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荒人神 -Arabitokami-

荒人神 -Arabitokami-

壱劇屋

シアターグリーン BIG TREE THEATER(東京都)

2022/12/21 (水) ~ 2022/12/27 (火)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

全人類が観るべき演劇。

デストルドー9

デストルドー9

デストルドー9製作委員会

光が丘IMAホール(東京都)

2022/09/22 (木) ~ 2022/09/25 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

鑑賞日2022/09/24 (土) 12:30

予想よりだいぶ好みだった。世界観や設定が次第にわかってくると絶望が深まると同時に感情移入しやすくなる。こういうシリーズものはリピートや関連作品の履修が進むとより楽しいはず。劇団しゅうくりー夢の横井さん、役柄以上に動きや声が印象的だった。

『田瓶奇譚集』

『田瓶奇譚集』

劇団肋骨蜜柑同好会

駅前劇場(東京都)

2022/09/16 (金) ~ 2022/09/25 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

鑑賞日2022/09/17 (土) 19:00

架空の町(田瓶市)を舞台にしたホラーアンソロジー。
ホラーだから怖い要素ももちろんあるけど、それ以上に各団体それぞれの個性と魅力が楽しめた。各作品をつなぐ枠組も良かった。

笑顔の砦

笑顔の砦

庭劇団ペニノ

吉祥寺シアター(東京都)

2022/09/10 (土) ~ 2022/09/19 (月)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

鑑賞日2022/09/17 (土) 13:00

隣り合う2つの部屋。同世代ながらまったく異なる人生を送ってきた2人の男を取り巻く人間模様。それぞれの日常は淡々と、ときに楽しくときにやるせない。観劇後、人恋しさがじんわり。いつもながら舞台美術にも圧倒された。

ルドルフとイッパイアッテナ

ルドルフとイッパイアッテナ

オペラシアターこんにゃく座

あうるすぽっと(東京都)

2022/09/08 (木) ~ 2022/09/11 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

鑑賞日2022/09/10 (土) 13:00

ワクワクハラハラしながらあっという間にラストまで観た。
たぶんこの先何年も一般公演や学校公演、子ども劇場等で上演され続けていく新しいレパートリーの誕生なのだと思った。
ダブルキャストの両チームを拝見したが、キャストによって本当に印象が異なるのも面白かった。

「巴」×「藤戸」

「巴」×「藤戸」

Kouda-kikaku

Earth+gallery(東京都)

2022/09/01 (木) ~ 2022/09/04 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

鑑賞日2022/09/03 (土) 13:00

能を題材にした舞台もいろいろあるけど、割とガッチリ能楽寄り。戦(いくさ)で大切な人を亡くした人物が主人公となる哀切な2つの物語により、争うこと殺しあうことの理不尽さが印象に残る構成となっていた。ことに巴を演じた七味さんの舞が凛々しく美しかった。

空蝉

空蝉

あやめ十八番

東京芸術劇場 シアターウエスト(東京都)

2022/09/01 (木) ~ 2022/09/04 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

鑑賞日2022/09/01 (木) 13:30

『しだれ咲きサマーストーム』とよく似た冒頭で、同じ世界観(江戸風俗の続く現代)を背景に描かれるのは、この世と地獄をまたにかけ人情と欲とが入り混じる人間模様。馬鹿馬鹿しくも愛おしい物語に、生演奏や芸達者なキャストが揃って見応えあった。

老いた蛙は海を目指す

老いた蛙は海を目指す

劇団桟敷童子

すみだパークシアター倉(東京都)

2022/12/15 (木) ~ 2022/12/27 (火)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

今回も出かけた。何時から毎回観る劇団になったかな・・。主宰の東氏曰く「同じことをずっとやっている」のは確かにそうだが、ある時期から根源的不安の時代を反映してか桟敷童子の円環から逸れて、幾分変化を辿り始めた、ように自分には見えた。前作「夏至の侍」はその意味では「従来の桟敷」であったが音無美紀子(ある意味新劇的)を軸にしたアンサンブルが圧巻であった。今回は個人的には嬉しい「どん底」に肖った作品であったが、どん底が持つシニシズムと、桟敷童子のドラマツルギーとは微妙な部分で合致しなかったような。期待の方向性が分散してしまったというか。
佐藤誓の存在は前作の音無に通じ、ナチュラルが持つ強さをもって支えていた。一方豪胆な役処の青山勝(役者姿は殆ど見ていなかった)が桟敷のアングラ要素にテコ入れしていたが、私の感性ではやはり「勢い」の桟敷の唯一弱点と言えるリアリズムの要素としての佐藤誓を核に据えた作りとするか(青山氏は偏屈な脇)、または佐藤氏を思いきり脇に押しやり(変人医師くらいにして)青山勝を軸とするか、どちらかではなかったかな、と思う。その中で、常に独自に完結した世界観を作っている大手忍・板垣桃子のコンビが今回は板垣女史単独で男子二人と治安維持法違反の嫌疑で追っ手を逃れて来た労働者三人組の一人となり、難しい役どころとなった。
私としては「変化」はリアリズムの方へ、と期待する所がある。その意味では板垣桃子の志向性はその逆を行く所があり、屋台崩し的ラストを飾る彼女の動きが(勿論それは演出なのだが)私の中ではハマらず、やや残念感が残ったものである。部分にこだわり過ぎかも知れぬが。。
ともかく今回の試みは「どん底」、それも恐らく黒澤明監督によるそれ(私の好物)が参照されていそう。芝居の冒頭から何だか山本あさみが怒りっぽいな、とか、貧乏長屋の住人のキャラ分けに余念がないと感じていたらこの古典のストーリーが顔を出した。これ自体は嬉しいものであったのだが。。

2020

2020

パルコ・プロデュース

PARCO劇場(東京都)

2022/07/07 (木) ~ 2022/07/31 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

鑑賞日2022/07/16 (土) 18:00

客席に入ると、ステージ上には照明器具が低い位置まで下ろしてあって、あらこれはどうやって芝居するのか、と思ったりした。

と、上手側客席通路を通って、軽やかな足取りで彼が登場する。白いマスクをして(舞台に上がって少ししてから外してました)、白いシャツと黒いスラックス、黒い靴というシンプルないでたちだ。

照明器具は通常の高さまで引き上げられ、舞台上には抱えられるくらいの大きさの白い立方体(軽そうに見えるので、発泡スチロールかな、と思う)が、大量に積み上げられていた。

彼が「これ」と呼ぶ立方体は、後方には一面に積み上げられてスクリーンのように使われたり、積み上げた上に登ったり、崩してその上にダイブしたり、さまざまな使い方をされる。

「これ」を創ることが、人と他の生き物との違い、などと言ったりする。

物語は、地球上に彼と「君たち」の2人だけになってしまった未来に、彼以外の人間が個を失っていく過程を語るものであった。

「雄弁は銀、沈黙は金」と言いながら、それでも語り始めてしまった彼は、物語を続ける。

ネアンデルタール人の時代から、さまざまな時代と国に生まれ変わってきた彼。時代ごとに衣装を加えたりしつつ、客席に語りかけ、ときに踊り、ときに歌ったりもしつつ、膨大な言葉を紡いでいく。

金髪で彼と同じ服装のダンサーが、彼の語りの背後で、あるいは向き合いつつ、言葉を身体で補うように踊り続ける。

私たちはどこへ向かっていくのか。2020年を分岐点として。

いろいろな寓意を含んだやや重た目な題材を軽やかに語り続けるその人の魅力を堪能する約80分であった。

きゃんと、すたんどみー、なう。

きゃんと、すたんどみー、なう。

やしゃご

東京芸術劇場 シアターイースト(東京都)

2022/07/07 (木) ~ 2022/07/17 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

鑑賞日2022/07/16 (土) 13:00

三人姉妹の暮らす家から次女と夫が引っ越しするのだけれど、知的障がいのある長女が見慣れない男性(引っ越し業者)を見て暴れたらしい。

長女が落ち着くのを待って手持ち無沙汰な引っ越し業者2人の他愛もない会話などから、しだいにそれぞれの事情やキャラクターが思いが伝わってくる。

次女と三女の互いへの微妙な気遣いと屈託も、次女の夫に対するわだかまりも、引っ越し業者の綿引と由香里、そして由香里の義理の兄で社長でもある山本、それぞれを思う気持ちも。

知的障がい者である長女とそのボーイフレンドの言い出したことが、その奇妙な一日にまたひとつ大きな波紋を呼ぶ。

授産施設の職員だって、その役割からはみ出す思いを抱えている。

大学教授だった次女の夫が起こしたらしいスキャンダルについての助手の言及。

戯曲の細やかな人物造形を手練れ揃いのキャストが見事に立体化して、作り物ではない生きた人間がそこにいる、という感慨がひとしおだった。

ドラマティックな「物語」ではなく、人が暮らすということや生きるということが丁寧にそして切実に描かれて、観客を惹きつける。

観終わって劇場を立ち去りながら、登場人物の一人ひとりのこの先の日々を思う、そういう舞台だった。

審判

審判

義庵

調布市せんがわ劇場(東京都)

2022/06/22 (水) ~ 2022/06/26 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

鑑賞日2022/06/26 (日) 14:00

2時間半にわたって語られる壮絶な体験が、シアター風姿花伝での初演よりシンプルにヴァホフの言葉として聴こえた。

平静さも激昂も観客を置き去りにせず、苦しみと愛情とを余すところなく伝えてくる。

闇の中に、彼にだけが淡く浮かび上がる。その表情から目が離せない。

息の詰まるような緊張の時間、そして魂を揺さぶられる時間となった。

パンドラの鐘

パンドラの鐘

Bunkamura

Bunkamuraシアターコクーン(東京都)

2022/06/06 (月) ~ 2022/06/28 (火)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

鑑賞日2022/06/25 (土) 18:00

劇場に入ると、明るく照らされた舞台は素舞台という以上にむき出しで、舞台の向こうにある搬入口まで見通すことができた。

劇場の向こう側のコンクリートの壁や機構を照らす蛍光灯の白さを遠目に観ながら、これから始まる物語に思いを馳せた。

……まだ明るい客席通路をひとりの人物が歩いていく。

そのまま舞台に上がり、倒れ込むように床に耳を押し付けた。それがミズヲだった。

観られなかった昨年の上演では、ミズヲとオズを同じ役者さんが演じたそうだ。同様にヒメ女とタマキも一人二役だったらしい。

そちらも観てみたかったな、と思った。というのは、狂王と考古学者が一人二役なのを観て、他のキャストはなぜそうしなかったのか、と思ったからだ。

2つの時代を同じキャストが演じることで見えてくるモノもあるだろう。一方で変わってしまう部分もあるかもしれない。

2つの時代のうちのひとつは、上記のあらすじに「太平洋戦争開戦前夜の長崎」と記されているけれど、正直言って終盤までそれに気が付かなかった。服装も交わされる会話の中の固有名詞なども具体的にその時代を示すものはないよう描かれていたからだ。もしかすると意図的なミスリードではないか、とも思ったけれど、あらすじに明記されているのだからそれは考え過ぎなのだろう。

その時代なのだ、と気づいたのはパタパタとさまざまなピースが繋がっていくときだった。

古代の王国と太平洋戦争開戦前夜の長崎が、そしてミズヲの記憶と彼の名前の意味をはじめとするたくさんのモチーフが、それぞれにつながり怒涛の勢いで感情を揺るがしていく。パンドラの鐘に隠された秘密。太陽。水を求める人々。

そんな中でのヒメ女の決断。それを見守るミズヲ。

今回が初舞台だという成田凌さんから、舞台女優の代名詞のような白石加代子さんまで、キャストは皆さんそれぞれ魅力的で、個性的な登場人物たちが皆愛しく感じされた。

演出や美術も印象的だった。

冒頭で空っぽだった舞台に立てられた4本の柱。周囲には紅白横縞の幕が張り巡らされる。

4本の柱のひとつに太い綱でつながれた釣鐘はそのまま能の『道成寺』を思わせた。小鼓の響きも劇中で聴こえていた。他にも随所で和物のニュアンスが加わって、無国籍な古代王国の印象をこの国に繋ぎ止めていた。

ラストで、舞台の向こうの搬入口が開かれ、現実の現在の渋谷が見えた。

劇中で問われた何かが、現実の街に重なる。

ふと蜷川幸雄さんの演出を思った。そういえば、この公演はNINAGAWA MEMORIALと銘打たれている。演出の杉原邦生さんが意図的に蜷川さんのテイストを取り入れていらしたのだろう。

この舞台を観ることができてよかった、とまた思った。

美しきものの伝説

美しきものの伝説

劇団東演

俳優座劇場(東京都)

2022/06/16 (木) ~ 2022/06/26 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

冒頭。「行動を!」と熱く語る大杉栄。それを軽くいなす堺利彦とのやり取り。

大逆事件後の社会主義運動にとっての冬の時代を乗り切るべく売文社を設立したばかりの場面だ。

このやり取りはこのあと劇中で何度か繰り返され、それぞれの状況の変化を示したりしている。

そういえは、この芝居の中で言及される大逆事件や幸徳秋水、田中正造、ロシア革命などについての印象はみな舞台を観て得たものだ。学校で教わった机上の知識とは異なる、人の営みとしての歴史。創り手の主張も含めて、そういうものをこのところずっと劇場で受け取っている気がする。

社会主義者たちや新劇劇団の人々。それぞれの思想や芸術を実現させるための道を模索し、民衆の力を信じようとしていた。

疾走する彼らを阻むように時代は閉塞感を増していく。

登場人物ひとり一人の動向がその閉塞感と重なっていく。

物語の終わりが近づいて「一本の杭に花を飾り人々が集まれば、祭りになる」そういう大杉栄の台詞があった。

2幕が始まるときの幕間狂言めいたやりとりの中で語られた大杉と伊藤の運命は、震災直後に憲兵に囚われて死ぬというものだった。

真っ白な衣装に身を包んだ大杉栄と伊藤野枝。その運命と先に挙げた彼の言葉が響き合って胸にしみる。

祝祭をイメージさせるラストシーン。彼らの夢見たものは実現しただろうか。

劇場の壁には参加した劇団の過去公演のポスターが重なり合って貼られていた。彼らが積み重ねてきた年月。この舞台で描かれたさまざまな葛藤を受け継ぎ、戦ってきた人々がここにいるのだと思った。

lucK girL blooD tuesdaY

lucK girL blooD tuesdaY

ーヨドミー

TACCS1179(東京都)

2022/06/15 (水) ~ 2022/06/19 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

物語はいきなり殺人の詳述で始まった。

そこから続くのは、一見平凡なしかしどこか不自然な家族のやり取り。そしてしだいにわかってくるその理由。
家族の身勝手さや隣人の過干渉だけでなく、恋人との未来を夢見ることが彼女をいっそう追い詰めていく。

息を詰めるように舞台上で進んでいく出来事を見つめる。そういえば、観終わって字を書こうとしたら手が震えていた。集中し過ぎていたからだろう。

彼女の感じている閉塞感とやるせなさに共鳴し、悲劇に向かっていく緊張感が途切れない約2時間。

事実だけ見れば何の救いもない終わりなのに、事件が起きた時の家族の結束とある種の高揚を描き、そしてあり得たかもしれない幸せな日々を見せることで、悲劇は悲劇のまま後味の悪くない幕切とした手腕が見事だった。

キャストもそれぞれ印象的で、見応えがあった。一見身勝手さや頑固さ、あるいは投げやりに見えた言動にも、それぞれの思いや事情があるのだとわかってくる終盤の展開が心地いい。

面白かった、というにはつらい内容だけれど観ることができてよかったと思う。

嵐になるまで待って

嵐になるまで待って

CfY

新宿村LIVE(東京都)

2022/06/15 (水) ~ 2022/06/19 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

鑑賞日2022/06/18 (土) 14:00

演劇集団キャラメルボックスで何度も上演された戯曲とのことだけれど、自分は初見。

ほとんどの人には聞こえない「第二の声」を巡るサスペンスなのだけれど、大切な人を守ろうとする人々の物語でもあって、じんわりと切なく愛しい舞台となっていた。

なにしろ初見なので、皆さん当て書きかと思うようなハマり役だと感じたけれど、ウィキペディアで過去上演の配役リストを見たりするとだいぶイメージの異なる方もいたりして興味深い。

三浦さん演じる波多野の威圧感と哀愁が特に印象的で、雪絵役の椎名さんの凛とした美しさが波多野の行動に説得力を加えていた。

主人公ユーリを演じる中舘さんの強さともろさ、彼女の思い人である幸吉役の野口さんの誠実さと優しさ。クライマックスでの毅然とした演技はもとより、序盤の電話でやりとりする2人の微妙な関係性がとても素敵だった。

滝島役 遊佐さんと部下の勝本役 関根さんコンビのテンポのよさ。
チカコ役の環さんのイキイキとした少女らしい魅力。
高杉役 土矢さんの旧友の死因へのこだわり。
津田役 浮谷さんの抜け目なさととぼけ具合。

そして、広瀬教授役の近江谷さんの飄々たした面白さは反則級だった。

ラスト・ナイト・エンド・デイドリーム・モンスター

ラスト・ナイト・エンド・デイドリーム・モンスター

悪い芝居

新宿シアタートップス(東京都)

2022/06/02 (木) ~ 2022/06/12 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

鑑賞日2022/06/12 (日) 13:00

失った記憶と入り組んだ後悔を解きほぐすような135分の末にたどり着く希望。見知らぬ人々の物語として始まり、最後にはでは登場人物それぞれの幸福を祈る気持ちで手を叩いた。ラスト間近の父と娘の場面が美しく胸に残る。

Secret War-ひみつせん-

Secret War-ひみつせん-

serial number(風琴工房改め)

東京芸術劇場 シアターウエスト(東京都)

2022/06/09 (木) ~ 2022/06/19 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

鑑賞日2022/06/11 (土) 18:00

細菌兵器などの研究が行われていた軍事研修施設で、タイピストとして働いていた少女が和文タイプの控えを持ち帰り保管していた、というのは実際にあったことらしい。

その事実をもとに、現代のジャーナリストの取材の様子と当時の出来事を絡めつつ描いたこの作品。

社会的な題材を丁寧に取材し、問題意識とエンターテイメント性を両立させる作風はいかにもserial numberらしいと感じた。

描かれている内容は重い。戦場ではなく研究所で行われていた「秘密戦」。人(や牛)を殺すための研究への罪悪感と科学者としての探究心の拮抗。

マキノノゾミさんの戯曲『東京原子核クラブ』にもそれに似た葛藤が描かれていたが、今作では人体実験にまで及ぶ「秘密戦」の壮絶さとそこに携わる人々の思いを描いていく。

ことに、主人公が科学者ではなく、女性であるが故に科学者を目指すこともできなかった和文タイピストの少女であり、彼女をめぐる人々の細やかな感情の機微が描かれていたのが面白かった。

研究者たちの葛藤に、陸軍中野学校からきた浦井の存在が緊張感を増す。

日本名を捨てて中国で暮らす科学者が当時の若手2人のうちどちらかであろうと思いつつ観ていたが、同時に取材する側の素性にも仕掛けがあり、またある歴史的な事件の起きるタイミングも重ねて描いて、物語にもうひとつ奥行きを加えていた。

神遊(こころがよい)―馬琴と崋山―

神遊(こころがよい)―馬琴と崋山―

劇団扉座

座・高円寺1(東京都)

2022/06/08 (水) ~ 2022/06/19 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

鑑賞日2022/06/11 (土) 13:00

舞台を観て、崋山という人がどういう人だったのか調べてみたくなった。それくらいこの人物が魅力的に描かれている。冒頭の厚木の場面で、少女お竹が「惚れた!」というのも無理はない。

そんな崋山との交流を通して、馬琴という人物を描き出しているのが『神遊』だ。

2人のやり取りが印象的な場面のひとつに、馬琴の息子 宗伯の死に崋山が駆けつけるくだりがある。

死者を前にして「我が子であっても死ねば腐る」という辛辣な弁舌とある種の客観性を持って息子の凡庸ぶりを嘆く馬琴。

その辛辣さに怯むこともなく、遺児のために友であった死者を描こうとする崋山は、さりげなく宗伯が「いつの日か馬琴を超える」と酒の席で豪語していたと語る。

意外な息子の言動に驚きつつ喜ぶ馬琴。

その場面を観ながら、その話はどのくらい本当だったのだろう、と思った。

早世した息子の遺骸を前に、さまざま無念や後悔の念を抱いている馬琴への思いやりはあっただろう。

酒の席で「オヤジの執筆の手伝いをさせられている」と言ったかもしれない。あるいはそれを聞いた崋山の方が「そんならオヤジ殿の技術を盗んでやれ」と唆したのかもしれない。

嘘というのではない。若くして亡くなった友と遺された家族の心に寄り添ったのではなかったか。

これは一観客の勝手な想像に過ぎないけれど、この物語の崋山はそういう粋ができる人物に見えた。

快活で社交的な崋山とは反対に、馬琴は人嫌いと言われる気難しい人物である。

崋山と待ち合わせた座敷で、酒を断り茶を所望する。絵草紙で読んだと『八犬伝』を褒める芸者に憤慨して声を荒げる。

けれどその気難しさはある種の不器用さのように見える。

酌婦や花魁に読ませるつもりで書いたのではない、という言い方自体は酷いけれど、聞きようによっては声を荒げたことを悔いているようにも思えた。文字が読めない人を責めるのでない。『八犬伝』の人気に便乗して草紙や絵巻物に盗用されていることに腹を立てているだけなのに、大人げない態度であったと。

茶が熱過ぎたことを謝る女将に「自分が熱い茶を所望したのだ」という口振りはぶっきらぼうだけれど、相手を責めるつもりはないことは感じられる。

人の欠点ばかりが目につくと自らいう馬琴は、その卓越した人を見る目と不器用さで、とっつき難い人物として描かれる。

ことに息子の嫁 お路に対する言動は観ていてハラハラするほど辛辣だ。

これは崋山と馬琴の物語であると同時に、2人に関わる人々、特にはな竹とお路の物語でもあった。

12歳のときに出会った崋山を忘れられず、江戸で再会を果たすはな竹。投獄された崋山のために奔走し、馬琴の元へも殴り込み(!)に行く。その際の啖呵は切実でかつ小気味良い。

嫁として気難しい舅である馬琴に仕え、彼が失明してからは『八犬伝』の代筆をもつとめることになるお路。夫を亡くしたのちも、子どもや姑の世話をしつつ気難しい舅である馬琴につくす。

ことに印象的だったのは、失明した馬琴がお路に「お前のほかにおらぬ」「力を貸してほしい」という場面。

お路が静かに泣く。その先のいっそうの苦労は目に見えているが、馬琴に頼られたことで報われたという思いもあったのかもしれない。

人の思いというのは通じるものなのだなぁ、と思った。

物語は、「インチキ講釈師」と名乗る司馬文耕の語りで綴られていく。

それによって登場人物の目線だけでは語りきれない馬琴と崋山の生涯のあれこれを知ることができる。

冒頭、旅の途中で厚木に立ち寄った崋山とのはな竹や駿河屋彦八らとの出会いが描かれる。厚木での上演はさぞ盛り上がっただろうと思うと、そこに自分がいなかったのが本当に残念だった。

厚木での出会いだけでなく、画商や弟子など崋山の周囲には多くの人が集まる。彼らとの関わりもまた丁寧に描かれる。

後半では、多くの人から愛された崋山が時代の波に飲まれ、投獄の憂き目を見ることになる。弟子や友人たちが奔走し、それに対して馬琴がどう対応したか、が見どころになる。

理不尽に投獄された崋山のために弟子たちをはじめ多くの人が奔走し、崋山の登場はほとんどない。しかし病気を理由に牢から出られそうになった時、崋山自身がそれを辞退したあと、その理由を語る場面がある。

投獄されて気づいた大切な想い。それまで気づかなかった当たり前のことを空の青さに喩えて、弟子たちに託す。

しみじみと美しい場面。それを観ながら、この作品は山中崇史さんにとって代表作のひとつになるのではないか、と思った。

終盤には崋山ゆかりの人々と馬琴が出会う場面がある。

『八犬伝』を完結させたこともあって、ようやくそれまで表に出せなかった馬琴の心中が語られる。

それを聴く人々それぞれの想い。タスキを外し、真剣な面持ちで聴く者。半ば背を向けて複雑な感情を抑えようとする者。

満開の桜の下、ここまで描かれてきた馬琴と崋山の物語がやわらかに幕を下ろす。

派手さはないけれど、充足感に満ちた美しい物語だった。

盟三五大切 ーかみかけてさんごたいせつー

盟三五大切 ーかみかけてさんごたいせつー

花組芝居

小劇場B1(東京都)

2022/06/01 (水) ~ 2022/06/08 (水)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

鑑賞日2022/06/04 (土) 19:00

四世 鶴屋南北による陰惨な悲劇をなぜか現代のお通夜風景に重ねて描いた怪作。
2009年の初演も面白かった記憶はあるが、今回の方が筋立てその他しっくり胸に落ちた。初演時の配役(小万:小林大介さん、三五郎:加納座長 など)との比較も興味深い。
陰惨な……と言いつつ、遊びや笑いも散りばめられて、重くなり過ぎずに楽しめる作品。開演前の座長による前説&解説からラストの撮影タイムまで、いや開演前の受付やスタッフの方々の服装、そして物販まで、こだわりと遊び心たっぷりの粋な時間を堪能した。

ふすまとぐち

ふすまとぐち

ホエイ

こまばアゴラ劇場(東京都)

2022/05/27 (金) ~ 2022/06/05 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

鑑賞日2022/06/04 (土) 14:00

ややデフォルメされた家族の閉塞的な状況を滑稽かつ辛辣に描く。ずけずけとものを言う姑のキヨと耐えかねて押し入れに籠ってしまった嫁の桜子を軸に物語話は進む。アクの強い登場人物たちに気持ちを振り回されつつ目が離せない。

押入れの襖を隔てて通じ合えない家族の関係は、それでも互いを思う気持ちがそれぞれの心の奥に潜んでいる。

抱えている思いの伝わらなさがおかしくも歯痒くて、「誰も逆らえない」ほど強気なキヨだけれど、悪徳商法や宗教めいたものに引っかかるのは寂しいからなのだろうか、とも思った。

相手には伝わらないままの思いが、病床のうわ言や某集会での独白で吐露されていくのがやらせないと同時にじんわり温かくて。

救いがなさそうでいて後味は悪くない作劇がとても好みだった。

ひとクセもふたクセもある登場人物を演じるキャスト陣のチカラワザは本当に見応えがあった。

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