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かつてサジェを悩ませた幾つかの難題

かつてサジェを悩ませた幾つかの難題

演劇企画 heart more need

シアターKASSAI【閉館】(東京都)

2022/07/06 (水) ~ 2022/07/10 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

鑑賞日2022/07/09 (土) 13:00

 話を引っ張る主人公や、わかりやすい悪役がいる訳じゃないのに世界観にグイグイ引っ張られた。演出も役者さん達も見事なお仕事だったと思う。役者さんに関しては全員が主役であり全員が脇役なところがあるので極端に前に出ないようにしつつ、でも各役者の魅力は出し惜しみしないチームプレーがお見事でした。

 細川さんのオカルト系舞台の中ではかなり優しい世界でなにかしらポジティブなリターンが帰ってきていました。考えてみると過去作品のようなヤクザや新興宗教といった強欲な場合は因果応報的な激しいリターンが帰ってくるのですがw、今作の一般市民のささやかな欲にはこういうリターンになりますね(でも少し宗教系の話であったり不倫願望を入れたりする「毒」を入れてきたのは上手い)。

 3つのエピソードのそれぞれの話はそれほど大きくないんだけれど(とはいえサジェの当時の環境を考えると実は大きい)、エピソード入れ替わりで退屈させず、いつの間に物語が積み上がってそしてひとつにまとまって…という展開。上演時間は90分だったんですがそうとは思えないボリュームだったなぁ。

 あとこれは個人的な好みになるけれど西宮チームの関西弁芝居が面白かったなぁ。演出の細川さんによる警備室からの声だけ出演も良かったし、チームの中では唯一の関西人では無い遠藤さんの芝居がまた良くて、フランキー堺さんの芝居を見ているかのようでした。

ハヴ・ア・ナイス・ホリデー

ハヴ・ア・ナイス・ホリデー

第27班

こまばアゴラ劇場(東京都)

2022/07/07 (木) ~ 2022/07/18 (月)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

音楽自身が生む高揚を劇に包摂する舞台を作るユニット、と認識しているが、今回は演奏が一人、プラスαの趣向で、そこ一点突破な劇構造だったな、と一日置いた後思えて来た。そう考えて漸く、私にとっての「第27斑らしい」範疇に戻って来た。つまりは実際の舞台はその狙い通りには必ずしも行かなかった、という結論になるが...致し方ない。。
架空の設定の特区での若者たちの群像が描かれ、擬人化された存在も登場するが、「SFは設定が命」と最近よく思う通りで今作も些か詰めが甘い。話の舞台は不老薬が配られる「未来の村」という特区での設定で、畦道が伸びるだけの過疎地に人を呼び込む政策意図がありそうなのだが、薬は有料であるとか、だから仕事を(自力で)見つけなきゃならないとか、幾分無理が(説明し切れてなさが)ある。だが、移住してきた若者たち(背景はほぼ説明されない)にとってのアジール的空間がそこはかと立ちのぼりそうなのが良く、ブラッシュアップされた舞台をまた観たい世界であった。

ネタバレBOX

音楽的な高揚をそのまま劇的高揚とするのはミュージカルであるが、これは大がかりである。第27班のはそれとも違う音楽と劇の絡みがある。劇伴的に挿入する場合でも生であるだけに迫力があるが、所謂「劇伴を生でやる」定型とは異なる。真髄は音楽演奏が劇に生でピンポイントにハマる、これが快感である。今回はギター一本の弾き語りを村のラジオ放送局(空き家)を乗っ取って自分の曲を演奏し始めた移住者がやるのだが、音楽が作る本作のクライマックス場面は、同じく移住者である主人公が昔取った杵柄、ダンス、タップを訪れた放送局でDJに披露し、ギターとコラボをする、ここである。クライマックスを作れてはいなかったが・・。
本命がタップでその後にダンスもさらっとやるが、ダンスはやれてもタップは厳しかった。ダンスは音楽とのブレがあっても自由さが強調され、成立するが、タップはそうは行かない。身体の動きをオンタイムでコントロールする、という点では楽器の演奏の方が近い。しかも楽器は通常狙う場所までが近いのでスッと移動でき、狙う音が出せる。タップは右足か左足を体を支えるために用いつつ、音を出すために一度ジャンプしてその着地の瞬間にオンタイムで打音を出さねばならない。重力に任せる時間が生じるのだ。コントロールは(楽器のように)音を出す直前にその場所にスッと移動すれば良いのと違い、ジャンプする瞬間の力加減のコントロールが必要になる。言えばそういう事である。猛特訓をして漸く、劇的クライマックスを演出するレベルに到達するくらいのものではないか。
その結果、訓練したものを披露する、という舞台から現実に引き戻される時間が生じてしまう。
というのも、「昔やった」のなら、実際にやってる音がリズムからズレて来た時には「あ~」とか「あちゃ」とか、「うわ~ダメや」等の発語が思わず出ないのは、不自然なのである。「うまくやった体で」芝居を続ける(観てもらう)ことは、他の事ならともかく、第27班の音楽には難しい。音楽的高揚、音楽そのもののもたらす感動がそこに生まれなければ、それは第27班の芝居ではない。着想は良かったが、着想が狙っただろう形を、観ながら想像できたわけではない。
寝盗られ宗介

寝盗られ宗介

★☆北区AKT STAGE

北とぴあ つつじホール(東京都)

2022/07/06 (水) ~ 2022/07/10 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

鑑賞日2022/07/07 (木) 19:00

 つかこうへい作の劇、『寝盗られ宗介』を観てきました。

 普段は素直になれず、本当の思いを伝えることができず、空回りし、合うたびにいがみ合うことも多い宗介とレイ子が劇中劇の中では真っ直ぐに思いを打ち明け心を通じさせ、さらに、最後のほうの場面で、レイ子が再び男と手を取り合って宗介のもとを飛び出し、それを見た宗介は、今度は帰ってこないんじゃないかと一抹の不安がよぎり、心配するが、次の公演場所でレイ子と結婚式を挙げようと準備を進め、その当日、何度も宗介の隣にスポットを当てるが、当のレイ子はなかなかやって来ず、しかし宗介が諦めきり、絶望した頃にある奇跡が起きるという予想外の展開に、ハラハラドキドキ興奮が覚めやらず、驚き呆れ、感動し、心から良かったと思えた。
 劇自体は、全体を通して、個性豊かでアクの強い登場人物が多く登場し、歌あり、ダンスあり、更に全体を通して、終始笑いが止まらなかった。

 主役や主役級も含めた、それぞれの登場人物を演じる役者が、つかこうへい特有の長台詞を速射砲のように捲し立てなければいけない場面が数多くあったが、それを見事にこなし、しかもほとんど噛まずに台詞を感情や強弱を付けて喋れていて、正直、プロではなくセミプロ劇団なだけにそんなに期待していなかっただけに、こちらが思っていた以上にやり切って、更に捲し立て、相手の台詞に畳み掛けていく、つか流のスピーディーで尋常じゃなく早口なやり取りを習得し、自分のものとし、全身も使って熱演していて、やり切っているように感じ、感動した。

月の金魚

月の金魚

鵺の宴

内幸町ホール(東京都)

2022/07/07 (木) ~ 2022/07/10 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

優しくて切なくて。演者も良くて。良い時間が過ごせました。ありがとうございました。

寝盗られ宗介

寝盗られ宗介

★☆北区AKT STAGE

北とぴあ つつじホール(東京都)

2022/07/06 (水) ~ 2022/07/10 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

最前列で観劇!アツい演技に魅了されました。この作品は初めて。めっちゃ良かったです。良い時間をありがとうございました。

三好十郎の『殺意』

三好十郎の『殺意』

演劇企画集団THE・ガジラ

APOCシアター(東京都)

2022/07/01 (金) ~ 2022/07/09 (土)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

鐘下辰男の洗礼を受けた若者らが舞台で咆哮する。桜美林の学生よりは年嵩だろうが、身体的な限界を攻めてる感じとその限界が見える感じは同じ。ただし学生の方が俊敏だったりする。岩野未知は脇役で補佐に留まっていたが、激情と淡調の振り幅、罵声の中にも繊細さを滲ませる岩野レベルの演技者をつい想定して、若い演者たちの「届かなさ」を想像で埋めている自分。この脳内作業を凌駕して刃を突きつけて来る瞬間を待ったが、必死に、誠実に、堂々と演じる若者たちの姿を認めつつも、鐘下舞台とあれば期待してしまう「打ちのめされる瞬間」には至らずだった。演技の問題か、戯曲(台本)演出の問題か自分の鑑賞眼の問題かは不分明。
以前の鐘下ワークショップ発表から一段上を目指した「SAT」ならば(料金もまあ普通であるし)差引いて観る必要もないのだろうが、SATの文字を見落としていて若手役者が登場すると「そうだ若手公演だった」と、仕切り直して観ている。さらに、これが「ワークショップ発表」だったとすれば、やはり見方が変り、「にしては」の枕が付いて「凄え」となったりする。料金と中身が皆直結してる訳ではないが、されど価格。観客とは現金なものと思う。

複数役に書き直した台本は原作に忠実なようだが(鐘下氏の加筆に思える台詞もあったが)、現代に重ねられている事はそこはかとなく伝わる。

当日配付の鐘下氏の文章を読んでみる。
今を生きる日本人、とりわけコロナ後の姿が語られている。戦後日本人の姿を告発的・暴露的に描いた三好十郎という作家は、本作でも戦前から戦後に橋を渡してその歩みをストリッパーに一人語りさせ、あるインテリゲンチャの変節スキャンダルを暴露させる。
鐘下台本は「語られる」人々に身体を与え、群像劇の様相となる。
だが、観ながら感じたのは、一人語りなら語られる人々は完全な主観を反映し、どう受け取るかを観客に委ねる。言葉が大きな比重を持つわけだが、これが役者の身体を借りて登場すると、語り手の統御を離れて存在してしまう。すると、様々な解釈が可能となる。これを言っては実も蓋もないが、この違いを埋めるのは大事である。「三好十郎の『殺意』より」と題した理由も納得する次第だ。
原作を「想像」し思いを馳せる。彼女が目撃し体験した事は、今この世の中を見る眼差しに深く反映している。左翼言論人の「現在」の素行の描写には、当時権威を持っただろう者たちへの私怨を感じなくもないが、彼らが語る「論」の虚しさが三好氏にその想像をさせたとも。
ただ鐘下氏は知識人の転向を描いたものとしてこの作品を規定するのは「矮小化」であると言う。
今現在の日本人は、昔読んだ萩尾望都の漫画『百億の昼と千億の夜』の「A級市民」に似ている・・このA級市民の説明はないが、想像を膨らませる事はできる。
鐘下氏の感覚に寄り添えば、戯曲の最初にストリッパーが冒頭で言う「世の中は広うございます」の「広さ」を、本当の広さとして感知できているかに疑問を呈する。この「広さ」を忘れて自分たちは「生きている」と錯覚している姿こそ、A級市民的だと言う。
例えばネットやニュースで見るウクライナ状勢に、広い世の中を実感するのも矮小化の一つであり、実感した気でいる錯覚がA級市民的である、と言う。
この一文には「言い切れてなさ」を感じる。また少し考えてみる。

第15回 シアターΧ 国際舞台芸術祭2022(IDTF)

第15回 シアターΧ 国際舞台芸術祭2022(IDTF)

シアターX(カイ)

シアターX(東京都)

2022/06/16 (木) ~ 2022/07/10 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★


 本日が2年に1度開催されてきたIDTFの最終日、クロージング・ガラである。今回のIDTFはシアターX創立30周年記念公演でもあったが、その幕である。演じられたのは予定の3演目+ヨネヤマママコさんの飛び入りパフォーマンス。

ネタバレBOX


 頭を飾ったのはカナダから来日のジョスリーヌ・モンプティさん。タイトルは「MEMORIA」今作はジョスリーヌさんが今世紀初頭にカナダ及びイタリアで共演した舞踏家・高井富子さんの遺品である衣装を纏って踊られた。オープニングでは、この白い衣装を纏った彼女の後姿に長四角の照明が当たる。彼女はそのまま暫く全く動かない。極めて想像力を刺激するシーンで始まった。音響は静かめな曲でほの暗い空間に溶け込み、深い思索に引きずり込む。極めて繊細な動きと微妙な動きで体の向きを変えた彼女は衣装の前垂れの端を持ち、時に永遠や死と生の間を渡る風に載せた祈りの薄布に与える微動のように繊細極まる念動を表現する。静止は死を、微動は生がその念を死に伝え得る最小の動きとエネルギーを我ら観客に伝える。死と生の鬩ぎ合いが殆ど拮抗して力の頂点で顫えている状態を形象化し得た稀有な踊りであった。その余りの力量、抽象度の高さ、そして命の充溢に最高度の能表現に通じる表現域を感じた。
直接的には高井富子さんへのレクイエムでありながら、同時に深く普遍的な生命観を表現した作品だ。つまり生きる事即ち時々刻々死ぬことであり、時々刻々死ぬこと即ち生命の再生であるという生命活動そのものへの深い洞察が表現されていた。
 次は仲野恵子さんの「魔羅ソンで届いた命」蝶を象った白っぽい衣装を纏い、背を客席に向けた状態で後頭部に艶やかな面を付けた踊り手が羽化したばかりの蝶の、外気に身体を初めて晒して起こす震えや戦きを微細な表現で示しながら板中央に座している。ホリゾント下手に登場した毛虫を象った衣装の仲野さんの踊りが開始される。毛虫の動きは活発で生命の躍動と伸長を押し出し、蝶の華麗な動きと対照的である。無論、この対称性にこそ仲野さんの主張が込められている。横溢する生命のヴァイタリティ―は他者を凌ごうと只管懸命であり、その懸命な有り様は時に可愛らしく、時に滑稽ですらあるが、生き抜こうとする命の叫ぶ姿は美しい。この毛虫のたゆまぬ動きと抑制された蝶の華麗な動きの対比も終わる時が来る。それは、美しく優雅な蝶がその翅を落とす時であり、成長した毛虫が羽化した蝶から子を産む母となり自らは瓦解してゆく姿、そして新たに誕生する命の姿が、元々の毛虫の色では無く新生の象徴としての白い衣装で表されている点に表象されている。

 次に飛び入りで登場なさったのは、ヨネヤマママコさん。何でもシアターXのチーフプロデューサー・上田美佐子さんとの約束を果たしにいらしたとのことで、4年前に大病を患って後、1度退院したものの再発して御闘病のみぎり、最近では認知症も発症なさったとのことで、書いていらした文章をお読みに成りながらご挨拶なさった。フォローについていらしたお弟子さん共々、彼女の掴んだテーマ、生命の輪廻、生命を支え育んできた水の生々流転の様を踊られた。コンセプト自体はお弟子さんの演ずる舞踏と変わらず、各表現の開始・終了のタイミングが若干ずれるだけの見事な生き様表現に心を打たれた。ママコさんの方が客席に近い下手で踊られたので上手後方で踊るお弟子さんの動作は全く見えていないから、コンセプトにずれが無かったのは一目瞭然。而もその踊りの品格と威厳の背景を為す生き様の見事さはひしひしと観る者を圧倒し流石に一流の踊り手と唸らせた。
 さてシンガリに控えしはダンサー・武井雷俊氏の「アマデウス」美しき魔笛の授業である。林正浩氏のピアノ、山本茉莉奈さんのフルート、歌唱はバリトン・大井哲也氏、テノール・寺尾貴裕氏。歌劇形式の実に楽しい催しものであった。板中央手前には切株に太陽や様々な文様をあしらったオブジェが数個、上手客席側に小机と椅子。机上にはインク壺や羽ペン、グラス等。グランドピアノは下手の板手前客席側との通路の一角に置かれ、その直ぐ上手にフルート奏者用の椅子と譜面台。無論フルート奏者は観客席側を向いて演奏している。
 設定は、魔笛作曲中のモーツアルトが2022年7月10日の上演時刻にウイーンから両国・シアターXにタイムスリップしてしまい其処に居合わせたミュージシャン、歌手らとコラボを始めるというものだが、設定の余りのあっけらかんに皆引き込まれてしまった。無論。各演者の実力は高く、武井氏の高い身体能力から繰り出されるスピーディーでハイテンション、高いジャンプ力の生み出す空中での妙技やしなやかな身体の機敏で誇張された滑稽味などが視覚的な面白さを上手に提示すると同時に、台詞の掛け合いの面白さが見事なバランスをみせて、楽しいといか言いようのない舞台を見せてくれた。
 終演後、恒例の三本締めの音頭を江戸伝統文化推進に尽力なさっていらっしゃる望月太左衛さんがとって第15回IDTFは幕を閉じた。
JACROW#28『鶏口牛後(けいこうぎゅうご)』

JACROW#28『鶏口牛後(けいこうぎゅうご)』

JACROW

座・高円寺1(東京都)

2022/06/23 (木) ~ 2022/06/30 (木)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

とあるアパレル系会社の中堅女性社員を主人公にすえた、一風変わった趣向の企業モノ。山東商会に勤める雨宮(川田希)は次のトレンドを見据えた新しいファッションを生み出すプロジェクトを半年間率いて今、部長(谷仲恵輔)、課長(佐藤貴也)、素材製造会社の担当者・武部(菅野貴夫)の前で若い部下たちと共にプレゼンをしている。
ファッションショー風な演出で、目を楽しませた開幕の後、照明が「会社」の現実に引き戻す。
拍手をして労う課長。労いつつも鋭く批判する部長。結果は不採用。だが審査側の3人が部屋を出ると、部長は強面を崩して自分が手掛けたブランドの新バージョンとしてアイデアを反映しようと無邪気に提案をする。
雨宮らの新ブランド<つなぐ>とは、環境問題をトレンドに押し出し、リサイクル素材(再生ビニール)100%のカジュアルを客単価17,000円で提示。
一方部長が手掛ける<エコ×××>は単価10,000円。これに再生素材を「幾らか」混ぜて13,000円で売り出す事となった。元のプロジェクトはこのチームにそのまま移行し、雨宮はチーフを任命される。一応は飲んだが、しこりは残っている。
素材会社と試行を重ね、単価13000円で可能なのは再生素材25%まで、との結果が出た。「これで環境に配慮した服だと言えるのか」と、雨宮の疑問は勢い高まる・・。

この舞台の趣向はパンフに解説があった。即ち、ベースとなる話の後、主人公の選択によって二つの異なる話「牛後」「鶏口」の両バージョンが展開するという。で、上記までがベースとなる話だ。「牛後」はその後、雨宮が会社にとどまって努力するケース。もう一つの「鶏口」は再生素材100%の商品を販売する新会社を設立するケース。

実を言えば、「混乱もあり得るので書いた」というパンフの解説を読まなかった私は、混乱のまま劇場を去った。二つの物語ではなく、「巻き戻し」の技を使いながら一つの話を描いた、と見たのであった。・・雨宮は会社に残って我慢の末、融資を取り付けた取引銀行の担当からあるベンチャー素材会社を紹介される。「良い出会いがありますように」と、舞台装置の中央に開いた神々しく光の溢れ出る扉の中へゆっくりと入って行く雨宮。このバージョンは「牛後」。2バージョンある、と観客に判らせるヒントは、雨宮のプライベートのシーンにある。タロット占いがその小道具である。
三姉妹の長女である雨宮には二人の妹がおり、一人は既婚、一人は婚約者(雨宮の部下でもある)がいる。
早くに母を亡くした三人が身を寄せるのは、育ての叔母と雨宮が住む家。下手側の装置の高台には広いリビングか屋上があり、ざっくばらんな会話が交わされるが、姉の現状を知った三女が、叔母の得意なタロット占いを勧めるのである。
同じアパレル業界の大手に勤める三女は、飽き足らない現状の反動からか、姉が会社から受けた扱いに不満を持ち、独立を勧める。これに対し堅実さを求める次女は三女を叱り、自分らの生い立ちを思い出させようとする。父は酒に溺れて死んで行った。大きな会社・組織に就職する事が何よりだ、とは叔母の口癖でもある。次女は不動産会社に勤める夫が時折、ネットの仮想通貨にハマっているのを見咎めつつ、「家計には手を付けないで」とだけ釘を刺して我慢している。これが後に離婚話の火種になるが、妻が「勝負」を嫌うのに対しこの夫は「勝負の無い人生って何だ」と真逆の考えを持つ。彼が雨宮に表参道の物件を勧めていた理由は、自分の業績になる事以上に、心底良い物件だから志の高い人間に使って欲しい思いがある。こうして私生活の中でも「安定か冒険か」、牛後か鶏口かの葛藤がある。
「鶏口牛後」とは本来は「大きな組織の末端にいるより小さくともそのトップになれ」と言った意味のようだが、この作品では前半の「牛後」を「大きな会社の中で自分のあるべき姿を見つけよ」といった意味とし、後半の「鶏口」は本来の意味としている。

さて暗転の後、実はもう一つのストーリーが始まっているのだが、私は雨宮の開業が前半の「続き」だと見たわけだった。その前にタロット占いの「結果発表」(カードにスポットが当たり、天からの声が聞こえる)の二度目が挟まるのだが、眠気もあったのだろう、大した意味とは捉えず、スルーした。
後半の鶏口バージョンでは、表参道の店は好調。新ブランドのコンセプトは注目され、雑誌にも取り上げられ、ネット上での発注数も上っている。が、歯車が軋み始めるのは、山東商会の部長が雨宮の「つなぐ」ブランドの先行きを過敏に意識していて、好調だと聞くなり妨害に走ってからの事。
ストーリーとしては、この部長の行動は「理がない」にも関わらず、これが功を奏するというのが難点である。もちろん「趣向」であるので、これを楽しむのが主眼ではあるが・・。
雨宮に振りかかった災難は、まず、彼女の思いを最も理解し、起業した後も二人三脚に見える程に意欲に答えていた素材会社リバースの武部が、震災後自分を拾って今の会社を紹介してくれた部長への恩義から、「取引ができない」と言って来た事である。
ただし表面上はリバースが会社の経営状況から「取引先条件」を改定し、「つなぐ」はそれに該当しない事になってしまった、という説明だった。だが物語は二転三転する。取引できるの条件の一つに「全額前払い可能な場合」とあった。直前、(リバースとの順調な取引が前提とはいえ)銀行から「融資」決裁が伝えられていた。従って条件はクリア出来る。山東商会を突如訪れた雨宮と、部長とのやり取りの中でそれは明らかにされ、最後に雨宮は「リバースとの取引が出来る事となった」と告げ、こう付け加える「あなたが介入していなければ」。部長の良心に迫った訳である。
ところが、物語の方はリバースの決定は変わらない。武部からの電話を受け取った雨宮の表情でそれが判る。現実はそのようなものだ、という空気が流れる。

ここは中々承服しがたいものがある。裏取引的な手回しを部長がやるにしても、個人的恩義のある武部にしか圧力はかけられないだろう。山東がリバースの発注元として力を利用するにしても、ある会社とは取引するな、といった要求は正面切ってはできまい。そもそもリバース側に素材を「売る」相手を限定する意味など殆どなく、あるとすれば踏み倒しのリスク(それは今回のケースには当たらない)、あるいは一度設定した単価が見直し対象になるといった事はあるだろうが、それなら再交渉という選択肢がある。このしこりが、その後の展開に響く。

「牛後」バージョンの終盤に新たな素材会社を雨宮に紹介した同じ銀行員が、小道具も共通にしたのだろう、表が青の「事業計画」を手に、「(融資決裁の結果を伝えて)雨宮さんの事業計画が素晴らしかったからですよ(毎度の定型句)」と言い、「相手さんも褒めていました」と、新たな提携先を示唆する。ところが、その会社は実は山東商会であった。
これも銀行員の台詞のリフレインだが、「Aは資金と販路はあるが、アイデアと技術がない、Bはアイデアと技術はあるが資金と販路がない。AとBを繋ぎ、結果ウィンウィンウィンをもたらすのがわが社のモットー、倍返しです」(ウィンが3つなのは一つがわが社の意)。

まとめれば、牛後バージョンでは、社内で素材含有率の頭打ちを乗り越えようとする雨宮にベンチャーの存在が現われ、その出会いに期待、という所で終了。
鶏口バージョンでは、理にかなった起業が私怨を抱いた元部長の横槍で敗北、相手会社にも大きなしこりを残し、結局元鞘に戻る(これをポジティブシンキングで明るく前向きに言う)。つまり銀行員の台詞は単なるおだてであり、実態は「敗北」。しかも敗北の原因を作った会社に「出戻る」という無惨な結末なわけである。(それを決定づけるのは、最後に雨宮が自己紹介する台詞「はじめまして、山東商会の、雨宮です」。芝居はなぜか爽やかに終わる。
雨宮はポジティブ思考で、「なぜ今まで気づかなかったのか」と、提携の選択肢を口にするが、「牛後」では元々のアイデアを蹴り、それを単独で実現しようとした試みを邪魔した山東商会が、なぜ今更、雨宮の案を飲もうと言うのか、この山東側の「変化」が判らない。
もっと分からないのは、「牛後」で銀行員が紹介したベンチャー(素材開発)が、なぜ「鶏口」では出て来ないのかだ。
「元鞘に戻る」は演劇的な構図ではあるが、後味は悪い。舞台は我々が「現実を苦々しくも受け止める」手助けではなく、苦々しい現実に傷つかずに済むようオブラートに包む方法を伝授しているかのようである。
痛々しい女性の姿に、「そこは突っ込まないでいて上げよう」と、誘導されてしまうがそれでいいのか、という感覚が脳ミソの端っこに残る。それをほじくり返してみた。
対立と葛藤、和解の可能性といった、溜飲を下げる場面が作品の質を押し上げているが、ストーリー自体には不服が残る。

小刻みに戸惑う神様

小刻みに戸惑う神様

SPIRAL MOON

「劇」小劇場(東京都)

2022/06/15 (水) ~ 2022/06/19 (日)公演終了

実演鑑賞

「自分の棺は自分で担げない。」
確かにそうですなあ。

寝盗られ宗介

寝盗られ宗介

★☆北区AKT STAGE

北とぴあ つつじホール(東京都)

2022/07/06 (水) ~ 2022/07/10 (日)公演終了

実演鑑賞

なんか主演の宗介役の台詞が聞き辛かった。

ネタバレBOX

「二等兵物語」を見てから丸一年。
主演だった白濱さん。今回フール役ながら、良い存在感だしていました。
畳屋のあけび

畳屋のあけび

CROWNS

シアター代官山(東京都)

2022/07/06 (水) ~ 2022/07/10 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

終戦から高度成長期にかけて生きた血の繋がりを越えた家族、そしてたくさんの人の絆と愛にみちた素敵な物語だった。

ランボルギーニに乗って

ランボルギーニに乗って

劇団鹿殺し

あうるすぽっと(東京都)

2022/07/08 (金) ~ 2022/07/18 (月)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

鹿殺しさんお舞台はコロナ以前本当に良くいっていて、コロナ後久しぶりに舞台拝見しました。
以前は着物姿だったのが、今回ランボルギーニ
本物の車舞台に出すなんて予算大丈夫なのか? 誰か持っているかたがいるのか?と思ったらそう来ましたかあ😂 一輪車のような小道具も毎回大好きです。これからも楽しい舞台楽しみにしています

第15回 シアターΧ 国際舞台芸術祭2022(IDTF)

第15回 シアターΧ 国際舞台芸術祭2022(IDTF)

シアターX(カイ)

シアターX(東京都)

2022/06/16 (木) ~ 2022/07/10 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

IDTF2022 2022.7.9 14時半 シアターX
 本日は4公演。

ネタバレBOX


 頭を飾るのはひびきみかさん。此れ迄プロ競技ダンスチャンピオンから、大野一雄さん・慶人さんとの出会いを経て舞踏の道に入りシアターXのみならずアスベスト館、神楽坂die pratze、pit北/区域等でソロ公演を行ってきた。キューバ国立民族舞踊団でディプロマ取得、2018年からはオスロのグルソムへテン劇場の活動にも参加。作品タイトルは「Yo Viviré」(ダンス)は、今回のメインテーマを素直に表現した作品となった。
 次に一色眞由美さん
 1977年マーサ・グラハムコンテンポラリーダンススクールにに留学、ケイタケイさんらに学んだ。78年の帰国後も国内外での公演、指導に携わりミュージカルの振り付け等もこなす。近年は主としてソロ活動に取り組んでいる。今回の演目は「在 れ」(ダンス)である。テーマは、既にとうの昔に神を喪失した現代人である我々は、存在の無根拠性に遭遇し神を信じていた時代のような存在論の根拠を失っている。即ち根本的にアイデンティファイ出来ない状況に在る。その不如意の中で生きると言うことは即ち、我らは何処から来て、何処へ行くのか? 我ら・ヒトとは何か? という根源的問い掛けをし続けるということに他なるまい。その苦しく頼りない在り様の不如意の央から存在の根拠を求め願う、実存の寒さに顫え乍ら祈る行為にも似た、力強いダンス。
 3作目は15分間に圧縮された金達寿「玄海灘」より。玄海灘を上演する会が上演、大作の訴えたかった本質をよくこれだけコンパクトに抽出したと感心させられた。それもそのハズ、演出は東京演劇アンサンブル代表の志賀澤子さん。差別の何たるかを朝鮮併合後、大日本帝国が採った皇民化政策によって日本人とされた朝鮮族差別は、その大義名分とは逆に被差別民であることを強いられ続けた史実であり、現在へも続く差別である。その本質を、その複雑さを含めて見事に浮彫にして見せた。(演劇)
 トリを飾ったのがイスラエルから来日のダニエル・エドワルドソンさんとドール・フランクさんが共同制作したパフォーマンス。下着1枚で後ろ姿を晒す所から始まるパフォーマンスは「Clouds」と名付けられた作品だ。言語に成る前の音としてのアモルフな音声を音響効果として用いた点で、6月21日に演じられた「」(はく)に出演なさった赤い日ル女さんの唱法に似ている。ダニエルさんらは、ヘブライ語や英語の言語化される前の状態を多く用いた点で異なるにせよ。
 タイトルを日本語に訳すと「雲」になるだろうが、アパルトヘイト国家イスラエルのアーティストが演じると、体の震えや言語以前の音声は、シオニストによって追放され、圧殺され、日々の圧政に苦しみ、土地、水、人間らしく生きる為の総てを奪われ、拷問に掛けられる多くのパレスチナ人の苦しみそのものに見えたのは、イスラエルの対パレスチナ人ジェノサイドの実態を知る者にとっては極めて自然な観方と謂えよう。彼らが表現したかった雲のイマージュがBaudelaireが「LE SPLEEN DE PARIS」冒頭の詩「L'Étranger」で表現したような意味を持たせたかったにしても、国家がやっている事実は誤魔化せないこともまた事実なのである。心あるアーティストにとって悲しむべきことではあり、また観る側の我々にとっても極めて残念なことであるが。
 以下原文を載せておく。フランス語としては易しい詩だから一所懸命学べば半年もあれば充分読めよう。
L'Étranger
— Qui aimes-tu le mieux, homme énigmatique, dis ? ton père, ta mère, ta sœur ou ton frère ?
— Je n’ai ni père, ni mère, ni sœur, ni frère.
— Tes amis ?
— Vous vous servez là d’une parole dont le sens m’est resté jusqu’à ce jour inconnu.
— Ta patrie ?
— J’ignore sous quelle latitude elle est située.
— La beauté ?
— Je l’aimerais volontiers, déesse et immortelle.
— L’or ?
— Je le hais comme vous haïssez Dieu.
— Eh ! qu’aimes-tu donc, extraordinaire étranger ?
— J’aime les nuages… les nuages qui passent… là-bas… là-bas… les merveilleux nuages !


NIGHT HEAD 2041-THE STAGE-

NIGHT HEAD 2041-THE STAGE-

『NIGHT HEAD 2041-THE STAGE-』製作委員会

シアターGロッソ(東京都)

2022/07/01 (金) ~ 2022/07/10 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

う~ん、設定があまり理解できない。でも面白いんだよなー。

畳屋のあけび

畳屋のあけび

CROWNS

シアター代官山(東京都)

2022/07/06 (水) ~ 2022/07/10 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

戦争の影を引きずる昭和30年代前半の話。情感豊かな丁寧な舞台で、グッときましたね。

月の金魚

月の金魚

鵺の宴

内幸町ホール(東京都)

2022/07/07 (木) ~ 2022/07/10 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

和ファンタジーが入ったちょっとレトロな感覚の恋物語。大きな盛り上がりはないけど、淡々とした丁寧な舞台は好感が持てました。

ARTE Y SOLERA CONCIERTO Vol.26

ARTE Y SOLERA CONCIERTO Vol.26

ARTE Y SOLERA 鍵田真由美・佐藤浩希フラメンコ舞踊団

めぐろパーシモンホール(東京都)

2022/07/09 (土) ~ 2022/07/09 (土)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

最前列での観劇。やっぱり生のフラメンコは圧巻ですね。

更地17

更地17

大森カンパニー

ザ・スズナリ(東京都)

2022/07/02 (土) ~ 2022/07/10 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

久しぶりに思いっきり笑いました。期待していた以上に面白かったです。
俳優さんたちの一人一人のパワーが凄くてびっくり。
それにチームとしてのパワー・団結力のすごさに思わず感動してしまいました。
大森プロデュースカンパニー最高です!

寝盗られ宗介

寝盗られ宗介

★☆北区AKT STAGE

北とぴあ つつじホール(東京都)

2022/07/06 (水) ~ 2022/07/10 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

面白かったです!
話も面白いし、すごい台詞量をこなしている役者さんに感動でした。
宗助の傍若無人ぶり全開でしたが、奥底には優しさがあり、こんな愛のあり方もあるんだなと思いました。
役者さん皆の熱演が素晴らしく、主役を演じた小山さんは熱演に加え、オーラも凄かったです。
大満足の舞台でした。

畳屋のあけび

畳屋のあけび

CROWNS

シアター代官山(東京都)

2022/07/06 (水) ~ 2022/07/10 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

千秋楽。行くかどうか迷っていたため、お席はだいぶ後ろになってしまいましたが全体が見えて良かったです。3日ぶりに行ったら、冒頭の作家先生と編集の方の行進の仕方が変わっていました。誰が、なんで変えたのかとか以前なら終演後に聞いたりできたのにと思うと残念です。早く以前のようにお話ができるようになるといいですね。
スタッフさんの対応も良くて、良い時間を過ごすことができました。ありがとうございました。

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