満足度★★★★★
もう1回見たい
もし再演があったら(あるのかな?)是非観に行くことをお勧めしたい秀作。
バッハもバレエも好きな私は贔屓眼に見てしまっているとは思うが、亡くなったピナ・バウシュが好きだったバレエファンなんかなら2万円払っても安かったと思う筈。
舞台監督・振付の佐多達枝がバッハをやれと言われて「のけぞった」とパンフレットにあるが、恐らく日本人が振付ければほとんどは『ヨハネ受難曲~おかざりのバレエ付き~』のような舞台が出来上がることだろう。バッハの曲とはそれほど偉大。衝撃も奥深さもある。
今回の作品の素晴らしいところは、そのバッハ(それもよりによってバッハ専門家を集めて生演奏!)に佐多の独創的なバレエが正面からぶつかり、がっぷり四つに組み合ったことだ。普通の日本人舞台監督なら、歌・バレエをそれぞれ遠慮させオーガナイズさせただろう。しかし「一番好きな音楽家がバッハ」という佐多は100%のバッハに150%の力で立ち向かった。そこには好きというだけではなく、レベルの高い文学観・宗教観が背景にあると感じた。さすが佐多稲子の娘といったところか。
もちろん「表現者・体現者」に徹したバレエダンサー達の活躍、印象的な舞台や照明、アマ集団のコロスの健闘なしに語れない。
ダンサー達も佐多の振付に「のけぞった」のではないだろか。主役の堀内充(体中アザだらけ?の大熱演)、そしてこの舞台の成功に欠かせなかったであろう島田衣子の圧倒的な存在感。彼らは「おいおい、そんなん踊らせるか?!」みたいな踊りをほぼ完璧に表現しきった。
女性の存在感といえば歌ではソプラノの藤崎美苗。勿論、男性ソロ陣の素晴らしさはあったが、今思い返すと2人の女性のインパクトがこの舞台をよりステップアップさせているように感じる。
パンフによると河内連太のシナリオが大きな役割を果たしたとある。ただ読む限り曲、ヨハネ福音書に極めて従順。照明の足立恒とともに上田遥作品などでも活躍する名コンビはエンディングの「最後の晩餐」の絵を彷彿とさせる演出(多分-笑)など、「がっぷり四つ」の潤滑剤の役割を果たしたのかもしれない。
舞台についてはダンサーの踊るスペースが狭く感じた。広げるか、合唱はもっと端に寄れば・一段上に行けばいいじゃないか。・・・しかしこれは意図的なものであったと思う。イエスを「受難」に追いやるユダヤ群衆(コロス=群衆役合唱隊)、彼らをダンサーやイエス、この話の中心に恒常的に近づけていた。「イエスを釈放するな!」あの時だけ近づいていたら、この舞台は話の一体感のないものになっていたように思う。
★5つをつけたが、難をいうならば完成度的にはまだ改善余地があるということだ。特にアマチュアのコロス。これだけ歌も踊りも難易度特S作品の初演だから仕方が無いともいえるが(男性ダンサーの群舞がイマイチだが・・・群舞に慣れてない面々だったのでしょうがないかも)。
だからこぞぜひ再演を期待したい。ついでに言うなら、日本ではなく海外、ヨーロッパで見せたい。恐らく観客の芸術観やキリスト教の理解度を考えれば、ヨーロッパでこそ評価される作品と思う。カーテンコールのあの出演者の人数見ると困難を極めるとは思うが、日本人でもこんなバレエを創れるのだということを世界に見せたい。
満足度★★★
たまにはクラシック
バレエと合唱と管弦楽の合体をめざす、O.F.C.という団体の公演。バレエの振付は今年77歳になる超ベテラン、佐多達枝が以前からずっと担当している。
彼女の振付作品を見るのは3年前の「庭園」以来これが5回目。作品の内容も、カーテンコールで見かけるその姿も、実年齢よりはずいぶん若々しい。先日のさいたまゴールドシアターだけじゃないね、元気なお年寄りは。
バッハの「ヨハネ受難曲」は演奏時間が2時間ほどの大作。佐多とコンビを組んでいる河内連太という人が台本を書いたらしいので、バッハの曲をそのまま演奏したのではないようだが、それでも上演時間は2時間くらいあった。
このホールはクラシックのコンサート専用で、普段はダンスや芝居はやらないのだが、今回はステージの手前側にオーケストラ・ピットを設け、残りのステージの後方に合唱団が並び、オケピとコーラスに挟まれた中央部分が踊り場になっていた。かなり狭い上、手前に傾斜のある八百屋舞台なのでダンサーたちは大変だったと思うが、大したトラブルもなく無事に終わった。
以前、「ヨハネ受難曲」をコンサートで聞いたときは歌詞の意味が字幕で映写された。コーラスとソロからなるこの曲はオペラに近い形式だし、歌詞の内容も聖書に基づいたドラマチックなものなので、その意味がわからないと面白さが半減する。しかし今回の公演では、演奏のほかにダンスが加わるので、これに字幕を付けるとそちらに気をとられて肝心のダンスが目に入らなくなる。だから字幕はつかなかった。
見ている途中では字幕があればと思う瞬間もあったが、それでも歌詞の内容をダンサーの動きがある程度補足してくれたので、字幕も踊りもなしで聞くよりはだいぶましだった。
バレエと演奏、どちらに重点を置くかは客の興味次第だろう。私自身はダンスが主、演奏が従で、基本的にはコンサートを聞きに行ったというよりもバレエ公演を見に行ったという印象が強い。
ダンサーはキリスト役と13人の弟子がメイン。コーラス隊の一部が群集として振りをこなす場面もあった。20列目という座席ではダンサーの顔はオペラグラスなしではなかなかわからないし、私はメガネが邪魔なので基本的にオペラグラスは使わない。余談だけど、オペラグラスを使いたいがためにメガネからコンタクトレンズに替えたという人を私は知っている。
それでもいちばんの目当てだった井上バレエ団の島田衣子は、目を凝らして捜すまでもなく、動きのよさで自然と目にとまった。
あとで調べたら、ヨハネ受難曲よりもさらに長い、同じくバッハ作曲の「マタイ受難曲」もすでにバレエ化されているという。しかし、生きている間に見る機会はたぶんないだろうなあ。