言者とはモーセ、キリスト教の預言者はイエス、そしてイスラム教の預言者がムハンマドである。タウヒードとは華厳宗の一即多、多即一と非常に似た思想であるがこの思想はイスラムの根本原理と相通じる思考である。而もモヘンジョダロは仏典が仏教の生まれた地から広まってゆく途上での一大集約地であり、エルサレムは三大一神教総ての聖地である。現在に伝わる世界宗教に纏わる大変重要な拠点を巡ることになるこの作品の人類最後の僅かな生き残りたち(仏教徒及びキリスト教徒)の一部が目指すことになる場所と旅の持つ思考的意味の如何に大きいことか!
  • 実演鑑賞

    満足度★★★★

    核戦争後の荒野を往く旅芸人のゲサク(戯作)とキョウコ(狂言)、これにヤスオ(耶蘇)が加わってのひと時の旅と別れ。劇中のパロディネタの中には、もうおぼろげにしか覚えていないCMがあったり、時代を感じさせる部分もあるが、この詩的な戯曲が当時ほぼ一気に書かれたものだということに改めて感動する。

    ネタバレBOX

    この40数年に起こったことを知っている今となっては、内容について、いくらでも深読みと称してこじつけることも可能だろうが、なんだかゲサクとキョウコに笑い飛ばされそう。
  • 実演鑑賞

    満足度★★★★

    平均年齢73歳の三人芝居。ヴィジュアルから元ネタは大友克洋&矢作俊彦の『気分はもう戦争』だと思ったがこっちが先。1979年発表。核戦争後の崩壊した世界をリヤカーで突っ走る老いぼれた『イージー・ライダー』。ひらめく九重五郎吉一座の幟、要は流しのチンドン屋。
    寿歌(ほぎうた)=祝いの歌。
    「はいな。」

    イオナの化粧品、横顔のバーバラを起用し「イオナ。わたしは美しい。」のCMは1977年誕生。48年後の今日もそのネタを強要。訳が分からないが笑うしかないだろう。

    伊東由美子さんはいい女だな。老人ホームのマドンナみたい。井村昴氏はカッコイイ。山田康雄やクリント・イーストウッドの美学。猪股俊明氏は奇跡を起こせるのだが大して使い道もない。

    オリジナルを知らないので自分的にはこの老人の愉快な旅こそが原像となる。今平とかホドロフスキー、フェリーニ風に映像化して欲しい。寺山修司調にアレンジしてアングラ地獄巡りの道中なんかもあり得る。
    観に行って正解。面白かった。

    ネタバレBOX

    パキスタンで発掘されたインダス文明の都市遺跡、モヘンジョダロ(死者の丘)。BC25世紀頃の都市。
    天児(あまがつ)=幼児の側に置き災厄の身代わりを負わせる人形。

    井村昴氏78歳、伊東由美子さん65歳、猪股俊明氏76歳。
    ゲサク=戯作。キョウコ=狂言。ヤスオ=耶蘇。
    AIがミサイルの雨を降らせ続け人類は瓦礫の山に潜んで今日一日を生き延びるだけ。キリストはもう地上で為すことがなくエルサレムへ死にに行く。蛍がやたら綺麗。沢山の蛍が子宮に入って懐胎か。干芋とロザリオ。命なんて大した価値はない。何も出来やしない。だが愛おしい。
    核戦争で人類は滅び、その日氷河期が訪れる。どこまでも降りしきる雪、桟敷童子だ。

    作家の分裂した自己による自問自答。この憂鬱な現実の中、どんな嘘話を騙れるのか?『道』のザンパノは夜の海岸で咽び泣いた。ゲサクとキョウコは絶望的な状況、核の雪が降りしきる荒れ野で「綺麗だ」とはしゃぐ。

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