『逆さまの日記』『ベイカーストリートの犬』 公演情報 『逆さまの日記』『ベイカーストリートの犬』」の観てきた!クチコミ一覧

満足度の平均 3.0
1-1件 / 1件中
  • 実演鑑賞

    満足度★★★

    ミステリの元祖の古典二作の連続上演。パスカヴィルの犬を下敷きにした「ベイカーストリートの犬」は結構複雑な家族関係がイングランドの沼地を背景に崩壊していく因縁話である。原作は19世紀に書かれていて英国怪談(ホラー)の原型らしく、その後も同じような物語ではパルコ劇場で大ヒットした「ウーマン・イン・ブラック」があるし、「ブラッケン・ムーア」も似た世界である。底なし沼に異形に犬の咆哮が響いたり、田舎貴族の巨万の相続話とか、都会から殺人犯の脱走犯が現われたり登場人物も事件も盛り沢山だ。
    あまり経験がない若い劇団なのに、と言う危惧は当たって、注文の多い公演である。脚本は。原作をなるべく生かした上にもう一ひねりという壮図は良いが、どこも行き届いていない。小劇場で2時間45分(休憩10分)は台詞に続く台詞で十人あまりの登場人物を説明する。しかも事件は原作から随分沢山とっていて動きのあるシーンが多い。しかし舞台は駅前劇場の低い天井で奥の詰まった舞台である。切り出し風の装置でロンドンのベイカーストリートも田舎の沼地も貴族の館も全シーンを始末する工夫は、条件を見ればよくできたとは言えるのだが、なぜ、変形の斜めに舞台を曲げて組んだのか解らない。音楽をナマバンドでやるのは劇団の主張らしく今回も金管を軸に4人のバンドは入り、女優が歌ったりもするが浮いている。
    俳優も一本調子にならないように構成演出も工夫しなければ。舞台進行だけで手一杯である。趣向も拡げるだけで絞らないと恐怖も、サスペンスも深まらない。
    コロナでほぼ忘れられていたミステリ劇が次々復活上演され、若い作家でもこの作家や須貝英がとりくんでいる。本格系のミステリは閉鎖された世界だから、作り物の面白さの実験には良い素材であるが、二人とも原作からとりすぎである。三島は乱歩の「黒蜥蜴」でとったのは人物名と場所だけで台詞も中身もろくにとっていない。思い切って自己流に今の時代にあわせて作り替えなければ若さが生きていない。満席ではあったがうぬぼれてはいけない。もう一つ、この舞台は2.5と演劇との分かれ目に立っている。観客は、この物語に初めて接するようだ。結構熱心に話で見ている。若い男女の良い客層である。ここを、演劇の客にするか、2.5の一時的な「推し」で終わらせるかは、ここからほんの少し、どちらへ進むかにかかっている。折角の才能が演劇に向かうように期待もしたい。


このページのQRコードです。

拡大