戦場のような女 公演情報 戦場のような女」の観てきた!クチコミ一覧

満足度の平均 4.0
1-2件 / 2件中
  • 満足度★★★★

    観ました。
    重い課題を果敢に上演、感動しました。

  • 満足度★★★★

    戦争の傷あと
    ルーマニア出身のフランス現代作家、マテイ・ヴィスニユックは、2009年度SACD(劇作家協会)ヨーロッパ賞やアヴィニヨン演劇祭のオフプログラムでプレス賞をW受賞。
    本作はマテイ自身がボスニアで取材し、「ビエンナーレKAZE演劇祭2009」で初演された。「東京演劇集団風」と協力関係のもと、劇団のためにオリジナル作品も書き下ろし、来年度も新作の上演が予定されている。
    戦場において敵対する民族の兵士にレイプされた女性の治療にあたる精神科医を描いた女優の2人芝居。
    ボスニア紛争という日本の演劇にはあまり登場しない題材であることに加え、「戦争と民族」「戦争と性」の問題に向き合うきっかけにもなる秀作だと思った。
    今後、同劇団のレパートリーとして再演されていくと思うので、ぜひ多くの人に観てほしい作品。

    ネタバレBOX

    自分の居住地域が戦場になることは大いなる恐怖だが、そこで兵士に強姦され、その子を宿したとしたら、女性はどんなに絶望的になるだろう。
    1994年、ドイツのNATO医療センターで、アメリカ人女性で精神科医のケイト(柴崎美納)は、ボスニア・ヘルツェゴビナ紛争のさなか、名も知らぬ5人の兵士たちに輪姦され、その子を宿した被害者ドラ(工藤順子)の精神医療にあたる。初期にドラは心を閉ざし、ひどく怯えていた。ケイトはドラの気のむくままに過ごさせることにする。
    重苦しい芝居なのかと思ったが、中軸のドラとケイトが酒を酌み交わしながら民族談義が始まる場面は、それまで無表情だったドラの工藤が一変して、バルカン地方のいろんな民族に扮し、1人芝居で惹きつける。トランクの中から衣装や小道具を取り出して扮装するのだが、舞台を3方から客席が囲む構造なので、わたしの席の位置からはトランクの中が丸見え。さながら楽屋を覗くような楽しみがあった。トランクの蓋の内側に鏡台用ライトが付いている。ロシア人、トルコ人、ユダヤ人、セルビア人、クロアチア人、ブルガリア人、ハンガリー人、ルーマニア人、ボスニアにおけるムスリム、果ては黒人、インディアン、メキシカン、プエルトリコ人、アステックス、パタゴニアにいたるまで、ドラは「おれは○○人がだーいすきだ」で始まり、その民族の長所、特徴を挙げながら「しかーし、○○人は・・・」と批判を始めるのだ。劇中、パンをつまみながら、ロゼカラーのワインやシャンパンをあけるのだが、最前列にすわっているため、自家製パンの芳ばしい香り、それらの酒特有の馥郁とした香りが漂ってくる。ワインはノンアルコール飲料なのかもしれないが確かにロゼの香りがしたし、シャンパンは本物らしく、ポーンと栓が飛び、泡が吹き出て、客席がどよめいた。
    さまざまな民俗音楽の流れる中、軽快にダンスを踊りながら他民族への警戒と憎悪が語られ、ボスニア地域の歴史と特殊性が浮き彫りになっていく。フロイトの精神分析などもふまえ、ケイトの独白で治療について語られ、
    戦争におけるレイプという行為が侵略者の有効な武器として使われるという定義はされるものの、明確な後遺症治療法の成果が示される場面はない。
    ケイトの研究報告に群がるカメラマンたちのフラッシュがまぶしく、臨場感があった。
    ドラの治療と平行し、ケイトのルーツ、祖父がアイルランドからの米国に渡り、石切職人となってアメリカの数多くの高層ビルを支えたこと、父がアイルランドの臓器バンクの救急隊員だったことなどが語られる(父の代にまたアイルランドへ戻ったのだろうか)。
    ケイトは既婚で2人の娘がいるが、家族を残して、死体置き場で死体発掘に従事したのち、精神科医となった。ドラが中絶を強く望んだとき、ケイトは「わたしが育てるからその子をちょうだい」と言う。数々の遺留品に囲まれた戦場で死体を掘り起こすとき、ケイトは絶望の中で生存者を希求した。ドラのお腹の中の生命こそがその「奇跡の生存者」なのだ、とケイトは言う。
    ドラは夜な夜なお腹の中の子供からの「食べ物をちょうだい」という声に悩まされる。「あなたはいない」と否定するドラ。ベッドの頭上で激しく揺れ動き点滅する電灯によって、子供の生命を表現する照明の演出が秀逸。
    ドラは受け入れる。この子の父親は戦場そのもの。蹂躙される政情不安定なあの場所であっても、あそこで生きていくのだ、この子を産もうと。
    私の理解力不足のためか、ラストのドラの心理描写がややわかりにくい印象が残ったが。
    今回、演出陣に加わった江原早哉香さんはまだ若い女性だ。
    わが国も、太平洋戦争時代の中国、韓国、東南アジアなどの女性に、わが国の兵士によりレイプされたいまわしい記憶を残してしまった。また、逆に終戦の混乱のさなかで外国人にレイプされた日本人女性もいる。
    ドラの事件が他人事ではない歴史を抱えていることを改めて考えさせられる作品でもある。

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