実演鑑賞
満足度★★★
横山拓也氏脚本という事で観劇。
不条理劇というか…やや難解だった。
前半は間の長い演出で辛かったが、後半は前半の伏線が徐々に回収され始め良い感じに。
きっと天災に見舞われた際、死をどう整理し乗り越えていくか、そういう人間の心の強さ弱さを描いていた、そんなふうに受け取った。
実演鑑賞
満足度★★★
僕の好きな横山ワールドはリアルな会話劇だったので、架空の島の架空の災害という話は意外だった。しかも今回は不条理劇。ちょっと戸惑った。それでも横山らしい会話で展開するのだが、その中でからグッと引きつける ドラマ が立ち上がってこない 恨みがある。後輩役の坂東龍沙汰がうぶな好青年をはつらつと演じてよかった。
冒頭で舞台幕代わりの封筒が開いて、荒野が現れるという舞台装置は驚いた。演出は頑張っていたと思う。途中一度、時間がさかのぼるのだけれど、その場面が過去だったことは、後でわかる。その場ではぼんやり、違う時らしいなと、舞台の地面の変化で示す程度。
そういえば「粛々と運針」はファンタジーだった。が、あれも最初からずっと、ホームドラマのような会話劇で、二組の登場人物の片方の真実がわかるのは終盤。その意外性に感動があった。
「悲劇喜劇」3月号に戯曲掲載
1時間45分
実演鑑賞
満足度★★★★
コールの後にスタンディングの女子たちが見え、ああこういう公演だったのだな、と。初めて名を見た若手俳優(坂東龍汰、綱啓永)と名前だけは知っていた新納慎也あたりが、娘たちのお目当てだったか。安くない金を払い観劇「参加」した公演を「素晴らしいものだった」事にしたいのは判るが、舞台そのものではなくこの場面(コール)の感動を味わいに来た(結果的に)のかも・・と意地悪く見てしまう。
それだけ難渋さのある舞台だった。だから「簡単に感動した事にしてくれるな」、という気持ちがもたげる。
改稿された事は公演後に知った。当初動画で語っていた俳優たちのノリ、コメントの内容と、初日の幕が開いた日のコメントとは趣が違う。
開幕時点で「え?これは1月1日以降に執筆した脚本なのか」と目を疑う。被災した海岸べりの状態である。そして明らかに能登半島地震が重ねられている。それまでの題材が事実の前に霞んでしまい、急遽内容を変えたのか・・と観ながら考えたりした。
が、実際は、当初横山氏が書こうとしていた不条理劇の設定が、天変地異が襲って土砂に埋まった島、であった所、現実に震災が起こり、この災害を想起させる内容であったため、上演を検討した結果改稿に至ったという。
つまり、そのまま上演したのでは「そこに震災の傷跡がある」事実に対し無神経な芝居となる、と判断されたという事だ。それによって私はこの戯曲は(ストーリー等は大きく変えずとも)決定的に変わったのだろうと想像した。
演出が瀬戸山女史であった事でこの改稿作業が今回の作品への展開を可能ならしめたのだろう、とも推察。鎮魂の劇である。
当初目指されていた「不条理」は、島に残った(あるいはたどり着いた)人物たちの滑稽さ、醜さ、突き放した辛辣な描写で現代日本を浮上させるものだったのかな、と想像している。そんな想像をしてしまったのは改稿前の「原形」の残り香、あるいは埋まらなさを感じたからである。だが急遽の改稿にしては、犠牲者の存在を強く感じさせた鎮魂のラストによく持って行けたと感服する。
数年後、元の戯曲(完成していたのであればだが)を上演する機会が訪れたら、それも一興なんだがな、と未練がましく考える。
実演鑑賞
満足度★★★★
もともと作者・横山拓也がもっているファンタジー志向に、今回は大きく振り切ってみた作品だ。初めての演出になる(多分)瀬戸山美咲がそこを合わせたところが幕開きで、四角の角封筒が空いて荒廃の島が轟音とともに現れるいくという趣向はなかなか見せる。しかし内容はこの作者らしくいろいろなファンタジーの筋を組み合わせていて、なかなか全体のファンタジーの構造が読めない。そこがこの作品の評価の分かれるところだろう。
終末ものばやりの昨今に合わせてもいて、不気味な地盤沈下で沈みゆく島を虫歯になぞらえて「う蝕」と例えて見せたところなどさすが。そこに現れた男ばかりの6人のキャストにそれぞれ役割が降られているが、これがすっと頭に入ってこないところから舞台は横山作品には珍しく渋滞する。
島で犠牲になった人々を救助しようと来島する準備隊のひとびとよ、犠牲者を歯で決定づけようとする歯医者の人々、次第に見捨てられていく島の運命、がミステリアスに進行していくのだが、話がうまくつかめない。どこかで見たような気がするのは、ベテランでは、岩松了、ちょっと上では前川知大、若いところでは加藤拓也が良く使う芝居の枠取りファンタジーの世界だからだろう。しかし、彼らのようにどこかですっきり割って見せるというがないから、若い男の子の俳優見物で見に来た満席の三十歳前後の若い女性客は、帰り道に、しきりにスジの答え合わせをしていた。
それも芝居見物の面白さだから悪い風景ではないが、それほど深い意図は読めなかった。
横山としては少しひねった世相ファンタジー。休憩なしの二時間。三週間に及ぶ30回以上の公演数なのに、もう補助席に立ち見まで出て大入りである。
実演鑑賞
満足度★★★★
鑑賞日2024/02/17 (土) 14:00
座席1階
IAKUの横山拓也とミナモザの瀬戸山美咲という、今を時めく劇作家と演出家のコンビによる作品だけに注目度抜群の舞台。期待度は非常に高かった。被災という極限状況を扱った舞台だと「ハイツブリが飛ぶのを」がすばらしかったし、人里離れた山奥の生活を描いた舞台だと「モモンバのくくり罠」も胸に刺さる作品。いずれもきわめて緻密な会話劇で複数のテーマがクロスオーバーするという横山らしさ満載の作品だったが、今作は「不条理劇」と銘打ってある。いつものテイストとはかなりかけ離れた作品だった。
まず、会話の間の沈黙が目立つ。特に冒頭の部分は、いったいいつ役者がしゃべり始めるのかとかたずをのんで見守るという感じだった。そして、ボケとツッコミはあるとしても会話がかみ合っていない。そこは不条理劇ならではの哲学的部分なのかと思うが、いつもの横山劇を想定していくとテイストは全然違うのである。
これを新境地と呼ぶのかどうかは分からないが、きっと好みや評価は分かれるだろう。う蝕というのは虫歯という意味で、天変地異で地盤が虫歯のように欠けていくという世界を描いている。能登半島地震でも激しい地盤の隆起や沈下があったので、全く想像の世界というわけではない。しかし、こうした被災地を現場にした不条理劇というのは、客席からすると少し難しかったかもしれない。別役実の不条理劇を連想すると、やはりそれとはかなり趣は違う。個人の好みの問題ではあるが、自分は絶妙な会話の連続が織りなす高い物語性が横山作品の魅力と思っているだけに、「ちょっと違うかな」という印象はぬぐえなかった。
演出はというと、幕開きの部分には度肝を抜かれる。舞台に引き込む力は抜群だ。ただ、その後は特に「これはお見事」という起伏はなく、演出的には淡々と進んでいく。やはり不条理劇なので、瀬戸山らしいところを発揮する部分があまりなかったのかもしれない。
実演鑑賞
満足度★★★★
年始の地震を踏まえて構成が変更されたらしいけど、近くには監獄島である「カノ島」しかない
交通の便もさほど良くなさそうな漁業と観光業で生計を立てている人が主と思われる島で起こった
“う蝕”とされる自然災害によって、数多くの人が一瞬のうちに溶解した地中に飲み込まれた……と
いう設定、かなりの影響を受けている、というかまんまだなと。
”不条理劇”と銘打たれているけど、見る人によっては鎮魂の一作にもなるし、別の側面から見れば
軽くサスペンスにもなるし、単純に俳優目当てであればいい演技とともにハートフルで少しクスッと
できる作品を観ることができた、ってお得な気分になれる。
とっつきにくそうなタイトルとポスタービジュアル、あらすじに反して実は結構間口が広いと思う。
実演鑑賞
満足度★★★
開幕すると段ボールの荒野。近未来の話なのか、コノ島で起こっている「う蝕」。(う蝕とは虫歯のこと。虫歯の治療は抜くか削るかしかなく、感染した骨を治癒する方法はない)。
いきなり大地が底なし沼のようにズブズブと沈みゆく天災。土が腐り果てたのか?予測のつかない地盤沈下。船に乗って避難するよう政府は呼びかけるが、島に残ることを選択した者達の話。
た組。の『心臓が濡れる』やTRASHMASTERSの『オルタリティ』のように極限状況に放り込まれた人間達が見せるワンシチュエーションもの。
イキウメの『人魂を届けに』のように横山拓也版哲学談議を妄想したがそういうものでもなかった。雰囲気はMONOの『燕のいる駅』に近い。
能登半島地震の発生によって急遽変更された部分も多々あったという。大変だったろう。繊細な作り手である。
犠牲者の身元を遺体の歯型の照合にて確定させる作業。本土から歯科医師が招聘される。
主人公は坂東龍汰(りょうた)氏。中尾明慶っぽいキャラで博多大吉のようなツッコミ。横山拓也の戯曲には軽薄で軽口で能天気なアンちゃんがよく似合う。
眼鏡が印象的な近藤公園氏。何か岡本篤っぽさを感じた。
綱啓永(つなけいと)氏は金持ちのボンボンで世間知らず、ブランド物のスーツと靴で被災地に現れる。
コノ島に移住し、歯科医院を開業している現地の新納(にいろ)慎也氏。彼の集めたカルテのデータが重要に。
遺体を掘り出すには土木作業員と重機も必須。やっと現地に現れたのは汚れた作業着姿の役人、相島一之氏一人だけ。やたら名前の呼び名の濁音に拘る性格。
謎の白衣の男、正名僕蔵氏の姿も。佐高信(まこと)顔だよなあ。まさに官僚顔。
高台にあるのは沈丁花(じんちょうげ)の漢名である瑞香(ずいこう)から名前を取った瑞香院という神社。沈丁花の花言葉は「永遠」。一応、温泉も湧いている。かなり面白いので期待して大丈夫。
是非観に行って頂きたい。