鬼灯町鬼灯通り三丁目 公演情報 鬼灯町鬼灯通り三丁目」の観てきた!クチコミ一覧

満足度の平均 5.0
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  • 満足度★★★★★

    それぞれの想い
    セットは相変わらずのケレン味溢れる東ワールド。舞台の庭満面に咲き乱れる鬼灯の群生。ここは戦後間もない、昭和21年。多くの引き揚げ者であふれていた博多の街。鬼灯町鬼灯通り三丁目。そこには空襲を免れた一軒の家が建っていた。東の出身地である福岡を舞台に、自分の過去や社会に対して傷を持つ者たちが、その出来事に対面し、それでも生きていくという普遍的なテーマを描く。
    富樫真の演技が光る物語。


    以下はネタばれBOXにて。。

    ネタバレBOX

    復員してきた松尾大吉が妻・弥生の元に帰ると、そこには二人の女・番場と小梅が居候していた。弥生たちは大吉が死んだものと思い込み、既に葬式も済ませていた。さらに弥生が本当に待っていたのは戦争のどさくさで結婚してしまった大吉ではなく、番場の息子・裕介だったことが判明する。

    鬼灯に囲まれたその家で、大吉、弥生、番場、小梅はそれぞれの思いを抱えながら共同生活を始めるのだった…。

    大吉が帰還したことで縁起が良いと近隣から物資を頂き、「奇跡だ」と崇められ町内会報にも載った大吉。これを利用して金儲けを思いついた番場、小梅に載せられるように「奇跡の男のお守り」の行商をすることになった4人は強かに稼ぐ一方で、祐介を待ちわびる弥生の発狂寸前なまでに病んだ神経と番場の悲壮なまでの胸のうちが物悲しい。

    一方でそんな弥生に嫌われ蔑まれても、弥生を愛して止まない大吉の心も痛々しい。そうしてそんな大吉を受け入れるように関係してしまう元女郎の小梅。

    そんな4人を取り囲むように橙色の鬼灯の謂れは鬼灯の実を堕胎に使っていたという言い伝えと、墓のないちっちゃい鬼が鬼灯を提灯にしてクリクリクリーーと自分の墓を見つける為に使うという言い伝えを絡ませながら、蛍が鬼灯に入って光らせる小さな提灯を思わせる演出は美しく幽玄の世界だ。

    絶対に帰ってくると信じて祐介を待ちわびる弥生、本当は祐介の戦死を知る番場と小梅。一方でそれらの本当の真実を知ってしまった大吉ら、それぞれの心の葛藤に焦点をあてて描写したこの物語はみんなが不幸だけれど、幸せだ。それぞれが思いやり、特に大吉が吐くセリフ「弥生、祐介さんは、お前の祐介さんはぜったいに帰ってくる。ぜったいに帰ってくるんじゃー!」と言って奇跡の男・大吉が泣くシーンはまるで「泣いた赤鬼」のような情景だ。やっぱり泣けた。

    終盤、弥生が井戸に落ちるシーンとその後の4人で暮らす展開はワタクシ達に希望を与える作品だったと思う。

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