風のほこり 公演情報 風のほこり」の観てきた!クチコミ一覧

満足度の平均 4.5
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  • 実演鑑賞

    満足度★★★★★

    2017年同じ梁山泊アトリエでの再演を観ていた(つまらんレビューを書いている)。会場にどうにか開演ギリに駆け込み、ひしめく客席の一角に収まると、見覚えのある風景。新人女優が立つ。そこは舞台の奈落で奥行のあるコンクリの土間の左手には水が張られた溝があり、階上で水を使うと流れ落ちて来るのでその受けらしい。戦前浅草の芝居小屋で息子と母の役(男同士)のコンビが雇い主で、ギャグで水をぶちまける。座付き作家である根アカ青年と共にこの奈落を仕事場として裏方に勤しむヒロインは、青年の無償の親切さにほだされつつ密かに台本を書き、作家への情熱を燃やしている。だが裏表のない青年はどこか薄幸の相があり、本作は一人この女性の物語である事が知れる。渡会久美子に当てて唐十郎が新宿梁山泊に書き下ろしたという本作のモデルが、かつて芝居の台本を書いて売り込んでは断られていた若き日の唐の母親であった事を、徐々に思い出していた。作家として「未完」に終わった女性が「物語」を紡ぎ紡がれ、虚実も定かならぬ「物語」に翻弄されつつ意志的に歩を踏み出す姿に、唐の母の人生に対する思いが重なり、こみ上げるものがあった。7年前の観劇では起こらなかった感興である。
    ちなみにこの戯曲にはヒロインの尻見せという奇妙な趣向がある(台詞上これは無視できなそうである)。渡会女史への当て書きという意味はそれだと想像していたが、スカートの上部だけめくれて素肌が見える(マジックテープでとまった布を自分で下ろす)形姿が些か間抜けで、これに耐える女優である事を要する訳である。これは唐戯曲に特有の循環する幾つものモチーフの一つであり、女性の隠された嗜癖(何か病的な過去を想像させる)を表象するものなのだが、この仕草が戯曲上何度もあって観てると気恥ずかしい(1、2回減らしても良いと思う)。でもこの奇妙なアクセントと相まって情念渦巻く世界が展開する。
    本作は2024年逝去した唐十郎の追悼公演として上演され、今後も上演し続けるとの事。そしてこの芝居はこの場所でしか上演しないのだという。恩師唐を忘れぬ限り上演に付されるという事で、楽しみである。

  • 実演鑑賞

    満足度★★★★

    鑑賞日2024/12/26 (木) 14:00

    座席1階

    5月に亡くなった唐十郎が新宿梁山泊のために書き下ろした作品という。今回は、梁山泊による追悼公演。アングラの精神を継ぐ、という意欲を前面に打ち出した。

    新宿梁山泊の本拠である小劇場満天星での公演だが、ここで大量の水が使えるとは思わなかった。ただ、さすがに花園神社でのテント公演とは違い派手な場面はなかったが、水しぶきが飛ぶ迫力のある舞台だった。
    物語は、脚本家志望だったという唐十郎の実母のイメージで作られている。舞台は昭和5年。自由な表現行為が規制されつつある当時の暗い世相の中で、ズロースに台本を書き込んだりする場面は暗示的だ。また、バックのスクリーンを使って日中戦争とか戦時のモノクロ動画を織り込んでいるのはいい演出だと思う。梁山泊はこの演目を何度も上演しているのだが、やはり本拠地の満天星でやると雰囲気が違う。

    若手俳優をメーンとして登場させている中で、大久保鷹のせりふ回しが異色の輝きを放っている。主人公の女性編集者を演じた森岡朋奈は見事な熱演だった。

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