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パンドラの鐘

パンドラの鐘

Bunkamura

Bunkamuraシアターコクーン(東京都)

2022/06/06 (月) ~ 2022/06/28 (火)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

若い演出者が野田秀樹の旧作を演出するシリーズの一つ。今回は古典から出てきた杉原邦生の演出である。
野田秀樹は古典演劇への造詣も深い。野田の戯曲は、過去から未来への長い人間の営みを壮大なスペクタクルに組み込む構造をとることが多いが、「パンドラの鐘」はその趣向がうまくはまった作品だ。古典への関心と造詣言う点では若い杉原邦生も同じだから、幕開き舞台を囲んで伝統舞台を想起させる横嶋の紅白の幕を切って落とすあたり、演出者の個性もうまく出している。
同じ戯曲だが、数年前に見た藤田俊太郎演出とも、かつて見た野田演出とも全く違う舞台が見られたわけだが、戯曲の本質は、当然とはいえ。変わっていない。しかし、見る時代によって観客は変わるわけで、ウクライナで戦争が起こり、きな臭くなっている時代に『水を!』と叫ぶミズオを見せられると、満席の客席には静かながらジワが拡がっていき、野田作品独特の感動の大団円になる。演劇の時代との切り結び方の実際を見せられた一夜であった。
俳優では片岡亀蔵が健闘。フェイクスピアでは危なかった白石加代子も復調。野田戯曲には初顔の成田凌、葵わかなもまずまず無難であった。

ネタバレBOX

杉原演出は、大地に耳をつけて過去の声を聴こうとする幕開きから、幕切れの未来での同じラスト、同時に蜷川もどきで、ホリゾント裏の大道具搬入口を開けて、現世の町を見せるところなど心得たものである。、
9人の迷える沖縄人

9人の迷える沖縄人

劇艶おとな団

那覇文化芸術劇場なはーと・小劇場(沖縄県)

2022/05/13 (金) ~ 2022/05/14 (土)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

沖縄を描いた歴史的古典作品になるべき秀作である。

ネタバレBOX

 作品単体ではなくその周囲の環境も観劇体験に含むとすれば、本作は他にないベストな状態で観劇できたと言えるだろう。那覇文化芸術劇場なはーとが、沖縄の本土復帰50周年に合わせて企画した「沖縄・復帰50年現代演劇集inなはーと」の一部であり、会場前に立てられたパネルには各劇団および作品のテーマとなる出来事の背景説明が書かれていた。これにより、不勉強にして沖縄についての知識をほぼ持ち合わせていなかった關のような観客でも、作品が取り上げる問題を事前に手軽に学習できる機会となっていた。
 作品自体も予想を上回って優れたものであった。単純な社会派ドラマにせず、劇中劇の構造にストーリーを組み込むことにより、沖縄の抱える問題の複層性を明示していた。それぞれ立場の異なる群像劇ではあるが、個人の問題として散逸化するのではなく、あくまで沖縄であるがゆえに抱える「迷い」に焦点を当てられていたことも高評価に繋がった。登場人物はややステレオタイプに依っていたものの、宇座仁一氏をはじめ粒揃いの魅力的な俳優たちがストーリーを膨らましている。東京から来た身として、<うちなーぐち>でのやりとりが聞け、(簡略的なものであったとしても)組踊の一部が見られたのも楽しい経験だった。
 せっかく劇中劇であるのに劇的現実と劇中劇との差があまりないことや、効果が不明の演出(作品の最初と最後にあった謎の照明転換や宙に浮いた窓枠の存在)などが散見され、また作品全体を通じてどうしても「勉強会」感が拭えない印象もあった。しかし、俳優たちが描く、もがきながら迷い続ける沖縄の人々の様は胸を打ったし、歴史的な出来事をフィクション作品のテーマとする際の姿勢が非常に誠実であると感じられた。
 聞いたところ、俳優たちは一般企業の社員や公務員として就職しながらプロフェッショナルな俳優としても活動しているらしい。働きながら俳優業を行える環境は、継続的創作の基盤となるため、学ぶべきところが多い理想的なものだろう。そのような環境を整えられていることも評価に含まれた。
 「沖縄」であることがあまりに強固に出た観劇体験だったため、作品単体と環境を切り分けることは困難だった。そもそも周囲の環境と上演はいかに関係し、また分けられるだろうか。他方で、演劇が現実に対して掲げる鏡であるとするならば、本作は間違いなくその姿を明確に打ち出しており、その点において高く評価できるだろう。今後も定期的に上演を重ねていって欲しい作品である。
残火

残火

廃墟文藝部

愛知県芸術劇場 小ホール(愛知県)

2022/05/20 (金) ~ 2022/05/22 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度

 実際にあった震災をテーマにしており、それゆえの困難さが演出やテクストに瑕疵として残ってしまっているドラマ作品だった。

ネタバレBOX

 まず、震災によるPTSDを中心的なテーマとして取り上げていながら、観客の側にそれを抱えた人を想定できていない点で決定的な過失であろう。作中における地震の描写は暗転中に音だけで示す手法がとられており、その音響効果はかなりリアルであったため、間違いなく事前の注意喚起が必要だったが關が確認した範囲内では見つからなかった。震災を主題にしていることの提示だけでは不十分だろう。
 加えて、被災者をドラマチックなフィクションとして消費してしまうようなストーリー展開にも疑問を感じる。観客として、『残火』からは感傷的な同一化を狙っていること以外に特にメッセージは受け取れず、ストーリーの複数の箇所に安直な印象を受けた。災害を扱う作品はそれ以外の作品以上に慎重さが求められるが、いまひとつ感じられなかったのが残念である。
 キャラクターの人物描写は基本的に好ましいものだった。優れていた俳優としては元山未奈美氏が挙げられ、被災者として心身ともに傷を負いながら持ち前の強さと愛情深さで戦っている女性というデリケートな役を、緻密にかつ魅力的に演じていた。他方で、俳優の演技力に差が見られ、いまひとつ一体感に欠いた印象も受けた。
 震災という取り上げるに困難なテーマに果敢に取り組んだ意気込みは評価するものの、リアリズムに則した演出はどちらかというと映像向きのように感じられ、歴史的事件をテーマとする際に演劇には何ができるのかという問いが掘り下げられていなかったのが惜しかった。
パンドラの鐘

パンドラの鐘

Bunkamura

Bunkamuraシアターコクーン(東京都)

2022/06/06 (月) ~ 2022/06/28 (火)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

鑑賞日2022/06/12 (日) 15:00

23年ぶりに観たが、若さを感じた舞台だった。面白い。140分。
 野田秀樹が蜷川幸雄に依頼されて書いた戯曲だが、蜷川版(コクーン)と野田版(世田谷パブリックシアター)が同時に上演され話題になった作品を、今回は杉原邦生が演出したが、過去の両作とも観た者として思い出しつつの観劇だった。ミズヲ(成田凌)とヒメ女(葵わかな)の淡い恋を描きつつも社会性のある内容が印象に残っていたが、丁寧に伏線を張りエンターテインメントとしてもしっかりした作品である。今回は主軸となる葵の若さが光っていたと思う。初舞台の成田は前半やや上滑りな印象があったが、後半の葵との2人のシーンから安定し終盤をしっかり背負った。ピンカートン未亡人を演じた南果歩とその娘を演じた前田敦子の母娘コンビのブッ飛び振りも興味深く観た。
 野田版で野田本人が演じたヒィバアを演じた白石加代子はさすがの貫禄だったが、カーテンコールで一人一人舞台後方から走って来るのは、ちょっと気の毒。お決まりのように3回のカーテンコールをするのも…(ー_ー);。

ネタバレBOX

 狂王の遠眼鏡は、大正天皇に関して語られた噂で、その狂王の次の王ということでヒメ女は昭和天皇だから、昭和天皇の戦争責任を扱った、と当時語られたのを思い出す。
甘い手

甘い手

万能グローブ ガラパゴスダイナモス

J:COM北九州芸術劇場 小劇場(福岡県)

2022/04/23 (土) ~ 2022/04/24 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

地元に愛された、俳優の個性が活かされているエンターテインメント作品である。

ネタバレBOX

 高校の学園祭を巡る群集劇であり、「周囲を気にせず好きなものを追求する」という本作のテーマは団体の方向性も示しているように感じられた。そういう意味において、内容と一致した劇作術が巧みである。個性の強い俳優たちは個々に魅力があり、しかもそれぞれにマッチした役を演じていたことから、客演の俳優とも良好な創作関係を結べる劇団としての強みが見られた。特に劇団所属の横山祐香里氏は、登場人物のキャラクターの落差を見事演じ切っていた。
 そのような団体に対する客席からの愛情が強く感じられた。普段、首都圏の劇場ではなかなか感じられない温かさを持った客席は、筆者のような外からの観客も排除することなく飲み込み、「ホーム」という印象を与えた。そのような客席を、時間と誠意をもって作り上げてきたであろう団体の努力が感じられた。
 他方で、かなり力技で押し切られているという印象も拭えない。戯曲の構成や設定、俳優の演技も細かく見れば瑕疵が見えるが、勢いとノリで乗り切ってしまっている。作中の劇中劇が「これなんー!?(これ何!?)」という展開で終わってしまったことから、もう力技でも色々崩壊していてもエンタメだからOK!という表明だとも受け取れるが、小さな無理も見えなくなるほどの力技ではないとも言える。
 このことから、エンターテインメントとして成立していれば許されてしまうこと、許してしまうことについて考えた。恐らく、勢いで押し切ってしまうというのは劇団の方針の一つだろう。巧緻な細工よりも大きな柄で人の目を惹きつける方が、本作のテーマとも合っている気もする。しかし、他団体や他作品ならば必ずマイナス点として議題に挙がるであろう点を、エンタメだからというだけの理由で見逃して良いのだろうか。
 とはいえ、このような普遍的な問いは、万能グローブガラパゴスダイナモスがエンタメとして優れていたからこそ生まれたものであろう。評者である關も、その点について問いつつも作品自体については大いに楽しんだ。強引さも団体の強みとしてこのまま猛進してほしい。
不思議の国のアリス

不思議の国のアリス

壱劇屋

門真市民文化会館ルミエールホール・小ホール(大阪府)

2022/03/24 (木) ~ 2022/03/25 (金)公演終了

実演鑑賞

満足度★★

美しい美術と愉快な音響効果が印象的だったが、いまひとつ没入感を欠いた作品だった。

ネタバレBOX

 個々のアイデアは面白く、特にアリスが小さくなるシーンは大きさの違うロープの輪を用いて示しており、なるほどと思わされた。『不思議の国のアリス』の原作は言葉遊びを含む独特の言語を特徴の一つとしているが、台詞を用いずに身体表現のみで上演するという試みに意気込みを感じた。
 しかし、それが成功していたかは疑問である。まず、俳優の技術にやや不安を覚える部分が複数箇所あり、それがユニークな世界観への没入を妨げる要因となっていた。本来、技術的に優れているパントマイムであれば観客の想像力を喚起し得るであろうシークエンスも、何を意図しているのかを観客の側から汲み取る努力をしなければならず、観客の負担が少し大きかったように思う。結論として、アイデアは面白いがそれだけに終わってしまっている印象を受けた。劇場の造りが適していなかったのも要因だろう。学校の体育館のように客席よりかなり高い位置に舞台があり、見上げて見る形になってしまっているのは作品にとって不利だった。また、非常灯を消すことができず、暗幕を貼り付けていたが光が漏れてしまっているために完全な暗転ができなかったのも気になった。
 上演に際してワークショップを同時に開催したり、物販にかなり力を入れていたりと観客へのアプローチは十分に用意されていたため、本来団体としてはサービス精神に富んでいるのだろうと推測できる。他の作品の方が恐らく評価が高いのではと類推され、もったいないと感じた。
ふすまとぐち

ふすまとぐち

ホエイ

こまばアゴラ劇場(東京都)

2022/05/27 (金) ~ 2022/06/05 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

全編、津軽弁。あえて東京公演とのことで、基本的には津軽弁がわからない人に向けて、どこまでの言葉ならそこで起きていることが伝わるか/伝わらないか、意識的に言葉を整理されていたと思います。さらに事前の津軽弁講座がありがたく、教えてもらった言葉を探しながらせりふを聞きました。おかげで津軽の空気とともに、その場でなにがやりとりされているかも伝わったと思います。津軽弁の音も美しく、東京にいながら東北の土地の音を聞けたことは良い体験でした。

ネタバレBOX

冒頭のキヨ(山田百次さん)の爆発的なキャラクターからはじまり、登場人物たちがエネルギーにあふれていて引きつけられました。デフォルメされているとは思いますが、実は、一生懸命しゃべっている人達は実際あのように独自の威力があったりするので、ふと「見たことある……」という瞬間にも出会えるのも笑ってしまいます。
笑うだけでなく、迷惑をかけあっても離れられない不器用で複雑な思いが交差していく様には、物悲しくも、愛しくもなりました。また、血縁者は離れられないからこそ離れ、非血縁者であるからこそ離れない……「家族」とはなんだろうと考える戯曲構成でした。
また、俳優個々にパワーがあるため、言葉の端々から想像できる個別の人物背景は、もっと明確であってもよいのかなと思いました。それほど、今、ここ、で起きている生身の発信に力があったと思います。

居間と押入れの間との間に壁があり(←舞台上にはないですが)一度廊下に出なければいけない、また、闇の向こうにある玄関という舞台美術と照明がよかったです。見えないけれど、そこにある壁。しかし少し手間をかけてくるっとまわれば到達できる空間。しかしその奥にはふすまが閉じている。また、どこか外の世界へと続いている戸口。それらは人物たちの関係性や心理をビジュアル化しているようで、それが田舎の日本家屋と密着していて、「家」に飲み込まれそうでした。

公演期間中、また公演終了後に、Twitterのスペースでゲストを呼んだトークを企画したのがいいですね。上演時間が2時間ほどあり、アゴラで自由席だったので2列目までは低いイスだということを案内いただけたら腰が幸せでしたが……長くは感じませんでした。
残火

残火

廃墟文藝部

愛知県芸術劇場 小ホール(愛知県)

2022/05/20 (金) ~ 2022/05/22 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

冒頭、唯一つけられていた道久のマイクと、作中のテロップ(年表)が、この作品における登場人物の物語とは別次元のデジタル的な演出でした。また、年表の項目のピックアップに法則性がなく個人的であること。それによって、今作で描かれる「時間(平成)」は、道久にとっての私小説なのだと思って観ました(もしくは作者の目線を通した平成)。

ネタバレBOX

道久を主軸とすると、道久から見た火花、道久から見た景色が描かれていき、それらが輝いて見えることが作品の引力となります。子どもの火花(瀧川ひかる)も、大人の火花(元山未奈美)も、難しい役どころながらとても魅力的でした。彼女の複雑な思いがほぼ表情以上で語られないのも、道久からの視点と思うと納得です。むしろ、もっと道久に焦点を当てる演出(立ち位置など)であれば、より全体の構成のメリハリがきくのではと思いました。もし群像劇であるのならば、幼馴染3人と皐月の関係性がより丁寧だとそれぞれの人生が折り重なってドラマ演劇としての深さが出ると思います。
一方で、一部の人しか手に取ることができないのは残念なくらい、事前清算チケット特典の短編小説が登場人物たちの厚みを担っていました。

震災については、事前に注意喚起アナウンスが必要なほど直球の描写でした。フィクションの地震が起こることや、その地震により火花に起きる出来事は、演劇というフィクションが描ける未来のifです。それらは道久の物語と考えるとすべて合点がいきますが、であるならばやはり道久をもっと主人公として引き立たせる構成(道久を中心に置いたり、または全員よりも一歩引かせたり)だと、後半の展開にも切実さが増すのではと想像します。
ただそこで、火花のおばあちゃんである初枝の長セリフが、突然のフィクションのシーンに強度を持たせていました。年齢的にも難しい役だと思いますが、おぐりまさこさんが丁寧に演じていました。

全体を通して俳優達が各シーンを引っ張っていました。小ホールとはいえステージには十分な広さがあるので、奥行きを感じさせる動線を引くと、より俳優が動きやすいのではないかなと感じました。
甘い手

甘い手

万能グローブ ガラパゴスダイナモス

J:COM北九州芸術劇場 小劇場(福岡県)

2022/04/23 (土) ~ 2022/04/24 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

ドタバタコメディと言っていいのか……そういう印象を受ける元気の良さ、勢い、キャラクターの濃さ、賑やかさ、コミカルさなどが詰まっており、さらに細部へのこだわりもかなり練られていました。チラシのビジュアルとも重なるパッチワークのような美術が印象的で、サーカス小屋の入口のような、おもちゃ箱のイメージのようなワクワク感もあります。同じく当日パンフレットの顔写真つきの人物紹介も楽しい。音響や照明もベタな挿入だけれど描きたい世界がはっきりしていて思いきりがよく、さらに俳優もふくめて「うちの表現はこうだ!」という自信や信頼も垣間見えました。


ネタバレBOX

これまで九州ではいくつかの舞台を拝見したくらいですが、演劇に関わる人々の勢いと熱量を毎回感じます。今回はさまざまな俳優が出演していますが、九州のなかでどんなポジションやイメージなのかなど、客席と共有されている方が複数名いるなと思いました。劇団や俳優や演劇が、観客と関係を築いているのだなと嬉しくなる客席でした。実際、わたしも“ファン”になる気持ちです。

いろんな登場人物のエピソードが、よくこの時間内にこの人数分入ったなぁと驚くほど詰め込まれています。みんなが主人公で、みんなにドラマがあって、みんなに人生がある。どの人物も基本的には「誰か他者を思い、他者のために行動する」。そんなまっすぐな人物たちを生き生きと演じていて、デフォルメもされているけれどリアリティもきちんとあって、この学校に通いたいなぁと思うような(大変そうだけど、笑)、みんなを好きになっちゃう幸せな空間でした。
先生と付き合ってる(かもしれない)女子生徒というのは、一瞬「この設定大丈夫かしら…」ともよぎりましたが、先生側の思いが明らかになるにつれて納得できる展開に。女子生徒の恋心に限らず、いろんな型にハマっている若者の思いは肯定しつつ、その関係を肯定するわけではない作劇でした。昔ながらのキャラ設定ではあるのでもっと批判性をもって描いてもいいとは思いますが、基本的にはどんな思いの、どんな価値観の人物も、愛を持って作り上げられていました。

また、方言の響き(とくに語尾)が明るくて、その音の余韻が劇全体に漂っていく。方言であることが作風にとっても効果的でした。最高のエンターテイメントであるとともに、九州のことも好きになる地域密着の魅力がたっぷりでした。
マがあく

マがあく

シラカン

STスポット(神奈川県)

2022/03/30 (水) ~ 2022/04/03 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

あるお部屋のお話。

ネタバレBOX

ドミノの舞台美術は触れたら倒れるのではないかとドキドキしましたが(固定しているのかもしれないけれど)、誰も触れませんでした。狭い空間にたくさんの俳優がいて、大きく動くシーンもあるにもかかわらず、です。広くはない「部屋」の空間を俳優達の身体が把握していて、そういった空間の感覚が第7番目の登場人物である「部屋」にリアリティを持たせていました。効果音や、マイム的な動きなどもふくめ、そういった細部の積み重ねが、劇空間をつくっていたと思います。

そのなかでの登場人物たちは、理不尽な主張の応酬だったり、あえて(だろう)わざとらしいせりふ回しといったいくつもの「違和」を登場させます。
違和感はあるけれども、なにかが起きそうなほどはなにも起きないので、そのもやもや感が居心地悪くもあり、その居心地悪さが面白くもあり、その面白さがすこしだけ物足りなくもあり、でもその物足りなさがクセになりそうでもあり……独特の不思議さをもった作風でした。
たとえば、不思議なゆっくりしたテンポでしゃべり、不思議にズレたテンポで会話する人物と一緒にいると、ちょっとクスリとしてしまうような、そんな感覚です。「なんだか、この人、好きだわぁ」と言いたくなるような、愛しい作品でした。
ひび割れの鼓動-hidden world code-

ひび割れの鼓動-hidden world code-

OrganWorks

シアタートラム(東京都)

2022/03/25 (金) ~ 2022/03/27 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

ギリシア悲劇の「コロス」という存在に着目し、かつて祭りのコロスから俳優が生まれ、時代とともに演劇、俳優、コロスが変容していく──その壮大な人類史と舞台芸術史を見たようでした。
舞台芸術がまだ今の形ではまったく無かった頃、人間たちの営みの背後に広がる大地、古代ギリシアの野外劇場の周囲に広がる町々、ステージという舞台にあがる人びと……そのような光景が見えるようでした。緻密で静謐。美しくも、なにか覗き込んだら食われるような深淵がある。タイトルは『ひび割れの鼓動』。そこに書かれた英字の『HIDDEN WORLD CODE』をまさに探すような、壮大な時空の旅でした。

ネタバレBOX

ギリシア悲劇を丁寧に考察/構築されていて、さらにそれを技術力のある俳優と、身体性の洗練されたダンサーとともに舞台にて表現しようという大胆さと的確さに驚きます。舞台芸術の本質が積み上げられるような、なんと貴重な第一歩だろう、と思います。
丁寧に組み立てられている反面、同時に、枠組みが際立つような気もしました。その構成が知的好奇心を刺激し、考察が優れているからこそ、頭で見てしまったかもしれません。そこに生身のカラダが躍動する身体表現による爆発力や空間の揺れのようなものを、感じたかったといえば望みすぎかもしれませんが……頭だけでなく五感への刺激がもう少し強ければ、さらに大きな高揚感があっただろうなと思います。

テキスト・ドラマターグは前川知大さん(イキウメ)。独自の世界観と言葉を持っている方なので、その特色をもう少し感じられたらコラボレーションとして現代的な面白さがあったかなと思いつつ、ダンスと演劇の背景を持つアーティストたちが共に古代ギリシアまで遡り、同じく舞台芸術に携わる者としてその歴史を立ち上げていく壮大な試みには興奮がやみません。
不思議の国のアリス

不思議の国のアリス

壱劇屋

門真市民文化会館ルミエールホール・小ホール(大阪府)

2022/03/24 (木) ~ 2022/03/25 (金)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

壱劇屋が初挑戦する、パントマイムだけの長編公演。出演者5人のうちパントマイムに初めて取り組むという人もいる意欲作でした。

ネタバレBOX

ほぼ素舞台に、紐などで空間を生み出していく。しかも物語の舞台は宇宙空間!?ということで、これは5人の息がそろっていないとこちらにイメージが伝わらないというとても難しいことに挑戦しています。もちろんパントマイムとしては未上達というところもありますが、5人が互いを全身で意識しながら、そしてお客さんの存在もとらえながら、空間をつくっていく様子は印象的でした。演じる、ということついてホスピタリティの高い劇団なのだなぁと思います。

物語は、大人が未開の惑星?に降り立つという設定。キャラクターや展開や細部のエピソードなどは『不思議の国のアリス』をしっかり踏襲していながら、オリジナリティあふれる世界観になっていました。脚色・演出・振付の大熊隆太郎さんの描く「ヘンテコ」な景色を垣間見られて面白かったです。とくに、『不思議の国のアリス』でいうところのイモムシのイメージがありつつ、それが一人だけで演じられるのではなく複数人が同じ動きを繰り返して連なっていく様子は、身体表現やマイムの面白さが見られるキャラクター造形でした。

パフォーマンスの内容に対して会場が大きすぎる気もしましたが、舞台スペースを広く使っており、マイムによる演出もさまざまなアプローチをもちいるなど工夫がこらされていました。

また、劇団の初挑戦を応援するような客席の空気もあたたかく、「団体と一緒にリアルタイムに歩んでいく」という劇団の楽しさがあるなと感じます。
オロイカソング

オロイカソング

理性的な変人たち

アトリエ第Q藝術(東京都)

2022/03/23 (水) ~ 2022/03/27 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

女の身体を持つ者たちによる、三世代の女たちの物語。私も女の身体を持ち女として生きる性だからなのか、私のパーソナリティなのか、女を描く物語や設定には、これまで親しんだ違和感のない手触りが多かったです。そういう意味では真新しさはなかった一方、丁寧に率直に真摯に、女が生きる世界を描こうという姿勢を感じました。

ネタバレBOX

年齢の違う三世代ですが、それぞれシングルマザーであったり性被害を受けたりと、女の生きづらさに遭遇しています。三世代を描くのであれば、世代間による違いはもっと感じられてもよいなとは思いました。あるいはどこかの世代にもっとフォーカスを当てて、観客の視点をもうすこし強く誘導しても良い気もしました(おもに現代の孫世代に焦点があたっていましたが、もっとそこを軸に過去を振り返る趣を強くするか、また個人的には二代目のお母さんを中心に据えても芯が立つと思いました)。

劇中で異彩を放っていたのが、戦隊モノのシーンでした。近年の女児主人公の戦隊モノ……とくに『プリキュア』の新作などは既存の価値観にクエスチョンを出す展開が多いです。「私達はこれでいいのか?」「世界はこれでいいのか?」「もっとこういう世界がいいんじゃないのか?」と問いかける戦士になって戦う──けれどもそれはまだ残念ながらフィクションである──という現代の女児主人公の戦隊モノを彷彿とさせるシーンは、まさにこの世界の女性達が置かれている現状でもありました。また、現実と戦うために、フィクションの力を借りて生き延びることにはリアリティがあると思います(そもそも近年の『プリキュア』がベースじゃなかったらすみません)。

空間の広さに対して俳優の演技が大き目なので、客席での居方を少し迷いました。慣れてくると受け入れられましたが、もう少し狭い空間における演技体でも良い気がします。俳優それぞれの演技がしっかりと太く、芯があるからこそよけいに空間に対して強く感じたのかもしれません。この作品をこれほどの狭さで上演するという、戯曲と空間はマッチしていると思いました。

また、提供のコンドームや特別映像など制作面と上演が関連しており、作品の厚みをうむ相乗効果をもたらしていました。オンライン裏話とのセット券もふくめ、上演以外にも興味を持ち世界が広がっていく工夫が凝らされていました。
 “Na”

“Na”

PANCETTA

「劇」小劇場(東京都)

2022/03/10 (木) ~ 2022/03/13 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

タイトルの「Na」ってなんだろうなと思っていたので、いろんな「Na、ナ、な」で遊ぶことが楽しくて、言葉には視覚・聴覚・舌感覚などさまざまな要素が詰まっているんだなと再確認しました。

ネタバレBOX

展開はシンプルで、誰でもわかりやすいのに飽きない!そして遊び心たっぷり。凝った笑いや、シンプルな笑いなど、ビジュアルで見せる笑いや(国旗ネタは爆笑しました…!)、音で楽しむ笑いなどさまざま。観客に呼びかけるという直接的なコミュニケーションのシーンだけでなく、全体を通して、観客の存在を意識し、相互関係を作ろうとしている様子を感じました。

4人の俳優と2人のミュージシャンが、全力でパフォーマンスしてくださるからこそ、時に組み込まれるダジャレ的な笑いもあたたかくなっていく。実は個人的にはダジャレというものが苦手なのですが、瞬間的にだけ瞬発力で笑わせようとするのではなく、出演者たちの真摯さ、前後の空気感の作り方、観客の反応とのちょっとしたキャッチボールなど、空間ごとつくっていく要素としてダジャレがあるので楽しめる。ダジャレを好きにさせてくれてありがとうございます(笑)。

そういった関係性の作り方にはドラマがあり、いくつもの小話が関連したりはしているのですが、もう少し全体を通したダイナミズムがあるともっと印象深くなると思います。
また、冒頭の「王様ゲーム」はハラスメント的なシーンですこし見るのがつらいのですが、そこに王様など登場人物の人間性や関係がもっと描き込まれるか、他のセットリストとの明確な関係性があれば、ハラスメント的なシーンの存在意義があり、また作品に厚みも出るかなと想像しました。

また制作面で、Na=「名」として、チラシのデザインやチケットがこだわられていて、細部への遊び心を感じました。当日パンフがQRコードになっていて、アクセスしてみて当日のラインナップがわかる流れに。個人的にはQRコードパンフはコロナ禍にも対応しているし嵩張らないし好きなのですが、スマホを持っていない人もいるのでそういう方は見られたのかな、と少し心配にはなりました(けれども相談したら丁寧に対応してくださいそうな受付の雰囲気づくりや、並ぶ観客への声かけの柔らかさも良かったです)。
小刻みに戸惑う神様

小刻みに戸惑う神様

SPIRAL MOON

「劇」小劇場(東京都)

2022/06/15 (水) ~ 2022/06/19 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

 脚本はジャブジャブサーキットのはせ ひろいち氏、演出が水先アンナを演じた秋葉 舞滝子さんである。舞台美術の精密、センスの良さ、合理性、使い方何れをとっても流石スパイラル ムーンの舞台と唸らせる内容。無論、脚本、演出、演技もグー。殊に秋葉さんの演出、演技の群を抜いた上手さは格別である。(華5つ☆、タイゼツベシミル!!)1回目追記 6.16 17時 2回目最終追記6.18 0:50

ネタバレBOX

 上演時間約105分。板上は中央の焦げ茶壁面に掛け時計この壁はホリゾントとしても機能し舞台上手から下手の端迄を占めている。上手・下手にそれぞれホリゾントと平行するよに延びた短い壁。短い壁とホリゾントの隙間が各々出捌け。下手の短い壁に直交するように左手側面の壁、上手も同様に直交する側面壁。上手側面壁の客席側に2階へ通じる階段が設えてありここが3カ所目の出捌けである。壁面には額装された写真などが掛かっている。上手にはソファーセットやテーブル、サイドテーブルが置かれテーブル上には黒盆に載せられた湯呑と未だテーブル上に置かれたままの湯呑が混在している、下手のテーブル上にも同様に湯呑と黒盆、椅子。上手下手各々のスペースの入口辺りに鉢植えの植物が置かれているので感覚の鋭い人には、それとなくこの舞台美術が葬儀の雰囲気を醸し出しているのがこの時点で分かるが、黒盆が2カ所に用いられ而も湯のみの数やその配置で上記の推論が正しいことは直ぐ合点がゆく。舞台美術のセンスの良さは上手側壁から左斜め方向に延びた明り取りの窓の鋭角の鋭さとその鋭さを宥めるようなその色彩・文様の微妙繊細なマッチングにある。上手サイドテーブルの傍にとても小さなゴミ箱が置かれているのだが、これもキチンと使用する辺りの気配りも流石である。
 脚本は周到に練られており随所に仕掛けられた伏線・回収、遊びが在る。役者陣の演技については先に述べた通り、皆そつの無い演技力を見せてくれるが秋葉さんの図抜けた演技力はスタニスラフスキーの談じたレベルのそれを越えているように思う。それは単に自然に滲み出るというレベルであるより間の取り方、台詞回し、過不足の無い表現による安定し自然な立ち居振る舞いから醸し出される存在感が舞台全体を締める。こんなことができるのは矢張り脚本の深い理解と、登場人物相互間に働く人情の機微への没入、翻って瞬間的に他の出演者が演じている役柄との相互関係を的確且つ俯瞰的に判断、身体表現に移す瞬発力と舞台空間内での位置関係のこれまた極めて的確な把握によった言語(台詞)発語のレベル、時間(間)、空間(他の役者や美術との舞台内位置関係レベルと身体レベル相互の陥入及び俯瞰との瞬間的な交感能力があってのことだろう。まだるっこしい言い方になった。もっと根本的には彼女が日常レベルに於いてもアイデンティファイし得ているということなのであろう。
 そんな彼女が役名・水先アンナとして活躍する。即ち葬儀一般に関わるフリーの水先案内役を務める人物を造詣している訳だ。それは慣れない葬儀の為心細い喪主や親族と霊界を繋ぐ或る意味カロンであり、世間一般の習わしと儀式・霊界との仲介役でもある。
 同時に脚本で亡くなったのが劇作家という設定もあり、亡くなった劇作家の主張が若くして最愛の妻を喪い作風が変じたこと。以降総ての作品に単に悲嘆に暮れる残された者を描くことのみならず、様々なエピソード、時に明るい話題も綯い交ぜにしつつ而も常に死の影が存在したこと、と作品創造との不可分な諸関係及び類似性が対比されつつ物語が紡がれてゆく。
 この優れた脚本活き活きした舞台作品に仕立て上げているものは役者陣の演技、照明、音響の諸効果を見事に構成し効果的表現に高めている演出。そして数々の深い台詞、その深い科白の数々は人々の日常と葬儀との入れ子細工を通して神学と科学を示唆し、遂には誰しもがその問いを発し、応えきれずして何時しか放棄してしまった問題、‟我々は何処から来て何処へ行くのか? 我ら人間とは何か?“ という普遍的な問いを、再度提起してくるのだ。


透き間

透き間

サファリ・P

東京芸術劇場 シアターイースト(東京都)

2022/03/11 (金) ~ 2022/03/13 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

演劇という芸術を通じて、作者および観客が(物理的・心理的に)距離のあるテーマといかに関係性を結べるかという実験を行った意欲作である。

ネタバレBOX

 アルバニアのイスマイル・カダレ『砕かれた四月』を下敷きに、復讐が社会的制度として存在する世界をいかに理解し得るか(あるいはし得ないか)を、ダンスと演劇を混在させたスタイルで考察している。溝と高さを巧く利用した舞台は、ダンサーの身体を様々なものに見せており、また舞台奥に天井からぶら下がったオブジェも含め、個々の要素が観客の想像力を刺激していた。出演者たちのダンス、ムーブメントは、ドラマ的に(すなわち『砕かれた四月』のストーリーに沿って)解釈することも、あるいはそこからズラして読むことも可能なものとして展開されており、そのように行き来する観客の思考は、作者が『砕かれた四月』を読解する思考と恐らく重なっているのだろう。舞台芸術を通じて読解の作業を共有している感覚が楽しかった。
 しかし、応募書類に書かれていた作品創造の意図、目的がはっきりしていただけに、本作品が果たしてその目的に到達できていたかはやや疑問が残る。テクストと祖父の存在が有機的に結びついていたかも含め、自身と物理的、歴史的、心理的距離のある出来事を関連づける手つきとして、今回のやり方が有効であったとは必ずしも言えないのではないだろうか。巧く重なる瞬間もなく、かといって完全に客観視できるほど離れることもない、中途半端な位置付けになってしまっていたと言わざるを得なかった。
マがあく

マがあく

シラカン

STスポット(神奈川県)

2022/03/30 (水) ~ 2022/04/03 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

STスポットの空間をよく活かせた、演劇的想像力を巧く活用した作品である。

ネタバレBOX

 アパートの一室を契約するというシチュエーションに、リアリズム的な作品なのかと思っていたら次々に不条理な言動と展開が待ち受けている。小劇場の不条理的シットコムと呼び得る巧さで、不気味さと滑稽さのバランス感覚に優れていた。
 思わず吹き出してしまうような台詞と俳優の演技も魅力的だった。他方で、その俳優たちが汎用性の高い上手さであるかはやや疑問であろう。あくまで本作の作品傾向とスケール感に合った演技だったため、他の作品でも見てみたいと思わされた。
 総合すると、巧いが故に良くも悪くも後味を残さなかった。不条理にもシットコムにも振り切ることのないバランス感覚はあるが、それによって何を目指しているのかが伝わって来ない。また、応募書類に見られた問題意識や目標が作品を通じて見られず、その点も残念だった。若手の団体であるため、向かう先が垣間見えると一層の強みになるのではないかと思われた。
ひび割れの鼓動-hidden world code-

ひび割れの鼓動-hidden world code-

OrganWorks

シアタートラム(東京都)

2022/03/25 (金) ~ 2022/03/27 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

ダンスと演劇を同地平に併置することでその化学反応を見た実験的作品である。

ネタバレBOX

 ダンサーはダンサー、俳優は俳優として舞台上におり、それぞれの身体がダンス的空間、演劇的空間を担保していたので、両者が交錯した瞬間の舞台上の異質化が体感できて面白かった。アフタートークでも語られていたように、その際観客の目線は演劇とダンスの間で行き来する。舞台上のダンサーあるいは俳優の身体を見ることで、観客の身体にも変化が起こるのが体験として新しかった。何より、出演者の技術が圧倒的に優れていた。川合ロン、平原慎太郎を筆頭にダンサーたちの能力は言うまでもなく、佐藤真弓、薬丸翔もダンサーたちの身体と拮抗する空間を築けていた。この、やや歪でありながら調和を見せた空間は、美しい美術と照明、衣装と音響によって構築されており、スタッフワークの完成度が高かったと評価できる。
 他方で、ダンスと演劇の間を行き来する試みは既に歴史上にあり、この作品の独自性が見いだせたかは今ひとつだった。コロスを描くというテーマと、本作の実験的手法の有機的な結びつきが見えれば、それはダンスあるいは演劇を更新し得るのではないかという予感がした。
オロイカソング

オロイカソング

理性的な変人たち

アトリエ第Q藝術(東京都)

2022/03/23 (水) ~ 2022/03/27 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

性犯罪の影響を、被害者だけではなくその周辺も含めて描いた、時宜を得た作品である。

ネタバレBOX

 #MeToo運動をはじめ、性犯罪の告発が急増する現在において、本作のテーマが重要であることは自明である。したがって、そのテーマを「いかに」描いているかが評価の際に重要な要素となる。だが、本作品は描き方としては比較的ドラマであり、オーソドックスなやり方だった。主人公をはじめとして登場人物への感情移入を促す展開、演出がしばしば見られ、性犯罪の被害者である登場人物が葛藤する様は確かに心が動かされた。しかし、思考よりも感情の方が刺激されることにより、性犯罪というテーマを消費する方向に行ってしまっていたのではないかと懸念される。
 興味深い演出は各所に散見された。例えば、人形を用いたり少女戦隊モノの演出にしたりという工夫で、被害者の抱える自責の念やそれを利用した二次加害、それらの克服方法を説明しており、いわゆる「お勉強」的にはならないよう上手く回避していた。だが、工夫止まりでありテーマと深く結びついていた訳ではない。作中で最もノリの良い、楽しかった演出が小道具に過ぎなかったのがやや残念だった。俳優は全員高い演技力が認められたものの、劇場の広さと演技の質が合っていなかったのが惜しかった。中でも梅村綾子は技術の幅広さを感じさせた。別の劇場であれば、あるいは劇場の狭さに合わせられれば、高い評価を得られたのではないかと思う。
 結果として本作は、(恐らく本来は意図していなかったことだろうが)社会に向けたメッセージを伝えるメディアとして演劇が持つ特徴について再考する機会となった。SNSを含む多くのメディアが氾濫する現代において、演劇はどのようなメディアとなり得るのか。その可能性について改めて検討する必要があるだろう。
 “Na”

“Na”

PANCETTA

「劇」小劇場(東京都)

2022/03/10 (木) ~ 2022/03/13 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

 シンプルな舞台美術と衣装を用い、観客の想像力を喚起することで劇世界を構築するミニマルなオムニバス作品群だった。

ネタバレBOX

 コミカルなコント集であり愉快だったが、それ以上にならなかったのが残念である。「名」を巡るそれぞれのエピソードは小品ながら「よくできた」という印象だとしても、「名」とは何かという議論にまで到達しない。名付けるという行為に代表されるように、「名」が「パフォーマンス」と深い結びつきがあるだけに、もったいなかった。
 純粋に音楽要員としてのみ登場していると思っていた演奏家たちもまた「パフォーマー」であるとし、その人たちのみのエピソードがあったことは、予想外の面白さがあった。また、大道具等がシンプルであるために照明の美しさが際立っていたように思う。俳優は技術の差がやや目についてしまった。

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